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62話 領都に戻る


 エルフの里に来てから5日が経った。


 今回の旅の主な目的は、ミレアに洗礼の儀式を受けさせステータスを得ることだった。

 そして、ある程度のレベルアップを終えたので、十分目的は果たせた。


 また、ミレアやエミリーは久しぶりの帰省を懐かしみ、他の皆もエルフの里でいろいろな体験が出来、今回の旅行は楽しいものとなった。 




 俺たちは今日の朝、領都に帰ることとなった。

 

 エルフの長老やエミリーの両親、他のエルフの人たちに見送られながら馬車に乗り、エルフの里を立つ。


 馬車を走らせながら、領都にいる男爵や冒険者ギルドの仲間たち、シャンテやバッカスさん、烽火台の番人たち、ポゴタさん夫妻、メアリさんなどの顔が次々に頭に浮かぶ。


 実は昨日の夜、エルフの長老のソロンさんとイナリが、領都の事をしきりに心配していた。何か胸騒ぎがすると――。


 俺たちは二人の予兆に従い、早めに領都に帰ることにしたのだった。


 なるべく早く領都に戻るため、馬を飛ばす。


 2頭の馬には、以前B級ダンジョンの5階層で手に入れた「黄金芋」をそれぞれ与えている。


――――――――――――

黄金芋(ユニーク食材)

・食べると、体力+15、筋力+15

・効果時間は6時間

・ちなみに非常に旨味がある

――――――――――――


 馬車を引く馬の体力と筋力が上がる。すごい馬力だ。


 更に、俺とモフはマナポーションを飲みながら、交代で空間魔法の空間操作スキルを使い、馬車をほんの少し浮かせる。

 馬車の速度はどんどん上がり、草原を凄い勢いで駆け抜けていく。


 やがてフォレスタ領の隣の領内に入り、更に疾走する。途中の村々の風景が次から次へと後方に流れていく。


「にゃ~、すごく速いにゃ~」

「行け行け~、もっと急ぐのじゃ~」

「わぁー、すごい! 速いね!」

「風が気持ちいいわね!」

「す、凄まじい速さだな!」



 こうして黄金芋の効果が切れる6時間後には、すでにフォレスタ領内に入っていた。


 引き続き走っていると、村が見えて来た。エルフの里に行くときにも通った村だ。


「にゃ? あれは何かにゃ~?」


 良く見ると村の烽火台(のろしだい)と思われる高い建物から、煙が上がっていた。


 更に近づくと村の門の辺りに男たちが集まっている。手に(なた)(くわ)などを持ち、なにやら騒いでいるようだ。村の門や柵が所々壊れているのが見える。



「ちょっと寄ってみるか」


 俺たちは村の門の前で馬車を止め、集まっている村人たちに声を掛ける。


「どうかされましたかー?」


 村の男たちは俺たちに気づき興奮したような声で言う。


「ま、魔物の大軍が現れたのじゃ!!」



 男たちの話によると、いろいろな種類の魔物が大挙して現れ、領都の方角に向かって行ったとのことだった。

 幸い村人たちは村に設置してある地下室に逃げ込んでいたため、命は助かったが、魔物の行進に巻き込まれ、村の家や畑は少なからず荒らされたという。

 また、領都方面への村々へ危険を伝えるため、烽火を上げたとのことだった。


「まずいな! 領都が心配だ!」


 俺たちは、村人たちに、食料などの生活必需品を渡し、領都へと先を急いだ。


 馬車を飛ばす。エミリーとミレアが風魔法を使い、馬車の行く先に向かい追い風を起こす。更に馬車の速度が上がる。


 途中で行き会う村々は、ほとんどが荒らされており、人は一人もいないようだった。烽火を見て領都の方へ避難したと思われる。

 

 俺たちは必死になって馬車を飛ばす。



 そして、遥か先に領都の姿が見えて来た。


「なっ! これは!」

「にゃにゃ! にゃんと!」

「トール! まずいわ!」



 領都が魔物の大軍に取り囲まれていた。


 領都の烽火はすでに上がっていた。一筋の煙が空にたなびいている。


 遥か先、外壁の上には、騎士団と思われる男たちが、剣を掲げ、等間隔にずらりと立ち並んでいた。


 前方やや右手に外壁の東門が見える。門はしっかりと閉ざされている。領都はまだ陥落していないようだ。


 俯瞰してみると、まだ魔物の大軍はまばらだった。


 俺たちは魔物の群れの隙間を突き、馬車を領都へ向け、猛烈に走らせる。


 馬車が、外壁の近くまで達した。


「モフ! 全力でいくぞ!」


 モフはすでに承知とのごとく、空間魔法の空間操作を馬車に向かって力を籠める。


 俺も、自分たちが乗っている馬車に空間操作を行う。


 馬車は速度を保ったまま、ゆっくりと宙に上がっていく。


 外壁の上に立つ騎士団員たちが宙に浮かぶ馬車に目を見開く中、俺たちは外壁を乗り越え領都内に入っていった。



 領都内に入ると、街は人で溢れかえっており、騒然としていた。


 状況を確認するため、俺たちは急いで人中(ひとなか)を馬車ですり抜け、領主邸に行く。


 皆で領主邸になだれ込むかのように入っていく。



「おお! トール君! ミレア! それに皆も! 無事で良かった!」


 男爵が興奮したように話しかけてきた。


「男爵様! これは一体何があったのでしょうか!?」


 副騎士団長のアリシアさんが男爵に問う。


「アリシア、すぐに説明する。皆で会議室に来てくれ」


 男爵は皆を会議室に招き入れる。


 

