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42話 パン屋の店主の悩み

 

 6階層まで攻略が終わった。


 ダンジョンを出てギルドへ向かう。昨日はギルドに寄らなかったので今日は立ち寄ろうと思う。エメルダさんたちの顔もみたいしな。


 今日は2日分の収穫物の売却だ。一部の食材などは、自分たち用に売らずに残しておこうかな。後でリンに渡そう。



 ――冒険者ギルドにて


 ギルドの扉をくぐりカウンターの方を見るとエメルダさんと目が合う。


「あっ! トールさん、こっちこっち」


 個室に目をやり、手招きされる。


 いつもの個室に2人で入る。


「トールさ~ん。一昨日はありがとうございました! あんな大きな極上のうさぎ肉をいただけるなんて、マスターも感謝してましたよ!」


「あ、いえいえ、つい嬉しくなったもので。喜んでいただけたのなら俺もうれしいです」


「さすがにお肉が余ったので、商業ギルドに引き取ってもらいました。売却で得た利益はトールさんの言われた通り、すべて初級冒険者さんたちのために還元させていただきますね」


「いやーそうしていただけると俺も嬉しいです。ご面倒おかけします」


 エメルダさんは微笑む。


 早速買取の準備に入った。すぐに、モカさんも入って来て、手伝ってくれる。

 


「うわぁ~すごい量ですね。ビッグスライムの素材に、オークの肉や素材、それにパープルスコーピオンの素材まで……」


「なすびやお芋もありますよっ! あ、林檎まで。トールさん、もうB級ダンジョンの6階層までいかれたのですねっ!」


 エメルダさんとモカさんが興奮気味に話す。


「はい。4階層から6階層は食べ物を落とす魔物がいるので、結構楽しかったですね~」


「そうですよね~。でもこんなにたくさん持って来てくれるのはトールさんだけですよ~」


 エメルダさんは笑う。


「あ、そうそう、最近トールさんの持ってくるお肉が評判なんですよ! うさぎ肉にしろボア肉にしろすべてのお肉が微妙に美味しいらしいんです」


「ふむ、そうなんですか?」


「はい、老舗の飲食店などで、腕利きの料理人たちの間で騒がれてますね。普通のお肉とは一味違うと。やはり一流の料理人になると、そういう微妙な違いが判るものなんですね」


 ほほーう、初めて聞く話だ。それは嬉しいことだな。俺は味音痴ではないと思うが、食材の質についてはあまりよく判らない。


 俺はふと思い至った。


 女神のドロップ――効果:魔物を倒したときのアイテムドロップ率および質が向上する。


 確かに質が向上するとのことだ。俺は今まで、この質の向上はユニークアイテムのことかと思い込んでいた。


 しかしよく考えて見ると、以前男爵が言っていたように、ユニークアイテムは神話や古文書で語られるように元々存在していたものだ。だが、天文学的に低い確率でドロップする存在だったので、現実的には目にする機会がほぼ無かったのだ。


 そうすると、俺がユニークアイテムを現実的に得ることが出来たのは、女神のドロップスキルのアイテムドロップ率の向上の効果だと思われる。つまり「質」とは関係ないことになる。


 なるほど――女神のドロップの質の効果か……。これも今後スキルレベルを上げるうちに解明できるのかもしれない。

 女神のドロップスキル。まだまだ謎に包まれているな……。


 おっと、独りで考え込んでしまったな。

 

