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94話 不思議な夢


 空間魔法レベル6を習得した俺は、一旦転移して王都のポルポワール邸に戻った。


「あ、お兄ちゃん。ポルポワール邸の庭園はすごく奇麗だったよ!」


 リンはちょうど庭園を観終わって休憩しているところだった。


「それは良かった。ところで、リン、聞いてくれ! ついに長距離の転移が出来るようになったぞ! 王都とフォレスタの街を簡単に往復出来そうだぞ」


「えっ!? お兄ちゃん、本当!? それは凄いよ!」 


「リン、ちょっと試しに自宅に戻ってみるか? 菜園に水やりとかしたかったんだろ?」


「うん! 行く!」


「よし、遠いから2回に分けて転移するぞ。まずは、伯爵領にいく。――転移!」


 俺とリン、モフの3人で、領都ガーランダにある宿屋前に転移する。

 辺りにいた人たちが俺たちの急な出現にびっくりしていたが、気にしない。転移スキルを持つ者はほとんどいないが、一応、稀にそういう能力を持つ者がいるということは、一般的に知られている。


「わ、わっ、ここって、私たちが王都に来る途中に泊まった宿屋だよね!?」


 リンはびっくりしているようだ。


 魔力量の変化を感覚で確認すると、2割も消費していなかった。やはり魔力特化型にしてよかった。


「よし、もう一度。今度は自宅だぞ~。――転移!」


 一瞬の光に包まれた後には、すでに自宅の庭に到着していた。


「わぁー! すごい! もう家の前だー! お兄ちゃん、これでいつでも王都と領都の間で往復できるね!」


 リンは感嘆しているようだ。

 そして、早速、家庭菜園の水やりをするリン。ユニークスキルの栽培スキルを使って、奇麗なキラキラ光る水を菜園や世界樹の苗木に注いでいる。

 菜園の野菜や植物がかなり育っていた。世界樹の苗木も、領都を経ってから4日ほど経っているが、前よりも少し大きくなった気がした。

 まだ俺の胸の高さくらいではあるが、着実に成長しているようだ。



「お兄ちゃん、久しぶりに山菜を取りに行ってみない?」


 リンが言う。以前はよく山に山菜を取りに行っていたリンだったが、俺が稼ぐようになってからはあまり行ってなかったようだ。


 リンが山菜を取りに行く山は、領都の東門を出て、1時間ほど歩いたところにある。

 その山は、高さは低く比較的小さな山だ。山の中は、草木が生い茂り、自然があり、すごく空気がいい。

 俺もリンと一緒に、山菜取りに行ったことがあり、お気に入りの場所だ。

 両親が生きていた頃は、サンドイッチ弁当などを持って、家族4人でピクニックのようによく行ったものだった。


 その山は特に名称があるわけではなく、領都民はただ単に "東の小山" と呼んでいる、なんの変哲もない小山だ。


「そうだな、あそこの空気はうまいし、昼はそこで食事をしよう」


 こうして、俺とリンとモフは、領都の東にある小山に転移した。


 久しぶりに来たその山は、相変わらず自然が豊かで木々が新緑に溢れ、空気が澄み切っていた。

 俺たちはしばらく、山の中を散策しながら山菜を取り、自然を楽しんだ。


 先日の魔物の大軍が現れたときに、この山も荒らされたのかと思ったが、どうやら無事だったようだ。俺はホッとする。


 やがて昼時になったので、山の頂上付近に行って弁当を食べることにした。


 この山の頂上付近には、石造りの遺跡のような物が複数あり、辺り一帯に廃墟となって散乱している。廃墟となった遺跡には木の蔦などが絡まり、緑色の苔などが付着している。周りは樹々で覆われ、まるで自然と共存しているかのようだ。

 その遺跡群の中央辺りに、大きな平べったい石がある。その石は人工物なのか自然に出来た物かは良く分からないが、大人3~4人分くらいはその上に寝そべることが出来るほど大きな物だ。


 昔からよくこの巨大なベッドのような石の上で、休憩をし、弁当を食べたものだったな。


 その巨石の上に「スライムシート」(スライムゼリーで作られた敷物)を敷いて、そこで昼食をとることにする。


「今日はいろんなお肉と野菜が詰まったサンドイッチ弁当だよ!」


 リンがサンドイッチの入った籠を広げる。


「おお! これは美味しそうだ! ――いただきます!」


 皆でサンドイッチを頬張る。


「相変らずリンの作るサンドイッチ弁当は美味いな!」


 モフも喜んで食べている。

 そういえば、最初にモフをテイムした時も、同じようなサンドイッチで餌付けしたな。俺はモフを見ながら想いだし、頬が緩む。


 辺りは廃墟となった遺跡群と樹々が調和している。周りの空気も澄んでいて神聖な気を感じる。エルフの里の世界樹がある森の中にいるようだ。

 

 ここはいい場所だ。


 こういった古代の遺跡のようなものは、ここフォレスタの土地には、所々に散在している。領都内においても、地下から古代の物と思われる石造りの古い貯水槽や水道、排水溝などが見つかったりしている。恐らく、この土地は古くから人々が住む土地だったようだ。


