93話 長距離転移
朝が来た。
昨日は、あれから、たくさん手に入れたミスリルのインゴットを、シャンテの祖父であるパスカルさんのところに持っていった。
パスカルさんは、大量の高純度のミスリルを前にし、目の色を変えてびっくりしていた。
ミスリルのインゴットは20階層に行けばいつでも取れるので、皆と相談して、大半を無償で提供したら随分と感謝された。
そして、これでスマーフォの開発も大前進すると、パスカルさんは大喜びしていた。
シャンテやポルポワール家には、いろいろとお世話になっているのでこれくらいはお安い御用だ。
そして、うなぎ肉や極上のうなぎ肉が大量に手に入ってかなり余ったので、シャンテを通じて料理長にたくさん差し入れしたら大変喜んでくれた。
料理長が言うには、なにやら、"コーメ"という麦粒のようなものを炊いたものの上に、うなぎ肉の蒲焼を乗せてタレをかけると美味しいとのことだった。
俺は思う。コーメって、米のことだよな。そして恐らくそれは"うな重"のことだろう。前世のことを思い出す。あれは俺も大好物だった。うな重最高!
まあ、あまり勢い込んで食べると、たまに小骨が喉に刺さることもあるので、そこは注意が必要だ。昨日の極上のうなぎ肉は、まったくそういったことがなく、安全に美味しく食べられた。さすが極上のうなぎ肉だ。
しかし、この世界にも米があったなんて初めて知った。聞くところによると、はるか東方の島国で作られているとのことで、希少ながら取り寄せは出来るらしい。また、A級ダンジョンの中のどこかで、魔物からドロップするという噂もあるらしい。ちょっとワクワクする。
米のご飯を久しぶりに食べてみたい欲求が出てくる。この世界では穀物は麦が主流で主食はパンだ。俺は18年間この世界に過ごしてきたので、パン生活には慣れているが、前世を思い出してからは、無性に米のご飯が食べたくなることがある。
料理長は、近々、米を仕入れると言っていたので、楽しみだ。
それはさておき、今日はダンジョン攻略をお休みにした。
2日間続けて朝から晩まで頑張ったので、ちょっと皆で息抜きすることにしたのだった。
今まで皆で狩りをして入手したレアアイテムの大半を、昨夜ブランダさんに買い取ってもらった。ブランダさんは大量のレアアイテムにびっくりしていた。ブランダさんにはお世話になっているので、相場より安く売却したので、かなり喜んでいた。
そういうこともあって、俺たちパーティーの資金は莫大な金額になっている。パーティーの共有資金とは別に、皆に個別にお小遣いとして配っている。そのお小遣いもかなりの金額になる。
エミリーたち3人組とミレアは、そのお金を手に、喜び勇んで街に買い物に出掛けたようだ。まあ、ミーアやイナリは買い食いがメインだろうけど……。
アリシアさんは、王都の騎士団に知り合いがいるとのことで、会いに行ったようだ。
リンは、シャンテと一緒に、ポルポワール家の庭園を観て回ると言っていた。いろいろな花や植物があり奇麗な大庭園とのことだ。
また、リンは自宅の家庭菜園や世界樹の苗木の様子が気になっているようだった。
俺は作業場で、モフの空間魔法のアイテムボックスの中にある残りのアイテムを見てみることにした。
まだそれぞれの種類でたくさん在庫がある。シャンテの作ってくれたリストを見ながら、それらを出し入れして確認する。
しばらく続けていた、その時だった――。モフの空間魔法のレベルが上がった感覚がした。
俺とモフは、お互いのステータスを感覚で共有できるので、スキル変化を感じ取ることが出来るのだ。
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モフ Lv365
スキル:空間魔法Lv5 → Lv6
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「おおお!!」
ついにモフの空間魔法のレベルが6に上がった!
俺は、モフの空間魔法の情報を感覚で探る。
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空間魔法Lv6 転移〈大〉
・空間転移が出来る。
・魔力消費の燃費が改善されたこと等により長距離転移が可能となる。
・可能範囲は魔力量による。
・一度行ったことのある場所または視界にある場所に限り転移出来る。
・10人まで一緒に転移できる(近くにいる人に限る)
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「おおお!! ついに転移〈大〉が解放されたか!」
今までのLv5の段階では「転移〈中〉」で、概ね領都内の端から端くらいまでしか転移出来なかったのだ。
今回、可能範囲は魔力量による、ということだが、どこまで転移出来るのだろうか。
ひょっとして王都から、フォレスタの街まで転移出来たりして。まさかな……。ちょっと試してみるか。
「モフ、転移でフォレスタの街まで行けるか試してもらっていいか?」
「にゃ~ん」(――コクリ)
モフと俺が光に包まれる。――しかし、その光は消え、転移出来なかった。
ふむ、やはり遠すぎて魔力量が足りないか。それならば、フォレスタと王都の中間にある、伯爵領のガーランダ領には行けるかな?
