表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/141

95話 二つのタリスマン


 ダリアさんの見た夢の中に出てきた若い男女。その男女にはそれぞれ首からお守りのようなメダル―― "タリスマン" を下げていたとのことだった。


 そして、その二つのタリスマンの形状を紙に描いて貰い、それを見たとき、俺とリンは衝撃を受けたのだった。


「お、お兄ちゃん! これは!」

「お、おう……分かってる……」


 そのタリスマンは、俺とリンがそれぞれ10歳の誕生日に両親から貰ったタリスマンと全く同じ形状をしていたのだった。


 俺はまだ状況が飲み込めなくて頭が混乱している。リンも戸惑っているようだ。


 菱形のタリスマンは、俺が父親から貰ったもので、円形のタリスマンは、リンが母親から貰ったものに間違いはない。

 菱形の金属の中央に剣と(つち)が交差した模様が刻まれている。リンの円形のタリスマンには、中央に大樹の模様が刻まれている。


 このタリスマンを貰った時のことをよく覚えている。

 これはとても大事な物だから失くさないように大事にしまっておきなさい、そう父親から言われて渡された。

 俺はそのときはまだ10歳の子供だったが、何か重大なことのように感じた。そしてそのタリスマンを今まで、失くさないよう自分の机の引き出しに鍵をかけてしまっておいたのだ。たまに取り出しては、その不思議な形のタリスマンに魅入られたように眺めたこともあった。

 きっとリンも自分の貰ったタリスマンを大事に保管してあることだろう。


 俺は考える。


 エミリーが話していた世界樹の泉の伝説。ニバラスが死に際に言ったこと。そしてあのとき聞こえて来た天からの声。俺の記憶の中にある両親のこと――。思考が朧気ながらつながってくるような気がする。


 そしてある一つの可能性としての仮説に至る。


 俺の父親は(いにしえ)の勇者で、母親は古の聖女の生まれ変わりなのではないかと――。俺たちの両親は、4年前にマルカの森での事故で亡くなり、再び4年の歳月をかけて今度はダリアさんの下に双子として転生してきたのではないのだろうか。


 突拍子もない考えではあるが、なぜか俺にはそう思えるのだ。

 

 俺は1年前、ホーンラビットとの戦いの際に走馬灯のように、過去の記憶がよみがえっていった。だから幼いころの記憶も、意識すれば、今ではかなり鮮明に思い出すことが出来るようになった。


 俺は、自分が10歳の誕生日を迎える半年ほど前のことを思い出す。

 普段は明るく呑気に生活していた両親だったが、あの頃を境になにか使命を思い出したかのように口数が少なくなり、時折深刻な表情を垣間見せるようになった。


 そして、確かその時期に、偶然耳にした両親の会話の内容を覚えている。


 ――万が一のため、記憶の継承を行わないといけない

 ――魔王と魔神の再来が近づいている


 俺の両親は、扉越しの部屋の向こうで確かにそう言っていた。


 記憶の継承? 

 "記憶"とは世界樹の泉への扉の場所とその結界を解くための、秘められた情報ではないのだろうか?

 そして"継承"とは、その記憶をタリスマンに込めて、俺とリンに託したのではないだろうか?

 エミリーは伝説についてこう語っていた。世界樹の泉への扉の場所を知る者は、古の勇者と聖女のみで、その場所を隠し結界を張ったと。


 そして、首飾り、トゥーマ・レム・ミルア――月の巫女の魂は、世界樹の泉を求めている。

 イナリが言っていた言葉を思い出す。――その首飾りは生きている、と。

 恐らく俺の推測では、月の巫女を封じた呪いを完全に解き放つためには、世界樹の泉が必要なのだろう。

 

 そして、魔王と魔神の再来? 

 俺の両親は、あのとき確かに魔王と "魔神" と言ったのだ。

 魔王はなんとなく分かるとしても、"魔神 "は今まで聞いたことが無かった。


 そして天から聞こえて来た声。


 ――伝説は再びよみがえりつつある

 ――(えにし)ある者よ、月の巫女に会いなさい

 ――すべての鍵は汝自身にある


 以前エルフの図書館でブックさんから聞いた月の巫女の伝説――。

 魔王との戦いに敗れ、月から逃れたと言われている、かつて月を治めていた "精霊神" 。

 一説には、魔王の手によりどこかに幽閉されたとも言われている。

 月の巫女は、その"精霊神"の居場所を知っていると。

 

 魔神については、もはや伝説を通り越して神話の世界の領域に入っているとすら感じる。このことを知る者は古の勇者と聖女以外では、月の巫女か精霊神しかいないのではないか……。


