35話 迷宮主戦 決着
――綱渡りのような戦闘が続く。
あれから同じような攻防を繰り返し、もうすでに1時間くらい経っただろうか。
なかなか決定打を与えられないどころか、こちらは防戦一方のまま、押され始めている。
体力も減って来ている。苦しい。
魔力もマナポーションをその都度飲んでいるが、魔力回復が追いつかない。魔力保有量もあまり残されていない。特にモフは俺ほど魔力が高くないので、かなり減って来ている。
ポーションもマナポーションも両方ともほぼ尽きかけている。
今では、俺は、糸を飛ばし牽制することしか出来ない。マリオネットで切れた糸だが、まだ手袋の中には糸が残っている。
モフは、唯一の素早さを頼りに逃げ回りながら、小さなライトボールで目くらましすることしか出来ない。
敵も体力が減って来たのか、最初の頃よりかは動きが鈍くなってはいる。
しかし、俺たちの消耗具合に比べれば、僅かだ。未だその戦闘力は衰えていない。
「もうダメなのか……」
つい弱音を吐きそうになる。
モフが牽制のライトボールを小さく放つ。
その時、モフのスキルに変化を感じた。もはや俺とモフは、お互いのステータスを感覚で共有できるようになっている。
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スキル:光魔法Lv2 → Lv3
―――――――
「おお!!」
モフの光魔法のレベルが3に上がった!
そして、新しく覚えた魔法の情報を感覚で探る。
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光魔法Lv3 弱体化の光
・5分間敵のステータスおよびスキル効果を10%減少させる
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これを見た時、俺はわずかだが一筋の光が差したように感じた。
モフの魔力もあまり無い。大技が使えるとしてもあと1、2回ぐらいかもしれない。
もうこちらには体力も魔力もほとんど残されて無い。最後の攻撃を仕掛ける以外に無い。
俺は瞬時に考え、決断した。
「モフ!! 弱体化の光だ!!」
モフはすでに承知とばかりに魔法を放つ。
眩くまでの強い光が、キングラビットを包む。
俺は敵に素早く近づいて短剣を振るう。
「ギャアアアアア!!」
少し出ごたえを感じた。だがまだまだ硬い。
敵は弱体したとしても10%ほどだ。俺は慎重にかつ素早く動き、敵の攻撃に注意しながら何度も短剣で斬りつける。
いけるか!? ――そう思った時だった。
気が付いたら、キングラビットの首が大きく反り返り、その巨大な角が俺を目がけて迫って来ていた。
俺はキングラビットの脚の攻撃にばかり気を取られていたのだ。
慌てて避けようと俺も鋭くバックステップするが――
――間に合わない。俺は瞬時に悟った。
その瞬間だった。
――――チリン
鈴の鳴る音が聴こえた。
キングラビットの角が、俺の顔面スレスレを通過していた。
角を避けることが出来たのだ。
鈴の音が鳴った時、キングラビットの角がほんの一瞬だけ止まったような気がした。
モフの方を見ると、モフが踊っていた。いつもとは違う不思議な踊りだ。
「鈴の音か!!!」
キングラビットは、虚を突かれたような表情を一瞬見せていたが、すぐに前脚で攻撃してきた。
俺は攻撃をかいくぐりながら、再び敵にフロストムーンで斬りつける。
ドバババババババババーン!!
「ギャアアアアアア!!」
クリティカルヒットが初めて出た感覚があった。
俺は今まであまり気に留めていなかったモフのスキル、「鈴の音」の情報を素早く探る。
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鈴の音
・3分間、幸運値を倍に上昇させる
(パーティーメンバーの基本ステータスが対象)
・1日3回のみ使用可能(重ね掛けにより倍増可能)
・音が鳴った瞬間、一瞬だけ敵の動きを鈍らせる
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「幸運値が倍!! ――そうか、クリティカルヒットだ!!」
俺は瞬時に勝利への道筋が見えたような気がした。
素早く自分のステータスを脳裏に呼び出す。
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幸運 56+15
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28だった幸運が倍になり56となっていた。
幸運値が高ければクリティカルヒットも出やすくなる。
俺はマナポーションを飲んで、猛攻をかける。
しかしまだまだだ。クリティカルはなかなか出ない。
また、キングラビットの角が俺を襲って来た。
――――チリン
また鈴の音が鳴った。
俺は一瞬の敵の硬直のおかげで、なんとか避けることが出来た。
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幸運 112+15
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幸運値が更に倍に跳ね上がった。
「ギャアアアアアアアアア!!」
クリティカルが入った!! いけるか!?
