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46話 烽火台の番人たち


 日が暮れた烽火台(のろしだい)の広場で、皆で焚火を囲んで談笑する。酒も入っている。


 焚火に照らされた烽火台が、星空を背景に大きな影を映し出している。


 烽火台の番人たちの一人で、先ほどゴーダと名乗った男が俺に話しかけてくる。


「トール君といったかな。男爵の使いの者から聞いている。先日はダンカンを始め騎士団たちを救ってくれてありがとう」


「あ、いえ、偶々成り行きで……ダンカンさんたちとは知り合いだったのですか?」


「そうだな……俺は元々は騎士団員だった。ダンカンたちは騎士団の仲間であると共に友人みたいなものだったな。ダンカンがまだ騎士団長になる前の古い話だ。俺は元々騎士団の中では戦いはあまり得意ではなかった。そんな中、ダンカンたちはいつも俺のことを気にかけてくれ、一緒に剣の稽古を付き合ってくれたものだったな。そのおかげで人並みには剣の腕が上がり、体力もついたと思う。だがその後、足を悪くしちまって、この烽火台の番人として志願したのだ。元々俺は、諜報向きの人間だったので、この仕事には向いてると思ってな。まあ、今では足もほぼ回復して不自由はないがな」


 ゴーダさんはふっと微笑む。


 俺はゴーダさんを見つめながら話を聞いていると、自然に鑑定スキルの一部が発動して来ていた。


―――鑑定―――


ゴーダ 

スキル:遠望Lv3、剣術Lv2


――――――――


 なるほど、遠望Lv3か。遠くを見るにはいいスキルだな……。

 おっと、あまり他人のステータスを覗いてはいけないな。俺は無意識に発動した鑑定スキルをすぐさま打ち消す。 



「ところで、ゴーダさんたちは毎日ここに詰めているのですか?」


 俺は広場の一角にある山小屋に視線を移し、聞いてみる。烽火台の番人の仕事に少し興味を引かれたからだ。


「ああ、ほとんど毎日あの小屋に詰めている。たまに交代で街に戻ることはあるが、あの小屋が俺たちの住居みたいなものだな」


 ゴーダさんは笑いながら言う。


「トール君、ここはいいぞ。自然に囲まれて山小屋で暮らす。そして丘の上から街や遠くの景色を眺めて過ごす。心も洗われるというものだ」


「へえ~それはいいですね。俺もそういう暮らしに憧れますね。まあ、今は冒険者としてダンジョン攻略が楽しいですが」


 ゴーダさんは笑う。


「そうか、トール君は冒険者だったな。そういえば、ここからはB級ダンジョンの入り口辺りが良く見えるぞ。毎日大勢の冒険者たちを目にするな」


 ゴーダさんと俺が話していると、別の番人さんたちも話の輪に入って来る。


「ほうー。兄ちゃん、冒険者だったのか。俺も騎士団の現役時代にダンジョンに潜ったことはあるぞ。ダンジョンはいいよな! まあ俺の場合は、B級の12階層辺りが限界だったけどな! 兄ちゃんは今どこまで行ってるんだ?」


 番人の一人が楽しそうに話す。


「俺はまだ9階層ですね。昨日達しました」


「おお! 若いのにもうそんなところまで行ったのか。すげえな兄ちゃん! おや? そこの大きな猫は兄ちゃんの連れかい? 珍しい猫だな」


「はい。俺の従魔でモフといいます。ダンジョンの中で仲間になりました」


「従魔か! こりゃたまげたな! 従魔持ちの冒険者なんて久しく見てないぞ!」


 皆がモフを興味深く見つめる。


 別の番人の人が話始める。


「ダンジョンと言えば、先日の真夜中のことだ。俺が烽火台の上から監視番をしてたんだが――ダンジョンの辺りから赤い光が立ち込めていたんだ。俺は今までそんな光景をみたことがなかったが、あれは一体なんだったのか……不思議なこともあるもんだと思ったな。あの日はたしか満月の夜だったな。少し赤い満月だったのを覚えている」


 俺は思い出す。

 その日は確か、俺が迷宮主に挑戦する前夜だったと思う。ギルドの帰りに見た満月が脳裏に浮かぶ。

 俺は考える。迷宮主のイレギュラーと何か関係があるのだろうか? 


