8話 再びうさぎ狩り~虹色の光
朝が来た。
あの日から3度目の朝だ。
俺はステータスを見て、今更ながら気が付いた。
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トール 18歳
Lv 8
体力:8
魔力:8
筋力:8
敏捷:8
精神:8
幸運:8
SP:5
ユニークスキル:女神のドロップLv3
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SPが5になっていた。
「そうか! レベルが上がったのでSPも増えたのか!」
SPが5あるということは、スキルも上げられるかもしれない。
早速、女神のドロップのレベルの部分を触る。
≪SPを使用してスキルレベルを上げますか?≫
「はい」
≪Lv4に上げるにはSPが4必要です≫
「はい」
そして表示が変化した。
…………………………
女神のドロップLv4
効果:魔物を倒したときのアイテムドロップ率および質が向上する。
通 常 ドロップ 100%
レ ア ドロップ 25%
ユニークドロップ 5%
…………………………
「おおーー!」
ついに通常ドロップが100%に達した。
レアは25%とさらに各段に落としやすくなっている。
ユニークはまだ低めだが以前の3%から5%に上がり入手の困難度もかなり軽減されている。
20匹倒せば1つユニークアイテムを入手できる確率だ。
よし、今日の方針を決めたぞ。
この流れだと、今日はスライムを60匹ほど狩って、宝玉を3つ入手。そのままいつものやり方でホーンラビットを30匹狩ることにしよう。
うまくいけば、まだ見ぬホーンラビットのユニークアイテムを拝めることが出来るかもしれない。
俺はワクワクしながら、準備を始めた。
今日もかなりの収穫が見込まれそうなので、いつもの背負い鞄の中に予備の手提げ鞄を2つ折りたたんでいれておいた。
これは、きっと帰りが大変だな。
「おにいちゃーん! 朝食出来たよー!」
リンの声が聞こえてくる。
今日も1日頑張ろう。
◇
ダンジョンにやってきた。
早速、いつものように鬼のごとくスライムを狩りまくる。
瞬く間にスライムゼリーで鞄の中が埋まっていく。
そして午前中でなんとか水の宝玉を3つ入手できた。
いつものように昼休憩でリンのお弁当を食べた後、はやる気持ちで2階層に行った。
「さて、ホーンラビット30匹狩りに挑戦だ!」
レベルも上がり慣れたせいもあって、今日はいつもより少し2階層の広い範囲でホーンラビットを積極的に探し、狩っていった。
ホーンラビットのレベルは5、俺のレベルはすでに8になっているので、もはやホーンラビットは俺にとって格下の魔物だ。宝玉の魔法を使うまでもなく、短剣のみで倒せるに違いない。
しかし、一気に効率よく倒すためにいつも通り宝玉の魔法を使う。
「ウォーターボール!」
バシューーーン!
タタタッ
ザシュ!
コロンコロン
ポイッ(鞄にアイテムを入れる)
いつものようにリズミカルに狩りをする。
10匹討伐完了、水の宝玉を交換……
≪レベルが上がりました≫
20匹討伐完了、水の宝玉を交換……
≪レベルが上がりました≫
25、26、27匹……
「ウォーターボール!」
バシューーン!
ザシュ!
