54話 洗礼の儀式
一夜明けて、俺たちはエルフの長老――ソロンさんに呼び出されて、教会の中の広めの控室にいた。
昨夜の宴で、皆も英気を養われたかのように元気だ。
長老が皆の前で話し出す。
「皆、わざわざ集まってもらって申し訳ない。実は皆に少々お願いしたいことがあってこうして集まってもらったのじゃ」
長老のソロンさんが話始める。
内容は、昨日俺がエミリーに聞いたこととほぼ同じだった。
「……という訳で、これからミレアの洗礼の儀式を執り行おうと思う」
実は、俺は昨日から少し考えていたことがあった。
せっかくなので、ミレアと一緒に、リンにも洗礼の儀式を受けてもらうことだ。
やはりステータスを獲得して力を得たほうが今後のためになるだろう。
レベリングにおいても、ミレアとリンを一緒に俺たちでサポートして行えばいい。そして、洗礼の儀式において同期の仲間の存在は有難いものだと思うのだ。
元々リンは、いずれステータスを得て、初期スキル次第では生産職につくことを考えていたようだった。
また、結構お転婆なところがあるリンだ。両親が魔物のせいで亡くなってからしばらくは、ダンジョンを忌避している節もあったが、最近では冒険者の活動にも興味を持ってきているようだった。
俺はそのことを、長老とリンに話す。
「おお、それは全く問題ない。リンさんさえよければ、ミレアと一緒に儀式を受けても構わない。いや、むしろそうした方が良い気がするのう……」
「お兄ちゃん。私もここで洗礼の儀式を受けたい! エルフの里の教会で受けられるなんて素敵なことだよ!」
「うんっ! 私もリンと一緒がいい!」
ミレアとリンはすっかり仲良しになっている。すでに敬称なしでお互いを呼び合ってるようだ。いいことだ。
こうして、ミレアとリンは一緒にエルフの里の教会で、女神の洗礼の儀式を受けることとなった。
◇
皆で、教会の中の控室から出て、礼拝堂に静かに入る。
エルフの里の教会は他の家々と同じく、木で出来ている。礼拝堂の中にある大きな柱にも、年輪が幾重にも刻まれている。
全体的に古く感じるが、生命力に満ちた樹木の気が伝わってくるかのようで、神聖な気持ちになる。
礼拝堂の中央奥に、女神像が立っている。
ミレアとリンは女神像の前に立つ。
俺たちは後ろの方の椅子に座り、二人を見守る。
白いローブを着た女性エルフが、ミレアとリンにそれぞれ"葉っぱ"のような物を手渡した。
薄緑色に輝くその"葉"は、瑞々しく美しかった。あれは世界樹の葉なのだろうか。
俺が洗礼を受けたときは、水晶玉を手渡された。ここでは"葉"のようだ。エルフの教会らしい儀式具だと思う。
ミレアとリンは白いローブの女性に促されて、手に持つ葉に微量な魔力をそそぐ。ステータスが無くても人は皆微量な魔力を体に秘めている。
ミレアとリンは、その葉を、女神像の前にある台座に置いた。そして、女神像の前で静かに跪き、目を閉じ手を組む。
辺りは静寂に包まれている。
どれくらい時間が立ったのだろうか。
女神像の胸のあたりから柔らかい光が立ち上がり、ミレアとリンの内に吸い込まれていった。
洗礼が終わった。
ミレアとリンはお互い顔を見合わせて、少し驚きの表情を浮かべている。
ミレアとリンは今、"ステータス"を得たのだ。
その後、女神像に礼をし、皆で礼拝堂から出た。
「お兄ちゃん! 見て見て! これがスキルなの!?」
リンが自分のステータスを見ているようだ。俺にステータスを見せてくる。
基本的にステータスは本人だけにしか見えないが、任意で他人に見せることも出来る。
「見ていいのか? ……どれどれ……」
リンの目の前に俺とリンだけにしか見えない透明なステータス画面が宙に浮いている。俺は観てみる。
――――――――――――
リン 15歳
Lv 1
体力:1
魔力:1
筋力:1
敏捷:1+10
精神:1
幸運:1
SP:3
スキル:剣術Lv1、体術Lv1、火魔法Lv1、水魔法Lv1、土魔法Lv1、夜目Lv3、
生産スキル:料理Lv1、家庭菜園Lv1、植物採集Lv1、裁縫Lv1
???スキル:???
