49話 腰マントと贈り物
朝が来た。
昨日は遅くなったのでギルドに寄らずに帰った。結局10階層から14階層まで一気に攻略したのだった。
B級ダンジョンをここまで短期間で攻略出来たのはやはり、ユニークアイテムを中心とした装備のおかげだ。
さて、あれからどれだけレベルが上がったのだろうか。
ステータスのレベルだけ見てみる。
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トール Lv50 → Lv58
モフ Lv48 → Lv56
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「おお! レベルが8も上がってるな!」
12階層付近はレベルが50台の敵も結構出て来たからだいぶこちらのレベルも上がり易くなった。
14階層のウッドゴーレムはレベル60だしな。これから更に先に進むにつれレベルアップ効率が高くなりそうだ。
そんなことを考えていると、俺のスマーフォからピコピコと音が鳴った。繋いでみる。
『トールさーん、シャンテですよぉ~。例の腰マントが出来上がってますよぉ~。早く取りに来てくださいね~』
シャンテからだった。ああ、そっか、そういえば腰マントをオーダーメイドしてたな。俺は思い出す。
「シャンテー、分かったー。後で取りに行くからなー」
スマーフォを切る。
さて、昨日はダンジョン攻略もかなり捗ったことだし、今日はシャンテのところにでも行ってみるか。
◇
もふもふくへ来た。シャンテの仕立て部屋に向かい声をかける。
「おーい。シャンテー。来たぞー」
「あっ。トールさん、来ましたねぇ~。腰マント出来ましたよぅ~」
シャンテが奇麗に折りたたんだ腰マントをカウンターに持って来て、俺に手渡して来る。
「やっとこれでゴブリンの腰巻とおさらば出来るな」
渡された腰マントを広げて見てみる。
「おお! なかなかカッコイイ感じだな!」
「ふっふっふ、私が作ったものですからねっ。 当然ですよぉ~」
濃い緑色に艶のある短めのマントだ。マントの真後ろに、いつものシャンテの似顔絵の刺繍が付いている。エムブレム刺繍ってやつだろう。
そして、左右の腰横の少し前辺りに、それぞれ1つずつ丸い魔法陣のようなものがついている。
俺はその奇麗な腰マントを鑑定してみる。
~~~鑑定~~~
シャンテの腰マント(ユニーク防具:腰)
・防御力(DR)5
・装備時、精神+10、幸運+10
・付与スキル 飛針術Lv3 [紋章効果]
・自然浄化(上)
・腰の冷え予防効果(大)
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「おおお!! 素晴らしいじゃないか!!」
俺は賞賛の声を上げる。
シャンテは、いつものように胸を張って、さも当然とばかりに目をキラキラさせて俺を見ている。
「さすが、シャンテ。相変わらず素晴らしいじゃないか! やはり俺のパートナーなだけはあるな!」
俺はシャンテの肩を両手で掴み、そう言った。
「えっ! そんなっ、私と……人生のパートナーだなんてっ!……もう~トールさんてばぁ~。えへへっ」
シャンテは顔を赤くして、自分の指先をこねくり回しながら、もじもじして言う。
いや、そこまでは言ってないが……。
しかし、このやり取り、何か既視感を感じるな……。
それはそうと、この腰マント。前回の冒険者服と同様、素晴らしい効果が満載だ。
そしてなんといってもやはりこの紋章効果だ。
飛針術Lv3。またしても裁縫らしい付与スキルが付いている。これは、針を飛ばして攻撃出来るのだろうか。
俺は、ゴブリンの腰巻を収納し、シャンテの腰マントを装備する。
「マントの横にある魔法陣に、攻撃用の魔力針が収納されてますよ~。そこから取り出して針を投げるのですよ~」
シャンテは少し顔を赤くしたまま説明する。
なるほど。魔法陣に手を入れると確かに魔力針が入っているようだ。ここでは実験できないので後で使用感を試してみるとするか。
あ、そうそう。先日8階層のキラースパイダーから入手した糸を使えるかどうかシャンテに聞いてみよう。
