80話 満月の夜 ④ 死闘の行先
ネームドモンスター『ラーフィン』が凄まじい突進をして来た。
――間に合わない! 瞬時に俺は悟ってしまった。
その瞬間、俺の目の前に光の盾が出現した。
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光魔法Lv6 天使の盾
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モフの光魔法だ!
パリイイイイーン!
その天使の盾は砕け散ったが、ラーフィンの突進は完全に止まっていた。
この機を逃してはならない! 俺は瞬時に判断する。
「マリオネット!!」
いつもの操糸術の大技だ。戦闘用の糸はユニーク糸の「マリオネーラ」だ。強靭な糸に光の属性が乗る。
ラーフィンの四股と角に糸が絡まり、宙に舞う。
モフがすかさず、大技、「冷気の霧」をラーフィンにかける
ビュウウウウウウウウウウウウウウ!!!
しかし冷気の霧はラーフィンの闇のオーラにかき消される。
更に、モフが弱体化の光をかけるが、これも弾かれる。
「キュィイイイイイイイイイイイ!!」
暴れ狂うラーフィン。マリオネーラの軋む音が聞こえる。まずい! 糸が切れそうだ!
俺は素早く次の行動を取る。
――風魔法Lv8 風鷹の羽ばたき
風魔法の単体攻撃用の高威力魔法だ。
巨大な烈風の鷹が現れ、ラーフィン目がけて猛速度で羽ばたく。
ラーフィンの体から発する闇の衣が更に大きく膨れ上がる。
そして、風の鷹と闇の衣が衝突する。
「ギャアアアアアアアア!!」
初めてラーフィンの苦痛の叫びが聞こえた。
しかし、マリオネットの糸は切れ、大地に降り立ちこちらを睨みつけるラーフィン。
その目はまだ生きており、金色に輝いている。
更にラーフィンの体に纏う闇が大きく膨れ上がった。
俺は無意識にラーフィンを鑑定していた。
―――鑑定―――
『ラーフィン』 固有種
Lv450+100
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レベル550! 更にレベルが上がっている!?
俺は驚愕する。非常にまずい!
固有種、ネームドモンスターと呼ばれる魔物は一癖も二癖もある魔物が多いと言われる。そして強力なスキルを持つ者も多いと聞く。
闇の衣の防御と自身のレベルをも引き上げるスキル。一筋縄ではいかない。
俺は考える。更に思考を速める。そして――ある一つの方法を思いつく。
これしかない! だが、それを実行する為には、少しの時間だけ敵を足どめする必要があるのだ!
俺がそう思った瞬間に、モフにも俺の考えが伝わったようだ。
「モフ!?」
モフが光り始め、不思議な踊りを踊り始めた。
そして天から大きな光の輪が降りて来る。
「キュイイイ!?」
ラーフィンの動きが一瞬止まる。ラーフィンが、光の輪に包まれていた。
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光魔法Lv7 天使の光輪
・強力な光の輪で敵を縛り付ける
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「でかしたぞ! モフ!」
天使の光輪に捕らわれて身動きが取れないラーフィン。しかし、敵も必死だ。少しずつではあるが徐々に、光の輪を押しやっていこうとしているのを感じる。
「マリオネット!」
俺は2度目のマリオネットをかけ、更に光の糸で縛り上げる。
そして、俺はすぐさま、ユニーク装備のソケットに入れている魔石のほとんどを、ある魔石に変え始める。
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リッチの魔石
・ソケット効果(魔力+10)
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魔石を交換するたびに、体力や筋力などがどんどん減っていく。しかし、逆に魔力がぐんぐんと上がっていく感覚があった。
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トール 18歳
Lv 251
体力:251+124
魔力:251+356
筋力:251+123
敏捷:251+ 79
精神:251+161
幸運:251+116
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魔力が600を超えた。体中に魔力が満ちあふれてくるのを感じる。
と同時に、フォレスタの守り神、フォレスタバタフルの意志が、俺の頭に付けられた彼のドロップユニークアイテムを通じて伝わってくる。
女神の森林蝶のリボン――風の威力+20%
「風鷹の羽ばたき!!」
俺は再度、風魔法レベル8の攻撃をする。