【装備品】
アクセサリー(首):キャッツアイ
――――――――――――
「おおおお!! これは凄い!」
俺は狂喜した。
初期スキルがあり得ないくらい沢山ある。普通は多くても3つか4つくらいと聞いている。
装備品付与の夜目Lv3は除くとして、9個ものスキルが与えられている。これは破格だ。
よく見ると、確かにリンらしいスキルだなと思う。
まずは剣術。これはおそらく、リンが家庭菜園や山菜採取などで、植物を刈り取る際に、錆びた短剣を良く使用していたことが要因に違いない。
他も同様だ。体術は、よく俺が寝坊したときにボディープレスをかましてきてた。火魔法・水魔法は料理や家事などで火や水を日常的に使っていた。土魔法は、家庭菜園で土いじりをしていた。料理は言うまでもなく毎日作ってくれたし、貧乏だった頃、よく破れた服などを裁縫で直していた。
こういう日常の積み重ねが、初期スキルに反映されたのかもしれない。
それはそうと、スキルのところで、一部見えないスキルがあるな。これはなんだろう……。
何か隠されたスキルなのか。それともまだ何らかの条件が満たされていないので、完全に取得出来てないスキルなのか。
まあ、いずれにしてもそのうちに分かるのかもしれないな。
「お兄ちゃん、どうだった!?」
「おお、リン。これは凄いぞ! リンの才能と潜在能力はかなりあると思うぞ!」
「やったー! ありがとう、お兄ちゃん!」
ミレアの方を見ると、エミリーたちにステータスを見せて、賑やかに騒いでいる。
「トール! トールも私のステータスを見て!」
ミレアが俺にステータスを見せてくれる。
――――――――――――
ミレア 10歳
Lv 1
体力:1
魔力:1+20
筋力:1
敏捷:1+10
精神:1
幸運:1
SP:3
スキル:弓術Lv1、杖術Lv1、魔力強化Lv1、風魔法Lv2、水魔法Lv1、火魔法Lv1、土魔法Lv1、光魔法Lv1、回復魔法Lv1、結界魔法Lv1、夜目Lv3、
生産スキル:果樹栽培Lv1、木工Lv1
レアスキル:エルフの結界Lv1、統治Lv1、風の加護
???スキル:???
【装備品】
アクセサリー(頭):風のリボン
アクセサリー(首):キャッツアイ
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「おおお!! ミレアも凄いな!」
「やったー! トール、ありがとう!」
なんというか素晴らしい才能と素質だ。
魔法がすごい。魔法は4元素魔法すべてと光魔法がある。更に回復魔法や結界魔法まである。
そしてやはりエルフの子だ。弓術がある。なぜか杖術もあるな。そして、生産スキルもエルフの里を見ているとなんとなく分かるような気がする。
そしてレアスキルが3つもある。以前エミリーが言っていた「エルフの結界」がある。あと「風の加護」というのもあるな。こちらはレベルのないスキルだ。
そして、「統治」がある。ミレアは領主の娘だ。この才能は、きっと男爵から継いだに違いない。
そして、リンと同じく見えないスキルがある。う~ん、これは、エルフの秘儀に関するものなのだろうか……。
まあ、いずれにしても、ミレアもリンも今後、成長が楽しみだ。
俺は早く2人のレベル上げを手伝って、その先の力を見てみたい衝動に駆られる。
こうしてミレアとリンの洗礼の儀式は、素晴らしい結果となり、皆で喜びを分かち合ったのだった。