40話 3階層~初めてのパーティー
3階層に入った。
「そういえば、先日の宴でガイが3階層で行き詰ってるとか言ってたな……」
なんの魔物が出るのだろうか? ちょっと気になるな。
「にゃにゃ!?」
モフが何か見つけたようだ。
奥の岩場あたりに黒い影が蠢いている気がする。
「蠍か!! 大きいぞ!」
素早く敵を鑑定をする。
―――鑑定―――
パープルスコーピオン Lv33
・弱点:特に無し
・体力、筋力、敏捷に優れる
・硬い殻の体を持つ
・尖った尻尾に毒がある
――――――――
「うわあ! これは確かに強そうだな!」
レベルは、C級ダンジョンの迷宮主、アイアンゴーレムのレベル35より僅かに低いが、それ以上に厄介そうな相手だ。特に毒の尻尾が面倒そうだな。
ガイたちが手こずるのも頷ける。
C級ダンジョンをクリアしたガイたちだが、アイアンゴーレムはレベルの割には比較的倒しやすいと聞く。アイアンゴーレムは体力と筋力はあるが敏捷があまりない。そして特に厄介なスキルを持っている訳ではないので、ゆっくり時間をかければ倒せるとのことだ。ガイたちは3人パーティだし、それぞれレベルが30もあれば十分倒せる相手だったのだろう。
しかしこの魔物――パープルスコーピオンの実力は、恐らくレベルだけでは判断できない類の魔物だろう。
だが、俺たちなら問題ない。
「よし! モフ、一気に片を付けるぞ!」
モフのライトボールが発射された。俺はウォーターボールを放つ。
しかし、敵は素早い動きで魔法をかわす。
「なかなかやるな。では、これでどうだ!」
俺は水魔法Lv3のウォータースプラッシュを放つ。やや広範囲に水撃が広がる。
モフも俺の意図を読んだのか、光魔法Lv4のライトスプレッドを放つ。扇状に広がる光の光線だ。
「ギィギィギイイイイイイイイイイ!!」
俺とモフの広範囲魔法を浴びたせいかかなり苦しそうだ。
その時、死に物狂いで尻尾が大きく振られた。攻撃対象はモフだ。
モフは素早く蠍の尻尾を避けるが、その尻尾の先から液体が発射された。毒液だ!!
モフは毒液にまみれて地面に倒れる。白い毛並みがやや紫色に変色している。苦しそうだ。
「モフ! 待ってろ!」
俺は回復魔法Lv2で覚える解毒魔法をモフに飛ばし、更にヒールも飛ばす。
「にゃ~」
モフの毛並みの色が白くなり、元気になったようだ。
「ブラックアウト!!」
俺はパープルスコーピオンに闇魔法の黒い霧をかけて視界を遮る。
俺は、夜目Lv3効果で、暗闇でもある程度視界はある。
闇の霧の中に飛び込み、剣術Lv3のスキル「バッシュ」で敵の頭を力いっぱい斬りつける。
ザシュウウウウーン
強力な斬撃が、短剣フロストムーンに乗る。
「ギィギイイイイイイイイイイイ!!」
パープルスコーピオンは、一撃で霧となって消えて行った。
「ふぅ~。危なかった。まさか毒を飛ばして来るとは思わなかったな」
俺は考える。毒を飛ばすことがあらかじめ分かっていたら、俺たちの敏捷力で、避けることが出来たかもしれない。
やはり初見は注意が必要だな。
一応、念のため毒を浴びない方法を探る。何かないか……。
……水魔法Lv3(ウォーターボール、水膜、ウォータースプラッシュ)
――水膜か。これは体の周りに透明な水の膜を張る、一種の防御魔法だ。防御効果は薄いが毒液は防げるな。
よし、水膜を事前に掛けてから戦おう。これなら安心だ。
こうして、俺たちはパープルスコーピオン狩りに精を出すのだった。
8体ほど倒したときにパープルスコーピオンがユニークアイテムを落とした。
いつものように、ドロップアイテムをまとめて鑑定する。
~~~鑑定~~~
赤紫蠍の殻(素材)
・鎧などの防具に最適
・軽量で硬い
‥‥‥‥‥‥‥‥
赤紫蠍の毒袋(レア素材)
・毒液の入った革袋
・錬金などの素材として扱われる
・毒の危険度(中)
‥‥‥‥‥‥‥‥
スコープルテイル(ユニーク武器:短剣)
・攻撃力(AR)12
・装備時、体力+7、筋力+15、敏捷+15
・攻撃時、毒付与(中)
~~~~~~~~
「おおお!! これは良い短剣だ!」
ARが12、フロストムーンの9より更に高い。そして、装備時の能力上昇もかなり良い。そして、攻撃時に毒付与(中)も恐ろしい効果だ。特に長期戦になった場合にかなり有効に働くだろう。
赤紫色でやや反りの入った長めの短剣だ。刀身が薄赤く光り、切れ味も良さそうに見える。
これでホーンソードの役目は終わったか……。今までありがとう、ホーンソード。俺はホーンソードを予備として空間魔法のアイテムボックスに収める。
そして俺は右手にスコープルテイル、左手にフロストムーンを持つ。
新たに力が湧いてくるのを感じる。
「よし、そろそろ日も暮れる頃だろう。今日はこれで終わりに――ん?」
帰ろうとした時に、3階層の入り口から誰かが入って来る気配がした。
「ん? トール、なのか!?」