 まあ、女神様はすべてを知っているのかもしれないが、何かの制限があるのか、この現実世界には降臨できないようだ。たまに天からの声が聞こえてくるだけだ。

 そういえば、女神様はもともとこの世界はゲームのような世界だと言っていたな。ん~これは関係ないか……。


 なんだか頭が混乱してくる。


 ダリアさんのお腹の中に居る俺の両親――古の勇者と聖女に違いない双子に聞けばいいのだが、まだ生まれていないし、生まれたとしてもしばらくは赤ちゃんだ。

 それに、恐らく転生時に記憶を失っていることだろう。ただ、今でも無意識ではその記憶が残っていて、それが母親であるダリアさんの夢として現れたのではないだろうか。


 だんだんと俺の思考も、妄想と曖昧さで混乱してきたように思う。


 だが、とりあえずやるべきことを整理しよう。


 ダリアさんの夢に出て来たA級ダンジョンと広い部屋の奥にある祭壇。どうやらここが世界樹の泉への扉の足掛かりになるのではないか。

 A級ダンジョンの広い部屋は、ボス部屋だと思われる。やはりまずはA級ダンジョンを攻略してみるしかないだろう。


 後のことはそれから考えても遅くないだろう。


 俺とリンはダリアさんに描いてもらった絵を貰い、お礼を言って別れた。



 自宅に飛び、早速、例のタリスマンを、保管している鍵付きの机の引き出しから取り出す。ダリアさんの描いた絵と比べ確認すると、やはり完全に一致していた。

 リンも自分の円形のタリスマンを持って来て確認したが、同じく一致していたようだ。


 俺とリンは、両親から受け継がれたタリスマンを大事にアイテムボックスに収納した。


 リンはなんだか少し安心したような顔で言う。


「お兄ちゃん……。お父さんとお母さんは世界樹の命の循環のもと、新たに生を受けたのかもしれないね……」


 俺も今まで心に残っていた両親の死の重荷が取れたような気がし、救われた思いがした。きっとリンもそう感じているのだろう。


 俺の知る父親は、ごく平凡な男だった。冒険者などとは縁の遠いとても勇者とは思えない普通の男だったように思う。

 気の遠くなるような遥か昔、神代から転生を繰り返し続けるなかで、かつてあった勇者の力も自然と失われていったのかもしれない。

 だが、神代の秘密を知る者としての記憶は、心の底でずっと持ち続けていたのではないか、と俺は思う。

 母親の方も同じように、世界樹を守り育む聖女としての記憶を心の底に持ちながら、転生を繰り返して来たのだろう。


 願わくば、ポゴタさんとダリアさんの下で、今度こそ重い使命から解放されて、普通の幸せな人生を歩まれることを――俺とリンはそう望んでいる。





 外に出ると、すでに陽が暮れかかっていた。


 俺たちは、転移を2度繰り返し、王都に戻った。

 

 シャンテの邸宅に戻ると、皆がそろっていた。それぞれ休日を楽しんできたようだ。


「にゃ~、トールにリン、帰ってきたにゃ~。ミーアたちは屋台で美味しい物をたくさん食べたにゃ~」

「わらわもじゃ~。満足だったのじゃ~」

「ミレアも! おいしかったよ!」

「あんたたちねぇ……食べ過ぎよ、まったく……」


 相変わらず、賑やかだ。


「おっ、トール君、レアアイテムの販売は順調だ。たくさん稼がせてもらったよ。目ぼしい物は少しづつオークションに出そうとも考えているよ」


 ブランダさんが話しかけてくる。


 やはりA級ダンジョンのレアアイテムは儲けになるらしい。 

 ここ王都はダンジョン都市でもある。唯一A級ダンジョンがあることで有名だが、王都内にはB級ダンジョンが2つもある。冒険者たちのほとんどがB級ダンジョンに群がっている。

 A級ダンジョンは、一部の高レベルの冒険者パーティが挑戦しているのだ。


 明日からは、また俺たちもA級ダンジョンに潜るつもりだ。そして、未だ見ぬ最下層へと進んで行くのだ。


 きっとその最下層の部屋には、ダリアさんが夢で見た祭壇があるのだろう。


 俺はワクワクしてくるのだった。


評価およびブックマークいただきありがとうございます!

そろそろ桜が咲く時期ですね~。暖かくなってきたしどこかに出かけたい(^^♪

あ~冬アニメもあまり観きれてない……もうじき春アニメも始まってしまう……時間が欲しい!(^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