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44話 街を散歩する


 朝が来た。


 昨日は9階層まで攻略できた。

 遅くなったのでギルドには寄らずにそのまま帰って来たので、収穫物は空間魔法のアイテムボックスに入ったままだ。


 空間魔法か……。


 俺はこの魔法をアイテムボックスとして取得したが、最終的な目的は「転移」の能力だった。


 ふと思いついて空間魔法Lv3の詳細を感覚で見てみる。


 空間魔法Lv3(アイテムボックス〈中〉、アイテムボックス〈大〉、空間操作) 


 う~ん、まだ「転移」は出来ないようだな。しかし、この「空間操作」という派生スキルが気になるな。


 更に詳細を感覚で探ってみる。


―――――――― 


空間操作

・空間をゆっくりと操ることが出来る

・物を浮かべることが出来る

 (重いものほど魔力を消費する)

・見えない空間の壁や箱を作れる

 (強度に応じて魔力を消費する) 


――――――――  


「ふむふむ、なんとなく分かってきたな」


 俺は手始めに、隣にいるモフを空間操作で浮かべて見ることにする。ゆっくりとイメージしてみる。


「にゃ!? にゃにゃ、にゃ!?」


 モフの周りの空間が少し歪んだ気がして、モフは宙にゆっくりと浮いている。


「なるほど、こんな感じか。なかなか面白いな」


 俺は再びゆっくりとモフを降ろしていく。


「にゃー?」


 モフは目をきょとんとさせて不思議がっているようだ。


 今度は見えない空間の壁を作ってみる。俺とモフの間に作った。魔力はあまり込めていない。


「モフ~こっちへおいで~」


 俺はモフを呼ぶ。モフはこちらに歩いて来るが、途中で見えない壁に突き当たりジタバタしている。まるでパントマイムをしているようだ。


「モフ、試しに猫爪で、見えない壁を攻撃してくれ」


 モフは、猫爪で見えない壁の辺りを攻撃する。


 パリィイイン!


 見えない空間の壁が壊れたようだ。モフは素通りして俺の元にやってきた。


「なるほど。なんとなく分かった」


 使い道はまだはっきりと思いつかないが、使い方次第では、かなり便利そうではある。


「ん? そういえばモフも空間魔法持ってるじゃないか! しかもレベル4だ!」


 俺は今更ながら気が付いた。モフが空間操作を使うのを見たことがなかったので、今まであまり気にも留めてなかったのだ。


「モフ、俺がやったことと同じことが出来るか?」


 そう言うと、俺の体がゆっくりと宙に浮かんでいった。


「おお! この感覚は面白いな!」


 やはりモフにも出来るようだ。まあ、当たり前のことだが……。


 さて、モフの空間魔法はレベル4。Lv4の派生スキルは何だろう? 

 俺はドキドキしながら、モフのスキルを探ってみる。

 


 空間魔法Lv4(アイテムボックス〈中〉、アイテムボックス〈大〉、空間操作、転移〈小〉) 


「おおおお!! モフが転移を覚えてる!」


 ということは俺もSPを使って空間魔法のレベルを4にすれば同じように使えるってことか。しかし、転移〈小〉の小という部分が引っかかるな。


 転移〈小〉の詳細を探ってみる。


―――――――― 


 転移〈小〉

・空間転移出来る

・ただし3メートルまで

・魔力消費(大) 


―――――――― 


「う~ん、3メートルかあ……。それに魔力消費が多そうだな……」


 いざという時に、敵の攻撃を転移で避けることが出来るのは良いかもしれない。

 とはいっても、転移〈小〉だと燃費が悪そうだ。中とか大とかになれば、かなり実用化できるのかもしれないな……。


 

 朝っぱらからこんな実験をしていると、リンが部屋に入って来た。


「お兄ちゃん、何してるの? もう朝食出来てるよ」


「お、おう、ちょっと実験をだな……」


「ふぅ~ん……ところでお兄ちゃん、最近ダンジョンばかり行ってて、ちょっと根を詰めすぎなんじゃない? たまには休まないと、体を壊しちゃうよ」


 リンが心配して来る。


「お、おう、そうだな……。たまには休んでみるか」


 リンがニーッと笑う。


「それじゃ、お兄ちゃん、朝食が済んだら『ポゴリア』で、ミートサンドを買ってきてね。お兄ちゃん、知ってた? 最近、あそこのミートサンド、凄く美味しくなったんだよ!」


 リンは楽し気に言う。


「ほほーう、そうなのか。それは楽しみだな」


 ポゴリアとは、例のポゴタさんのところのパン屋さんだ。奥さんの名前がダリアなので、ふたりの名前をそれぞれ取って店の名前にしている。……まあなんというか、ネーミングセンスはともかく、仲がいいことだ。 


 俺は昨日エメルダさんたちが言っていたことを思い出す。もしかすると俺の納品するお肉を使ってるのかもしれないな。





 朝食後、俺はモフと一緒に散歩がてら、ポゴタさんのパン屋に行く。


 そういえば、あの件(エロリィナイト)はどうなったかな? 非常に気になるのだ。ふっふっふ、丁度良いタイミングでリンからお使いを頼まれたな。


 パン屋の扉をくぐる。


「こんにちは~。ミートサンドをくださいな~」


 さりげなくカウンターを覗き込みながら俺は声をかける。


「あら、トールさん、いらっしゃい! いつもありがとうね!」


 奥さんのダリアさんから、元気な声が返って来る。いつも明るいダリアさんだが、今日は特別に明るく楽しそうだ。それによく見るといつもよりお肌がツヤツヤして輝いて見える。


