99話 魔物のたまり場
「モンスターハウスだ!!」
俺たちが落ちた先は、大部屋になっていて、無数の魔物がひしめきあっていた。
――モンスターハウス。ダンジョンの中で特に恐れられる現象だ。
ダンジョンには、ごく稀にこういった "魔物のたまり場" になっている部屋が存在する。
俺たちは運悪くそれに行き当たってしまったのだ。
急に落ちて来た俺たちに対して、魔物たちの視線が一斉に集まる。
やばい!
「皆! 円陣を組め! エミリー! 結界だ!」
「わ、分かったわ!」
ガアアアアアアアアアアアアア!
魔物たちが一斉に襲い掛かってきた。
「――防御結界!」
エミリーが、間一髪のところで、俺たちの周囲に結界を張る。
魔物の集団を見ると、いろいろな種類の魔物がいる。
しかし、よく見ると、そのどれもが薄黒い色をしている。
目は赤く、狂気に満ちた表情をしている。
「――なっ! アンデッドの魔物だ!!」
アガガガガガガガガガガ!
物凄い数のアンデッドの魔物が、エミリーの結界に張り付き押し寄せて来る。
結界の軋む音が聞こえる。
皆が一斉に動き始める。
結界の内側から、ミーアとアリシアさんが聖剣で、敵をまとめて切り裂く。
シャンテが。電撃の糸を網のように繰り出す。
ミレアが、光と風の力を纏ったユニーク弓で矢を連射する。
リンが、土魔法の広範囲スキル、サンドストームで敵を蹴散らす。
「「ギャアアアアアアアアアア!」」
魔物が一斉に消滅する。しかし後から後から湧き出て来る魔物たち。
「風魔法――シルフリング!」
俺は12体のシルフを召喚し、周囲の魔物を更に消滅させる。
魔物の数が一気に減る。
しかし、まだまだこの大部屋には魔物が大勢いる。
しかも、すべての敵はアンデッドだ。再び蘇り、数が増える。
更に襲ってくる。
「――緑風の舞い!」
ミレアが叫ぶ。
鮮やかに輝く緑色の風が舞い、周囲の魔物を吹き飛ばす。
魔物の数が再び、一気に減る。
風魔法Lv10を持つ俺だが、このミレアのスキルは、少なくとも風魔法レベル10までには無い。
おそらくミレアのユニークスキル「女神の大樹」のスキルなのだろう。確か、ニバラスとの戦いで見せた技だ。
だが、しばらくすると、次々に甦る魔物たち。これでは切りがない!
俺は瞬時に思い出す。そうだ! グランレクイエムだ!
アンデッドの魔物に特効があるスキルだ。
「皆! グランレクイエムだ! 一斉攻撃だ!」
「分かったにゃ!」
「了解なのじゃー!」
「よし! 一気にいくぞっ!」
皆の指には、グランレクイエムの付与されたユニーク指輪が光っている。
――――――――――――
バルベリタリング(ユニークアクセサリー:指輪)
・装備時、魔力+40、精神+10
・付与スキル:回復魔法Lv4、グランレクイエム
・魔力回復(中)
――――――――――――
スキル:グランレクイエム
・アンデットに対しての攻撃効果(特大)
・攻撃対象には痛みや苦痛を一切与えない。
・複数の敵を対象に使用することが可能(効果範囲大)
・鎮魂作用を持つ。
・消費魔力は使用範囲による
――――――――――――
「「グランレクイエム!」」
一斉に放たれる輝く光の霧。それは広場の大半を包み込む。
アンデッドの魔物の大軍が、一斉に消滅する。
皆で、何度も繰り返し放つ、グランレクイエム――。
そして――ほとんどの魔物が、消滅したと思われた。
「や、やったか!?」
アリシアさんが、フラグを立てるような言い方をする。
「いえ、なにかいるわ!」
エミリーが叫ぶ。俺はエミリーの視線をたどる。
一体の巨大な魔物が残っていた。
―――鑑定―――
スケルトンキング Lv444
・アンデッドの魔物
・スケルトンの上位種
・全般的に能力が高い
・強力な剣戟に注意
・弱点:やや光系統
――――――――
くっ! やはりフラグだったか……。
「皆、まだ一体残ってるぞ! 一斉攻撃だ!」
更に皆でグランレクイエムを、一体に絞って放つ。
ウォオオオオオ…………
スケルトンキングが、恍惚の表情をしながら消滅した。
「にゃ~、やっと終わったかにゃ!?」
今度はミーアがフラグを立てるような言い方をする。その言葉は言っちゃいけない!
――その時、俺は背後に、凄まじいオーラを感じた。
「お、お兄ちゃん! あれは――!」
振り返る。
そこには、巨大な怪物がいた。
―――鑑定―――
ドラゴンゾンビ Lv666
・アンデッドの竜
・強力な闇の瘴気を放つ
・全般的に能力値が非常に高い
・弱点:やや光系統
――――――――
ドラゴンゾンビ――レベル666!
