63話 作戦会議
女神のドロップスキルをレベル7に上げ、その詳細を確認した俺は、会議室に戻る。
俺は自分の席に戻り、立ったまま口を開く。
「男爵様、俺に考えがあります」
皆の視線が俺に集まる。
「トール君、聞かせてくれるかな」
男爵は期待の籠った目で俺を見つめる。
俺がこれから話すことは、ここに集まっている人のみならず、冒険者たちなどほぼ領都中の人に、自分のユニークスキルの大半の能力が知れ渡るかもしれない。しかし、躊躇してはいられない。ことは領都中の人の命に関わることだ。
「男爵様、ダンジョンを利用するのです。必要な資源はほとんどダンジョンにあります」
「ダンジョン……確かに。だがしかし……」
男爵や騎士団長、冒険者ギルドのギルドマスターであるギードさんたちは、俺がドロップアイテムを向上させるスキルを持つことを知っている。しかし、俺個人の力だけでは、到底無理があると思っているのだろう。確かにその通りで、今までの俺だったらそうだろう。
俺は会議に参加している皆に向かって言う。
「俺は魔物を倒したときに得られるドロップアイテムの確率を大幅に上げるスキルを持っています。そして、その能力を一時的に他の人にも与えることが出来ます」
「なっ! なんと!!」
皆から驚きの声が上がり、会議室内は騒然とする。男爵や騎士団長たちも驚いている様子だ。
俺は皆に、今回得た追加スキル「祝福のドロップ」の内容を説明する。そして実際のドロップ率などの具体的な話もする。
「おお! それは素晴らしい!」
「おいおい、トール。そんなすごい能力を持ってたのか! だが、これならいけるかもしれないな……」
「えっと、通常ドロップが2割くらいのところが、確実に1~2個も落とす……。そして、ほとんど落とすことの無いレアアイテムが4割の確率で落とすと!? そんな能力を、パーティー毎に与えられる……信じられない思いだが、素晴らしい」
俺はギードさんに言う。
「出来るだけ多くの冒険者たちに声をかけて、毎朝、ギルドに集まるよう手配していただけますか。4人までのパーティーを組んでもらい、俺がそれぞれのパーティすべてに『祝福のドロップ』をかけます。その後、全員で手分けしてダンジョンで狩りをしてもらい、ドロップ品を持ち帰ってもらいます」
「そいつはいい! 分かったトール、人集めは俺に任せろ。パーティーの振り分けなどは、エメルダやモカに管理してもらう」
こうして会議は進展し、更に具体的な取り組みについて話合いが行われる。
ダンジョンから持ち帰る物資は、一度冒険者ギルドに運ばれそこで管理することとなった。その後商業ギルドの人たちの手で必要なところに送られるよう手配が決まる。
効率を重視して、C級・B級それぞれのダンジョン前に、中継用の仮設の物資集積所を作ることにする。冒険者たちがダンジョン攻略に専念できるようにする為だ。そこに集められた物資は商業ギルドの輸送部隊により、冒険者ギルドへ送られる仕組みにした。
物資が集まる冒険者ギルドが手狭になりそうなので、ギルド前の広場にクランハウスを建ててそこも利用してもらうことにする。
物資調達の具体的内訳については、ギードさんと俺とで話し合い、速記スキルを持つ執事のクリフトさんに、内容を紙に書き記してもらった。
以下、まとめた内容である。
「食料」
・うさぎ肉、☆極上のうさぎ肉(C級2階層)
・ボア肉 (C級6階層)
・ウルフ肉(C級7階層)
・ベア肉 (C級8階層)
・オーク肉(B級2階層)
・なすび (B級4階層)
・いも (B級5階層)
・リンゴ (B級6階層)
・小麦、☆金色の小麦(B級13階層)
「建築素材」
・スライムゼリー等(C級1階層、B級1階層)
・土嚢、☆強化土 (B級7階層)
・丸太、☆魔力木材(B級14階層)
「武器・防具(素材含む)」
☆キャタピルの皮(C級5階層)
☆レッドボアの牙(C級6階層)
☆藍狼のマント (C級7階層)
☆銀熊の毛皮 (C級8階層)