巨大な風の鷹が現れ、ラーフィン目がけて猛速度で羽ばたいていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
ラーフィンに直撃する風の鷹。敵は苦しそうだ。
更にもう一度攻撃する。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
さすがレベル8の風魔法、強烈だ。俺の魔力消費も激しい。マナポーションを飲みながら更に同じ攻撃を繰り返す。
ラーフィンの闇の衣が小さくなっていく。
天使の光輪と光のマリオネットに縛られて身動きが取れないラーフィン。
俺は魔力を全力で振り絞る。
「お前の肉をよこせええええええええええええええ!!」
気が付けば俺は無意識に叫んでいた。
巨大な風の鷹が力強く羽ばたき、ラーフィンの頭に衝突していく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
この瞬間、ついにラーフィンは断末魔の叫びを上げた。ラーフィンの最後の悲鳴が、辺り一面に響き渡る。
マリオネットの糸は切れ、天使の光輪が消える。
草原一帯が、大きな音をたてて振動し揺れる。
巨大な霧となって徐々に消えて行くラーフィン。
――天から声が聴こえて来る。
≪固有種『ラーフィン』を討伐しました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
・
・
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
膨大な経験値が体に流れ込んでくる。
――繰り返す天からの声
≪パーティーメンバーのそれぞれに習得可能スキルが解放されました≫
≪パーティーメンバーのそれぞれに特別ボーナスとしてSPが与えられます≫
≪従魔、ライトモフミィの光魔法のレベルが8に上がりました≫
――ドスン、ドスン。
≪ラーフィンの通常アイテム『極上のうさぎ肉:特級』をドロップしました≫
――バサッ。
≪ラーフィンのレアアイテム『ラーフィンの毛皮』をドロップしました≫
――コロン、コロン。
≪ラーフィンのユニークアイテム『魔剣ラーフィン』をドロップしました≫
≪ラーフィンの上位ユニークアイテム『女神の魔剣ラーフィン』をドロップしました≫
「や、やった、やったぞ!! うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「にゃにゃにゃにゃああああ~~ん!!」
俺とモフは勝利の雄たけびを上げるのだった。
後方の外壁から、皆の大歓声が聞こえて来る。
外壁の方を振り向くと、すでにほとんどの魔物が消えていた。
辺り一面にドロップアイテムや魔石が散乱している。
俺とモフは、ラーフィンのドロップアイテムを収納し、皆のいる外壁へ転移した。
「トール! やったわね! こっちもほとんどの魔物を倒したわ!」
「にゃー! トール、あんな強そうな魔物を倒したにゃー! 凄いにゃー!」
「お兄ちゃん、見ててハラハラしたよ!」
「トール殿、やったな! こちらも見ての通り魔物の大軍はほぼ全滅したぞっ!」
「やったな、トール! 生きた心地がしなかったけどな!」
「お嬢ちゃんたちも凄かったぞ!」
「黒いフードマントのパーティーはトールのパーティーだったのか! 助かったぜ!」
皆が次々に話しかけて来る。その顔は喜びに満ちていた。
すでに外壁を降りて草原の方で、魔物の残党を狩っている冒険者たちや騎士団たちもいる。
また、辺り一面に散らばっているドロップアイテムや魔石を回収している人たちも大勢いる。
これだけの敵の大軍を倒したのだ。物凄い量のアイテムが回収されそうだ。これだけあれば、街も相当に潤うことだろう。
そして、今回の魔物の襲撃で、村が壊されるなどの被害にあった領民たちも大勢いる。男爵のことだ。きっと彼らへの補償も手厚く行われることと思う。
そして、俺たちパーティーは丘の上のゴーダさんの所に転移する。
「トール君! これでほぼ魔物たちはいなくなった。これも皆のおかげだ。本当にありがとう!」
ゴーダさんは喜びの表情で言う。
ここ西側の魔物だけでなく、北、東、南の方面の魔物たちも、領都中の騎士団や冒険者たちで殲滅出来たようだ。
「トールー! やったのじゃー!」
烽火台の上からイナリの声が聞こえて来る。
「おうー! イナリも良く頑張ったなー! お疲れさーん!」
「よし! 緑の烽火を上げるぞ!」
「バタフルの魔石を持ってこい!」
「おお! 分かった!」
かつて番人たちから聞いた。緑色の烽火は吉報を告げる烽火であることを。
満月の夜空に、緑色の烽火が上がった。その緑色の炎は大きく燃え上がり、領都中を優しく照らすかのようだった。
領都中から、次第に人々の喜びの声が上がり始め、ここまで聞こえて来る。
そしてその声は徐々に大きくなり、勝鬨の大歓声へと変わっていったのだった。