82話 因縁の対決 ①
―――鑑定―――
『ニバラス』 死霊術師
Lv800
種族:高位魔族
スキル
・闇魔法:Lv8
・死霊魔法:Lv9
・闇の衣:Lv5
・魔石招集
・屍蘇生術
・魔眼
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「エミリー! 死霊術師だ! それも高位魔族だ!」
「こ、高位魔族!! みんな! 絶対私たちから離れちゃだめ!!」
エミリーは、結界を張る準備を始めようとする。
「ほぅ……そこの男、良く私が死霊術師だと見破ったな。それに高位魔族とも言ったな。さては鑑定持ちかな? クックックッ、まあよかろう。自己紹介が省けて良かった。その通り、私は高位魔族で死霊術師だ。そして名前をニバラスと言う」
「き、貴様がっ! ダンカン様たちを死霊に変えたのかっ!!」
騎士団長のリドルフさんが叫ぶ。
「ほう? ダンカン? 誰だそいつは。いちいち下賤の者の名前まで憶えておらんわ」
「――くっ! マルカ森でのことを忘れたとは言わせんぞ!!」
「ほほぅ、さては貴様、4年前の生き残りか。全員屍にしたと思ってたのだがな……。クックッ、まあよかろう。どのみちこれから貴様たち全員、屍になるのだからな」
死霊術師ニバラスはそう言って、何やら不気味な呪文のようなものを唱えながら再び言葉を発す。
「――魔石招集!」
ニバラスの言葉と同時に、領都の外から多くの魔石が飛来してくる。
そして俺たちの周囲、広場一帯に雹のように降り注ぎ、地面にばらまかれる。
なんだ、この魔石は? もしかして俺たちが倒した魔物の魔石なのか? 魔石やドロップアイテムは回収していたが、あまりにもその数が多く全部は回収しきれなかったはずだ。その残された魔石なのかもしれない。
更にニバラスは右手を宙に伸ばし、空間から何かを取り出した。笛のような物だ。
「――屍蘇生術!」
ピュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
辺り一帯に笛の音が鳴り響いた。
地面にばらまかれた多くの魔石から黒い炎のような揺らぎができる。そして、あたかも大地から屍が出て来るかのように、魔石が薄暗い魔物に変わる。
キラーゴブリン。フェンリル。オーク。オーガ。ダークラビット――その他様々な魔物が再び現れる。その魔物たちは生きていた頃と違って、身体の色は薄黒く、目も虚ろだった。何かにとりつかれたかのように狂暴な気を発している。
アンデッドの魔物だ!!
俺は以前、リドルフさんから聞いた話を思い出す。――口笛のような音と共に、倒したはずの魔物が再び地から湧きだしてきたと。
「くっ! 4年前と同じだ! そうか、魔石が生き残っていたのか!」
「ハッハッハッ! ようやくからくりに気付いたか。だがもう遅い。お前たちの墓場はここになるのだ。――行け! 我が魔物たちよ!」
アンデッドの魔物たちが襲い掛かって来る。
「結界魔法! ――防御結界!」
エミリーが皆の周りに結界を張る。
「皆! エミリーの結界から決して出るなよ!」
魔物の集団はエミリーの防御結界に遮られて、中に入ってこれないようだ。結界内には、俺たちや騎士団員、冒険者たちの他に、一般人も多数いる。一般人である彼らは怯えたように身を寄せ合っている。
「ほほぅ、結界魔法の使い手か。んん? その耳――貴様はエルフ族か」
「そ、そうよ! 絶対にあなたなんかには負けないから!」
「ほほう、威勢のいいことだ。だが、その強気がいつまで持つかな? クックックッ」
俺たちは結界の内側から、魔物を剣や魔法で攻撃する。結界の外からは攻撃出来ないが、内側からなら攻撃出来るのだ。
「おおおおお!! 騎士剣術! 光の舞!」
リドルフ騎士団長が結界の内側から剣技を使い、外の魔物たちを次から次に消滅させる。
他の騎士団員や冒険者たちもそれに続けとばかりに、一斉に円陣を組みながら戦う。
広場にいる魔物の数がだんだんと減って行く。
――しかし、再びまたアンデッドとして蘇ってくる。
まずい! これではきりがない。こちらが消耗するだけだ。
レクイエムを使うか? 確実に倒せるのはこのスキルしかない。しかし、レクイエムは単体攻撃スキルでやや使用に時間がかかり、消費魔力も多めだ。大勢のアンデッドが次々に襲って来ている中では、悠長にやってる時間はなさそうだ。
ニバラスの方を見ると余裕の笑みを浮かべている。
俺は風魔法Lv7を唱える。
「風魔法! シルフリング!!」
12体の風の妖精シルフたちが現れ、俺たちの集まりを中心に、囲み、守るように回り始める。
そのシルフたちが、一斉に強力な風を、押し寄せるアンデッドの群れに放つ。
「「「ギャアアアアアアアアアアア!!」」」
魔物の叫びが広場中に響き渡り、一気に魔物の数が減る。
「ほほう、なかなかやるではないか。では、次はこういうのはどうかな? ――闇魔法、ブラックウインド!」
黒い闇の風が俺たちを襲う。凄まじい風だ。
「――緑風の舞!」
ミレアだ! 緑色に輝く風が舞い、闇の風が遮られる。
双方の闇の風と緑の風がぶつかり合い、広場は激しく揺れる。
「ほほう、そこの小娘よ。なかなかやるではないか」
ニバラスはまだ余裕の表情を見せている。
今度はこちらから攻撃をかける。
「モフ! 頼んだぞ!」
俺はラーフィンとの戦いと同じ戦法を取った。
モフが不思議な踊りをし、光魔法Lv7の「天使の光輪」が降りて来て、ニバラスの体を縛る。
「マリオネット!」
俺の心の動きを読んだかのようにシャンテが叫ぶ。シャンテのマリオネットだ! シャンテがモフに続き、更にニバラスを縛りつける。
それを見ていたイナリが大狐火を浮かべ、ニバラスに向かわせる。
アリシアさんが騎士剣の銀色の刃を飛ばす。
ミーアが、魔剣ラーフィンを投擲する。
パーティーの息がぴったりだ!
