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56話 滝裏の洞窟の主


 洞窟の奥の広間で、ここの主である大きな蛇と対峙した。

 

 俺はその大蛇を鑑定してみる。


―――鑑定―――

月の水蛇(みずへび) Lv50(迷宮主)

・滝裏の洞窟の主

・月と水の魔力を秘めた水蛇

・弱点:特になし

・魔力に優れる

・魔力結界を張る

・魔法攻撃は効きにくい

―――――――― 

 

「ほほう、なかなか面白そうな迷宮主だな」


 月の水蛇(みずへび)。俺は是非ともこの敵からユニークアイテムを手に入れたくなった。


「皆、この敵は俺とモフにやらせてくれ」


 皆が頷く。ミレアとリンも俺の後ろに下がる。


 敵はレベル50なので今の俺とモフなら余裕で行けるはずだ。魔法は効きにくそうなので短剣で攻撃することにする。念のためにモフに弱体化の光を使ってもらうか。


「モフ! 弱体化の光を頼む!」


 モフは承知とばかりに光魔法を放つ。


 月の水蛇を弱体化の光が包み始めるが――


 パァアアーーン!


「――なっ!」


 弱体化の光が弾かれた。


 これは驚いた。鑑定にあるようにこれが魔力結界の力なのだろうか。


 俺は逆に興味を持った。鋭く飛び込んで短剣を振るう。


 パァアアーーン!


 月の水蛇の体に触れる前に短剣が弾かれる。ふむ、面白い。


 水蛇は口を開けて、勢いのある水を放ってきた。水撃か!?


 俺は避ける。


 水撃は俺の後ろで防がれる。どうやらエミリーが皆の周りに防御結界を張っているようだ。


「よし、こうなったら根比べだ!」


 俺は水蛇の水撃を避けながら、何度もその巨体を短剣で斬り付ける。


 パァアアーーン! パァアアーーン! パリン!!


 結界が壊れた手ごたえを感じた。更に斬りつける。


 ザシュッ!


「――!!」


 敵は叫び声をあげないが、効いているようだ。


「バッシュ!」


 月の水蛇の頭をめがけて剣技を振るう。短剣に力が乗る。


 ザシュウウウウーン


「――――――!!!」


 月の水蛇は、月光のように輝く霧となって、静かに消えて行った。


 虹色の光が見えて、次々にアイテムを落としていく。


 ミレアとリンにもきっと物凄い量の経験値が入っていることだろう。


「わわっ! トール! すごい力が湧いてくるよ!」

「お兄ちゃん! 凄くレベルアップしたみたい!」


 ミレアとリンがはしゃいでいる。



 ――その時だった。天から声が聞こえて来た。


≪レベルが60に達しました≫


≪女神のドロップスキルのレベル7が解放されました≫



「おおお!! やっと解放されたか!」


 俺もミレアやリンと一緒にはしゃいで、つい喜びの踊りを踊っていた。隣でモフも踊っている。


「トール! やったわね!」

「トールさん、凄いです!」

「にゃ~。ミーアも踊るにゃ~」

(わらわ)もじゃ~」

 

 賑やかになってきた。


 水蛇が居たところには、いくつかのドロップアイテムと、小さく奇麗なアクセサリーのような物が落ちている。


 俺はとりあえず空間魔法を使い、すべて回収した。もふ猫のポーチと違って、ある程度離れていても一瞬で回収できるのだ。


「わっ! アイテムが消えたよ!」

「にゃにゃ!?」


「トール殿! まさかアイテムボックスを使えるのか!?」


 副騎士団長のアリシアさんが驚いた表情で聞いてくる。


「あ、はい。空間魔法のアイテムボックス機能ですね。ちなみにモフも使えますよ」


「な、なんと、空間魔法持ちだったのか! すごいな……」

「空間魔法かにゃ! いいにゃ~」


 空間魔法はかなりレアなスキルだ。これから一緒に冒険をする相手には知っておいてもらった方がいいだろう。俺とモフにとって日常的な行為だし。今後いちいち驚かれるのもあれだしな……。



 さて、ミレアとリンのレベルを見せてもらうか。


 ミレアとリンがステータスのレベルを見せてくる。皆で額を集めて見てみる。

 

――――――――――――

ミレア Lv11 → Lv30

――――――――――――

リン  Lv11 → Lv30 

―――――――――――― 


    

「「おおお!!」」


 皆が驚嘆の声をあげる。


 一気にレベルが30まで上がっていた。凄まじい上がり方である。引率パワーレベリングだ。


「やったわ! ここまで上がれば十分だわ! これでエルフの里でのレベル上げはおしまいよ!」


「やったー!! みんなありがと!」

「やった! 皆さんありがとうございます!」

 

 ミレアとリンは嬉しそうだ。


 皆もそんな二人を微笑ましそうに見ている。



「そろそろお腹すいたにゃ~」

(わらわ)もじゃ~」


 そういえばあれからだいぶ時間が経ったな。洞窟に入る前にはすでに日が傾きかかっていたのを思い出す。そろそろ食事時か。

 

 ここでクランハウスを出してもいいが、少し狭い気がするな。

 

