76話 満月の日
朝が来た。
ついに今夜、満月を迎える。いよいよこの日がやってきたのだ。やるべきことはすべてやり切った。
後は今夜をなんとしても乗り切るだけだ。俺は意思を固める。
昨日はB級ダンジョンの迷宮主のイレギュラーに会い、皆の力で強敵「フォレスタバタフル」を倒すことが出来た。そして、皆、凄まじい経験値を得て、ボーナスSPもかなり貰えたようだ。
しかも、モフがまた進化したのだ。
俺は昨日のドロップアイテムを再度確認する。
~~~鑑定~~~
森林蝶の羽:特大(素材)
・あらゆる物の素材となる。
・錬金に使用することも可能
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森林蝶のブローチ(レアアクセサリー:胸)
・装備時、魔力+20、精神+15、幸運+15
・風の威力+10%
・状態異常耐性(中)
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森林蝶のリボン(ユニークアクセサリー:頭)
・装備時、魔力+50、精神+40、幸運+40
・風魔法Lv+2
・風の威力+20%
・状態異常耐性(大)
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女神の森林蝶のリボン(ユニークアクセサリー:頭)
(同上)
☆魔力+20、精神+15、幸運+15
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素晴らしい性能だ。さすがレベル300のイレギュラー迷宮主のドロップアイテムだ。
俺はこのユニークリボンを、昨日ミレアにプレゼントした。
以前、ミレアの10歳の誕生日に「風のリボン」をプレゼントしたが、今やそのリボンは他の皆も付けている。やっぱりミレアには、皆とは違う特別なプレゼントをしたいと思っていたのだ。
そして、運よく「風のリボン」とは比較にならないくらい希少なユニークリボン――「森林蝶のリボン」を手に入れることが出来たのだ。緑を基調としたカラフルに輝くとても美しいリボンだ。
俺はこのリボンを改めてミレアにプレゼントしたら、ミレアは飛び上がって喜んだのだった。喜んでくれて俺も嬉しい。
レアアクセサリーのブローチは、魔力と風の威力も上がるので、これはエミリーに贈った。こちらもレアアイテムだが凄い性能のブローチだ。エミリーも大変喜んでくれた。
女神のユニークアイテム「女神の森林蝶のリボン」も同時に落とした。確かこちらも迷宮主に対しては100%ドロップするので、俺用のユニークリボンまで手に入った。嬉しことだ。女性用の奇麗な蝶型のリボンなので、俺が頭に飾るのはちょっと恥ずかしいが、効果は物凄いので、もちろん装備している。
そして、ソケットが1つ付いているので、「フォレスタバタフルの魔石」を入れている。この魔石も破格の追加効果を持っている。
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フォレスタバタフルの魔石(魔力+20、精神+15、幸運+15)
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今度は自分のステータスを確認する。
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トール 18歳
Lv 220
体力:220+165
魔力:220+245
筋力:220+160
敏捷:220+148
精神:220+220
幸運:220+175
SP:213
スキル:剣術Lv4、鑑定Lv3、夜目Lv3、感知Lv4、水魔法Lv4、風魔法Lv2、火魔法Lv2、土魔法Lv3、闇魔法Lv2、回復魔法Lv2、空間魔法Lv5、蹴術Lv2、操糸術Lv3、硬化Lv3、飛針術Lv3、魅了Lv1、レクイエム
≪新規習得スキルがあります≫
ユニークスキル:女神のドロップLv8
特殊スキル:迷宮主と戦う場合に全能力値+10%
【装備品】
武器(右手):M《2》聖剣アウローラ
武器(左手):M《2》フレイムソード
防具(頭) :M《2》闇風のフード
防具(全身):M《2》フェンリルのマント
防具(肩) :M《1》緑光のSガード
防具(体) :M《2》アルマテトラ
防具(服) :シャンテの冒険服
防具(腰) :シャンテの腰マント