 ほほーう、ポゴタさん、上手くいったのかな。


 ふとカウンターの奥を見ると、ダリアさんの後ろから、ポゴタさんが満面の笑みでこちらに向かってグッと親指を立てている。ポゴタさんも先日とは打って変わって、血色がよく元気に満ち溢れているようだ。


 おお! ポゴタさん夫妻、どうやら昨夜はお楽しみだったようだ。良かったね!


 ふっふっふ、さすがユニークアイテム「エロリィナイト」だ! 実験は大成功だ!

 俺もいつかはエメルダさんと……おっといけない。ここから先は18禁だ。自重しよう。まあ俺は18歳だけどね。


 俺はミートサンドをたくさん買い、扉を開けて店を後にする。


「トールさん! ありがとうございました!!」

「トールさん! いつもありがとうね!」


 ポゴタさん夫妻のいつになく元気な声が、後ろから聞こえて来た。





 その後、俺とモフはのんびりと街を散歩する。ここ最近ダンジョンばかり通いつめていたせいか、街並みの風景が新鮮に思える。


 ここ領都フォレスタは、古くから外壁に囲まれた都市だ。


 街には東西南北にそれぞれ門があり、安全が確保されている。外壁は街の周囲に広く円を描き、街の中は十分な広さがある。外壁はさほど高くはなく圧迫感は感じられない。その古い外壁には所々草や蔦が絡みついているのが見える。


 ここはいい街だ。


 王都のような華やかさはないが、街の中には、暮らすには十分な産業があり、何よりも自然がある。街外れには樹々や草花が多く、のどかな畑が広がっている。


 俺は街の外壁の内側付近をぐるりと周りながら自然を楽しむ。


 しばらく歩くとB級ダンジョンの裏手にある少し小高い丘にたどり着いた。この丘は街の西側の端の方にあり、西側の外壁のすぐ内側にある。草花が生い茂り樹々が所々に生えている。領都内で一番高い場所だ。


 丘から街並みがよく見える。反対側の外壁の外には草原が広がっているのが見える。眺めがいい。

 街の西門から出た道が、草原の中央をゆるりと曲線を描きながら、遠くに見える森まで続いている。


 丘の中央附近には、樹々の間から、高い烽火台(のろしだい)が見え隠れしている。  


 俺はなんとなく面白そうに感じたので、烽火台の方に行ってみる。


 近づいていくと何やら大勢の騒々しい声が聞こえて来る。男たちの野太い声が響いてくる。



「おーい! もう少し左だ!」

「いや、そうじゃない! もうちょっと右だ!」

「おーい、気を付けろよ!」

「まどろっこしい! 俺がやる!」


 烽火台(のろしだい)に着くと、十数人くらいの(たくま)しい中年の男たちが、大きな丸太や建材を持って騒いでいる。


 どうやら烽火台の修理をしているらしい。


 その烽火台は、かなりの高さがある。土塁の幅も広い。


 烽火台に立てかけられた梯子や仮設の高い踏み台に男たちが乗って、古くなった部分を新しい建材に交換しようとしているようだ。


「親方! 危ない!!」


 ――その時、一人の男が高い踏み台から足を滑らせて勢いよく落ちて行った。


 俺は即座に反応した。


「空間操作!」


 落下していく男の周囲の空間を素早く操作した。


 すると、落下の勢いがゆっくりとなり、男はふわりと空中に浮いていた。

 俺はそのまま空間操作をして、男をゆっくりと着地させる。



「お、おお、た、助かった……のか?」


 落ちた男も、それを見ていた男たちも皆、唖然としている。一体何が起こったのか一瞬事態を飲み込めてない様子だった。




 落ちた男が話しかけて来る。背丈は低いが体格はがっしりとした精悍そうな男だ。


「も、もしかして、お前が、助けてくれたのか!?」


「ええ、まあ……。ちょっとした魔法を使いました」


 すでに俺の挙動は、大勢に見られてしまったので正直に答えた。


「そうか……。ありがとな、兄ちゃん。助かったぜ」


「いえ、たまたま居合わせただけです。とにかく無事でよかったです」



「兄ちゃん! やるじゃねえか! 親方を助けてくれてありがとな!」

「しかし、そんな魔法があるのか! すげえな!」


 どうやら、落ちた男は皆から親方と呼ばれているらしい。


 その男が再び話しかけて来る。


「兄ちゃん、名前はなんという?」


「あ、トールといいます」


「そうか……。俺は、建築ギルドを仕切ってるバッカスだ。ドワーフ族の者だ。お前は俺の命の恩人だ。ドワーフの男は恩を忘れねえ……。トール、お前は俺たちの仲間も同然だ。何かあったらいつでもお前の力になるぜ!」


 そのドワーフの男はそう言って、豪快に笑った。


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