 会議室にはすでに十数人の人たちがいた。どうやら領都を治める重要な人物が集まっているようだった。

 見知った顔も結構いる。リドルフ騎士団長に、執事のクリフトさん、ギルドマスターのギードさん。建築ギルド兼武器職人のバッカスさんや烽火台の番人のゴーダさんもいる。そして、なぜかジーナばあさんもいる。


 男爵は、俺たちにも、広い円卓のテーブル席に座るよう勧め、皆で着席する。


 そして、会議室に居るメンバーをそれぞれ皆に簡単に紹介したのち、本題に入る。


「時間はあまり残されていない。問題は山積みだ」


 開口一番にそう言った男爵は、経緯と状況を話し始めた。



 男爵の話によると、2~3日前くらいから急に領内の僻地辺りから魔物が現れ、次第に増えていったらしい。西側にあるマルカ森、北側の山林、東側にある森など、3方向から領都に向かって魔物の行進が始まり、領民たちが追われるように、領都に逃げて来たとのことだった。

 その後、魔物は領都を取り囲むが、今のところ領都に対して積極的に襲って来ているわけではないらしい。ただし、領都を取り囲むように徘徊しているので、皆、領都から出られず、物資の補給も出来ずほぼ籠城状態になってしまっているとのことだった。


 また、王都へ援軍の烽火を上げようとした矢先に、逆に王都の方から援軍要請の烽火が南の街道の小山から上がったとのこと。つまり、南にある王都の方でもどうやら同じような状態になっているらしい。


 

「男爵様、物資が何もかも足りていません。魔物が街道を封鎖しているので外からの商隊も入ってこれず、逃げ帰ったようです」


 話始めたのは、商業ギルドの長を務めるトーマスさん。


「領都に逃げて来た領民があまりにも多すぎるのです。食料を始め、衣類や毛布、住む場所も確保できていない状態です」


 バッカスさんも大声で話す。


「仮設の家を今、建築ギルドの皆で建てているところだが、木材などの建築素材がまるで足りてない。森に行けば手に入るが魔物がうようよしてるんだ! どうしようもない。それに街の外壁で脆くなっているところも多い。早く補修しないと魔物の侵入を許すことになる」


 リドルフ騎士団長も言いづらそうに話す。


「騎士団の武器や防具が心もとないのです。今後魔物と戦う上において剣や鎧などの武具の充実は欠かせません。そして籠城戦に必須の弓や矢も足りていません……」


 ジーナさんも話す。


「ポーションを作る材料も入ってこないねぇ。これじゃ怪我人を治せないよ」


 先ほどの男爵の紹介で知ったが、ジーナさんは錬金ギルドを取り仕切っているらしい。


 冒険者ギルドのギードさんも話す。


「当然、冒険者たちも街を守るのに加勢するぜ。だが、相手に比べ圧倒的にこちらの人数が足りてねえ。多勢に無勢だ。なにかいい方法でもないものか……」


 今度は、烽火台の番人のゴーダさんが話す。


「マルカ村の番人から話を聞いた。彼らは今はこちらに避難している。マルカ森の更に西――ゴダの大森林に魔物が続々と集まって来ているらしい。敵が本格的にこちらに攻めてくるのは集結が終わってからかもしれない。恐らく本隊は西から来る。それまでになんとか敵を撃退する対策をとらねばならないと思う」


 イナリがぼそりと呟く。


「満月じゃ……。次の満月の日に敵は総攻撃をかけて来るのじゃ。今は敵も準備中なのじゃ」


 エミリーは男爵に向かって頷く。


 男爵もエミリーの目を見て頷く。男爵はイナリの予知能力に一目置いているようだ。

 

 男爵は額に皺を寄せ、目をつむって考え込んでいる。


 

 俺は考える。幸い2つのダンジョンは領都内にある。物資はすべてダンジョンから仕入れる以外に無い。

 俺は更に考える。今までのダンジョン攻略で手にしたドロップ品の数々を思い浮かべる――。


「少し席を外します。すぐに戻ってきます」


 俺は男爵に断って、一旦会議室を出る。


 そして、ステータス画面を開く。 


 現在の女神のドロップレベルは6。先日、月の水蛇を倒したときにレベル7が解放されたのだ。


 俺は女神のドロップのレベル部分を触れる。


≪SPを使用してスキルレベルを上げますか?≫


「はい」


≪Lv7に上げるにはSPが20必要です≫


「はい」


 そして表示が変化した。


…………………………………………


女神のドロップLv7


効果:魔物を倒したときのアイテムドロップ率および質が向上する。


 通 常 ドロップ 150%

 レ ア ドロップ  40%

 ユニークドロップ  15%



追加効果:従魔が倒した魔物に対しても上記ドロップ率が適用される。

追加効果:迷宮主、固有種を倒したときのレアおよびユニークドロップ率が100%になる。



追加効果:自分のパーティーメンバーに対しても上記ドロップ率が適用される(8人までのメンバーが対象)


追加スキル:祝福のドロップ

・自分以外の他のパーティーメンバーに、ドロップアイテム向上の効果を与えることが出来る。

・4人までのパーティーメンバーが対象。

・消費魔力(中)

・ただし、通常とレアドロップに限る。

・ドロップ率は上記ドロップ率が適用される。

・効果時間は12時間。


…………………………………………


 俺は新しく追加された、追加効果と追加スキルの2つを見た瞬間、すぐには理解出来なかった。


 胸を高鳴らせ、じっくりと鑑定結果を咀嚼して、意味を把握する。


 俺の脳裏に、これからの問題の解決の糸口が閃く。


 すべてのピースがそろった気がした。


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