その瞬間キングラビットは気が付いたのだろう。鈴の音を出すモフに向かって猛烈に突進した。
「モフ!!」
驚愕の表情で立ち止まっているモフに、俺は、素早く糸を飛ばしモフを絡めて、強くこちらに引っ張る。
キングラビットの角が、モフのいた位置で空振りする。
糸に引っ張られ、モフは踊りながらこちらに飛んでくる。
――――チリン
3回目の鈴の音が鳴った。
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幸運 224+15
――――――――
更に幸運値が倍に跳ね上がる。
「モフ!! でかしたぞ!!」
俺は最後のマナポーションをモフに飲ませ、これからの重要な指示を出す。
すでにモフの魔力も付きかけていた。この指示が、モフの最後の大技になるだろう。
「キュウウウウウウウウウウウ!!」
キングラビットは、怒り狂いながら咆哮を上げ、再び襲って来た。
俺はモフを斜め上空に投げる。
「モフ!! 頼むぞ!!」
――冷気の霧
モフの最後の大技だ。
ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
冷気の霧がキングラビットを襲う。
キングラビットの動きが冷気で鈍くなる。
「マリオネット!!」
俺も最後の大技を掛ける。もう魔力は残ってない。
キングラビットの四股と角に糸が絡まり、宙に舞う。
弱体化の光。冷気の霧。絡みつくマリオネット。200を優に超える幸運値。
俺は最後の猛攻を仕掛けた。
吊り下げられたキングラビットの首の後ろを狙って、フロストムーンとホーンソードを交互に振るう。
そして――すべてがクリティカルヒットとなった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
糸で吊り下げられ、弱体化と冷気で、身動きが取れないキングラビット。
必死の形相で大暴れする。
糸が切れる前にやらねばならない!!
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
俺は力の限り短剣を高速で振るう。
振るった短剣はすべてクリティカルになる。
最初の鈴の音が鳴ってから、そろそろ3分になろうとしている。
俺は更に力を込めて短剣を振るう。
「お前の肉をよこせええええええええええええええ!!」
気が付けば俺は無意識に叫んでいた。
パキイイイイイイイイイーン!!
左手のホーンソードがキングラビットの首の奥に突き刺さり、ホーンソードは砕け散り、マリオネットの糸が切れる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
この瞬間、ついにキングラビットは断末魔の叫びを上げた。
ボス部屋が大きな音を立てて揺れる。
巨大な霧となって徐々に消えて行くキングラビット。
――天から声が聴こえて来る。
≪迷宮主、キングラビットを討伐しました≫
≪レベルが上がりました≫
≪レベルが上がりました≫
≪レベルが上がりました≫
≪レベルが上がりました≫
≪レベルが上がりました≫
≪レベルが上がりました≫
・
・
≪レベルが上がりました≫
――繰り返す天からの声
≪習得可能スキルが解放されました≫
≪特別ボーナスとしてSPが42与えられます≫
≪従魔、モフミィがモフミィコマンドに進化しました≫
――ドスン、ドスン。
≪キングラビットの通常アイテム『極上のうさぎ肉:特大』をドロップしました≫
――ドン。
≪キングラビットのレアアイテム『ビックホーン』をドロップしました≫
――コロン
≪キングラビットのユニークアイテム『兎王の勲章』をドロップしました≫
「や、やった、やったぞ!! うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「にゃにゃにゃにゃああああ~~ん!!」
俺たちは勝利の雄たけびを上げるのだった。