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88話 才媛のシャンテ


 店内で、荒くれ者の冒険者たちが、俺たちに絡んできた。


「トールさん、あれですよっ、飛針術ですよっ!」


 シャンテがにっこりと笑いながら俺にそっと告げる。


 なるほど、そういうことか。ちょっと眠ってもらうとするか。


「飛針術レベル2――睡眠針!」


 俺は以前シャンテに作ってもらった腰マントから針を取り出し、その荒くれ冒険者全員に針を飛ばす。


「いてっ――! ……」

「あ……」

「うっ! ……」


 針が刺さり。荒くれ冒険者たち全員が眠りだす。


「あー、こちら『小鳥のさえずり亭』ですぅ。怖い男の人たちが店を荒らしていますぅ~。怖いですぅ~、助けてくださいですぅ~」


 シャンテがスマーフォを取り出して、どこかに連絡したようだ。


「えへへ~、騎士団の詰所(つめしょ)に連絡しましたよぅ~」


 俺に向かって片目をつぶり、笑顔で告げるシャンテ。


 おお、さすがシャンテ。しかし、よく王都の騎士団の詰所の連絡先なんて知ってたな。少し不思議に思う。



 しばらくすると屈強な騎士団員たちが大勢現れた。彼らは店内を見てなんとなく状況が分かったようだ。


「もう~ほんと、怖かったですよぅ~。この人たち、店内で暴れて、お客さんに絡んできたりして。挙句の果てに店内の物まで壊したのですよぅ~。そこのテーブルと椅子なのです~。それで、お酒飲んで寝込んじゃったみたいですよぅ~」


「……ハッ!? もしやシャンテお嬢様ではないですか! こちらに戻られていたのですか!」


 騎士団のリーダーらしき人物が言う。


「シャンテ様、連絡していただき感謝します! ……はあ、またこいつらですか! 即刻、こいつらは詰所に連行します。……ああ、器物破損に恐喝まがいですか。これでもう冒険者資格は剥奪でしょうね」


 騎士団員たちは、眠りこけている荒くれ冒険者たちをたたき起こし、縄で縛る。


「……ん? おあっ!! な、なんだこれは!」

「くっ! 縄で縛られてるみたいだ!」

「おい! てめえら――ひえっ! き、騎士団!」


「お前たち、全員これから詰所まで来てもらう。今度という今度は、言い逃れできないぞ!」


 騎士団のリーダーらしき人が言う。


「それでは、シャンテ様! あとは我々にお任せ下さい! よし! 皆、こいつらを連行するぞ!」


「ギャアアアー! 痛てて! や、やめてくれ!」

「痛い! うわああああ!」


 荒くれ冒険者たちは、騎士団員たちに引きずられて詰所まで連行されていった。


 さすがシャンテ、恐ろしい子。なんだかよく分からないが、王都の騎士団と面識があるようだ。


 感心してシャンテを見つめていると、自然に俺の鑑定機能が発動してきた。


――――――――――

シャンテ・ドゥ・ポルポワール Lv350

・スキル:操糸術Lv9、飛針術Lv5

・生産性スキル:裁縫Lv15

・レアスキル:商才Lv3、ガジェット製作Lv2、ゴーレム操り

・ユニークスキル:女神の裁縫 Lv7

 (裁縫のマスタークラス)

――――――――――  


「おおお! シャンテーー!」


 俺は仰天するのだった。

 先ほどの騎士団員とのやり取りも気になるが、それよりも、俺はシャンテの持つスキルに目が釘付けになった。


 シャンテもユニークスキルを持ってたのか! びっくりだ。

 そういえば最初にシャンテに会った時に、裁縫師のマスタークラスを持ってるとかなんとか言ってたな。あれはユニークスキルのことだったのか……。


 ユニークスキル「女神の裁縫」。確かに普通の裁縫スキルの上位版って感じがするな。


 それにレアスキルが、たくさんあるな。なんて多才なスキル群なんだろう。「ゴーレム操り」なんてものもあるし。糸でゴーレムを操作するのだろうか?


 それはそれとして、シャンテだけ長い名前がついてるな。

 もしかして、シャンテって貴族か、もしくは何か特別な家系の出身なのだろうか? 先ほどの騎士団のリーダーらしき人とのやり取りも気になる。


 俺たちは一旦元のテーブル席に着き、一呼吸する。俺はシャンテに聞いてみる。


「シャンテって、姓(苗字)とかあるの?」


「んん~? あれれっ? トールさんに言ってなかったでしたっけ。私の苗字は『ポルポワール』ですよぅ~」


「「ポルポワール!」」


 ミレア以外の皆が驚いているようだ。


「し、シャンテ殿、もしかして、ポルポワールって、あの有名な大商会のポルポワール商会のことなのか?」


「ふ~む、確かにポルポワール商会は私の父が経営してるですけどね~。でもそんなに大きくはないし有名ではないと思いますよ~。」


「「「いやいやいや!!」」」


 皆が突っ込みを入れてるようだ。


「シャンテ殿……世間では、ポルポワール商会と言えば、あの有名な『もふもふく』やスマーフォの開発や販売をしてる一流の商会として名が通ってるぞっ。王家とのつながりもある有力な商会だとも聞いているな」


