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58話 月夜の晩に ② 温泉


 温泉を目の前にして、皆嬉しそうだ。早くも入りたい思いだろう。



 俺は皆に宣言する。


「よし! 皆で一緒に入ろう!」



 皆が一瞬、沈黙する。


「え? と、トール殿も一緒に入るのか?」


「もちろん!」


「トール、さすがにそれは恥ずかしいわ……」



 そう言うと思った。


「みんな、安心してくれ! こういうものがある!」


 俺は、水着(スクール水着)を人数分取り出して、掲げて見せる。


「これは、水着と言って、水の中を泳ぐときや温泉などに入るときに着るのにちょうどいい服なのだ!」


 俺は皆に水着を配る。この世界では水着という概念があまり無い。泳ぐときや水浴びするときなどはだいたい裸なのだ。


「これを着れば、恥ずかしくないだろう? なっ!?」


 皆は水着を広げて、ひっくり返したり肌触りを確認したりしている。


「ま、まあそうなのだけれど……なんだかこれ、体に張り付くような感じがするのよね……」


 俺は更に畳みかける。


「そう! その肌にぴったりとするのがいいんだ! 実は、これは先ほどの月の水蛇のドロップアイテムなのだ。迷宮主のドロップアイテムなんだぞ~。かなり貴重な水着だな。着るとお肌がすべすべになって奇麗になる……らしいぞ!」


 俺は勢いに任せて適当なことを言う。


「そ、そうなのかしら……?」


 もう一押しだ。


「やったー! ミレア着るっ!」


 お、さすがミレア! いいところで援軍が入った。お子様はやはり無邪気だ。


 俺はミレアをだしにして、ダメ押しの一手をかける。


「おう、ミレアー。じゃあそれを着て一緒に温かい温泉に入ろうなー。気持ちよさそうだよなー」

「うんっ! 温泉気持ちよさそう! ミレア、トールと一緒に入る!」


 皆の表情が変わった。


「にゃ~! ミーアも水着着て温泉入るにゃ~!」

「わらわもじゃ~! 温泉、温かそうなのじゃ~」

「そ、そうね……裸を見られるわけじゃないし……それにもう我慢できないわ! 私も入るわ!」


 次々に温泉の魔力に取りつかれる女性陣。


 温泉の向こうにある樹々の暗がりで、水着に着替える美女たち。

 そして、われ先にと、温泉に入っていく。


 皆の美しい体の輪郭が一瞬、目に留まる。

 ミーアやイナリの尻尾は水着からちゃんと出ていたように見えた。きっと水着の形状が上手く変化してるのだろう。



 月明りだけだと少し暗いな。俺は先ほどミーアが作った薪の残りを使い、温泉の周りにいくつか小さな焚火をつくる。


 そして俺は乾きやすそうなパンツに着替えて、その上からゴブリンの腰布を巻いて、一緒に温泉に入る。


 目論見は成功した。ひゃっほぉおおー!



「にゃ~あったかいにゃ~」

「気持ちよいのじゃ~」

「はぁ~生き返るわ」


 皆、肩まで温泉に浸かって心地よさそうにしている。


 温泉の湯が淡い緑色をしていて、じんわりと温かい。湯につかっていると癒されて疲れが取れていくようだ。なにか特別な回復効果がありそうだ。湯気がほのかに立ち上がっている。


 山の中腹のやや開けたところにあるので眺めがいい。遠くにエルフの里の灯りが見える。


 更に里の向こうに、淡い緑色に包まれて輝く不思議な森の一角が見える。あれが噂に聞く世界樹なのだろうか。



 空には満天の星が輝いている。

 月も奇麗だ。欠けた月が星々に囲まれ、一際輝いている。

 温泉の近くの焚火の火が揺らめき、皆の笑顔を朱く染める。


「お兄ちゃん、こんな風にみんなで温泉に入るなんて、なんか楽しいね」


 リンが湯にあたった顔でうっとりしながら言う。


「そうだな。今までこんな機会がなかったな……」


 今回の旅行でリンもすごく楽しそうだった。エルフの里で洗礼をを受けることもできたし、なによりも新しい仲間が出来たことがすごく嬉しかったようだ。


「トール、ミレアも楽しい!」


「そうだなー、ミレア。楽しいよなー」


 ミレアがモフを膝の上に抱えて湯に浸かっている。ミレアがいるときは、大体モフはミレアに抱えられている。バーベキューの時もそうだったが、どうやらそこがお気に入りの定位置のようだ。