「風魔法! ――風鷹の羽ばたき!!」
俺は、片方の聖剣をマギカレイマス(ユニーク杖)に持ち替えて、風魔法Lv8の攻撃をする。
「くっ! なんだ! これはっ!……」
余裕を見せていたニバラスが、初めて動揺しているようだった。
「――闇の衣!」
ニバラスに向かって、一斉に俺たちの攻撃が衝突する。ニバラスの周りに黒炎が舞う。
「――くっ!」
風の鷹は消え、大狐火も消え、ミーアの投擲した魔剣ラーフィンは、シャンテが放った別の糸によって絡められミーアの手元に戻って来る。
ニバラスの表情から余裕が消えた。
ニバラスの体の闇の衣が更に大きくなる。凄いオーラを感じる。
パアアアアーーン! パキイイーン!
モフの天使の光輪が破れ、シャンテの糸が切れる。
「貴様ら! この私を……舐めるな!」
ニバラスの目が怒りに染まった。
「たかが人間風情が私に歯向かうなど、思い上がるな! ……あまりこの魔法は使いたくなかったのだが、まあいいだろう。私の魂を少しだけ削ればいいだけのこと。貴様ら全員を死霊に変えることなど造作もない。お前たちはこれから永遠の苦しみに彷徨うことになるのだ!」
ニバラスの本気が伝わって来る。
「お前たち人間どもよ! お前たちは醜くて欲深い。そして諦めが悪い。だがそれでいいのだ! それこそ私の思う正しい在り方なのだ! もっと、もっと、己の欲望に忠実になるのだ。限界まで己の執着を高めて、欲望の淵に飲み込まれ永遠にあがくといい! ――」
――ゲ・エグドラバス・グラ・ウル――
不気味な呪文を唱えるニバラス。
「トール! 死霊魔法が来るわ! 気を付けて!! ――エルフの結界!」
エミリーの緑色の鮮やかな結界が、皆のまわりに張られる。
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エルフの結界 Lv12
・あらゆる状態異常を阻止する結界
・特に死霊魔法対策として編み出された古代の結界
・膨大な魔力を必要とする
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「――死霊魔法!」
ニバラスの両手から漆黒の闇が放たれる。
その闇はエミリーの張ったエルフの結界と衝突する。
「ウォオオオオオオオオオオオ!!」
「はぁあああああああああああ!!」
双方の魔力がせめぎ合う。エミリーの額に汗が流れ、渾身の魔力で対抗しているのが分かる。
俺の鑑定機能が自然に発動し、エミリーの魔力量の変化が感じられる。エミリーの魔力がどんどん減っていっている。
物凄いぶつかり合いだ。僅かにエミリーの結界が徐々に押されてきている。
すでに、エミリーの右手には世界樹で作られた杖、左手にはリッチのユニーク杖が握られている。双方とも魔力がかなり上がる杖だ。
ミレアが、自分の付けている「森林蝶のリボン」をエミリーの「風のリボン」と交換した。エミリーの魔力が上がる。更にエミリーにマナポーションを飲ませるミレア。
せめぎ合う死霊魔法とエルフの結界。広場が激しく揺れる。
「ウォオオオオオオオオオオオ!!」
「はぁあああああああああああ!!」
エミリーの魔力が尽きそうだ。俺は黄金林檎のかけらをエミリーの口の中に入れる。
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黄金林檎(ユニーク食材)
・食べると最大魔力量の半分が瞬時に回復する
・ただし1日1回まで(クールタイム24時間)
・食べると、魔力+15(効果時間は6時間)
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エミリーの魔力量が半分まで回復した。
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!」
更に、ニバラスの、おぞましいまでの魂を削る叫び声が辺りに響き渡る。
固唾を飲んで見守る皆は、恐怖で震えている。
再びエミリーの魔力量がぐんぐんと減って行く。
まずい! エミリーの魔力が尽きそうだ!