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32話 操糸術


 シャンテの冒険服を装備の下に着こんだ俺は、とりあえず戦闘用の糸を求めて武器屋に向かった。


「ん? 何か忘れてるような気が……。あっ! オーダーメイドの服の会計を忘れていた……」


 あまりに服の出来が良かったので興奮していて忘れていた。シャンテもああいう性格なので忘れていることだろう。


 俺は急いでスマーフォでシャンテに連絡を取る。数秒後にシャンテが出た。


「おお、シャンテか? すまない。服の代金を支払うのを忘れていた。これからそちらに向かおうと思う」


『あ~トールさんですかぁ~。別に代金はいいですよぉ~。素晴らしい新種の糸で十分創作を堪能出来たので、それが報酬ですよぉ~』


「いやいや! そういう訳にもいかないだろ」


『ふむぅ~、じゃあ、腰マントの制作で、多分トールさんから預かった糸が余ると思うので、その余りの糸を報酬として貰うというのはどうですかぁ~?』


「い、いや、こちらは全く問題ないのだが……そんなもんで本当にいいのか?」


『いいに決まってるじゃないですかぁ~。この糸の価値は凄いですよぅ! トールさん! それでいきましょう!」


「お、おう、まあシャンテがそれでいいなら。そ、そうだ、また新種の糸が手に入ったらその時は、プレゼントするからな」


『えっ! いいのですかぁー! さすがトールさん、楽しみに待ってますよぅ!!』


 スマーフォからシャンテの喜びの声が聴こえて来る。


 結局、今回はこんな感じで取引を終えたシャンテと俺だった。


 

「あ、戦闘糸のことを聞くのを忘れてた……」


 シャンテは、もうすでに創作に夢中になっているだろう。再度、スマーフォで聞くのも悪いな……。


 俺は何気に冒険者服のズボンのポケットに手を入れながら歩く。何かがポケットの中に入っているような気がした。


「ん? 何だろう? 何か大きなハンカチのような物が……」


 取り出してみると、薄い手袋(てぶくろ)と手紙が入っていた。手袋は左用の片側だけの1枚だけだ。


 俺は手紙を広げて中を読んでみる。



『トールさんへ

  

 操糸術には戦闘用の糸が必要ですよ

 手袋の甲の部分に糸が収納されてるので

 左手に手袋を付けて使用してくださいね


      美少女裁縫師 シャンテより』



「おおお! さすがシャンテ! 気が利くな!」


 心遣いが素晴らしい。ビジネスではなく結婚というパートナーとして申し込んでても良かったかな~。などと変なテンションで心が揺れる。おっと、いかんいかん、俺は何を考えているのだ。


 それはそうと、アフターケアもバッチリだ。シャンテ、グッジョブ! まあ、美少女裁縫師とか自分で言ってるのはアレだが……。


 俺はシャンテに心の中で感謝しながら、その手袋を左手にはめてみる。薄くて手に馴染み、まるで何もつけてないかのような感覚だ。武器を持っても全く支障が無いようだ。手袋の甲の部分に小さな丸い魔法陣のようなものが刻印されている。ここから糸が出てくるのだろうか。


 俺は軽くイメージしてみる。すると確かに甲の刻印の部分から、糸がすっと飛び出してきた。


「なるほど、こんな感じか。なかなかいいな」


 ここは街中なので、俺はすぐに糸を収納する。


 さて、早速実際に試してみたいので、俺はこれからダンジョンの12階層に行ってみることにした。操糸術の確認もあるのだが、12階層に出現する魔物のユニークアイテムも気になるからだ。まあ、モフがいないけど、かなり装備が充実したので、俺独りでも大丈夫だろう。





 転移陣を利用して一気に12階層にやってきた。


 ここは確か、ホワイトキャットが出て来ると聞いている。4階層のグレイキャットより一回り大きく戦闘力も比べ物にならないほど高いらしい。


 俺は感知スキルで探し、近くにいる一体に隠れながら慎重に近づく。

 先ほどイメージで習得した、操糸術の基本技である「一線突き」を奇襲として使ってみることにする。


 岩の陰から左手を伸ばし、糸を放つ。


 シュルルルルルルル


 糸が一直線に鋭い速さで飛んでいく。


「ギャアアアア!?」


 ホワイトキャットの眼の辺りに糸が刺さる。混乱しているところを、更に大技を掛ける。


「マリオネット!!」


 糸が複数飛び出し、敵の四股を縛る。糸は上空に舞い上がり、ホワイトキャットは宙吊りになって、ジタバタする。


「ウギャギャギャアアア!?」


 思うように動けないホワイトキャットに、俺はゆっくり近づく。ファイアボールを一発入れ、弱った所を確実にフロストムーンで斬り付ける。


「ギャアアアアアアアア!!」


 ホワイトキャットは霧のように消えて行った。


「うわー、我ながらなかなかえげつない技だな。恐るべし……操糸術」


 それから俺は、ホワイトキャット相手に糸の使い方をいろいろと変えて試していった。元々、ホワイトキャットはかなり身体能力が高く油断は出来ない。また、時折白い霧状の冷気を放って来るのも危なかった。