防具(足) :M《1》バトルブーツ
アク(頭) :M《1》森林蝶のリボン
アク(耳) :M《1》アニムスイナレス
アク(首) :M《1》キャッツアイ
アク(胸) :兎王の勲章
アク(腕) :M《1》銀熊の腕輪
アク(腕) :M《1》土の腕輪
アク(足) :風の足輪
アク(指) :M《1》黒炎の指輪
アク(指) :M《1》コラプトゲンマ
アク(指) :M《1》剛力の指輪
アク(指) :M《1》スマラカタル
(M:女神のユニーク装備。その後ろの数字は空間ソケット数を表す)
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レベルも一気に220まで上がり、装備品の効果もあり、実質的なレベルは400くらいはあるのだろうか。新しいユニークリボンのおかげで、魔力がかなり高まっているな。素晴らしいことだ。
女神のユニーク装備のソケット数は合計で21あり、それぞれ効果のあるものを入れている。
フォレスタバタフルの魔石1個、キングラビットの魔石1個、キングキャットの魔石1個、守護者の魔石18個を現在入れている。
そして、なんとSPが213も貯まっている。
俺は計算する。確か120レベルの時点で23あったはず。そしてちょうどレベルが100上がったので、本来なら123のはずだが90ポイント多い。これがボーナスSPということだろう。今までは敵とのレベル差分のボーナスSPが与えられた。今回のレベル差は180なのでそのままの数が与えられてはいないことになる。そのちょうど半分だ。なんらかの制限がかかったのだろうか。
しかしそれでも90ポイント分のSPは破格だ。今回もかなり幸運だったと言えると思う。
一応、女神のドロップスキルを上げようとしたが、レベル制限でまだ上げられなかった。これでもまだレベルが足りないらしい。
おそらくレベル9はかなり進化するものと思われる。その分、かなりのSPを必要とするような気もするが、まあ今のままでも十分素晴らしい効果だ。気長に待つこととしよう。
SPはスキルレベルが上がるにつれ、加速度的に多くのSPを要求される。調子に乗ってどんどん使っていけばすぐに無くなりかねないので、慎重に行こうと思う。
俺はこの大量のSPをとりあえず風魔法の習得に使ってみることにした。「女神の森林蝶のリボン」が手に入ったのだ。これは風魔法を上げるしかない。
とりあえずSPを6消費して、正式に風魔法を習得しレベルを3まで上げてみる。そうすると、リボンとスマラカタル(ユニーク指輪:全属性魔法Lv+1)の効果で風魔法のレベルが6になった。これは凄いことだ!
フォレスタバタフルが迷宮主として現れて、結果的に本当に幸運だったと言える。
ふと俺は思う。天からの声では、この巨大な蝶のことをフォレスタの主と言っていた。このフォレスタバタフルは、俺たちの為に、自ら試練として現れたのではないかと――。もしかするとフォレスタバタフルは、ここフォレスタの土地を守る守り神のような存在だったのかもしれない。
俺はその主から落とされたユニークリボンを見つめる。このリボンに託されたフォレスタの主の想いが伝わってくる気がした。俺は強敵だったフォレスタの守り神――フォレスタバタフルに対して、不思議と敬意を感じずにはいられなかった。
さて、また新規スキルがいくつか取得できたようだが、後で時間がある時に考えることにするか。
モフのレベルも、俺と同じレベル220まで上がっている。いつも俺と一緒に戦ってきたのでついに同じレベルになった。今後も一緒に戦い続けるなら俺とモフは同じレベルで成長していくことだろう。
そしてモフは今回の戦いで進化して「ライトモフミィ」という種族になった。能力の割合は以前より魔力が高めになり、光魔法のレベルが一気に上がってレベル7になっていた。どういう光魔法を使うか気になるところだが、すべてモフに任せている。今後の活躍が楽しみだ。
俺は昨晩、男爵からスマーフォで連絡があり、朝に領主邸に来て欲しい、との連絡を受けていた。
急いで朝食を済ませ、リンと一緒に領主邸へ飛んだ。
領主邸の会議室に案内されて入る。
結構な人数が集まっていた。
男爵と騎士団長、アリシアさんを筆頭に俺たちのパーティーメンバー。他に数人の騎士たちと冒険者ギルドのギードさんと幾人かの冒険者たち。ガイたちのパーティーもいる。
そして、男爵の傍らになぜかメイドのメイラさんがいた。
