79話 満月の夜 ③ 強敵現る
ゴーダさんからの緊急連絡を受けて、俺たちは烽火台のところに転移し戻って来た。
「と、トール君、来てくれたか! あ、あれを見てくれ!」
俺は丘の上から外壁の向こうを見る。
「――なっ!!」
西側の草原が、魔物の群れで、真っ黒に染まっていた。凄い数だ。
そしてその魔物たちはすべて同じ種類の魔物のようだ。黒い体に2対の目。その目は爛々と真っ赤に輝いている。
―――鑑定―――
ダークラビット Lv100+30
・ホーンラビットの上位種
・全般的に能力が高い
・鋭い角と闇の力をまとっている。
・弱点:やや光系統
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更に、その無数の群れの中央、やや後方辺りに、ひと際異彩を放つ1匹の存在があった。凄まじい力を感じる。
外壁を守っている騎士団や冒険者たちが皆、一様に硬直し、怯え震えているのが見える。
ここからでもビリビリとした、圧倒的なオーラが伝わって来る。
―――鑑定―――
『ラーフィン』 固有種
Lv450
種族:ラビットロード
・ラビット種の高位種
・ラビット(うさぎ)を統率し群れに力を与える
・強力な鋭い角と闇の力をまとっている。
・弱点:無し
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ネームドモンスター! レベル450!
ついに現れたか! いつか固有種と遭遇するときが来るとは思っていたが、まさかここで対峙することになるとは思わなかった。
――ネームドモンスター『ラーフィン』
漆黒の体に金色の目が輝いている。体は他のダークラビットより少し大きいくらいだが、比較にならないくらいの圧倒的強者のオーラを放っている。
しかも統率されたダークラビットは、本来のレベル100から更に上がって、レベル130にまで引き上げられている。それが無数にいる。かなり厳しい状況だ。
またもや、うさぎの魔物が俺の前に立ちふさがるというのか。
俺は考える。思考速度が高まってくるのを感じる。
ラーフィンのレベルは450。
確か、俺の実質的なレベルは400くらいだったか。奴とやり合うには少し足りないか……。いや待てよ、先ほど4体の高レベルの魔物を倒したはずだ。少しはレベルが上がっているかもしれない。俺は瞬時に自分のステータスのレベルを確認する。
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トール Lv251
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更に思考が加速する。
レベル251か。今朝確認したときの基本レベルは220だったので、あれから30レベルほど上がっている。そうすると今の俺の実質的なレベルは430くらいか。少し足りないが、皆で転移して一気に行けば倒せるか?
いや、すでにダークラビットの群れが外壁に迫っている。外壁をすぐにでも守らないと一気に領都内になだれ込んできて、領民もろとも全滅してしまう。
外壁周辺は、エミリーたちに守ってもらって、俺とモフで飛び込んで一騎打ちするか!!
そういえば、先ほど4体の高レベル魔物を倒したときの魔石があったはず。
俺は急いでその4つの魔石を取り出して鑑定する。
~~~鑑定(ソケット効果)~~~
・フェンリルコマンダーの魔石(全能力値+5)
・オークジェネラルの魔石(体力+16、筋力+12)
・サキュバスクイーンの魔石(精神+30、魅了Lv3)
・オーガジェネラルの魔石(体力+12、筋力+20)
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さすが高レベルの魔物の魔石だけあって、性能がいい。現在18個の守護者の魔石(全能力値+3)を女神のユニーク装備に入れているが、この4つの魔石の方がいいだろう。
俺はすばやく入れ替えて、ステータスを表示する。
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トール 18歳
Lv 251
体力:251+186
魔力:251+238
筋力:251+185
敏捷:251+141
精神:251+243
幸運:251+168
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なるほど、敏捷がやや弱い気がするが、体力と筋力などは敵レベルに近くなった。やや厳しいが、なんとか互角に持っていけそうだ。
やはり魔力が高いので、魔法攻撃で戦うのがいいのかもしれない。今のところ、効率がいい魔法は風魔法だ。フォレスタバタフルのおかげで、風魔法に特に有効なユニークアクセサリー「女神の森林蝶のリボン」を装備出来ている。
