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60話 エルフの図書館


 昨日の首飾りの古代文字と月の巫女の伝説について、詳しい話を聞く為にエルフの図書館を訪ねた。


 皆もエルフの里の図書館に興味があったようなので、エミリーの案内の下、全員で連れだって来た。


 そのエルフの図書館はかなり大きな建物だった。円柱型をしておりまさに塔のような構造だ。高さもかなりある。

 塔の天辺から何か薄いヴェールのようなものが出ていて塔全体を覆っている。


 エミリーの説明によると、結界を張っているとのことだ。古代より連綿と続く貴重なエルフの知識が収められている図書館だ。特殊な結界をもって守ってきたらしい。

 建物自体も強力な魔力を込められた木で出来ているとのことだ。見た目は古いがかなりの年代を感じさせる。


 塔の入り口の前を遮る結界の前に着くと、エミリーは何かの呪文のようなものを唱えた。すると、結界の一部が開き人、一人分が通れるくらいの入り口が出来る。皆はその結界の割れ目を潜り抜け、塔の入り口まで行く。


 入り口のすぐ左横に小さな詰所みたいなものがあって、そこにエルフの男が3名いた。皆帯剣しており、どうやら入り口を守る番人らしい。警備はかなり厳重のようだ。


 そのエルフの番人の一人から声が上がる。


「よう、エミリー。久しぶりだな。長老からすでに話は聞いてる。通ってもいいぞ」


「ありがとう、カミル。番人も大変ね、ご苦労様」


 塔の入り口の扉が開き、皆は中に入る。


「うわー! すごく広いよ!」

「これは凄いのじゃ~! 立派な造りなのじゃ~」

「にゃ~、それにすごく高いにゃ~」

 

 塔の中央部分は途中まで吹き抜けになっており、天井はかなりの高さだ。


 正面から向かって左右の隅の方にそれぞれ螺旋階段が見える。一体何階ほどあるのだろう。


 1階の部分は机や椅子が多く設けられている。閲覧室や休憩所のようだ。


 俺たちはエミリーの先導の下、螺旋階段を上がり2階のやや奥にある部屋に入った。


 部屋の中は、古い本や巻物がびっしりと詰まった棚で覆われている。


 奥の方に、大き目の机があり、そこには一人の男が座って書物に目を通していた。年齢は50歳くらいの中年に見える。丸い眼鏡をかけており、いかにも学者といった感じの男だ。


「ブックさん、久しぶりね」


「……ん? ……お、おお! エミリーじゃないか! 久しぶりだな!」


「相変わらず、研究に熱心みたいね。ちゃんと食事は取ってるの?」


 エミリーは笑いながら話す。どうやらかなり親しい関係のようだ。


「ああ、エミリー、母親みたいなこと言わないでくれよ~。……ん? 今日は大勢引き連れてどうしたのかな?」


「皆で図書館見学よ。長老のお許しが出てるから心配しないで」


「エミリーのお仲間さんだね。私はブックマールといってここの図書館の研究者なんだ。気軽にブックと呼んでくれてかまわないよ」



 ブックさんは、部屋の中央辺りにある広いテーブルとソファに、皆を勧める。

 皆がソファに座り落ち着いた後で、エミリーが、皆をブックさんに紹介する。



「おお、お嬢ちゃんがロザリーさんの娘のミレアちゃんか」


「うん、ミレアだよ!」


「……そうかあれからもうそんなに経つのか……」


 ブックさんは優しい目をしてミレアを見つめる。



 ひとしきり皆で雑談をした後で、エミリーが話す。


「ところで、早速で悪いんだけど、これを見てもらえるかしら?」


 エミリーが例の首飾りを外してブックさんに手渡す。


「ん? 奇麗な首飾りだね。今まで見たことのないものだ」


「宝石の台座の部分を、見てもらえないかしら。文字が刻まれているわ。おそらくエルフの古代文字だと思うのだけれど」


 ブックさんは眼鏡に手を当てながら、首飾りに目を近づける。


「……こ、これは、確かにエルフの古代文字だ……しかし、かなり古い文字だよ。神代文字に近い文字だ……いや、神代文字といってもいいのかもしれない。これは驚いた」


「ブックさん、読めるかしら?」


「う~ん、普通の古代文字なら私はそれなりに精通しているつもりだが、ここまで古い文字になると、解読するには時間がかなり必要になるかもしれないよ。エミリー、これはどこで手に入れた物なんだい?」


