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89話 王都の商会


 俺たちは王都滞在中、シャンテの実家であるポルポワール家にお世話になることになった。

 そして、訪れた初日から盛大な歓迎を受けたのだった。


 メイドさんに案内され、それぞれの居室をあてがわれた。部屋は広く豪華で居心地はすごく良さそうだ。


 その後、来客用の豪華な応接室に通された。


「お父様、お母様~。シャンテが戻ってまいりましたよぅ~。こちらは私の大切な友人たちです~」


「おお! 戻って来たか、シャンテ。ご友人の方々もよくお越しいただいた。いつもシャンテがお世話になっているようでありがとう。私はこのシャンテの父、当商会の責任者、ブランダ・ポルポワールと申す者です」


 そう言って微笑むのはシャンテの父親。大商会の長にしては物腰が柔らかく気さくな感じだ。


「お友達の皆さま、いつもシャンテがご迷惑おかけしてます~。私はシャンテの母、エレナと申しますのよ。以後お見知りおきを~」


 エレナさんは優雅にお辞儀をする。どことなくシャンテに似て、ふんわりした優しそうな雰囲気の女性だ。


 そして、シャンテは俺たちメンバー全員を、ブランダさんとエレナさんに紹介する。


「ほほう! 君がトール君か。いろいろと頑張ってるそうじゃないか。君の噂はかねがね聞いているよ」


 そう言って、目を輝かせて俺を見つめるブランダさん。

 う~ん、初対面なのになぜ俺のことを知ってるのだろうか。


 そんな俺の心を読んだかのように、ブランダさんは少し悪戯っぽく笑いながら言う。


「いやはや、これも商人の性分でしてね。我々の商会はいろいろなところに情報網をしいているのだよ。まあ、君のことは好意的に思っているので、悪く思わないでくれると助かる。それに、シャンテも君のことを気に入っているみたいだしね」

「もう~お父様ったら~」

 

 ブランダさんは陽気に笑い、シャンテの顔が少し赤くなる。


 確かに、フォレスタの街にも「もふもふく」の支店があるし、裁縫ギルドもあるな。そういえば、男爵邸での作戦会議のときに、もふもふくの支店長も来ていたな。彼と少しだけ話をしたのを覚えている。なるほど……。俺は納得する。



「旦那様。晩餐の用意ができました」


 メイドさんが部屋の扉の近くに立っている。


「おお! そうか。では、皆さん、早速食事にするとしようか」


 こうして俺たちはメイドさんに案内されて皆で食堂に向かう。



 その日の晩餐はありとあらゆる豪華な食事が出され、皆も驚きと共にご満悦だった。


 食事中、ブランダさんとエレナさんは、俺を含めて皆にいろいろなことを聞いてきた。

 フォレスタ領のこと、魔物との戦いのこと、ダンジョンのこと、そして、俺たちの装備品やアイテムなどのことも、興味津々といった感じで話が弾んだ。

 さすが、大商会を束ねるお人だ。好奇心、情報を求める飽くなき情熱が伝わってくる。



 晩餐が終わり、席を変えて、ブランダさん、エレナさん、そして俺たち皆で、落ち着けるサロンのような部屋に移動する。

 香りのいい紅茶などを飲みながら、ゆったりと話の続きをする。


 そんな中、王都での商会についてのことが話題の中心となる。


「まあ、確かに私たちの商会は大きくなり、王家とは懇意にさせていただいてはいる。しかし、やはり出る杭は打たれるもの。我々の商会とて敵はいるのだよ」


 ブランダさんの話によると、ポルポワール商会は、衣類やスマーフォなどをはじめ、さまざまな商品を手掛けている。そして王家の信用も得て、数ある商会の中でもかなり有力な商会に発展してきたとのことだ。

 ただし、他の有力な商会もいくつかあり、特に王都の "歓楽街" を仕切っている商会が、金に物を言わせて、王国の政治などに影響力を持ちつつあるとのことだった。

 その商会は「ゲルダ商会」と呼ばれていて、どうやらあまり良くない方向での影響力を与えているらしい。


「商会同士の戦いは、やはり資金力が多い方が有利になる。まあ、当たり前の話ではあるが……。実は、ここだけの話だが、ゲルダ商会の裏には魔族が絡んでいるとの噂もある。フォレスタ領に高位魔族が現れたとのことはすでに聞いている。それを君たちのパーティーが撃退してくれたことも、私は知っている。そして、時を同じくして王都も魔物の大軍に囲まれたのだが、王都には十分な戦力があったのでなんとか撃退できた。私は、今回の王都の襲撃にはゲルダ商会が絡んでいると思っている」