俺は更に風魔法のレベルをSPを使って3から5に一気に上げる。すると装備品の風魔法のブーストのおかげでレベルが8に上がる。
よし! これで行こう。
俺は烽火台の天辺にいるイナリに声をかける。烽火台の上の焚火が小さくなっている。
「おーい! イナリー! 大丈夫かー!?」
「と、トール、火が足りないのじゃ……」
「狐の嬢ちゃん、すまない! もうフレイムドックの魔石が無くなってしまったのだ……」
どうやら火を燃え上がらせるための魔石が足りないらしい。俺はアイテムボックスからフレイムドッグの魔石を取り出し麻袋に詰めて上に投げる。ついでに火炎孔雀の魔石も入れておいた。
「おおー、魔石が沢山! それに火炎孔雀の魔石もあるぞ!」
「よし! どんどん焚火を焚くぞ!」
「トール、助かったのじゃー! これで魔力も回復するのじゃー!」
よし、イナリが回復しそうだ。イナリはそのままそこで固定砲台役をしてもらおう。
そろそろ外壁も危なそうだ。
俺は皆と一緒に、一旦外壁の上に転移する。
「皆、外壁は任せたぞ! 俺とモフはボスを倒しに行ってくる!」
「分かったわ!! トール、気を付けて!」
「了解した! ここは絶対に敵を通さないぞ!」
「お兄ちゃん、ここは任せて! 気を付けてね!」
「にゃにゃ! 頑張るにゃー!」
エミリーとミレアは風魔法で、外壁近くの魔物を一掃する。
ミーアとアリシアさんは外壁を駆けまわり、乗り越えようとしている敵を次々に剣撃で敵を霧に変える。
シャンテも巨大な網の糸を操り、外壁を乗り越えようとする敵を一網打尽にして、追い落とす。
リンも、高レベルの土魔法を取得したのか、巨大な土の壁を地面から現出させて群れを阻む。
良し、これでここは大丈夫だろう。
「さあ! 行くか! モフ!」
「にゃー!!」
俺は少し作戦を考え、モフに事前に、ある指示をする。
両手にそれぞれ持っていた2本の剣を、ユニーク杖と扇に変更し、魔力を高める。
そして――俺はモフの上に乗り、『ラーフィン』の真上の高い位置に転移した。
モフは自分自身に空間操作をかけ、そのまま宙に浮く。
俺はモフにまたがって高い位置から、ラーフィンとその取り巻きに目がけて一気に風魔法を発射する。
――風魔法Lv6 ウインドハリケーン!!
ビュウウウウウウウウウウ!!
いきなり頭上に現れた俺たちに気づき、ラーフィンは少し驚いたような表情をした。
「「ギャアアアアアアアアアア!!」」
ラーフィンの周りにいた多くのダークラビットが一斉に消滅する。
しかし、ラーフィンの体からは闇のオーラが立ち込めていて、ウインドハリケーンははじき返された。
ウインドハリケーンは広範囲・高威力の風魔法だが、やはり対象範囲が広いだけあって、強い個体に対してはまだまだ力不足のようだ。
ラーフィンはいきなりの俺たちの急襲に、怒りの咆哮を上げる
「キュィイイイイイイイイイイイ!!」
俺はラーフィンの頭上、高い位置から今度は風魔法のもう一つの技を仕掛けようとした。
しかし、ラーフィンは地を蹴って、俺たちの高い位置まで飛び上がって来た。物凄いジャンプ力だ。敵の鋭い角が迫って来る。
キィイイイイイイーン!
俺は慌てて剣に持ち替え、ラーフィンの角を横なぎに弾き、なんとかそらす。腕に強い痺れが走る。物凄いジャンプ攻撃だ。
俺たちは、バランスが崩れて一緒に地面に落下する。
「キュィイイイイイイイイイイイ!!」
着地したラーフィンが咆哮を上げる。その咆哮は、遠吠えの雰囲気に変わる。
次から次へと俺たちのもとへ、四方八方から無数のダークラビットが押し寄せて来る。
俺はレベル7の風魔法を唱える。
――風魔法Lv7 シルフリング!!
12体の風の妖精シルフたちが現れ、俺たちを中心に守るように回り始める。そのシルフたちは、一斉に強力な風を、押し寄せるダークラビットの群れに放つ。
「ギャアアアアアアアア!!」
迫りくるダークラビットの群れは、シルフたちによって、次から次へと霧となって消えて行く。
そしてシルフたちは、役目を終え、消えて行った。
ラーフィンとの一騎打ちの様相を帯びて来た。
怒り狂うラーフィン。鋭い角を振りかざし突進して来る。かなり速い!
キィイイイイイイーン!
その鋭い角を剣でそらしながら、ギリギリ避ける。突進の風圧と闇のオーラが凄まじい。
モフがライトボールを連発し牽制してくれてるので、何とか凌げている。
ラーフィンから発する闇の力が更に強くなる。急にラーフィンの動きが速くなった気がした。
気づいたら、目の前にラーフィンの角が迫っていた。俺は二刀の剣を交差させて防御する。
ガキイイイイイイーン!!
俺は両腕に強い衝撃を感じ、地面に投げ出されていた。
なんとか立ち上がった瞬間に、また突進が来た。
「ウインドシールド!!」
風の盾を張りながら、斜め後方に避ける。
パリイイイイーン!
砕け散るウインドシールド。膝をつく俺。
ラーフィンは更に突進して来る。
――間に合わない! 瞬時に俺は悟った。