漆黒の巨体に、鋭そうな牙と手足の爪。翼も禍々しく大きく広がっている。
目は真っ赤に燃え、爛々と輝いている。
その巨体からは、ゆらゆらと薄黒い瘴気のようなものが立ち上がっていた。
「――なっ! これは!!」
「にゃー! 大きいにゃー!」
「つ、強そうなのじゃー!」
「ドラゴンゾンビだ!! 皆! 気を付けろ!」
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
凄まじい咆哮を上げるドラゴンゾンビ。
大部屋が激しく揺れる。
ビリビリとした、圧倒的な死竜のオーラに、震撼する。
ドラゴンゾンビは、大きな翼を広げ、襲い掛かってくる。
モフが踊り出す。モフの光魔法だ!
光魔法レベル8――熾天使の光柱。
輝く光の巨大な柱が降りて来る。
その柱は、ドラゴンゾンビを、封じ込め、縛り付ける。
敵の動きが止まる。
「皆! 今だ! 一斉攻撃だ! 魔力を振り絞れ!」
「「グランレクイエム!!」」
一斉に皆で放つ。
ドラゴンゾンビの体から、更に瘴気が発する。凄まじい瘴気だ!
グランレクイエムの光の霧が、その瘴気によりかき消される。
まずい! 効かない!
ミレアが叫ぶ。
「――世界樹の霧!」
眩しく光る霧が現れ、ドラゴンゾンビを包み込む。
ドラゴンゾンビの瘴気が、だんだんと薄れてくる。
「ミレア! ナイスだ! 皆! もう一度一斉攻撃だ!」
「「グランレクイエム!!」」
敵の巨体を、眩くばかりのレクイエムの光が包み込む。
グルルルルルル……
ドラゴンゾンビの体がぐらりと傾く。
そして徐々に、徐々に、その巨体が淡く輝き、白い霧となって消えていった。
「や、やった……」
「にゃ~、ま、魔力を使い過ぎたにゃ~」
「わらわもじゃ~……」
部屋中に、大量のドロップアイテムや魔石が散らばっている。
シャンテが網の糸で根こそぎ集め、モフの空間魔法にすべて収納する。
また魔物が湧いてくるかもしれないので、急いでこの部屋から退散するか。
退散しようとして上を見たところ、落ちて来た穴がふさがっていた。
辺りを見回すと、遠くの部屋の隅に、狭い上りの階段があるのが見える。
「あの階段から、脱出できそうだ。みんな、急ぐぞ!」
駆け足で、その狭い階段を、皆で一列になって上る。急な階段で、周囲は土まみれで埃っぽい。
上り階段が行き止まり、頭上に大きな四角い石板のようなものが通路を塞いでいた。
皆で、力任せにその石板を上に押し上げる。
光が差し込み、通り抜けると、元のダンジョン内に戻れた。どうやら円形の広場の壁際の隅から出たようだ。
俺たちは、今度は落ちないように、広場の壁際をそろりそろりと伝って、先に進む。
そして、次の階層――33階層に転がり込むように入り、座り込む。
「にゃ~、疲れたのにゃ~……」
「埃まみれになったのじゃ~」
「早く、お風呂に入って汚れを落としたいわね……」
イナリの大きくふさふさの尻尾が、埃まみれになっている。
「お、おう……。一旦ダンジョンから出よう。――転移!」
こうして俺たちは土埃にまみれたまま、ダンジョンから退却したのだった。
◇
一旦、ポルポワール邸の広い庭に戻る。
汚れたまま、邸宅に入るのは気が引けるので、そこにクランハウスを建てる。
皆でハウスの中に入り、早速大浴場に入って、汚れと疲れを落とす。
「にゃ~。さっぱりしたにゃ~」
「わらわの尻尾も奇麗になったのじゃ~」
お風呂から上がってさっぱりした俺たちは、その後ゆっくりと食堂で弁当を食べる。
「メイドさんの作ってくれたお弁当はおいしいね!」
「にゃ~、ほんと美味しいにゃ~」
「ようやく落ち着いたわね」
俺は今日のダンジョン攻略で、どれだけレベルが上がったのか確認する。
今朝ダンジョンに入る前はレベル380だったが、今はレベル400になっていた。
う~ん、レベルは上がってはいるが、微妙なところだ。
かなり敵を倒した割には上がってないな……。
モンスターハウスで大量の敵を葬り、レベル666のドラゴンゾンビまで倒したにもかかわらず、さほど上がっていない。
やはり、アリシアさんの情報通り、30階層以降はレベルが上がりにくくなっているようだ。
「みんな、今日のダンジョン攻略はここまでにして、一休みしたら冒険者ギルドに行ってみないか?」
「そうだな、トール殿。一度冒険者ギルドでダンジョンの情報収集をするのもいいだろうな」
こうして俺たちは、冒険者ギルドの本部を訪ねることになった。