「お兄ちゃん! すごいよ! シャンテさんは、あのもふもふくやスマーフォで有名な商会の人だったんだよ!」


 皆も身を乗り出して興奮しているようだ。


 なにっ? そうなのか?……。ていうか俺は、ポルポワール商会なんて商会があることすら知らなかった。元々、商会の名前とかには疎くて、どの店や商品をどの商会が手掛けてるとか、あまり気にかけたこともなかったしな。

 ……そう言えば、以前シャンテがスマーフォを持ってることに少し驚いたことがあったな。そうか、そういうことだったのか。俺は一人納得する。


「お、おう。すごいな……。まさかシャンテが…あの有名なポルポワール家の人だったなんて。シャンテ、最高!」


 俺は知らなかったことを適当に誤魔化し、皆に話を合わせる。


「まあ、確かにスマーフォはポルポワール家で開発してるですけどねぇ~。まあ、開発と製作をしてるのは父じゃなくて祖父ですけどね。そして、『もふもふく』の方は私の母が取り仕切ってますねぇ~」


 ポルポワール家の一族。シャンテはその家系の人だったのか。なんかいろいろとすごいな……。


「あっ、そうだ。王都にいる間は私の実家に滞在するってのはどうですかぁ~。実家は王都の中心街にあるのですよ~。部屋もたくさん余ってるので、みんな来てくださいよぅ~」


「おお! いいのか!? シャンテ!」

「にゃ~、シャンテの所に泊まるにゃ~!」

「わらわも泊まりたいのじゃ~!」

「やったー!」

「ポルポワール家の邸宅に泊まれるなんて、最高だよ!」

「シャンテ殿、ほ、ほんとに、いいのか!?」


「もちろん、いいのですよ~。みんなが来てくれると、父と母、祖父も喜ぶと思いますよぅ~」


 こうして俺たちは王都に滞在する間はシャンテの実家にお世話になることになった。


 皆で店を出て、シャンテの家がある中心街へ向かい通りをゆっくりと歩く。

 A級ダンジョンを少し覗きたかったが、午後も遅い時間だったので今日は止めにした。


「わあー、大きなお城があるよ!」

「にゃ~、あの城が王城なのにゃ~」

「相変わらず立派な城だな。ちょっとやそこらじゃこの城を落とすのは難しそうだな……」

 

 アリシアさんがちょっと物騒なことを言っている。


「トール、あそこに見えるのが王都の公立図書館よ。大きいでしょう」

「確かに大きいな。エルフの里の図書館より大きそうだな……」

「まあ、大衆向けの娯楽本とかもたくさん置いてあるからね」


 エミリーは笑う。


「あ、新しい魔法具屋が出来ているのじゃ~」

「にゃっ、武具屋も新しいのが出来たにゃ~」


 通りには俺たちの領都と比べるとかなり大きい店が立ち並んでいる。その種類もたくさんある。

 錬金術専門の店、魔石販売店、アクセサリー専門店などなど。そして「もふもふく本店」もあった。さすがポルポワール家のお膝元、本店は大きく立派な造りになっている。


 通りが広がり広場みたいになっている所もある。そこには、かなり大きな建物があり、冒険者の格好をした人たちが大勢出入りしている。冒険者ギルドの本部だ。


「お兄ちゃん、あれが冒険者ギルドの本部みたいだよね。凄い活気があるね!」


 俺たちは目を輝かせきょろきょろと周りを見回しながら王都の中央通りを歩く。しばらくすると王都の中心街が見えてきた。



 そして、シャンテの実家に着いた。


「わあーすごい豪邸!」

「ほんとにゃ~! すごいにゃー!」

「な、なんと、男爵の邸宅よりも大きいぞっ!」


 シャンテの実家は大邸宅だった。作りはどことなく個性が感じられる。芸術的な設計というべきか、不思議で立派な邸宅だ。


 シャンテと一緒に広い庭を歩き、立派な邸宅の玄関を抜けると、そこは大広間だった。天井には豪華なシャンデリアが下がっている。足元には高級そうな赤い奇麗な絨毯が敷かれている。


「にゃ~、豪華だにゃ~」

「すごいのじゃ~」


 大勢のメイドさんが、広間の左右に一斉に立ち並び出迎えている。


「「「シャンテお嬢様! お帰りなさいませ!」」」


「「「お連れの皆さま! 歓迎いたします! ポルポワール家へようこそ!」」」



誤字報告くださった方ありがとうございました。助かります(二当流→二刀流など)

また、評価・ブックマーク等下さった方ありがとうございます。

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