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65話 魔法具屋と服屋で


 早朝、冒険者ギルドで「祝福のドロップ」を冒険者たちにかけ、ギルド前にクランハウスを建てた。


 その後、俺は魔法具屋のジーナさんのところを訪れた。


 以前頼んでいた試作品の確認と、別件でもう一つ頼みたいことがあったからだ。


「こんにちは~、ジーナさん。例の試作品を見せてもらいに来ましたよ~」


「おや、早速来てくれたのかい。メアリや、トールさんがおいでだよ」


「はーい、ただいま参ります」


 メアリさんが、手提げの籠を持ちカウンター奥から出て来る。


 籠の中には、何やら毒々しい色の(ビン)禍々(まがまが)しい感じのする黄色い瓶の2種類が入っていた。


「トールさん、こちらが『毒薬ポーション』、そしてこちらの黄色い瓶が『幻惑ポーション』になります」


 おおう、なんか不気味なポーションだな……。


「使い方は簡単です。魔物に投げつければいいだけですね。両方とも効果範囲がそれなりにありますので、周囲の魔物も巻き込みます。毒薬ポーションの方は、猛毒にかかり普通の魔物だといちころですね。幻惑ポーションの方は、幻惑状態になり魔物同士が同士討ちする可能性が高いですね」


「お、おう……」


 メアリさん、可愛い顔して随分物騒な物を作るな……。それはそうと、これって使った本人も巻き込まれて危ないような気もするな。

 外壁の上から投げつければ問題ないような気もするが、風向きとかで毒とかが戻ってきたらやばそうだ。それに間違って割ってしまったら目も当てられない。


「あ、トールさんの心配されてることは分かりますよ。そのことなら大丈夫です」


「……というと?」


「どちらのポーションも、魔物の体内にある魔石のみに反応するように作られてあります。なので、人間には無害なのですよ。しかも魔物が死んだ後に落とす魔石もすぐに浄化されて、普通に回収できるのです」


「おおお! それは素晴らしいですね!」


 さすが錬金術の才能を持つメアリさんだ。よく考えられている。


「ひぃっひっひっ、どうですかな、トールさんや。メアリはいい女だろう。(めと)る気はないかい?」


 なんかジーナさんが余計なことを言ってくるが、どうせ冗談だろう。俺たちは華麗に受け流す。メアリさんの顔がほんのりと赤くなった気もするが……。



「それでは、その2種類の攻撃ポーションを、材料が届き次第出来るだけたくさん作ってもらえますか?」


「はい。分かりました。ただし、あまり多くは作れないかもしれません。ですので、使う時は、普通の攻撃ではなかなか倒せない魔物などに使うのがいいかと思います」


 なるほど、確かにそうだな。弓矢や剣などがなかなか通じない硬い敵などもいるかもしれない。そういった敵に使うのがいいだろう。



 さて、もう一つ頼みたいことがあったな。ある意味こちらが主要な目的でもある。

 それはエミリーとイナリの杖の製作を頼むことだ。


 俺にはなぜか確信がある。必ず今回の魔物の襲撃には死霊術師が現れる。そうするとエミリーの結界魔法は必須だ。その結界魔法を支える膨大な魔力が必要になる。そのための魔力が上昇する効果のある杖が欲しいのだった。

 また、イナリも魔力が上がる杖を欲しがっているようだったので、一緒に製作を頼むことを考えていたのだ。



「実は魔法使い用の杖の製作を依頼したいんです。出来れば2本なんですが。素材はこちらで用意しました」


「魔法杖の製作なら私らの専門だよ。どれ、素材を見せてもらおうかね」


 俺はアイテムボックスから「世界樹の枝」の枝葉の一つを取り出してカウンターに置く。


「ん……これは……。何か凄い()を感じるねぇ。今まで見たことのない立派な枝だねぇ……」

「お、おばあ様……。この樹の枝は、なにか普通の枝とは違います……」


 世界樹の枝葉は、瑞々しく圧倒的な生命力に満ちて輝いている。


「はい。この枝は『世界樹の枝』です」


 二人の目が驚愕の表情で見開いた。


「せ、世界樹の枝!? ま、まさか、そんなことが……!」

「お、おばあ様! 確かに、この枝からは凄い神気が感じられます!!」 

 

「こりゃたまげたねぇ……私の生きている間にお目にかかれるとは、幸運なことだよ。……しかし、この素材はあまりにも格が高すぎる。私らの手に余る代物だよ。さて、どうするかねぇ……」


 ジーナさんは躊躇している。


「おばあ様……私、やってみたいわ! 確かに今の私の力では世界樹の枝を扱うことは難しいかもしれないけれど、こんな機会は滅多にないわ。私、挑戦してみたいの!」


「う~ん、そうさねぇ……メアリがそこまで言うのなら私も力を貸そうじゃないか。トールさんや、世界樹の枝に見合った希少な錬金素材は他にないかい?」


「希少な錬金素材ですか……」


 俺は考える。ふと、エルフの里の「月の水蛇」の棲みかでリンが入手した「満月花(まんげつばな)」を思い出す。確か鑑定で錬金用の激レア素材とか出てたな。


「あの、『満月花』という希少素材があるんですけど……どうなんでしょう?」


 再び二人の目が驚きの表情で見開いた。


「なっ! 満月花じゃと! 希少も希少、なかなかお目にかかれない素材だよ!」

「満月花……! 素敵だわ! これならいけるかもしれないわ!」



 二人の説明を聞くと、満月花は素材であると同時に、月の光が当たる場所で土や鉢に植えていれば、自然と育つらしい。そして、錬金素材としては、満月花の「花びら」を使うそうだ。花びらは取っても、しばらくすればまた生えてくるので何度も使用できるらしい。