「あ、トールさん……」
「トールじゃない! もうここまで来てたの!?」
入って来たのは3人の冒険者。ガイとそのパーティー仲間である、アスカとメイだった。
「ああ、今日初めて来たばかりだけどな。それで、ガイたちはもう3階層は大丈夫そうなのか?」
ガイは苦笑しながら言う。
「いや……まだパープルスコーピオンは倒せてないんだ……。今日は再度挑戦しに来た」
「そうそう、先ほどオーク狩りで少しレベルが上がったから、一度だけ戦ってみるつもりよ」
なるほど……。しかし本当に大丈夫なのかな? 少し不安だな。
俺は考える。
ちょっとガイたちには悪いが、ガイたちのレベルだけ鑑定させてもらう。
―――鑑定―――
ガイ Lv33
アスカ Lv32
メイ Lv31
――――――――
う~ん。微妙なところだ。普通の魔物のLv33ならこの3人なら余裕で倒せるかもしれない。だがあの蠍はちょっと厳しいかもしれないな……。
「ガイ、無理するなよ。死んだらおしまいだからな。良かったら今日だけ俺をパーティーに入れる気はないか?」
俺はガイに提案してみる。
「えっ! いいのか!? トール、助かるぜ!」
アスカとメイの顔も、ぱあっと明るくなった。
「トール! 助かるわ! やったー!」
「トールさん、ありがとうございますっ!」
パーティーは4人までなら経験値はひとりひとりがほぼ減ることなく入る。パーティーが5人を超えると1人当たりの経験値は人数に比例して減っていくのだ。従魔はパーティーとしてカウントされないので問題ない。
「ただし、俺とモフはあくまでもサポートするだけだからな」
やはり、なるべく自力で攻略してもらいたいと思う。
「もちろん! それで十分だ! ……実はちょっと不安だったんだ」
「うん、トール! お願いね!」
「トールさん、よろしくお願いしますっ!」
こうして俺たちは今日だけの臨時パーティーを組んだ。
「やっぱり、毒攻撃が厄介なんだよな。それに敵は素早くて力や体力があるのもキツイぜ」
「なるほど、分かった。ちょっと皆に水膜を張るぞ。これで敵の毒飛ばしを遮断できるはずだ」
俺は水魔法の「水膜」を皆にかけた。
「おおお! なんか包まれたぞ!」
「うわー! これいいわね!」
「あわわ……!」
早速、パープルスコーピオンが現れた。
「モフ、弱体化の光だ!」
モフは承知とばかりにすかさず、光魔法の弱体化の光をパープルスコーピオンにかけた。
「これで、少しは敵が弱体化したはずだ。ガイ、アスカ、メイ、頑張れ!」
「おう! 行くぞおおお!!」
「うん! 任せて!!」
「魔法、行きます!」
3人とも気合は十分だ。
俺は操糸術の一線付きを飛ばす。頭部の目辺りを軽く狙って敵を攪乱する。危ない時はウインドシールドを使う。
モフは光魔法の光の壁を使って、敵からの危険な攻撃に対して、3人のメンバーを器用に守っている。
俺たちは直接攻撃はしない。
ガイの大剣、アスカの剣、メイの魔法が、パープルスコーピオンに炸裂する。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして、ついにパープルスコーピオンの悲鳴が聞こえ、消えて行く。
「や、やったぞ!」
「やったわ!!」
「や、やった……」
3人とも初めての討伐に、顔を紅潮させて興奮気味だ。
「よし、せっかくだからもっと狩るぞ!」
俺は3人に回復魔法をかけて、先を促す。
こうして俺たち4人とモフのパーティーはパープルスコーピオンを狩りまくるのだった。
「レ、レベルが5も上がった! これで俺たちも次へ進めるかもしれない!」
「わ、私もかなりレベルが上がったわ!! トール! ありがとね!」
「トールさん、ありがとうございますっ!」
パーティーで狩ったときの魔石やドロップアイテムはすべて、ガイたちに貰ってもらった。
俺は思う。
今までモフとふたりだけでダンジョン攻略してきたが、こうしてパーティーを組んで戦うのも楽しいものだなと思う。
ガイたちは今はまだ頼りないかもしれないが、彼らを見ていると、いずれ冒険者として大きく育っていくような気がした。しかしダンジョンは厳しい。なんとか彼らが生き延び、成長出来るように、俺も何か少しでも手助けが出来ればと思った。
こうして俺たちは3階層の攻略を無事終え、ダンジョンを出た。陽はとうに暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。今日は遅くなったのでギルドには寄らずに帰宅することにする。
俺たちはパーティーを解散してそれぞれ別れることにする。
「ありがとな! トール! またな!」
「今日はありがとね!! トール、バイバイ!」
「トールさん、ありがとうございました!」
ダンジョンの入り口付近にある篝火が揺れ、闇を朱色に照らしている。
いつまでも手を振る同期の3人の顔が、喜びに満ちていた。