「トール君、いよいよ今夜が山場だ。今、領都の防衛の最終的な手はずを確認しているところだ。防衛戦についてはメイラが取り仕切っている。メイラに話をしてもらう」
「トールさん、よろしくお願いします」
おお、やっぱりメイラさんが防衛戦の軍師だったのか。なんとなくそう感じていたのだが、当たった。しかし、メイドで軍師なんてすごいな。
メイラさんが作戦概要を話始める。
「トールさんのパーティーには、敵の中で突出して強い魔物を討伐してもらいます。どこに現れるか分からないので、西の丘の烽火台に居るゴーダさんの所で待機してもらいます。ゴーダさんが街全体を見て、危険そうな魔物を監視しています。ゴーダさんの指示で、トールさんのメンバーは『転移』を使用して強敵を撃破してもらうという流れです。ゴーダさんの指示があるまでは、トールさん達は基本的に西側の防衛に当たってもらう感じですね」
なるほど、確かゴーダさんは「遠望」スキルを持っていたな。あの丘の上からなら、街の全体が事細かにすべて見えるはずだ。
「ゴーダさんはスマーフォを持っているので、それでお互い連絡を取り合ってください」
そしてメイラさんは会議室の皆に、防衛の配置などの具体的な話をする。
まず、籠城戦を行う上での本部は、冒険者ギルド内に設置することとなった。
領主邸よりも、全体の指揮を取るのに都合がいいとのことだった。ギルド前は広い噴水広場があり、人の行き来も活発で集まりやすい場所だ。
それにギルドの建物のすぐ隣に俺の建てたクランハウスもある。すでにここ十数日の間ずっと、冒険者たちや物資担当の商業ギルドの人たち、それに騎士団員たちさえも集まり、情報交換も活発に行われている。
防衛について、メイラさんの話を大まかに頭の中で整理する。
一番危険が予測される街の西側の外壁には、多めの騎士団や冒険者たちを配置。
西門、北門、東門、南門にもそれぞれリーダー的存在の人たちを配置し、スマーフォを持たせ本部と連絡できるようにする。
外壁には弓兵を配置。全体で1000人の弓兵がいる。弓兵と一緒に白兵戦に秀でる騎士団員や冒険者たちも混じって外壁を守る。
その他にも、火炎の瓶や爆破魔石、ジーナさんたち錬金術ギルドの人達が作った毒や幻覚ポーションなどを各城壁の所々に配置。
怪我人が出た場合のポーションなんかもたくさん用意してある。
あと、いろいろと話があったが、とりあえず俺たちは、他の騎士団員や冒険者たちで倒せないような強敵が現れたときに、飛んで行って倒すということだ。エースキラーの役割か。よし、頑張るぞ。
騎士団長のリドルフさんがいたので、俺は以前に渡そうと思っていた聖剣アウローラや他のユニーク装備のいくつかを渡した。リドルフさんは、幻のアイテムと言われるユニーク装備の数々を手に取り、感激していた。
こうして、俺たち8人とモフのパーティーはこの日の夕方頃に、西の丘の上の烽火台で待機した。
烽火台の周りにはゴーダさんを含め番人たちもいる。丘のすぐ眼下に西側の外壁と西門が見える。西門の周りや外壁の上には弓矢を持った冒険者たちや、剣や盾を持った騎士団たちが大勢配置についているのが見える。
皆、固唾を飲んで、遥か西の方角――マルカ森の辺りを見つめている。
――そして日が暮れた。満月の光が徐々に現れてくる。
「皆、魔物の大軍が見えるぞ! もの凄い数だ!」
ゴーダさんが言う。
俺にはまだはっきりとは見えないが、何か遠くの地平線に薄赤い光が朧気ながら見える。
更に時間が経つにつれ、その魔物の大軍の全貌が見えて来る。
「にゃにゃ!? にゃんと凄い数なのにゃ!」
「来たのじゃ、凄い数なのじゃ!」
「つ、ついに来たわね!」
「お、お兄ちゃん、これは……!」
皆にも見えて来たようだ。
「「「お、おおおお……!!」」」
眼下の西側外壁を守っている人たちからも、驚きの声が聞こえて来る。
マルカ森からこちらまでの街道を中心に、地を染めるように魔物がひしめき合いながら向かって来ている。
やがて、西側の草原一帯が魔物で埋め尽くされ、ゆっくりと押し寄せて来た。
反対側の東門や、北門、南門などの外壁の向こうを見ると、そこにも一斉に魔物の大軍が、ここ領都に向かって動き始めている。完全に囲まれている。
「おおーい!! 烽火を上げるぞー!!」
烽火台の上から番人たちの声が聞こえる。同時に真っ赤な烽火が上がる。
領都に居る大勢の人たちの声も聞こえて来る。領都中に驚きと不安の声が響き渡った。