 俺が考えに耽っていると、更にもう一人の番人が、話始める。


「赤い光って言えば、4年前のマルカ森の事件のときもそうだったぞ。あの事件が起こる数日前から、マルカ森の向こうからたまに、赤い光が空に出てたぞ。あれはなんだったのか当時は不思議に思ってたが、今から思えば、怪しいものだな」


「おう、俺もその光を見たぞ。あれはマルカ森の向こうにある、ゴダの山林地帯からじゃねえのか?」 


「ゴダの山林か……。あそこはほとんど誰も立ち入らないところだな。山林っていうかほとんど密林みたいなところだぞ。あんなところに一体何があるんだ?」


 俺は考える。

 ゴダの山林地帯。俺も話には一応聞いていたが、マルカ森の更に向こうにある開発が進んでない地帯だったはず。

 4年前、マルカ森に現れた謎の影と魔物たち。

 もしかすると、ゴダの山林に身を隠し、根城にしていたのかもしれない。


「まあ、トール君、あの事件以来、マルカ村にも烽火台が建てられたのだ。そこにも烽火台の番人がいる。ゴダの山林も含めてマルカ村に何か異変があったら、そこの烽火(のろし)が上がるはずだ。もしマルカ村の烽火が上がったら、ここからなら烽火がよく見える。その時には、ここの烽火も上げて、街の皆や騎士団に一刻も早く伝える手はずになっているんだ」


 なるほど、以前男爵も、日頃から領内の変化に注意していると言っていたな。男爵もいろいろな手を打って領内の不穏を監視しているみたいだな。


「まあ、ここの烽火台は、元々は領内に異変があった時に、隣の領主や王都などに救援を知らせる為に作られたものだがな。逆に、王都からの緊急救援を監視する場所でもある。トール君、ここからなら街の南門を抜けた遥か先にある小山がかすかに見えるだろう。そこの小山の頂上にも烽火台があるのだ。その烽火が上がった時は、我々の騎士団も隣りの領内や王都に救援に向かうことになるのだ」


 なるほど、王都はこの街の南の方角にある。領都フォレスタの南門からほぼ真っすぐ南に街道が走っている。王都への街道だ。その先に街道沿いに小さな小山があるのは、俺も知っていた。そうか、あそこの山の頂上にも烽火台があるのか。


 

 俺はその後、ゴーダさんを始め番人さんたちから、いろいろなことを教わった。

 例えば、烽火の色を変えることで、情報の意味を伝える方法や、色を変えるには特定の魔物の魔石を火に()べる方法などだ。

 ちなみに王都へ緊急を知らせる場合には紫色、領内に知らせる場合は赤色といった感じだそうだ。


 普段の生活で触れることのなかった話に、俺は興味深いものを感じた。



「しかしあれだな。最近はスマーフォとかいう魔道具が王都を中心に出回ってるらしいじゃねえか」


 誰かが言う。


「おう、俺も聞いたことあるぞ。何でもそれを持つ者同士、直接話が出来るらしいじゃねえか。それがあれば俺たちの仕事も必要なくなるんじゃねえのか? なんか、寂しく感じるぜ」


 皆は少し寂しそうに苦笑する。


 ゴーダさんは言う。


「まあ、スマーフォは便利かもしれないが、まだ遠くの距離だと使えないらしいな。ここからマルカ村だってかなりの距離がある。まずスマーフォでは連絡を取り合うことは無理だろう。それに異変が起こった時に、街中の皆全員に知らせるには烽火を上げるのが一番だ。まだまだ当分は烽火は必要だろうな」


 俺は前世を知っている。技術革新の中で失われて行った数々のものたち。


 いつになるか分からないが魔道具の性能が上がり、いずれこの烽火台が廃れ、過去のものになる日が来るかもしれない。


 しかし、俺は今日この日のことをきっと忘れることはないだろう。


 烽火台の番人たち。


 気さくで気のいい楽しい人たち。


 彼らの使命に生きた記憶は、俺の中で、いや俺以外の多くの人の記憶にきっと刻まれ生き続けることだろう。



 焚火に照らされて、ほんのりと赤みを帯びた、そびえ立つ大きな烽火台。


 その烽火台を包み込むかのように満天の星が輝いていた。


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