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蜘蛛の糸(素材)
・強い糸
・服などの素材として用いられる
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黄蜘蛛の糸(レア素材)
・魔力が込められている強力な糸
・防護服などの素材として用いられる
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「シャンテ、ちょっと見てもらいたい糸があるのだが。使えるのかどうか教えてくれ」
俺は2種類の糸を取り出してそれぞれシャンテに見せる。
シャンテの目が怪しく光った。
「ふむふむぅ……あっ! こちらの黄蜘蛛の糸は希少なものですねっ! この黄金色に輝く糸は素晴らしい、です! この前の新種の糸ほどじゃないですけど、これを使えばかなり良い冒険者服などが出来ますよぉ~。もう一つの糸は通常ドロップ素材の糸ですねぇ~。こちらも魔物が強いのでそれなりに良い服が出来ますよぉ~」
なるほど……。俺は考える。せっかくなので、このレア素材の糸の方で、ガイたち3人分と、出来ればエミリー、ミーア、イナリの冒険者服も作ってもらいたいものだ。
今、レア素材の黄蜘蛛の糸は3つある。シャンテに聞いてみる。
「シャンテ、このレアの糸3つで何着の冒険者服が作れそうなのか?」
「ふむぅ、その糸1つで1着ですねぇ~」
「なるほど。それじゃあ3着作ってくれないか? えーと、1人は男性用で、もう2人は女性用だな」
とりあえずガイたちの冒険者服を作ってもらうことにした。
そして俺はガイたちの身長や体格などをある程度伝えた。シャンテによると、多少体に合わなくても魔力の力で着たときにぴったりのサイズになるそうだ。便利なものだ。
エミリーたち美少女亜人たちの分は、また今度の機会に作ってもらうことにしよう。そうだ、出来ればシルスレッダ(ユニーク糸)でもいいし、もっといい糸が手に入ればそれで作ってもらくことにしようか。せっかくなので、彼女たちに似合うデザインのものを作ってもらうのもいいな。
ふっふっふ、エロいデザインのものとか、ある程度露出度の高いものとか……メイド服仕様などもいいな!
俺はそんな不埒なことを考えながら、シャンテに服製作を任せて、もふもふくを後にした。
◇
そろそろ昼時になっていた。時間が中途半端なのでぶらぶらと散歩していると、ギルド前にたどり着いた。ついでなので少し寄って行くか。
――カラン。ギルドの扉をくぐり中へ入る。
「あ、トールじゃないか」
ガイ、アスカ、メイの3人組がいた。どうやらギルドで待ち合わせてこれからダンジョンに向かうようだった。
ああ、ガイとアスカは朝が苦手で、いつも遅い時間からダンジョンに入るんだったな。
そうだ、ちょうど良かった。俺は思い出した。3人にユニーク装備をプレゼントするんだった。
「エメルダさん。ちょっと個室借りてもいいですかー」
俺はエメルダさんの許可を取って、ガイたち3人と一緒に個室に入った。
俺は個室の中で3人にユニーク装備をプレゼントした。
ガイに黒炎の大剣、アスカにフレイムソード、メイに土の腕輪だ。
3人にそれぞれ装備してもらい、感覚を確かめてもらう。
「おお!! 力が溢れてくるぜ! それにこの黒炎! かっこいいぜ!」
「す、凄い! 体中に力が溢れるようだわ! それにこの炎も凄いわ!」
「わ、わっ! 体が強くなったみたいですっ! それに土魔法のイメージが湧いてきますっ!」
「と、トールほんとにいいのか! こんな凄い大剣を……恩に着るぜ!」
「トール、ありがとね! この剣、すごく素敵だわ!」
「トールさんっ! ありがとうございます! 凄い腕輪です!」
「おう。遠慮なく使ってくれ。ただし、このことは一応、皆には内密にな……」
コクコクと頷く3人たち。
彼らはその武器や腕輪がユニークアイテムだと言うことはまだ知らない。今はそれでいいのだ。
こうして俺は、喜び勇んでダンジョンに向かう彼らを見送ったのだった。