57話 月夜の晩に ①
その後、俺たちは幻想的な洞窟の広間で、焚火を囲んでお茶などを飲みながらのんびりと過ごす。
「にゃ~。お肉美味しかったにゃ~」
「ほんと、美味しかったわね~」
「わらわは満腹じゃ~」
「ミレアもお腹いっぱい!」
しばらくまったりとしていると、 リンが何かつぶやいた。
「んっ? この感覚は……なんだろう?」
リンは、広間の壁際の方に歩いて行く。
「わぁ……奇麗……」
リンが何かを見つけたようだ。
「ん? どうした? リン」
近づいてみて見ると、奇麗な花が一輪咲いていた。月の光のように淡く輝く美しい花だ。茎に付いた数枚の葉も瑞々しく美しい。
どうやらリンのスキル、植物採集Lv1が反応したようだ。
俺はその奇麗な花を鑑定してみる。
~~~鑑定~~~
満月花(激レア素材)
・月の光を受けて育った花
・月の魔力に満ちている
・貴重な錬金素材として用いられる
・鉢に移して持ち帰ることが出来る
~~~~~~~~
「おお! 激レア素材だ。リン、この花は貴重だぞ」
「えっ! そうなの! ……持って帰りたいけど、ダメだよね……」
「いや、鉢に移して持ち帰ることが出来るみたいだぞ」
「えっ! ほんと! やったー!」
リンはもふ猫のポーチから、植物を植える鉢を取り出した。
そんなものまで収納してたのか……。俺は苦笑いする。
リンは注意深く、満月花を傷つけないように周囲の土を大きく掘り、鉢に植え替えた。
「もふ猫のポーチに入るかな?」
アイテムボックスは、基本的に生き物は入れることが出来ないが、鑑定には素材と出てるしどうなんだろう。
「あっ。入ったよ! よかった!」
どうやらアイテムボックスで、持ち帰ることが出来るらしい。
「自宅の菜園にでも植え替えようかな~」
リンは嬉しそうに言う。
「リン、トール、どうしたの?」
ミレアがこっちを不思議そうに見ていた。リンは皆の所に戻って、再度ポーチから満月花を取り出して皆に見せている。
「わぁ……奇麗……」
「ほんと、すごく奇麗ね。見たことのない花だわ」
皆が感嘆している。
そういえば、月の水蛇を倒した時のドロップアイテムが気になるな。
俺は皆から少し離れた暗がりで背を向けて、ドロップアイテムを確認する。
~~~鑑定~~~
水着(服)
・水蛇の皮で出来た服(8枚セット)
・女性用の水着にちょうどよい
・サイズぴったり調整機能付き
・スク水とも言う
・あまり見つめたらダメ絶対
‥‥‥‥‥‥‥‥
鏡花水月(レア魔道具)
・深遠を示す鏡
‥‥‥‥‥‥‥‥
トゥーマ・レム・ミルア(ユニークアクセサリー:首飾り)
・装備時、魔力+20
・結界系の魔法Lv+1
・付与スキル 水魔法Lv3
・満月に近づくにつれ魔力回復が多くなる
・???
~~~~~~~~
「こ、これは……」
俺はいろいろな意味で混乱した。
ふぅ~落ち着いて順番に見ていこう。
まず、通常ドロップは「水着」だ。しかも、女性用のスクール水着、8枚セットだ。
これはヤバイ! サイズぴったり調整機能付きというのも更にやばそうだ。女神様がダメ絶対と言っているが、こんなものを着た女性を見つめない訳が無い! 前世では絶対ビキニがいいという男友達がいたが、このワンピースタイプのスクール水着もいいものだ。スク水、最高!