「ん!?」
本日28匹目のホーンラビットを倒した瞬間、虹色に輝く光が現れた。
コロン
≪ユニークアイテム、『ホーンソード』をドロップしました≫
「よっしゃああああああーー!!」
俺はいつもの喜びの踊りを踊った。
落ちたユニークアイテム、「ホーンソード」は少し厚めの切っ先が尖ったやや長めの短剣だった。
拾いあげ、とりあえず落ちないように腰のベルトにしっかりと括り付けた。
ちょっと切りが悪いので、1階層に戻る前に、2匹のホーンラビットを倒し、3つの宝玉をすべて使い切った。
「よし、30匹討伐完了! 撤収だ~!」
俺は興奮と大満足でダンジョンを出た。
ダンジョンを出た俺はすぐに腰ベルトから「ホーンソード」を取り出した。
ドキドキしながら鑑定をしてみる。
~~~鑑定~~~
ホーンソード(短剣/ユニーク武器)
・攻撃力(AR)6
・装備時、筋力+5、敏捷+5
・突き攻撃の際にクリティカルダメージが発生しやすい
~~~~~~~~
「おおー! AR6か! しかもステータス上昇効果まで付いてる!」
これはすごい武器だ。
武器の攻撃力はARという数値で表され、この数値が大きいほど強い武器となる。
ちなみに、今の俺の使用している鉄の短剣のARは2だ。初級の冒険者がよく使用している鉄の剣のARは3。一般的な王宮の兵士が使用する量産の鋼の剣のARは5だ。
それと比べるとAR6は上質の武器といっていい。
ちなみに上級冒険者や王宮騎士団の一部などで使用されるミスリルの剣のARは15と言われている。
さすがにミスリルの剣は別格にしても、俺のような初級冒険者にとってはこのAR6のホーンソードはかなりの代物と言っていい。
しかもステータス上昇の付加効果がある武器は珍しい。
「やっといい武器を手に入れることができたぞ」
俺は今まで貧乏だったので、なかなか良い武器を買うことが出来ず、それが冒険者としての弱さの原因の一つにもなっていた。
せめて鉄の剣が欲しいと思っていたのだが、思いがけず良質の短剣が手に入ったのはすごくうれしい。
――本日の収穫――
・スライムの魔石、ゼリー等多数。
・ホーンラビットの魔石 30個
・うさぎ肉 30個
☆極上のうさぎ肉 7個
★ホーンソード 1本
(☆レアアイテム、★ユニークアイテム)
――――――――――
俺は上機嫌で鼻歌を歌いながら背中に大きな鞄、両手にも手提げ鞄をかかえ、ギルドへ向かった。
◇
――冒険者ギルドにて
カラ~ン
毎度のごとくギルドの扉をくぐり、売却用の受付に来た。
エメルダさんは、俺の姿を見るや微笑み、個室の扉を見て目くばせをした。
「では、おじゃましまーす」
他の冒険者たちに気づかれないようにさりげなく個室に入る二人。
ほんと、毎回こんな感じじゃいずれ誰かに勘繰られて怪しまれることになるんじゃないだろうか。
ちょっと心配しながらも、密会?――を続ける俺とエメルダさん。
「さてさて、今日はどうでした? トールさ~ん。ずいぶんたくさん荷物を抱えてるようですけど!」
だいぶ口調もくだけた感じのエメルダさんである。
「見ての通り、大量ですよ~。またメインはうさぎ肉ですけどね。スライムゼリーなどもかなりあるので、運ぶのに苦労しましたよ」
早速、鞄の中から大量のうさぎ肉などを取り出し、次々にテーブルの上に並べる。
「これはまた、ほんとに大量ですね~! トールさん、すごいですよ!」
昨日と同様、引き取りと換金が済んだ後、優雅に紅茶を飲みながら雑談に興じる俺とエメルダさん。
「あれ? トールさんの腰に下げてる短剣、珍しい形をしてますね。いつもは持ってなかったと思うんですけど、どうされたのですか?」
「ああ、これは昨日武器屋で買いました。珍しい形の武器で気に入ったもので……それにやっぱり強い武器がないと戦いは厳しいですからね。収入が増えたおかげでやっと鉄の短剣からは卒業出来ましたよ。はは…」
俺はここに来る途中、短剣の入手を聞かれると思い、事前に言い訳を考えていたのだった。
まさか馬鹿正直に、ホーンラビットからドロップしました、とか言う訳にはいけないからね。
「へぇ~武器屋にもいろいろな武器があるんですね」
感心して観ているエメルダさん。
もしエメルダさんが鑑定持ちだったとしたら、この武器の特殊性に気が付いたかもしれないけど、鑑定スキルはかなりレアなスキルだし、神官など特殊な地位にいる人が稀に持っているくらいなのできっと大丈夫だろう。
今日もエメルダさんの胸の谷間と紅茶の香りを堪能しながら雑談を終えた俺は、幸せな気分でギルドを後にするのだった。
――本日の買取金額:約25万ギル
やはり極上のうさぎ肉の買取金額はすごかった。
もちろん、今日もリンへのお土産に、人気老舗の高級果物菓子を買って帰った。
(シス……)