53話 エルフの里に着く
昨晩は皆、興奮気味だったが、よく眠れたそうだ。
俺もいい睡眠が取れたと思う。
何気に部屋のベッドを鑑定してみると、「安眠効果」が付いていた。クランハウスの家具は素晴らしいな。
さて、今日はエルフの里に着く予定だ。
皆でクランハウスを出た後、家を元に戻すことにする。玄関の扉に、ロックがかけられたボタンのようなものが付いている。このボタンを押すと、中に人がいないかなどの安全確認が行われ、箱の状態に戻るらしい。
俺はロックを外しボタンを押す。
家がゆっくりと白く光りその後、一瞬で箱の姿に戻った。
「「おお!!」」
皆も、感嘆した表情でその箱を見ていた。なかなか便利だな。
その後、馬車に乗り、草原地帯を抜けると森が見えて来た。
エミリーが、森の一角を指さし、そこに向かって馬車を走らせる。
森はかなり樹々が密集しており、到底この大きな馬車では中に入ることが出来ないように思える。
エミリーの指示で、森の入り口付近にひと際大きな樹が立っているところで、馬車を止める。
エミリーは馬車を下り、その大きな樹に手を触れ、何か呪文のようなものを唱えた。
すると、その樹の脇に森の中へ通じる道が現れた。馬車でも通れるくらいの道だ。
「み、道が開いた……」
皆の驚きの声が上がる。
エミリーは再び馬車に戻り、道を走らせる。後ろを振り向くと、道は消えており、再び樹々が密集していた。不思議なものだ。
そのまま道を馬車で走ると、前方に樹々で囲まれた袋小路にたどり着いた。辺りは不思議な空間に包まれたかのような奇麗に光る緑色の霧が立ち込めている。奥には入れそうにない。
エミリーは馬車を止め、行き当たりにある少し大きな樹に触れ、呪文を唱える。
すると袋小路の樹々が一斉に左右に開き、前方に視界が開けて来た。
エルフの里だ。
「みんな、お疲れさま。着いたわよ」
「おお! ここがエルフの里……」
「にゃ~、奇麗な里だにゃ~」
「素晴らしいのじゃ~」
ミーアとイナリも初めて来たらしい。
前方に緑豊かな風景が展開されていた。樹々は新緑に輝き、芳醇な果実を実らせている。
木で出来た奥ゆかしい感じのする家々が立ち並んでいる。広々とした畑には、見たことのない野菜や植物のようなものが、彩とりどりに太陽に照らされて輝いていた。
空気が美味しい。素晴らしい里だ。
しばらく感嘆して風景を眺めていると、数人のエルフの男たちがやって来た。
そのうちの一人のエルフが前へ進み出た。若い感じのする精悍そうな男だ。
「エミリー、ミレア、よく帰って来た。……こちらの方たちがお仲間さんか」
「はい、お父様。私の自慢の仲間たちよ」
「うん、おじい様、みんなとはお友達!」
男は頬を緩める。
「皆様方、私はエミリーの父親のファラサールという者だ。エミリーやミレアがお世話になっているそうで、ありがとう。遠いところよくお越しいただいた。さあ、旅でつかれたであろう。どうぞこちらへ、ゆっくり話をしよう」
ファラサールさんはそう言って俺たちを、里の中へ案内する。
俺は思う。よく前世のファンタジー小説なんかでは、エルフは人間などよそ者を受け付けなく、排他的な種族に描かれていることが多いが、全くそんな感じではなかった。むしろかなり友好的に思えた。
里の中心辺りと思われるところに、ひと際大きな家があった。家の中に案内されて入る。
木で造られた家の中は広々としていて、木のいい香りがした。
大きな広間に皆は通される。
「長老様。お連れしました」
長老と呼ばれた男は、ゆっくりと立ち上がる。
見た目はいかにも長老といった感じだ。年齢を感じさせる静かな貫禄があった。元々エルフ族は実際の年齢よりより若く見えるらしい。そうすると、この長老は一体何歳くらいなのだろうか。もしかして何百歳といった、とてつもない年齢かもしれないな。
「皆、よくお越しいただいた。私はこの里の長を務めるソロンと申す者。そして、エミリーにミレア。良く帰って来た」
「はい。長老様。私たちの仲間を紹介します」
エミリーはそう言って、長老やファラサールさん、その周りにいる重鎮と思われるエルフたちに、皆を紹介した。
「今日は皆、ご足労じゃった。宴の用意が出来ている。場所を変えてゆっくりと食事でもしよう」
そういって長老は微笑んだ。
◇
宴は賑やかに行われた。
広いお座敷に低めの座卓が並べられている。その上にはご馳走でいっぱいだ。