 これなら、リンから満月花の花びらを借りても問題なさそうだ。

 満月花、かなり素晴らしい花だな。


 俺は、杖の作製依頼をする。期限は少し余裕をもって10日後までにと話をする。


「トールさんや、花びらは1つあれば十分だよ。そして、今の私らの力では杖は一つしか作れないよ。それでいいのならやってみることにするよ」


「分かりました1本で結構です。それでは、杖の性能としては魔力上昇を優先して、出来れば結界魔法のレベルが上がる付加効果が欲しいところです」


「トールさん、分かりました。満月花と結界魔法は相性がいいので、上手くいけば出来るかもしれません。私、全力で錬金します! でも期待し過ぎないで下さいね」


 

 こうして、エミリー用の杖を作ってもらえることとなった。

 イナリの杖はまた今度だな。まあ、これから次の満月までの間にB級ダンジョンを皆でクリアするつもりだ。

 現在のB級ダンジョンの到達階は14階層だ。まだ15階層から24階層までに未知の魔物がいる。その間で、ユニーク杖が出ることを期待することにしよう。





 その後、シャンテに会いに、「もふもふく」にやって来た。


「おーい、シャンテー。来たぞー」


 シャンテの作業場のカウンターから声を掛ける。


「あっ、トールさん、やっと来ましたねぇ~。この前の冒険者服3着出来てますよぉ~」 


 俺はガイたちに贈るために作ってもらった冒険者服を受け取る。


「トールさん、聞きましたよぉ~。冒険者さんたちにドロップの魔法をかけているらしいじゃないですかぁ~」


「おおー、もうシャンテの耳に入ってるのか。これから毎朝、冒険者ギルドに出張だなー」


 何故か、シャンテの目が怪しく輝いている。


「ん? どうした? シャンテ」


「実はですねぇ~。私も、ダンジョンに入って、新種の糸を探してみたいのですよぉ~」


「えっ……」


 

 聞くところによると、シャンテは以前、教会で洗礼を受けステータスを持っており、初期スキルで、「裁縫」「操糸術」「飛針術」などのスキルが与えられたとのことだった。

 そして、ダンジョンでレベルを20まで上げて、正式に「裁縫師」に転職したそうだ。その後は、裁縫師として生産活動に専念するようになり、レベルは20で止まっているとのことだった。


 しかし、シャンテが再び冒険者としてダンジョンに入りたいなんて、ちょっと意外だな。


 俺は考える。


 実は、当初俺は、エルフの里に行った8人でパーティーを組みレベリングをしようと思っていたのだ。

 8人パーティーだとやや1人当たりの経験値は下がるが、その分戦闘力が増し、一気にB級ダンジョンを制覇出来、逆に効率が良くなると思ったからだ。

 それに、8人皆でわいわいと攻略したほうが楽しいしな。


 とまあ、こんな計画を練っていたのだったが、残念ながら男爵の指示により、メイドのメイラさんがパーティーを抜けることになったのだった。なにやら、メイラさんには領主邸で別の仕事をしてもらう為らしい。


 ふと思う。もしかして、メイラさん、男爵の片腕として軍師的な役割を与えられたのかもしれないな。俺はこれからの籠城戦に対して全体の指揮を取る人物が必要ではないかと思っていた。メイラさんは気配りが上手で視野が広く、しかも戦闘にも造詣が深そうなので、うってつけの人材のように思われる。まあ、俺の勝手な思い込みかもしれないが。


 ともあれ、今のパーティーは7人だ。1人空いている。シャンテが入ってくれれば大助かりだ。


「操糸術」はシャンテのエンブレム刺繍のおかげで、俺も習得出来たが、俺には女神のドロップや空間魔法など、優先して上げたいスキルがある。どうしても、「操糸術」などにSPをつぎ込む余裕はなさそうだ。


 極端な話、シャンテならSPを「操糸術」一本に絞り込んで高レベルまで上げられるかもしれない。あるスキルに特化させたスペシャリストは貴重な存在になる。まあ、スキル振りは本人次第だが、恐らく彼女のことだ。その辺は上手くやるだろう。

 それにシャンテと一緒に冒険をするのも楽しそうだ。


 よし、決めた! シャンテをパーティーに入れよう!


「分かった、シャンテ。ぜひ俺のパーティーに入ってくれ! 俺がお前の(レベル上げの)面倒を見てやる!」


 俺はシャンテの肩を両手で掴みそう言った。


「えっ! わ、私の面倒を一生見てくれるなんてっ! それって、プロポーズ? ……もう~トールさんてばぁ~。えへへっ」


 シャンテは顔を赤くして、自分の指先をいじりながら、照れ顔で言う。


 いや、一生とまでは言ってないし、それにレベル上げのことを言ったつもりだったのだが……。


 またもや、この勘違いのやり取り。もうすっかりお馴染みになってしまったな……。 


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オナゴの勘違い程・・・・・・ (-人-)ナムナム Ω\(ˇーˇ )チーン チ━━( ꒪⌓꒪)━━ン・・・ (-人-)難儀
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