 まあ、滝の裏の洞窟なんてあまり来れるところじゃないし、せっかくだからこの広間の雰囲気の中、食事をするのも一興だな。


(わらわ)はお肉が食べたいのじゃ~」

「ミーアもお肉食べたいにゃ~」

 

 そうだ、バーベキューでもするか! なんだか楽しそうだ。


 俺は先日ウッドゴーレムを狩った時に得たドロップアイテムの丸太をいくつか取り出す。


「トール殿、丸太なんか取り出してどうされるのか?」


 アリシアさんが聞いてくる。


「これで、木の切り株みたいな椅子を作ろうと思ってるんですけど、せっかくなのでアリシアさんの剣技を見せてもらえませんか?」


 俺は、副騎士団長であるアリシアさんの剣の実力に興味があったのである。大きな丸太を地面に縦に突き立てる。


 アリシアさんは、俺の意図したことが解ったのか、ふっと笑って剣を鞘から抜く。銀色に輝く美しい剣だ。これはおそらくミスリルの剣だろう。


 アリシアさんの美しい目が鋭く輝く。


「ハァアアアアアアッ!!」


 一瞬のうちに何度も剣が鋭く振られる。


 残心し、剣をゆっくり鞘に納めるアリシアさん。美しい動作だ。


 やや間があった後、縦に突き立てられていた丸太が、バラバラになって地面に落ちて来た。


 ちょうど等間隔に8人分の切り株の椅子が出来上がっていた。


「「「おおお!!」」」


 皆から驚きと歓声があがる。


 さすが副騎士団長を任されるだけのことはあるな。凄い剣裁きだ。



「すごいにゃ~。ミーアもやってみたいにゃ~」


 俺はもう一本丸太を同じように立てた。


「ミーア、これから焚火をしようと思う。今度はこれで(たきぎ)を作ってくれ」


「トール、分かったにゃ~」


 ミーアは俺のプレゼントした大剣――フラマニゲルスを、両手に持ち高く掲げた。黒炎のオーラを放つ怪しくも美しい大剣だ。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃあああああ~!!」


 ミーアの大剣が丸太の間を何度も行ったり来たりする。凄い連撃だ。さすが武器の扱いに秀でたミーアだ。


 連撃が終わり、大剣を背に納刀する。


 その後、丸太はバラバラになりやや黒ずんだ薪の山が大量に出来上がっていた。


「「「おおお!!」」」


 再び皆から驚きと歓声があがる。



 こうして俺たちはミーアが作った薪を使い焚火をし、その周りにアリシアさんが作った切り株椅子を並べる。


 俺はモフと一緒に空間操作で作った透明の箱の上に、アイテムボックスから取り出した食材を並べる。透明な箱に、皆驚いていたが気にしないことにする。

 リンとメイラさんも手伝ってくれ、色々な種類のお肉や野菜を長い串に刺していく。調味料は塩のみだ。これが意外と美味しいのだ。


 大量に出来上がった串を、焚火の周りに突き立て串焼きにする。


 皆は焚火を囲んで切り株椅子に座り、じゅうじゅう焼ける肉を涎を垂らす勢いで眺めている。


 肉と野菜の焼けるいい匂いがしてきた。


「にゃ~。いい匂いがしてきたにゃ~」

「ごくり。も、もう焼けたのじゃないかの!?」

「そ、そろそろいいんじゃないかしら!?」


「そうだな。そろそろみんなで食べようか――」


 俺が言い終る瞬間に、もう我慢できなかったのか皆が一斉に串焼きを取り頬張り始めた。


「にゃ~。美味しいにゃ~」

「すごく旨いのじゃ~、お肉がこってりしてるのじゃ~」

「わぁ~! すごく美味しいよ!」


 肉はボア肉、熊肉、オーク肉などもあるが、極上のうさぎ肉もたくさん入っている。B級ダンジョンの植物階層で採れた茄子や芋なども串に刺されている。


 俺も食べてみる。肉汁と野菜の旨味が塩と絡まり口の中に広がる。本当に旨い。絶品だ。


 焚火を囲んで皆で賑やかに食べる。焚火に照らされた皆の顔が、ほんのりと橙色に染まり、喜びに満ちている。楽しいものだ。


 ふと気が付くと、ぼんやりとした明かりが上の方から差し込んでいるのを感じた。

 天井を仰ぎ見る。

 今まで気付かなかったが、良く見ると岩で出来た天井の少し斜め上あたりに穴が開いているようだ。その穴はおそらく、滝の上の川の近くまで続いていると思われる。


 差し込んでくる明かりは柔らかく、薄い黄色のような光だった。


 月の光だ。


 滝の裏の洞窟の主――月の水蛇(みずへび)(すみか)は月の光が差し込んでくる場所だったのだ。


 俺が見ている先に気が付いたのだろう。皆も差し込んでくる月の光の方に視線を移す。


「わぁ……奇麗……」

「にゃ~、きれいだにゃ~」

「ほんとうね……。なんというか、幻想的な美しさだわ……」


 柔らかく差し込んでくる月の光に照らされた洞窟の広間は、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 

 焚火の灯りと月の光――。


 

 俺たちは、感嘆のため息をついてその光景に見惚れるのだった。


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