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68話 空間魔法


 朝が来た。


 昨日は一気に12階層まで行ったので、疲れを溜めないためにも今日はダンジョン攻略は休みの日とした。各自思い思いに過ごすことになる。


 朝食をリンと食べた後、リンは家庭菜園の満月花や、庭に植えた世界樹の種に水を与えたりしていた。そして何やら家庭菜園のスキルで、栽培魔法のようなものをかけていた。キラキラと光る小さい雫を振りかけていた。不思議な魔法だ。


 満月花の花びらが満開になっていたので、花びらをひとつリンから貰った。貴重な錬金素材なので今後何かの為に大事に使おうと思う。



 その後、急いでギルドに来た俺は、日課である「祝福のドロップ」掛けをする。集まった冒険者たち全員に行う。


 ガイたちがいたので、先日のシャンテに作ってもらった「冒険者の服」を3着プレゼントする。ガイたちに加わったもう一人のローブ姿の女性は、回復術師とのことだった。彼女にはモフから貰った「もふ猫のフード」をプレゼントした。

 モフは自分のドロップアイテムを魔力を使って生産できるらしい。ただし、ユニークアイテムの「もふ猫のポーチ」の生産はかなり時間がかかるらしいので、頻繁には作れないようだ。

 4人とも皆、すごく喜んでくれた。ガイたちにも頑張って下層階まで来て欲しいと思う。



 冒険者の皆がダンジョンに向かったのを見送った俺は、街の様子を見るために散歩する。


 とりあえずバッカスさんの所にでも行ってみるか。武器の素材がすでに届いて生産に入ってるはずだ。



 武具屋に着くと、周りに馬車が数台止まっていた。

 大勢の人々が、馬車と武具屋の裏手にある鍛冶場との間を行ったり来たりしている。どうやら武具素材を運び込んだり、出来た武具を回収したりと、かなり騒々しく立ち回っている。商業ギルドの輸送部隊の人たちだろう。


 俺は、バッカスさんの仕事部屋である鍛冶場に行ってみると、そこは修羅場になっていた。


「お前ら! もっと急いで作れ!」

「親方! 無理ですよ! 数が多すぎます!」

「10日以内に弓千本作れと、男爵家から指令が出てるんだ!」

「レアの皮素材も大量に来てるぞ……皮鎧も作るのか!?」

「俺、徹夜ですよ……、倒れそう……」


 おお、バッカスさんたち大変そうだな。


「バッカスさーん。頑張ってますかー」


「お! トールじゃねえか! もう限界だぞ!」


 俺は「銀熊の腕輪」をいくつか取り出し、バッカスさんたちに渡す。


「これを付けて仕事してくださいねー。体力がつきますよー。数が多くないので皆で使いまわししながら頑張ってくださいねー」


 気の毒だがまあこれで頑張ってくれ。これも街を守る為に必要なことだ。心の中で応援して、俺はその場を立ち去る。

 俺の後ろから、バッカスさんたちの幾分元気を取り戻したような声が聞こえて来た。



 そのまま郊外の方へ進み、街の外壁に沿ってぐるりと散歩する。

 所々で外壁を修理している建築職人さんたちがいる。


 ある場所に来ると、土嚢や強化土などが大量に運ばれて来ており、職人たちが多く集まっていた。

どうやら外壁の劣化が特に激しい場所みたいだ。


「一旦脆くなった上の瓦礫をすべて取り除かないとだめだ!」

「そうだな、その後に土台をしっかり固めるんだ!」

「土台を固めたら一気に積み上げるんだ!」


 職人たちが大声を上げながら、作業手順について話している。


 様子を見ていると、崩れかかった外壁の一部を一から作り直さないといけないようだ。

 魔物の大軍は今は、城壁から遠く離れているので、その隙に一気に作り上げないといけないように思える。

 

 俺は職人さんたちに声をかける。


「ちょっと俺が手伝いましょうか」


「え!? 兄ちゃん、何か出来るのか?」


「魔物が離れてる隙に一気に作り上げましょう。俺と俺の従魔のモフで、上の劣化した瓦礫を取り除きます。その後に急いで土台を作ってください」


「お、おう? そんなこと出来るのか?」


「まあ見ていてください。よし、モフ全力でいくぞ!」


 モフは承知とばかりに空間魔法の空間操作に力を入れる。

 俺も一緒に、上の瓦礫に向かって空間操作を行う。


 瓦礫の(かたまり)がゆっくりと宙に浮く。そして少し離れたところに落とす。


「「おおお!!」」


 瓦礫の塊はかなり重い。俺とモフはマナポーションを飲みながら、それを何度も繰り返す。

 そしてほぼすべての劣化瓦礫が取り除かれた。


「兄ちゃんすげーな! よし! みんな! 今のうちに土台を固めるんだ!」


 職人たちが一斉に作業を開始する。


 土台が出来上がった後に、土嚢と強化土を合わせて下からどんどん積み上げて外壁を作っていく。


 俺とモフも引き続き空間操作で、重い土嚢と強化土を支えてサポートする。



 こうしてほぼ外壁が出来上がった、その時だった――。

 

 俺は、モフのスキルに変化を感じた。俺とモフは、お互いのステータスを感覚で共有できるのだ。


――――――――

スキル:空間魔法Lv4 → Lv5

――――――――


「おお!!」


 ついにモフの空間魔法のレベルが5に上がった!