 操糸術の技は、基本技は魔力消費は無いが、やはり「マリオネット」などの大技になると、魔力を消費する感覚だった。使いどころを選ぶ必要があるが、いろいろな使い方が出来、かなり便利な術だと思った。



 このまま、ホワイトキャットを狩っていくと、ついにユニークアイテムを落とした。

 いつものように、まとめて鑑定してみる。



~~~鑑定~~~

白い牙(素材)

・武器などの素材に適している。硬い。

‥‥‥‥‥‥

白猫の爪(レア武器:爪)

・攻撃力(AR)6

・装備時、筋力+5

・攻撃時、麻痺効果(小)

‥‥‥‥‥‥‥

白猫の(すず)(ユニークアクセサリー:首飾り)

・従魔専用アクセサリー

・装備時、体力+10 筋力+10 敏捷+15

・付与スキル 冷気の(ブレス)、鈴の音

~~~~~~~~ 



「おお!! ユニークは従魔専用のアクセサリーか! これはいいぞ!」


 白猫の(すず)――見た目は、まさに猫のペットに着けるような丸い(すず)がついた首輪で可愛らしい。しかし、装備時の能力上昇は強烈だ。


モフは首飾りが装備出来るので、モフにちょうどいいアイテムだ。それに元々モフは、体力や筋力が低かったので、これを装備すればかなり弱点を補強出来ることになる。


しかも付与スキル 冷気の(ブレス)。これもすごそうだ。威力はまだどれくらいか分からないが、冷気で敵の動きを鈍らせたり、隙をつくったりすることが出来そうなスキルだ。あと、付与スキル、鈴の音? これは一体なんだろう……。


 まあ、後で、モフに装備させてみれば分かるかな。


 あと、レアアイテムで爪の武器が出た。麻痺効果(小)が付いている。これは珍しいのでとりあえず売らずに取っておくか。


「よし、今日はいろいろと収穫があったな。これで帰るとしよう」

 

 俺は転移陣に乗り、ダンジョンから帰還していった。





 ――冒険者ギルドにて


 少し遅い時間になったが、冒険者ギルドに寄ってみた俺は、いつものように個室でエメルダさんと買取りをしていた。


「今日は、ホワイトキャットのドロップアイテムですね! トールさん! ついに最下層まで行かれたのですね!」


「はい、後は迷宮主(ボスモンスター)を倒すだけですね」


「そうですか~、いよいよですね。でも、トールさん、十分気を付けてくださいね。C級ダンジョンと言えど迷宮主(ボスモンスター)ですからね」


 その時、個室のドアが開いてギルドマスターが入って来た。


「おう、トール。聞いたぞー。先日は領主の相談事を解決したらしいな。なんの相談だか知らねえがやるじゃねえか……ん? これはホワイトキャットの物か」


「はい。最下層まで行って来ました。明日は迷宮主に挑戦するつもりです」


「ほほーう、もうそこまで来たか。まあ、トールのことだ、さっさとやっつけてしまって早くB級に行くことだな……ん……そうだな、一応忠告だけはしておくか」


 ギルドマスターは続けて話す。


「トールは迷宮主(ボスモンスター)のイレギュラーってやつを知ってるか?」


「はい。以前の冒険者講習で聞きました。C級ダンジョンの迷宮主はアイアンゴーレムとのことですが、極稀に違うボスが出る場合があるのではないか、ということですよね」


「おう、その通りだ。ほぼ間違いなくアイアンゴーレムだろうがな。……で、あれは4年ほど前のことだったか。当時優秀なルーキー冒険者のパーティーが、迷宮主に負けて帰らぬこととなった事件があった。皆、レベルも十分に上がっており、スキルも優秀な物を持つものばかりのパーティーだった。誰しもが討伐の成功を疑うものはないほどだったが、そんな彼らが全滅した。その後、残された彼らの冒険者カードを、特殊な魔道具に掛けて解析した。すると、どうもアイアンゴーレムと戦ったのでは無い、との驚くべき結果が出た。カードの状態が良くなかったので、なんの魔物と戦ったのかまでは解析出来なかったが……」


 続けてギルドマスターは話す。


「まあ、その後はそんなケースは無かったがな。ただ、最近、王都のあるダンジョンで同様のことが起きた。それで今はギルドの王都支部のメンバーは大慌てってところだな。少し気になったから一応は忠告しておく。まあ、そんなことは滅多にないことだとは思うがな」



 4年前……またこの時期か……。俺はマルカの森事件のことをふと思い出す。何か関連があるのだろうか……。

 

 こうして俺はギルドマスターの言葉を心に留めながら、ギルドを出た。陽はすでに暮れていた。


 明日はいよいよ迷宮主戦だ。


 ふと空を見上げると大きな満月が少し赤みを帯びて輝いていた。


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