おっといけない。つい興奮してしまったな。
さて、レアアイテムの鏡花水月? なんだろうこれは……。形状は円く、手のひらに収まるくらいのさほど大きくない金属製の鏡だ。唐草模様が刻まれた縁は銀色に光っている。縁に囲まれた鏡の中央部分は、まるで透明な水面のようで滑らかで美しい。見ていると吸い込まれるような不思議な感覚を覚える。
女神のドロップの鑑定では、「深遠を示す鏡」としか出ていない。詳細が分からない初めての鑑定結果だ。不思議な鏡だ。
そして、ユニークアイテムの方は首飾りだ。こちらも非常に奇麗な首飾りだ。奇麗な丸い宝石が付いている。水色の宝石のように見えるが淡い黄色い光を放っている。
宝石の縁の周りに何か不思議な文字のようなものが円を描いて刻まれている。見たことのない文字だ。これは何かの古代文字なのだろうか。
装備時の効果も素晴らしい。魔力が上がり、結界系の魔法のレベルも1つ上がるようだ。水魔法Lv3が付与されてる。そして、満月に近づくにつれ魔力回復が多くなる。これも不思議な効果だ。
そして、「???」。女神のドロップの鑑定機能でも示されていない何かがあるようだ。
何よりこの首飾りからは不思議なオーラのようなものを感じる。
トゥーマ・レム・ミルア――不思議な響きを感じる名前の首飾りだ。意味もよく分からない。
まあ、なんというか、女神様は俺に謎かけをして楽しんでるんじゃないかとつい思ってしまう。それに相変わらず水着の説明がアレだな。俺の前世の記憶が分かっているかのようだ。俺は苦笑する。
それはそうと、この首飾りはエミリーに似合いそうだ。結界魔法系のレベルが1つ上がるし、彼女に贈りたいと思う。
「トールぅ~、何してるの~」
エミリーの声が聞こえたので、俺はアイテムを一旦収納して、皆の所に戻る。
「にゃ~お腹も膨れたし、あとは温泉にでも入りたいにゃ~」
「わらわも温泉入りたいのじゃ~」
エミリーが苦笑しながら言う。
「温泉ねぇ……ここからそう遠くないわ。みんな行きたい?」
「「「行きたい!!」」」
エミリーの言葉を聞いて、皆一斉に身を乗り出して叫んだ。
まじか! グットタイミングだ! この流れに俺も乗らなければならない!
ふっふっふ、こちらにはスクール水着という武器があるのだ! これを皆に着てもらえれば、俺も一緒に温泉に入ることが出来るかもしれない。
「温泉は、この崖の上から少し奥に行った山の中腹にあるわ。眺めがいいわよ~」
崖の上か。それなら、広間の天井にある穴から上に出た方が早いかもしれないな。
「皆、天井の穴から上に出よう。俺とモフが空間操作で、皆を浮かせて上げるぞ」
「なっ! トール殿、そんなこともできるのか!」
「ええ、まあ、とりあえずやってみますね。ゆっくりいくから大丈夫ですよ~」
俺はモフに指示を出す。モフは猫爪で壁を駆けあがり、穴の中に入りそこで待機する。
そして、俺はとりあえずミーアを浮かべることにした。
「空間操作!」
ミーアの周りの空間が少し揺らぎ、ミーアはゆっくりと宙に浮き始めた。
「にゃ!? にゃにゃ!? 浮いてるにゃ!?」
ミーアはゆっくりと天井近くまで上がり、穴の中に吸い込まれるように入り上昇していった。
すでにモフが天井の穴近くで待機している。そこから先はモフの空間操作で崖の上まで送ってくれる手はずだ。
「わあ~ほんとに浮いてる!」
「きゃー! これ、おもしろい!」
「きゃははは~。浮いてるのじゃ~」
「と、トール殿、落とすんじゃないぞ! 絶対に落とすんじゃないぞっ!」
こうして皆は穴を抜け、崖の上に降り立った。
すでに日も暮れて夜になっている。月の光と星だけが辺りを照らしていた。
先ほど皆で出て来た穴は、滝の上を流れる川の近くにあった。
皆は、崖の上から恐る恐る下の滝を眺める。
「わぁー! すごい!」
ごうごうと音をたてて滝つぼに落ちていく川。かなり高い滝だ。少し怖いが、眺めはいい。
ひとしきり滝の上からの景色を楽しんだ俺たちは、エミリーの先導のもと、温泉へと向かう。
川沿いからそれて、少し上向きに傾斜している山がある。樹々で覆われている中、細いけもの道を一列になって登る。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。
辺りは白い霧のようなものが立ち込めていた。いい香りがする。
やがて月に照らされて、辺りの様子がおぼろげながら見えてきた。
温泉だ!
岩でかこまれ、緑色のお湯が、たちこめる湯気の間から煌めいている。すごく温かそうだ。すぐにでも入りたい気分にさせられる、不思議な魅力をたたえた温泉だ。
広さは結構ある。俺たち8人で入っても十分な広さがありそうだ。
「わぁー! すごい!」
「にゃにゃ~! 温かそうにゃ~!」
「湯気の香りがいいのじゃ~!」
こうして俺たちは温泉にたどり着き、喜びの声を上げるのだった。