7話 うさぎ狩り
朝が来た。
ベッドの上でステータスを確認する。
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トール 18歳
Lv 6
体力:6
魔力:6
筋力:6
敏捷:6
精神:6
幸運:6
SP:3
ユニークスキル:女神のドロップLv3
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「よし、レベルアップしてるな」
レベルがついに6になった。つい先日までずっと3で止まっていたレベルが。
俺は感無量でずっとステータスを見つめ続けた。
こうしてみるとステータスの各能力値は、レベルが1上がる毎にそれぞれ1ずつ上がっていくのが判る。
実は、この世界では、冒険者レベルが20になると、教会や冒険者ギルド等で「転職」が出来るのだ。
職業には、例えば、戦士、剣士、魔法使い、盗賊、狩人など、さまざまな種類がある。
転職後は、レベルアップするごとにその職業に見合った能力値の上昇となる。
例えば、戦士は筋力や体力が上がりやすくなる代わりに魔力が上がりづらくなる、と言った具合にそれぞれの職業ごとに、各能力値にバラツキが生じ個性が生まれてくる。また、習得できるスキルも職業に影響されやすいらしい。
しかし、転職は基本的には一度切りなので、決める際に悩むことが多い。
まあ、特殊な職業を除き、どの職業を選んでも各能力の平均値はおおむねレベルと同じくらいになるので、当たり前のことだが、レベルが高い方が総合的に強いのは変わらない。
そういった事情で、転職しないまま冒険者を続ける人も少なからずいる。
ともあれ、初級冒険者のほとんどが、レベル20を目標に頑張り、いずれ自分の望む職業に転職していくのだ。
……まあ、この辺りは俺が前世でやっていたゲームに似ている定番なシステムだな……。
それはさておき、昨日の興奮でまたもやあまり寝つけなかったが、気力は充実している。
今日も張り切って、ダンジョンに行こうか。
「さて、手持ちの水の宝玉の使用回数はあと2回か……」
追加の水の宝玉を手に入れる必要があるな。できれば2個ほど手に入れたいものだ。
ということで、本日は、まずは水の宝玉の入手を目的にスライムを狩り、水の宝珠を入手後、ホーンラビット狩りで更なるレベルアップを目指すことにしよう。
◇
朝からダンジョンにやってきて、早速スライム狩りを始める。
レベルが6になったおかげかいつもよりかなり動きがパワフルになっている気がする。1階層を走り回り、鬼のようにスライムを倒しまくる。
そして午前中だけで、運よく水の宝玉を2個入手できた。
「よし、いい感じだな」
残り2回となった宝玉は予備として鞄にしまい、午後からはこの新しい2つの宝玉を使ってホーンラビットを狩ろうと思う。
20匹を目標だ。
ダンジョンの中で、リンの作ってくれた昼食のお弁当を食べた後、早速2階層に向かう。
念のため1階層に逃げ込めるよう、なるべく深入りしない範囲でホーンラビットを狩る。
倒し方は前回と同様、ウォーターボールで瀕死に追い込み、すばやく短剣でとどめを刺す。
「ウォーターボール!」
バシューーーン!
タタタターーー
ザシュ!