「そうそう、それについて聞きたかったの。実はこれは滝裏の主――月の水蛇からドロップした希少なドロップアイテムなの」


「あの滝の裏の蛇が?」


「そうなの。そして、この首飾りの名前は、トールの鑑定によると、トゥーマ・レム・ミルアという名前らしいの――」


「――トゥーマ・レム・ミルア! 月の巫女の魂! まさか……そんな……」


 すぐに、首飾りの名前の意味を告げるブックさん。さすが古代エルフ語に精通している人だ。


 そのブックさんの表情は驚きに満ちていた。


「そう、そこで月の巫女の伝説よ。呪いを掛けられて蛇にされた巫女の話。私はその伝説についてはそこまでしか知らないの。ブックさんなら、もっと詳しいのかと思って聞いてみたかったの」


 ブックさんは興奮を押し殺しているかのように見えた。そしてその伝説について静かに語り始めた。


「月の巫女の伝説――。エルフの神話によると、かつて月は精霊神が治める場所だった。その精霊神はこの世界の女神様の下で月を統治していた。精霊神は一説には聖獣だったとも言われている。女神様の信頼が厚く、まさに姉妹のような関係だった、と伝説は語っている」


 ブックさんは続けて語る。


「しかし、遥かな昔――我々はその時代を神代と呼んでいるが――強大な力を持つ魔王が現れ、自らの居城として月を精霊神から奪った。月から追われた精霊神はその後、完全に消息を絶った。今ではどこに居るのかも分からない。一説によれば魔王によりどこかに封印されたとも言われる……。そして、その精霊神に仕えていたのが月の巫女だった。精霊神が月から追われたときと同じくして、身の危険を感じた月の巫女も月から脱出を図る。そして、エルフの里の近くに降り立った月の巫女は、その後、エルフの里にたどり着く。事情を知った我々エルフの祖先が、魔王の追手から月の巫女を守る為、エルフの里で匿った」


 更にブックさんは語る。


「魔王がなぜ月の巫女に追手を差し向けたのか。月の巫女は、幽閉されている精霊神の居場所を知っているからだ。……しかしエルフの里で匿っているのを知った魔王は部下と共にエルフの里を襲った。なんとか我々の祖先であるエルフの戦士たちにより、魔王の軍勢を撃退することが出来た。エルフの戦士の中に勇者がいたからだ。魔王は月に逃げ帰ろうとするその際に、口封じの為に月の巫女に呪いを掛けた。その呪いにより月の巫女は蛇に変えられてしまったのだ」


 ブックさんは一息ついて言う。


「これが私が知る、月の巫女の伝説のすべてだよ。といっても長年、古文書などを読み漁り、得た知識を総合して推測した内容だけどね。遥か昔の話だ。本当にあった出来事かは実際には分からないんだよ。まさに伝説なのだよ」


 こう言ってブックさんは遠い目をして静かにため息をはく。そして、再びテーブルの上に置かれた首飾りを見つめる。


「しかし、この首飾りが水蛇のドロップアイテム、トゥーマ・レム・ミルア――月の巫女の魂だとしたら、少し信憑性が出てくるな……」


 皆も一心にその首飾りを見つめている。


 いままで黙っていたイナリがぼそりと呟く。


「その首飾り……生きておるの……」


「えっ!? イナリ! 分かるの!?」


「いや、普通にそう思っただけなのじゃが……」


 皆の顔が驚きの表情に変わる。


 そういえば、イナリはこういう勘みたいなものが優れていると、以前エミリーから聞いたな。狐獣人の野生の勘みたいなものなのだろうか。


 更にミレアが喋り出す。


「ミレア、ここの文字だけ分かるような気がするよ」


 皆が一斉に驚く。


「えっとね、この部分、多分『世界樹』っていう意味みたい。他は全然分からないよ」


 ブックさんの顔色が変わった。


「み、ミレアちゃん、本当に分かるのかい!? 発音――読み方はわかるかい!?」


「んん~っ、……ユ……?」


「待って! ミレア!」


 何故だかエミリーが血相を変え、ミレアの口を塞ぐ。


 それを見てブックさんも、何かにハッと気が付いたかのように顔色を変えて言う。


「すまない! ミレアちゃん! やっぱりその言葉は口にしないでくれるかい」



 一体何だというのだろう。俺は不思議に思うのであった。


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