 俺は太古の昔に思いを馳せながら、リンやモフと一緒にゆったりとした時間を過ごした。



 弁当を食べ終わり、しばらく休憩をした後にリンが言う。


「そういえば、ダリアさん夫婦はどうしているかな? せっかくだから様子を見にいこうよ」


「そうだな。あれから数日経っているし行ってみるか」


 こうして俺たちはダリアさんのパン屋に転移した。


 扉をくぐると、カウンターにはダリアさんとポゴタさんがいた。


「あら? リンちゃんにトールさん。王都に行ってたのじゃなかったのかしら?」


 俺は長距離転移のスキルを覚えたことで、王都から一旦戻ってきたことを伝える。


「へぇ~なるほどねぇ~。それはすごく便利なスキルねぇ」


 驚くダリアさんとポゴタさん。


「ダリアさん、これをどうぞ。東の山で採れた山菜ですよ~。パンの具に使えそうだと思って持ってきました」

「あら、リンちゃん、ありがとうね。この山菜はよく洗ってミートサンドに挟むと新鮮で美味しくなるのよね~」


「ところで、あれから特になにかお変わりはありませんか?」


 俺は聞いてみる。


「そうねぇ……。特に変わりはないけれど……ちょっと気になることが…ね…」


 ダリアさんは少し小首をかしげながら言う。


「実は、トールさんたちが王都に旅立った日の夜からかしら……ここ数日同じ夢を見るのよ」


「夢……ですか」


「ええ。いやにはっきりとした夢なのよ。それが何度も。昨晩も同じ夢をみたのよ……」


「……ちなみにどんな夢ですか?」


「そうね。まず若い男性と女性が出てくるの。二人とも顔は霞がかかったようで見えないけれど、確かに若い男女だったわ。そして、男女とも首に何かの首飾りのような物を下げているの。宝石とかではなくてお守りみたいな感じだったわ。大きさは手のひらに収まるくらいで、金属製のメダルのような感じだったのよ」


 俺は考える。お守り――メダルのような物。タリスマンか? 


「それで、男性の方は、なんていうの、大きなダンジョン? みたいな入り口に入っていくの。そしてそこから急に視点が変わって、大きな部屋の中に居るの。その部屋の奥には何か祭壇みたいな物があって、そのお守りのようなメダル? を祭壇に捧げるの……そこで男性の夢は途切れるのよ」


 更にダリアさんは続けて夢の内容を話す。


「そして、女性の方は、大きな樹の下で、夜明け前にじっと立っているの。そして、太陽の光が差し込む瞬間に大きな樹の上から、奇麗に光る朝露がその女性に降り注ぐの。その時に、女性の首に下がっているお守りのメダルが輝くの。……そこで女性の夢は途切れるのよ」


 なるほど……。なんだか良く分からない夢だが、不思議な夢だ。


「なんだかこの夢は、お腹の中の子供たちが見ている夢のように思えるのよねぇ……」


 ダリアさんは。そっと自分のお腹に手を当てながらそう話す。

 ダリアさんは特殊な魔道具の検査により、男女の双子を宿していることがすでに解っている。


「ちなみに、そのダンジョンというのはどういう感じのものだったのですか? 入り口の外観とかが分かればいいのですが……」


「そうね。口で説明するより絵に書いた方が早いわねぇ」


 そう言ってダリアさんは、ポゴタさんに紙と筆記具を持ってこさせ、カウンターの裏でダンジョンの絵を書き始める。


 そして、描き終わったその絵を、俺とリンは覗き込む。


「お、お兄ちゃん! これは!」

「なっ! これは、王都のA級ダンジョンだ!」


 俺とリンは驚きのあまり声を上げ、お互いの目を合わせる。


 俺は興奮してきた。リンも同じようだ。更にダリアさんに尋ねてみる。


「ダリアさん、女性の方の大きな樹はどんな樹だったのですか?」


「そうね。大きな樹といっても、普通の森の中にあるような大きめの樹くらいだったわ。でも形は枝が広がっていて瑞々しくて立派な樹だったわ。あまり森では見かけない姿をした樹だったわねぇ……」


 俺はなんとなく直観する。それは、もしかして世界樹ではないのかと。リンが今育てている世界樹の苗木が大きくなったらそんな感じになるのではないか。世界樹の子供みたいに思える。


 俺は更にダリアさんに質問する。


「ちなみにダリアさん、そのメダルのような物の絵を描けますか?」


「あ、はい。夢ではっきりとその姿が目に焼き付いていますよ。ちょっと描いてみますね」


 再びカウンターの裏で、紙に描き出すダリアさん。俺はドキドキしながら待つ。リンもそわそわとしているようだ。


「はい、描きましたよ。男性のは菱形の物。女性のは円形の物ですよ」


 俺とリンは頭を寄せ合いながら、一緒にその絵を覗き込む。


「「こ、これは!!」」


 その絵を見た瞬間、俺は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。リンもびっくりしたように手を口に当てて硬直していた。


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