51話 錬金術
バッカスさんがお勧めする魔法具屋に皆で来た。
「おや。いつものお兄さんだね。今日もポーションを買ってくれるのかい」
いつもカウンターにいるおばあさんが話しかけてくる。この人がバッカスさんの言っていたジーナさんだろう。顔は知ってても名前は知らなかったな。
「いえ、今日はバッカスさんの紹介で、杖などを見せてもらいに来ました。あ、俺はトールといいます」
「ほうほう、バッカスの知り合いかね。いいとも、お安くしておくよ、トールさん。……それにしても今日は別嬪さんを3人も引き連れているんだね。ひっひっひっ」
ジーナさんは顔をひしゃげて笑う。う~ん、何か勘違いしてるようだ。まあ、いっか……。
そして、杖を物色するイナリ。
エミリーとミーアは、ポーションやアクセサリーなどを観ている。
ほほう、アクセサリーなども売ってるのか。
「ここは、アクセサリーも売ってるんですね」
「そうさね。魔法に関する道具やポーション類はだいたい揃えているつもりだよ。なにせここの商品のほとんどは『錬金術』で作った物だからねぇ」
ほほう、錬金術か。なんだか面白そうだ。
俺は思い出す。そういえば錬金で使用するレアの素材がいくつかあったはずだ。売らないで取っておいたものがアイテムボックスにまだあるはず……。
「錬金用の素材を持ち込めば何かつくれますかね?」
「もちろん作れるとも。希少な素材なら大歓迎だよ」
俺は空間魔法のアイテムボックス内を探り、レア素材をそれぞれいくつか取り出した。
…………………………………………
蝶の紫鱗粉(レア素材)
・錬金などに利用される珍しい素材
…………………………………………
赤紫蠍の毒袋(レア素材)
・毒液の入った革袋
・錬金などの素材として扱われる
・毒の危険度(中)
…………………………………………
芋の葉っぱ(レア素材)
・薬草効果が高い
・上級ポーションなどの素材となる
…………………………………………
「ほほう! こりゃたいしたもんだねぇ。どれどれ、蝶の紫鱗粉は幻覚剤、赤紫蠍の毒袋は毒薬、芋の葉っぱは上級ポーションっていったところだね。幻覚剤と毒薬は、工夫次第では、魔物と戦うのに便利なように作れるかもねぇ」
「なるほど、それはいいですね。う~ん……せっかくなのでこれすべて提供しますので、とりあえず試作品を作ることって出来ますかね? 素材が余ればそちらで引き取ってもらって構わないので」
「おや、いいのかいトールさん。結構たくさんあるじゃないか。貴重な素材ばかりだよ。太っ腹だねぇ」
ジーナさんはカウンターの奥の方に向かって、声を上げる。
「メアリや、こっちに来ないか」
メアリと呼ばれた少女がカウンター奥から出て来る。年齢はエミリーたちと同じくらいだろうか。こちらも美少女である。小柄だが均整の取れた体つき。おさげにした髪型に大きなスカーフのようなバンダナを巻いている。服はオシャレなエプロンのようなものを着ている。首には奇麗な首飾りがかかっていた。
「おばあ様、どうされたのですか」
「ああ、メアリ。こちらは、冒険者のトールさんだよ。レア素材をたくさん頂いたので、これで役立つものを作ってみるといいよ」
「まあ、こんなにたくさん……。トールさん、ありがとうございます。あっ、私は錬金術師のメアリと言います。以後お見知りおきを」
こうして、俺はメアリさんを紹介されて、試作品を作ってもらうことになった。
ジーナさんの話では、メアリさんはジーナさんの孫娘とのことで、錬金術の才能があるとのことだった。今はジーナさんの下で錬金の修行をしているが、すでにかなりの腕前になっているそうだ。
「トールさんはこれをダンジョンで、拾われたのですよね。いいですね~。私も素材集めなどしてみたいのですが、さすがにダンジョンは怖くて」
メアリさんは明るく苦笑いする。
「そうですか。また何か珍しい錬金用の素材が手に入ったら、持ってきますね」
「はい! ありがとうございます、トールさん」