 俺は、空間魔法にあらかじめ大量に収納していた、リン特製の冷えた果実水を取り出す。


「これはリン特製の果実水だぞ~。キンキンに冷えてて美味しいぞ~」


 皆に順々に手渡すと、一斉に飲み始めた。


「にゃにゃ! ちょうど喉が渇いてたところにゃ~。美味しいにゃ~」

「わらわもじゃ~。美味しいのじゃ~」

「美味しいです! リンさん、ありがとうございます!」

「リンの作る果実水はおいしいの!」

「ほんと、美味しいわ! リンちゃんありがとうね」


 温泉に浸かって火照った体と乾いた喉に、冷えた果実水が染み渡る。最高の気分だ。



 しばらくするとミーアが水着に手を当てながら言い出す。


「にゃ~、なんか水着が邪魔だにゃ~ 脱いだほうが気持ちいいのにゃ~」

「わらわもじゃ~。せっかくの温泉なのじゃ。裸で浸かりたいのじゃ~」


 おっ! ミーアとイナリ、ナイスな発言だ!


「なっ! なにいってんの……。で、でもたしかにそうよね……」


 エミリーも言う。


 皆の視線がこちらに集まる。


「お、おう、別に脱いでくれてもいいんだぞ? そっちのほうがもっと温泉を楽しめるぞ~」


 リンがじと目で俺を見る。


「お兄ちゃんの変態!」


 メイラさんが言う。


「それでは、トールさん、焚火を消させていただきます――ウォーターボール!」


 メイラさんの放つ水魔法が、俺の作った焚火のすべてを消し去る。


 ああっ! メイラさん、なんてことを!! 


 辺りがほぼ真っ暗になった。ただ、月と星あかりだけが、周囲に僅かな明かりを残している。


「トール、これで見えなくなったわね!」

「きゃはははー、やっぱり裸で温泉に入るのが最高なのじゃ~」

「ミーアも水着脱いだにゃ~。さっぱりするにゃ~」



 どうやら皆、一斉に水着を脱いで裸になったようだ。


 おおっ! まじか! 暗くなって見づらいがこれはこれで素晴らしい!


 温泉の中なので、俺を含め皆、スキル「夜目」付与のキャッツアイは付けていない。

 俺はSPスキルポイントを使って夜目スキルを習得する誘惑にかられるが、かろうじてとどまった。


 まあ、いっか。薄暗がりで想像するのもこれまた一興。俺はなんだか楽しくなってきた。



「トールぅ~、トールだけその腰巻付けてるのはずるいわ~」


 エミリーがなぜか絡んでくる。


「そ、そうだぞ! トール殿! 皆も脱いだのだ。トールも脱ぐべきだ」


 アリシアさんまで絡んでくる。


「それでは、トールさん、ご覚悟を」


 いつの間にかメイラさんに背後を取られていた。バトルメイド、メイラさん。まるでアサシン(暗殺者)のような動きだ。


「うおっ!!」


 気が付くとすでに俺のパンツとゴブリンの腰巻は無かった。


「きゃはははー、いいぞ、いいぞ!」


 イナリが騒いで、温泉のお湯をかけてきた。


 それを皮切りに皆がお湯の掛け合いっこを始めだした。


「きゃー! きゃー!」


 ザブン! ザブン!


「やったわね! 温泉ウォータースプラッシュ!」

「魔法を使うのはずるいぞ!」

「にゃにゃ~! お湯が目に入ったにゃあ~!」


 すでに皆は、温泉の中で立ち上がり、お湯の掛け合いっこに夢中だ。

 美女たちの肢体がわずかな月と星の明かりに照らされて美しいシルエットをかたどる。


 おお! 素晴らしい眺めだ! 


 エミリーの体はしなやかで細いが、均整が取れてて、出るところはしっかりと出ている。

 アリシアさんは更に強烈だ。引き締まった身体にボン、キュッ、ボンだ。素晴らしいスタイルだ。

 ミーアは、太ももがエロい。

 イナリは、小柄だが引き込まれるような怪しい美しさを持っている。

 メイラさんも、アリシアさんに負けず劣らずのスタイルの持ち主だ。


 ミレアはお子様なので、これからというところだろう。

 リンも兄のひいき目に見てもなかなかいい線いってると思う。


 

 おっと、いけない。つい変な意味で見惚れてしまったな。

 

 しかし、皆、なんて自由なんだろう。


 満天の星空と煌々と輝く月のもと、温泉の水しぶきが舞う。彼女たちの弾けるような笑い声が辺りに響き渡る。


 そんな中、モフが巨大なライトボールを宙に浮かべた。


 眩しく光るライトボール! 辺りが昼間のように明るくなる。



 おお! 絶景かな!! モフ、よくやった!



「にゃ! 急に明るくなったにゃ!?」

「きゃああああーー!!」

「わわわっ!!」

「なっ! うわああああああ!!」


「トールぅー!! 見たわね!?」



 うん、見えたな。ていうか、しっかりと目に焼き付けました。眼福でした。大変ありがとうございました。



 その後、俺は彼女たちに揉みくちゃにされ、温泉の底に沈められるのであった。


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