5話 スライム狩り 再び
ダンジョンにやってきた。
昨日は2階層で死にかけたので、さすがに2階層に行くつもりはない。
ホーンラビットを倒せたのはほとんど偶然に近いもので、レベルが一つ上がったとはいえ、今の段階では、とてもじゃないがもう一度同じように倒せる気がしない。
今日はいつも通り1階層でスライム狩りをするつもりだ。
ドロップ率が大幅に上がったおかげで金策が捗りそうだ。お金を貯めてもっと良い武具を買うことも出来そうだ。
しかしそれ以上に、ユニークドロップの存在が気になる。
狙うのはスライムのユニークアイテムだ。
一体どういうアイテムが落ちるんだろう。今からワクワクが止まらない。
早速、鉄の短剣を手にスライム狩りを始める。
スライムの通常ドロップはスライムゼリーだ。回復薬であるポーションや料理、家具の接着などいろいろな用途に使われる補助素材だ。需要はそこそこあるが、買取単価は安い。
そして、レアドロップはスライムロイヤルゼリーだ。こちらも用途はスライムゼリーとおおむね同じだが、上位素材なので買い取り単価はスライムゼリーの10倍以上になる。まあ、スライムゼリー自体が安価なのでたいした金額にはならないが。
ちなみに「魔石」は魔物を倒した場合、必ずドロップする。
魔石は魔物の核となるもので、スライムの場合は、「スライムの魔石」というふうに魔物名で呼称される。そして魔石は、魔道具の燃料や錬金等の素材をはじめさまざまな用途に使われている。
通常ドロップアイテムより、基本的には安価だが、収入源になるので、必ず拾う。
「ふぅ……ちょっと休憩しよう」
階層内を駆け巡りスライムを30体程狩った。
成果は……
スライムの魔石 30個
スライムゼリー 24個
スライムロイヤルゼリー 5個
「これはすごいな……狩るたびに何かしら落ちる感じだな」
今までにないドロップの多さだ。
今朝ステータスで確認した通りの確率でアイテムを落としている。ちなみに1体の魔物から通常アイテムとレアアイテムを同時に落とすこともある。
「あらかじめ大きめの鞄を用意して来てよかった」
背負いの鞄の中は、今までにないほどの狩りの成果が詰まっている。
これだけあれば今日の稼ぎとしては十分だ。
「だがまだユニークアイテムは落ちないな……そろそろ来てもいいころなんだが。よし、まだまだ狩るぞ!」
こうしてさらにスライム狩りを再開して数匹目のことだった。
ザシュ!
消えていくスライムの中心から、虹色に輝く何かが現れた。
天からの声が聞こえてくる。
≪ユニークアイテム、『水の宝玉』をドロップしました≫
コロン。
「来たあああああああ!!」
俺はガッツポーズを取った。
≪初めてユニークアイテムを取得したため『女神のドロップ』スキルに鑑定機能が追加されました≫
俺は興奮して落ちたアイテムを見つめる。
水色の奇麗な宝玉だ。
手のひらにすっぽりと収まるくらいの大きさの丸い玉だった。手に取ってよく観てみると透明な水色の玉の内部に小さな藍色の斑点が10個くらい見える。神秘的な感じだ。
これは、どういうアイテムなんだろう。
「そういえば、先ほど鑑定機能が追加とかなんとか言ってたな」
俺はステータスを開いて、女神のドロップスキルの項目を確認した。
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ユニークスキル
女神のドロップLv3
追加効果:鑑定(ドロップアイテムに限り鑑定が可能)
…………………………………………
「お、これで今後ドロップアイテムの鑑定が出来るな。これは便利だ」
早速、手のひらに乗せた水色の玉を、ドキドキしながら鑑定してみる。
~~~鑑定~~~
水の宝玉(消耗品)
・水魔法:ウォーターボールが使用出来る。
・使用回数は10回。
・手に握りイメージするだけで魔法が発動する。
~~~~~~~~
「おおお!! 魔法が使えるのか!」
これはすごいことになった。
魔法自体比較的レアなスキルで、魔法を使える冒険者は意外に少ない。
回数に制限があるとはいえ魔法が使えるのは大きな戦闘力の向上だ。
さて、早速使ってみたいがどうしようか。
まずは、試しにスライム相手に魔法を使ってみるとするか。
俺はスライムを見つけ、ある程度の距離を取った。左手に水の宝玉を握り、スライムに向かって手を伸ばす。
「え~と、イメージすればいいんだったな…」
「ウォーターボール!」
俺は声を出して念じた。
その瞬間、手の内の宝玉からスライム目がけて勢いよく大きな水の玉が飛び出した。
バシューーン!
一瞬のうちに吹き飛び、消え去るスライム。
「おお、一撃だ!」
「これが魔法か……すごい」
予想以上の魔法の威力と手ごたえに俺は興奮していた。
これならば先へ進めるかもしれない。
しかし帰宅が遅くなり、リンを心配させるといけないので、いつものようにスライムを50体ほど狩ってダンジョンを後にした。
そして戦利品を売却するために冒険者ギルドへと向かった。
――本日の収穫――――
・スライムの魔石 50個
・スライムゼリー 40個
☆スライムロイヤルゼリー 7個
★水の宝玉 1個
(☆レアアイテム、★ユニークアイテム)
―――――――――――
――冒険者ギルドにて
カラ~ン
冒険者ギルドの扉をくぐり売却用の受付に行く。
「あ、トールさん、こんにちは~」
馴染みのギルド職員であるエメルダさんが声をかけてくる。
明るくて美人の若い女性だ。
金髪のセミロングにスタイルも抜群。冒険者の間でも人気の女性職員だ。
「こんにちは、エメルダさん。今日も買取りをお願いします」
「はい、お疲れ様です~」
俺は大きな背負い鞄をカウンターに置き、今日の戦利品をどんどん出していく。
もちろん水の宝玉は自分用に隠し持ってるけどね。
「え、こ、この量は……」
ちょっとびっくりした様子のエメルダさんだった。
「それにしても今日はずいぶん多いですね…特にドロップ素材やレア素材まで……」
「はい、今日は頑張って狩りましたから」
ちょっと多すぎたか。不審に思われなければいいが……。
「そ、そうですか…それにしても、トールさん、頑張りすぎですよぅ~」
お互いあはは、と笑いながら、換金を待つ俺。
まもなくして査定が終わり、エメルダさんが支払いをしてくれた。
「はい、トールさん。今日はすごいですよ! なんと、2万2600ギルになります」
「おおーー!」
これは自分史上最高額の買取金額だな。
いつもの10倍以上の金額だ!
いつもは一日に稼ぐギルは大体2000ギルほどだ。
安いパンの値段が1個100ギルほどである。
一日三食を妹と二人で食べていくのに、パンだけで最低600ギルかかる。その中から他の食材や生活必需品などを買えば、ギリギリの生活になる。
リンが山菜取りや自宅の庭で細々と畑を作っているので、野菜類に関してはおおむね自給自足で賄ってはいるが、やはり肉などの食材は高いのでそうそうは買えない。
一応、亡くなった両親が残してくれた自宅とある程度の貯金があるので、少しは安心感はあるのだが、これから先のことを考えると節約生活をせざるを得ない。
しかし、今日は2万ギル以上の収入だ。いろいろと奮発できそうだ。
少し不思議そうに首をかしげるエメルダさんだったが、俺はホクホク顔でギルドを後にした。
今日は、帰りにリンへのお土産に、普段はほとんど食べることの出来ない甘いお菓子を買って帰った。