 俺は、モフの空間魔法の情報を感覚で探る。


――――――――


空間魔法Lv5 転移〈中〉

・空間転移が出来る

・範囲は魔力量による

・一度行ったことのある場所または視界にある場所に限り転移出来る

・消費魔力(中)

・10人まで一緒に転移できる(近くにいる人に限る)


――――――――


「おおお!! これは凄そうだ!」


 今までのLv4の段階では「転移〈小〉」で、たったの3メートルまでしか転移出来なかったのだ。


 今回は、範囲は魔力量による、ということだが、遠くまで転移出来る可能性がある。しかも10人まで一緒に転移できるということだ。素晴らしい。


 俺は早速、モフに黄金林檎を与えて、魔力量を一気に回復させる。

 手始めに、モフに、遠くに見える烽火台のある丘に、俺と一緒に転移するよう指示してみる。距離は領都の端から端までの半分くらいの距離だろうか。


 俺とモフの周りに光る空間ができる。

 そして、気づいたら周りの景色が変わっていた。丘の上だ! 街全体が見渡せる、いい眺めだ。


 モフの魔力量の変化を感覚で探ると、最大魔力量の概ね5%くらい減っていた。


「おお! これは使えるな!」


 この程度の魔力消費で、ここまで転移出来たのだ。かなり実用的だ。それに俺とモフで交代で転移すればお互いの魔力消費も少なくて済むだろう。


「よし! 俺も空間魔法のレベルを上げるとするか!」


 俺はステータスを開き、空間魔法のレベルを3から5に一気に上げた。

 

――――――――

空間魔法Lv3 →Lv4 (消費SP 8)

空間魔法Lv4 →Lv5 (消費SP12)

SP48 →28

――――――――

 

 さすがに高位の魔法なだけあってSPの消費が多かったが、それに見合った効果がある。


 これでいざという時に領都内を瞬時に駆け回ることが出来るな。しかもパーティー全員でだ。遊撃部隊として一番欲しかった転移能力だ。

 なんだかワクワクしてきた。


「よし! ちょっと俺も使ってみようかな!」


 俺は調子に乗って、モフと一緒に領都内のいろんな所へ転移する。


 領主邸の前に転移してみる。

 すると、詰所の方で、騎士団たちが手に剣や盾、鎧などを持ち興奮して騒いでいた。物資を運ぶ馬車が止まっている。どうやらダンジョンから持ち帰った大量のレアな武具を手にして、喜んでいるようだった。


 次に避難所に転移してみる。

 大勢の避難民で溢れていたが、建設ギルドや避難民の有志の人たちで、今も仮設の住宅が建てられている。俺たちが設置したクランハウスがいくつか立ち並んでいる。皆は交代で利用しているようだった。

 そして、商業ギルドの馬車がたくさん止まっており、食料や生活物資などを、避難民に配っているのが見える。炊き出しの煙も上がっている。

 なんとか、上手くいっているようだな。


 次は「もふもふく」の前に転移してみる。

 店の扉をそっと開けて中を見ると、商品売り場のスペースの一部が作業場に改修されていた。そこでは大勢の女性たちが衣類や毛布などを作っていた。シャンテもいつもの作業場で頑張っていることだろう。



 次にちょっと試したいことがあったので、自宅の庭に飛ぶ。


「えっ! お、お兄ちゃん! いつの間にそこにいたの!?」


 庭で土いじりをしていたリンがびっくりしている。


「おう、ついに『転移』を覚えたんだ。リンも一緒に転移しよう!」

「えっ! お兄ちゃん! な、なにを――」


 俺はそう言って、B級ダンジョンの12階層の入り口付近を思い浮かべて転移を発動させる。


「えっ! ここは!?」


 リンはびっくりしている。俺たちはダンジョンの12階層に居た。


 なるほど、ダンジョンの中でも転移出来るんだな。これは便利だ。


 そして更に実験をする。リンを伴い14階層をイメージして転移を発動させる。


≪14階層に到達していない人がいるので転移できません≫


 天から声が聞こえて来た。なるほど、リンはまだ14階層に行ったことが無い。ダンジョンでは、一緒に転移する仲間がその階層に到達してなければ、どうやら転移で連れていくことは出来ないようだ。まあ、それはそうだろうな。 


 更に実験するためにリンに聞いてみる。


「リンは、西の丘の頂上にある烽火台には行ったことあるか?」

「え? に、西の丘には行ったことあるけど、烽火台の所までは行ったことないよ――」

「転移!!」


 俺は烽火台の天辺の物見台に転移する。ここは領都内で一番高い場所だ。


「えっ!? きゃっ! た、高い!」

「おおー。いい眺めだなー、リン」

「お兄ちゃん! いきなりこんなところに……わぁ~いい眺め!」


 リンは突然の転移場所にびっくりしたようだが、眺めのいい風景に興味が移ったようだ。


 なるほど、ダンジョン以外では、自分が行ったところであれば、行ったことのない人でも転移で連れていくことが出来るようだ。実験は終わった。


 リンと俺は、領都内で一番眺めのいい烽火台の天辺から、最高の風景を楽しむ。


「お兄ちゃん、魔物がたくさんいるね。凄い数……」


 街の外壁から離れたところで魔物が領都を取り囲んでいる。外壁から矢や魔法を放っても微妙に届かない位置だ。街道付近にも多く集まっているので、完全に領都は封鎖されているようだ。やはり、どこかに魔物の大軍を統率している存在がいそうだな。高位魔族の存在が濃厚になってきたように感じる。


 丘のすぐ下には街の西門が見える。西門からずっと西の方角――マルカの森まで街道が続いている。

 さらにその先にはゴダの大森林があるが、遠く霞んでよく見えない。そこでは、今この時にでも魔物が集結しつつあるのだろう。やや赤みを帯びた光が立ち昇っている気がした。


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