 俺は話題を変えて、エメルダさんに話しかける。


「そういえば、確かB級ダンジョンは24階層までありましたっけ?」


「はい。特に12階層以降はきつくなるようですね。今の冒険者たちの中でもそこまで達した人はあまりいないようです」


「なるほど……」


「あ、でも、トールさんならきっとすぐにでも突破できますよぅ!」


 モカさんが明るく元気づけてくれる。


「でも、ここ数年は最下層の迷宮主を討伐した冒険者はいないんじゃなかったかしら?……」


「そうなんですか」


「はい。以前に何組かのパーティーが討伐に成功しましたが、その後、皆やはりA級ダンジョンに行かれましたね」


「ということは、王都ですかね?」


「はい。王都には有名なA級ダンジョンがありますしね」


 そうなのだ。王都のA級ダンジョンはやはり冒険者にとって憧れの存在なのだ。力を付けた冒険者たちは、皆、王都のA級ダンジョンを目指すのだ。


 A級ダンジョンか……。俺もいつか王都に行ってそのダンジョンを制覇してみたい。冒険心が否応なく高まってくる。


 まあ、ともかく今は足元をしっかりと固めて、まずはB級ダンジョン制覇に専念しよう。



 買取り作業が終わり、売却金額を受け取る。今回は約150万ギルとなった。やはりレアアイテムが高価なようだ。


 俺は今日もホクホク顔でギルドを後にした。





 俺はいつもギルドの帰りに、馴染みのパン屋に寄ることが多い。

 昔、貧乏だったころから100ギルのパンをよく買っていたパン屋さんだ。

 最近は、お金に余裕が出て来たので、高価なパンを買うことがほとんどだ。品ぞろえも良く美味しくて評判も良い。リンもよくこのパン屋さんに通っている。


 そのパン屋はギルドと自宅の中間くらいにある。この辺りになると、家々もまばらになり街並みも自然が溢れてくる。

 小さな奇麗な小川が流れている。木で作られた小さな橋が架かっている場所がある。

 橋からすぐ近くに、木造造りのやや大きめの家が建っている。屋根にはレンガ造りの煙突が見え、パンを焼く煙がのんびりと空に上がっている。


「おや?」


 橋の上で馴染の店主――ポゴタさんが欄干(らんかん)に頬杖をついて、物憂げそうに小川をぼんやりと眺めていた。


 ポゴタさんは確か年齢は30を少し超えたくらいだっただろうか。少し小太りした人のいい感じのするパン屋の店主だ。


「こんにちは。ポゴタさん」


 俺は声をかける。


 ポゴタさんは一瞬ぼーっとしていたが、ゆっくりと振り返り俺を見る。


「ああ、トールさんでしたか……気付かずにすみません」


「いえいえ、それよりも何かあったのですか? いつもより元気がないように見えますが……」


「はあ……そう見えますか……。いえ大したことではないのですが……」


 ポゴタさんは何か言いにくそうに言葉を途切らせる。


「俺で良ければ、話ぐらいは聴きますよ……」


 ポゴタさんは、しばらく考えていたようだが、少しためらいがちに話しだす。


「ありがとうございます。トールさん。……何と言うかお恥ずかしい話なのですが……」


 こうしてポゴタさんは俺に悩みを打ち明けてくれた。



 話の内容は、何と言うか、今の俺にはあまり縁が無いことなのではあるが、心情的には分かる気がした。


 ポゴタさんには奥さんがいる。確か3年ほど前に結婚して今のパン屋を夫婦で始めたと聞いている。


 ポゴタさん夫妻にはまだ子供がいなく、夫婦とも子供の誕生を強く望んでいた。夫婦仲は良いにもかかわらず、3年経っても子宝に恵まれることが無かったそうだ。


 しかも、最近ではポゴタさん自身プレッシャーもあったのか、あっち(・・・)の体力が落ちて来て、奥さんの求めに応じることが出来なく、不全状態とのことだとか……。



 う~ん。なるほど、なんというか、男としてこれは深刻な事態だろうな……。


 俺はつい昨日入手したユニークアイテム、「エロリィナイト」の存在を思い出す。

 

 確かにこれは由々しき問題だ! なんとかしなければいけない! 


 俺は同性として同情を禁じえない。それにポゴタさんの奥さんも早く子供を授かりたいとのこと。


 俺は、強い使命感を感じた。



「ポゴタさん! その問題は俺にお任せください! なんとかしてみせましょう!」


 俺は強く言い切り、そう――あの禁断の魔薬(エロリィナイト)を取り出し、ポゴタさんの前で、掲げて見せた。


――――――――


エロリィナイト(夜の悦び)(ユニークアイテム:消耗品)

・精力増強剤

・催淫効果(大)

・良い子は使用しちゃダメ絶対


――――――――


「おお! トールさん! なんだか良く分からないですが希望に満ちたお言葉です!」


 ポゴタさんはまるで神に出会ったかのように俺を崇拝の目で見てくる。


 いや……まあ、そんな期待されてもな……。まあ、ポゴタさんには悪いが、この際、禁断の魔薬(エロリィナイト)の実験台となってもらおう。


 鬼が出るか(じゃ)が出るか。ふっふっふ、楽しみだ。俺は好奇心に勝てなかった。


 それに昨日の今日入手した物だ。これもきっと何かの縁に違いない。


「ポゴタさん、実はこれをですね……夜寝る前にですね、飲んでですね……」


「ふむ、ふむ……なるほど、なるほど!」


 男同士でひそひそと悪巧みをするように話す俺たちだった。



「トールさん! ありがとうございます!」



 ポゴタさんは俺の渡した禁断の魔薬(エロリィナイト)を大事そうに握りしめ、意気揚々と自宅に帰って行くのであった……。


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