俺はメアリさんの胸元にある首飾りが自然と目につく。
「そういえば、メアリさんは素敵な首飾りをしてますね。自分で作られたのですか?」
俺は、アクセサリー売り場の方で目をキラキラさせて品物を見ているエミリーとミーアを横目に見ながら尋ねる。
「あ、これは特別なもので、我が家の家宝なんです。私じゃまだ作れませんね」
メアリさんは笑う。
「トールさんや。それは私の更に先代が作ったもので、希少な素材を組み合わせて偶然出来たものらしいんだよ」
ジーナさんは言う。
俺は興味が湧いて来た。メアリさんの首にかかっている奇麗な首飾りを見ていると、無意識に鑑定機能が発動して来た。
~~~鑑定~~~
錬金術師のアミュレット(激レアアクセサリー:首飾り)
・装備時、魔力+10、幸運+20
・錬金術Lv+1
・錬金時、クリティカルが出やすい
~~~~~~~~
「おおお!! 凄い!」
つい叫んでしまった。
「ど、どうされたのですか!? ……トール、さん?」
「あ、いえ、すみません。何でもないです。気にしないで下さい」
錬金術でこれほどの物が作れるなんてびっくりだ。
これはよほどレアな素材を組み合わせたのだろうか。ユニークアイテムの性能に匹敵する。いやそれ以上の可能性すら感じる。
もし、ユニークアイテムの錬金用素材が出た場合、それを使って錬金すると凄いことになりそうだ。よし、その時はメアリさんに錬金をお願いしてみよう。俺は錬金術に俄然興味が湧いてきたのだった。
スキルを得るためには、まずステータスを得なければならないが、これは教会や冒険者ギルドなどで、この世界の神の洗礼の儀式を受ける必要がある。
ステータスを得た場合、なんらかの初期スキルが与えられるが、「錬金術」が得られる可能性はかなり低いらしい。錬金術スキルを得ようとした場合、レベルを20まで上げて、「錬金術師」という職業に転職する必要があるのだ。ただし、転職可能職業に「錬金術師」が無ければ、なれないのだ。
なんだか前世で言えば、職業選択の自由が、才能や家柄などにより制限されているようにも感じるな……。
おそらくメアリさんは錬金術師という家系が関係してるのだろう。ダンジョンには行っていないみたいなので、きっと初期スキルで錬金術が与えられたのだろう。幸運なことだ。
まあ、それはともかく、錬金術は貴重なスキルだ。俺もいつか何らかの手段で手に入れたいと思う。
ただし、錬金術は生産性スキルなので、SPを使って上げることが出来なく、ひたすらそのスキルを使用することでレベルが上がっていくものらしい。鍛冶や裁縫などのスキルなんかも生産性スキルの代表だが、これももちろんSP使用は出来ない。こういったところはモフのスキルレベルアップの仕方と同じだな。
まあ仮に俺が生産性スキルを得たとしても、冒険者としてのレベルアップが優先だ。地道に生産性のスキルを上げる時間と余裕はないかもしれないな……。
おっと、つい考え込んでしまったな。
「では、トールさん、試作品の件、期待に沿えるよう頑張って作ってみますね」
「はい。メアリさん、よろしくお願いします」
「ひっひっひっ、トールさんや。孫娘に手を出してはだめだよ~」
ジーナさんは、美少女3人組を横目に見ながら、冗談か本気か良く分からないことを俺に言い、くしゃりと笑った。
店を出た。
結局、イナリは気に入った杖がなかったらしい。まあ、そのうちユニーク杖が出ればイナリにプレゼントしようと思う。それまでは、魔力の上がる「土の腕輪」などを贈るつもりだ。
エミリーとミーアが、俺の首にかかっている「キャッツアイ」を物欲しそうにじーっと見ていた。
やっぱりアクセサリーはいいよな。男の俺でも奇麗な宝石は大好きだ。よし、これも皆に後でプレゼントしよう。またC級ダンジョンにちょっと行って取って来るかな。
こうして俺たちは、エルフの里へ行くことについて改めて話した後、別れたのだった。
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