・戦闘狂の牙、☆戦闘狂の長剣(C級9階層)
・黒のフード、☆黒の魔法杖(C級10階層)
・灰色の法衣、☆朽ちた錫杖(C級11階層)
・白い牙、☆白猫の爪(C級12階層)
☆オークの棍棒 (B級2階層)
・赤紫蠍の殻 (B級3階層)
☆トゲナスビーのつる草(B級4階層)
☆リンゴールの枝(B級6階層)
・強矢30本、☆風の矢20本(B級10階層)
・強盾、☆剛の鎧(B級11階層)
・黒剣、☆黒鋼剣(B級12階層)
「その他の武器」
・火炎の瓶、☆爆破魔石(B級9階層)
「錬金素材」
・蝶の羽、☆蝶の紫鱗粉(C級5階層)
☆赤紫蠍の毒袋(B級3階層)
☆イモーンの葉っぱ(B級5階層)
「裁縫素材」
☆猫の毛皮(C級4階層)
・キャタピルの糸(C級5階層)
・蜘蛛の糸、☆黄蜘蛛の糸(B級8階層)
(☆はレアアイテム)
ダンジョンからの物資調達は、冒険者のレベルや実力に応じてパーティーを組み、どこの階層に行くかを決める必要がある。
これは先ほどギードさんが言っていたように、エメルダさんやモカさんが管理することになる。
特に必要な物資が集中する階層においては、送り込むパーティー数を増やす必要もあるだろう。
また、丸太、魔力木材などの重い建築物資を担当するパーティーには、もふ猫のポーチや魔法袋などのアイテムボックスを貸し与えることにする。魔法袋は、商業ギルドや男爵家で所持しているものを提供してくれるそうだ。
そして、現在、避難民が領都に溢れ、住む場所が無く、食料などを求めて街を彷徨い混乱している。
状況を改善するため、郊外の広い一角に避難所をつくることが決まった。そこに出来るだけ早めに仮設住宅を作る予定だ。
建築ギルドのメンバーだけでは人数が足りないので、避難民の中でも建設作業が出来る男たちにも手伝ってもらうことにする。
避難所での炊き出しなどは、商業ギルドが主体となって、各飲食店や領都民の女性たちに声をかけ協力をしてもらう予定になった。
避難民の中で、病人やお年寄り、小さい子供を抱えた女性たちも大勢いる。
至急、俺たちで14階層のウッドゴーレムを狩り、クランハウスをいくつか手に入れ、本日中に彼らの為に避難所に設置する予定だ。
騎士団たちは、基本的に街の外壁や各城門などに張り付き、魔物が領都に入らないように防衛に徹してもらう。
また、バッカスさん率いる武器や防具職人たちも、加工が必要な武具については、武具素材が集まり次第、皆で武具の製作に取り掛かるとのことだ。
出来上がり次第、騎士団や冒険者ギルドに引き渡す予定だ。冒険者ギルドの方では冒険者たちはもちろんのこと、領民で戦えそうな男たちにも武具を与えるとのことになった。
錬金ギルドでは、ジーナさんを筆頭にギルド職人を集め、物資が入り次第ポーションなどの大量生産に入ることになる。
ちなみに、ジーナさんは、先日俺が頼んだ試作品が出来たと、こっそり俺に告げて来た。魔物と戦うための「幻覚剤」や「毒入りポーション」などで、強力な武器となるそうだ。後で、店まできて確認して欲しいとのことだ。ほほう、メアリさんなかなかやるな……。
高級服店「もふもふく」の支店長もこの会議に参加している。
もふもふくの方でも、衣類や毛布などの必需品の在庫を大量に提供してくれるとのことだった。そして、糸や毛皮などの裁縫素材が届き次第、裁縫ギルドのメンバーが総出で追加の品を作るとのことだった。また、領民や避難民の中で裁縫が出来る人を募り、協力を仰ぐとのこと。
ちなみに、支店長は、時間があれば一度来店してシャンテに会って欲しいと俺にこっそり告げて来た。先日シャンテに頼んだ「冒険者の服」が3着出来ているらしい。そうだな、明日あたりちょっとシャンテの顔でも見に行くとしようかな。
概ねこれからの大体の方針と対策が決まり、皆は早速動き始める。
今夜は新月だ。敵が総攻撃をかけて来ると思われる満月の夜までには、残り15日となった。
こうして領都の存亡をかけての戦いの準備が、目まぐるしく稼働していくのだった。