コロコロン(魔石とうさぎ肉の落ちる音)
何度か繰り返し、かなり慣れてきた。
8匹ほど倒した時だった。
≪レベルが上がりました≫
「よし! やったぞ!」
このままの勢いでさらにホーンラビットを倒し続ける。
1個目の宝玉の使用が10回目になった時、宝玉は霧のように消えて行った。すぐさま2個目を取り出して狩りを続ける。
同時に2匹現れたこともあったが、落ち着いて1匹づつウォーターボールを当て、瀕死になってから、それぞれとどめを刺す。
こうして2個の水の宝玉をちょうど使い切った時に、本日2度目のレベルアップの声が聞こえた。
「よし、20匹討伐達成! 今日はこれでおしまい、撤収だー」
気分良くダンジョンを出て、ステータスを開いてみる。
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トール 18歳
Lv 8
体力:8
魔力:8
筋力:8
敏捷:8
精神:8
幸運:8
SP:5
ユニークスキル:女神のドロップLv3
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「うん、いい感じだな!」
今回も前回より2レベル分の上昇となる。
レベルが6の時のステータスより更に伸び、今ではレベル3の時よりも全体的に倍以上に増えている
明らかに自分の動きも良くなり強くなった実感がある。
――本日の収穫――――
・ホーンラビットの魔石 20個
・うさぎ肉 16個
☆極上のうさぎ肉 4個
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残念ながらユニークドロップは無かったが、レベルも2つ上がり、うさぎ肉の収穫も上々だ。
昨日購入した大きな背負い鞄の中はパンパンに膨らんでいる。
結果に満足し、鼻歌を歌いながらギルドへ向かった。
鼻歌を歌うなんていつぶりだろう?
◇
――冒険者ギルドにて
カラ~ン
毎度のごとくギルドの扉をくぐり、売却用の受付に来た。
早速、エメルダさんから声がかかる。
「あ、トールさん、こっちこっち!」
「ん? ……こんにちは、エメルダさん?」
受付の横にある個室の扉を指さしている。
なるほど、個室で対応しようというエメルダさんの計らいなのだろう。
「あー、あれの件ですね~ ありがとうございます~」
とかなんとか適当なことを言いながら、普段を装い二人で個室へ入る。
周りにいる冒険者たちの幾人かがなんとなく不審な様子で俺を見ていたが、気にしないでおこう……。
「で、今日はどうでしたか!?」
ちょっと食い気味に、前のめりで聞いてくるエメルダさんの目がキラキラしている。
なんか胸の谷間からチラリと見えてるんですけど……意外とこの人大きいな……。
そんな不埒なことを考えながらも、なんとか口元はキリリと引き締める。
「今日も大量ですよ~~」
テーブルに大きな鞄を置き、うさぎ肉を取り出しながら大量に置き並べていく。
「わぁ~すごい量ですね! それに極上のお肉が4つも!」
「はい、今日も頑張りましたあ~」
「お疲れ様でした。実は今、うさぎ肉の需要があって足りない状況なんです。商業ギルドや個人の商店からの納品依頼も増えているので大変助かりました」
「なるほど、そうなんですね。お役に立てたようで良かったです」
冒険者が手に入れたアイテムは、基本的にはどこの組織や個人に売ってもかまわないのだが、冒険者は冒険者ギルドに売ることがほとんどだ。
買取価格は多少低くなるが、価格がまちまちになりがちな他の組織より、安定しているし適正な価格で買い取ってくれることで安心感があるからだ。
また、ギルドに納品すると冒険者の貢献度が上がりランクアップ査定に有利になることも理由のひとつである。
ちなみに、俺の冒険者ランクは最低のFランクだ。
しばらく向かい合ってソファに座り、エメルダさんの入れてくれた紅茶を飲みながら雑談をする。
「それで、トールさん。レベルのほうはどうですか? 順調ですか」
「はい、おかげさまで。実は今日でレベルが8に上がりました」
「まあ、すばらしいです! おめでとうございます。順調ですね~」
特に何もないが気楽で心地よい雑談。
テーブルがソファの高さに対して低めなため、紅茶を飲むたびにエメルダさんの胸の谷間がチラチラ見えるのを、気づかぬふりをしながら十分に堪能し、紅茶の香りを楽しむ至福のひと時を過ごしたのであった……。
本日の買取金額:約13万ギル
うさぎ肉は高く売れる。特に極上のうさぎ肉は、希少な高級食材として富裕層に人気だ。それが今日の買取金額に反映されているようだ。
もちろん、今日もリンへのお土産を買って帰る。今日は、ギルド直営店の高級弁当だ。
(やはり俺はシスコンなのか……)