 魔族が影から操っているかもしれないゲルダ商会。俺は考える。王都にもやはり魔族がなにか企んで仕掛けてきているのか? 王都の闇は意外と深いのかもしれないな。


「皆も気づいているとは思うが、ここ最近、"世界樹の泉" を探す荒くれ冒険者たちが増えて来た。魔族はもしかしてそういった人々の欲望を刺激して、世界樹の泉探しをけしかけているのではないかと、私は思うのだ……」


 なるほど……。魔族側もまだ世界樹の泉への "扉" の場所を掴めてないのかもしれない。あの手この手を使って探しているようにも思える。


「王都の歓楽街には、そういった粗暴な冒険者が集まりやすい。そこで彼らに噂を吹き込んでいるのかもしれないな……」


 ふむ、なんだかきな臭い話になってきたな。

 資金力をバックにしたゲルダ商会を隠れ蓑にして、王都を操り、更には世界樹の泉をも狙う魔族。俺の頭の中には、自然とそういう構図が浮かんでくる。 


「王家の方では、何か対策とかはされているのでしょうか」


 俺はブランダさんに聞いてみる。


「ふむ。もちろん王家の方でもいろいろと探ってはいるようだが、なかなか敵はしっぽを現さないようだ。今のところゲルダ商会を監視することに留まっているようだな。ただ、王家の方も彼らに対して強く出られない事情もある。ゲルダ商会を支持している有力な貴族がたくさんいるからだ」


 なるほど……。なんだか政治的な面でのしがらみがあって思うようには動けないようだな。


「ゲルダ商会を支持する貴族たち――地方の領主も含めてだが、そういう貴族たちは、莫大な資金を持つゲルダ商会に対して、恐らく借金があるのではないかと私は思う。それゆえ、商会は金の力で貴族を味方につけ、政治的な力まで持つに至ったと私は睨んでいる」


 エミリーが話す。


「そうなんですね……ちなみに彼らの資金源はどこからやってくるのでしょうか?」


「ふむ。やはり、ゲルダ商会は歓楽街を押さえているところが大きいと思う。歓楽街は金が集まりやすいところだ。そして、そういった客にたいして、違法な薬物などの売買を陰で行っているという噂もある。そして、なにより一番の資金源は『闇オークション』だろう」


「……その、闇オークションとは?」


「うむ、この王都では公式に認められたオークションと非公式のオークションがある。そして、非公式のオークションの方が実は莫大な金が動くのだ。この非公式のオークションが『闇オークション』と呼ばれているものだ。そしてそれを手掛けているのがゲルダ商会で、これが皮肉なことに王都では人気があるオークションなのだよ。有力な貴族たちの支持の下、非公式といえども、王家は取り締まりが出来ない状態なのだよ」


「ちなみに、どういった品がオークションに出されるのでしょうか」


「やはり王都はダンジョン都市でもあるので、ダンジョンからのアイテムが主流だね。特にレアアイテムが人気だ。そこは公式のオークションと変わらない。違いがあるとすると、盗品と思われるものが平気でオークションに出されるということだね。ちなみに、公式のオークションでは出品される商品に不正がないか厳密にチェックされる。したがってどうしても出品数が少なくなり、オークション自体に活気がなくなるのだ。品行方正にやってる方が、皮肉なことに逆に不人気となるのだよ」


「ポルポワール商会では、オークションは手掛けているのですか?」


「もちろん公式オークションとして主催はしているのだが、どうしても闇オークションの方に客が流れてしまうようだね」


 ブランダさんはそう言って、肩をすくめて苦笑いする。


 なるほど……。いろいろと大変なんだな。

 俺は沈思する。敵の大元の資金源は闇オークションにあるのか。その闇オークションに対抗できるオークションをこちら側が提供できれば、資金の流れがこちら側に向かうことになるのかもしれないな……。



「おっと、長々と愚痴っぽい話になってしまって申し訳なかった。ともかく、王都に滞在する間はぜひ当家に泊まってほしい。皆、また話をしよう。今夜は楽しかったよ」

「何かご要望があれば、当家のメイドになんなりとお申し付けくださいね」


 そう言って、ブランダ夫妻は微笑んでサロンから退出していったのだった。


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