再びモフに指示してみる。
光に包まれた後に目にしたものは、先日伯爵領で泊まった宿屋だった。
「おお! すごい! ここまで転移出来るのか!」
モフの魔力量の変化を感覚で探ると、概ね4割ほど魔力を消費しているようだった。
なるほど、必ずとも距離に比例して魔力を消費する訳ではないらしい。遠くなればなるほど、より多くの魔力量が必要のようだ。
一気に遠くまで飛ぶのではなく、半分の距離で2回に分けて飛べば、行けるみたいだな。
モフにマナポーションを飲ませて休ませる。
よし。俺も空間魔法のレベルを上げてみるか。SPの残りはまだたくさんあったはず。
ここのところユニーク装備をだいぶ更新したので、久しぶりにステータスを見てみるか。どうなってるだろうか。
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トール 18歳
Lv 365
体力:365+362+36 →763
魔力:365+477+36 →878
筋力:365+357+36 →758
敏捷:365+340+36 →741
精神:365+397+36 →798
幸運:365+317+36 →718
SP:274
スキル:剣術Lv8、鑑定Lv5、夜目Lv5、感知Lv4、水魔法Lv4、風魔法Lv10、火魔法Lv4、土魔法Lv5、闇魔法Lv4、雷魔法Lv3、回復魔法Lv2、空間魔法Lv5、蹴術Lv3、操糸術Lv3、硬化Lv3、飛針術Lv3、魅了Lv3、レクイエム
≪新規習得可能スキルがあります≫
ユニークスキル:女神のドロップLv8
特殊スキル:迷宮主と戦う場合に全能力値+10%
【装備品】
武器(右手):M《3》魔剣ラーフィン
武器(左手):M《2》聖剣ルナレス
防具(頭) :M《2》闇風のフード
防具(全身):M《2》フェンリルのマント
防具(肩) :M《2》黒光のSガード
防具(体) :M《2》ガーディアンヴェール
防具(服) :シャンテの冒険服
防具(腰) :シャンテの腰マント
防具(足) :M《2》風のブーツ
アク(頭) :M《1》森林蝶のリボン
アク(耳) :M《1》クイーンズイナレス
アク(首) :M《1》金のキャッツアイ
アク(胸) :兎王の勲章
アク(腕) :M《1》マッドボアの腕輪
アク(腕) :M《1》ミスリルゴーレムの腕輪
アク(足) :風の足輪
アク(指) :M《1》黒炎の指輪
アク(指) :M《1》コラプトゲンマ
アク(指) :M《1》剛力の指輪
アク(指) :M《1》スマラカタル
アク(指) :M《1》暗黒の指輪
アク(指) :M《1》雷電の指輪
総空間ソケット数:26
・ラーフィンの魔石(1)
・森林蝶の魔石(1)
・ガーディアンナイトの魔石(24)
(M:女神のユニーク装備。その後ろの数字は空間ソケット数を表す)
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「おおお!! なんかすごいな!」
最近体が軽くて力が漲っているような気がしてたが、あれから更に能力値が上がってる。
実質レベルは700台に達している。魔力に関しては800後半まで上がっているな。
SPはあれから剣術や風魔法、鑑定に使ったが、やはりラーフィン戦でレベルが上がりボーナスSPもあったため、まだまだ十分に残っている。
よし、早速、空間魔法を一つ上げてみるか。
≪空間魔法Lv5→Lv6 必要SP:80≫
80か。さすが空間魔法。このレベルにするには必要SPが多めだが、転移〈大〉はぜひとも欲しいので振る。そしてSPの残りは194となる。
新規習得可能スキルの詳細を見ると、今まで装備で付与されていたスキルがほとんど対象になっていた。今後、装備を外すことによりスキルが使用できなくなる場合に、正式にスキルを習得するつもりだ。とりあえず、SPは温存しておこう。
よし! これで俺も長距離転移が出来るな。ワクワクしてきた。
そうだ。ガーディアンナイトの魔石をハイリッチの魔石に交換して魔力を高めておくか。魔力特化の構成だ。
俺の強みは、状況によって能力値を特化型に出来ることにあるのかもしれないな。
試しにすべて入れ替えてみる。やや入れ替えは面倒だな。
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トール 18歳
Lv 365
体力:365+ 218+36 → 619
魔力:365+1053+36 →1454
筋力:365+ 213+36 → 614
敏捷:365+ 196+36 → 597
精神:365+ 253+36 → 654
幸運:365+ 173+36 → 574
総空間ソケット数:26
・ラーフィンの魔石(1)
・森林蝶の魔石(1)
・ハイリッチの魔石(24)
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おお! 魔力が凄まじい数値になった。その代わり他の能力は下がったが、これはこれで強力な魔術師にでもなった気分だ。
これだけ魔力が高いと、例えばウインドボールでもかなりのダメージが与えられそうだ。
そして、魔力が上がったことにより、魔力量の上限が上がる。俺はマナポーションを飲んで更に魔力量を増やす。ユニーク指輪にも魔力回復効果が付いてるので回復効率も良くなる。
これなら十分長距離転移も楽に出来そうだ。
そういえば、リンが自宅の家庭菜園や世界樹の苗木の様子が気になっていたようだ。
今日はまだたっぷり時間がある。この長距離転移を使って、リンと一緒に一旦、フォレスタの街の自宅に帰ってみるとするか。
俺はなんだかワクワクしてきた。