数々の珍しい料理に皆、驚きながらも喜びの表情でいっぱいだ。珍しいお酒も出て来て、皆、ほろ酔い気分で楽しそうだ。
ミレアとリンはお酒が飲めないので、果実水を飲んでいる。この果実水もエルフの里で採れた果実を使っているとのことで、驚くほど美味しかった。
俺のいる席に、エミリーとファラサールさん、それにもう一人の女性が来た。
ファラサールさんともう一人の女性は、俺の前に正座姿で座り話しかけて来た。
「君が、トール君だったね。こちらは私の妻のララノアだ。改めて礼を言わせてもらいたい。ロザリーのことはエミリーから聞いたよ。私たちの娘――ロザリーを救ってくれて本当にありがとう」
「トールさん、娘がやっと安らかに世界樹のもとに帰ることが出来ました。本当にありがとうございました」
ロザリーさんの両親が、俺に丁寧に頭を下げて礼を言ってきた。
俺は思う。そっか。エミリーが俺をエルフの里に誘ったのは、このお礼の意味もあったのか。
それからエミリーも交えて両親たちと、領都での生活やミレアのことなど、色々なことをゆっくりと語り合った。
「トール君、実はミレアのことで相談というかお願いがあるのだ。詳しくは明日、長老やミレアを交えて話があると思う。まあ、今日はゆっくりと旅の疲れを癒して楽しんでほしい」
ファラサールさんはそう言って、夫妻共々もう一度礼をして席を離れていった。
ん? なんだろうか。気になるな。
エミリーが話す。
「トール。もう大体察してると思うし、気になってるみたいだから、私の方から先に言っちゃうわ。エルフの秘儀についてのことよ。あの慰霊祭の日に確かにミレアに秘儀が継承されたわ。ただし、それが使えるようになるには、ステータスと、ある一定のレベルが必要なのよ。つまり今回、エルフの里でミレアに女神の洗礼を受けて貰って、レベル上げの修行をさせるつもりなの」
一旦話を切って、再びエミリーは話し出す。
「元々王都やフォレスタ領都などの冒険者ギルドや教会では、洗礼を受けることが出来る年齢は16歳からと決まってるから、ここで受けさせるつもりなの。エルフの里では、10歳になれば洗礼を受けることが出来るわ。ただし、ステータスを得た後のレベル上げは、エルフの森の結界の外にある魔物が棲んでいる森で上げることになるの。まあ、そこはダンジョンではないので、効率が悪いのだけれどね……」
「なるほど~。そうすると、ここで洗礼を受けてステータスを得て、魔物の森である程度レベルを上げる。その後は領都に戻って、本格的にダンジョンで効率的にレベルアップするって感じかな?」
「そういうことになると思うわ」
「しかし、まだミレアは10歳になったばかりだし、そんなに急いで冒険者みたいな危険なことをしなくてもいいんじゃないのか?」
俺は素直に思ったことを口にした。
エミリーは言う。
「まあ、本来はそうなんだけどね……。ただ、嫌な予感がするの。最近、王都や各領内、それにエルフの里の近くでも、怪しい動きが出て来そうな気がするの。これは長老も感じているらしいわ。それに――イナリもその予兆を感じ始めてるみたいなの」
「イナリが?」
「ええ、彼女は元々そういう予知能力のようなものがあるみたいなの。先日もそんな話をしていたわ。まあ、まだ軽い予兆を感じる程度のようだから、そこまで心配する必要はないかもしれないけれど、早めに手を打っておく必要があると思うの。それで、ミレアには本来まだ早いかもしれないけれど、早めに力をつけた方がいいということになったわけね。それで領都でのミレアのダンジョン攻略に、トールの力を借りたいわけなの……」
エミリーは苦笑して言う。
「はぁ……結局、明日長老からするはずだった話を、私が全部トールにしてしまったわね。……まあ、せっかくエルフの里に来たのだから、魔物の森でのレベル上げはほどほどにして、4、5日くらい皆と一緒にここでゆっくり楽しんでね。そうそう、いろいろ面白いところもあるから案内してあげるわよ~。例えば、温泉とかね!」
エミリーは話を明るい方向にもっていった。
「おお~温泉があるのか! それはぜひ入ってみたいな。皆と一緒に!」
「トールぅ~、それはどういう意味なのかしら~?」
エミリーは、呆れかえっているが優しい目をしていた。
こうしてエミリーと俺は笑い合ったのだった。




