3話 極上のうさぎ肉は美味です。
ほとんどまぐれだったが、奇跡的にホーンラビットに勝つことが出来た。
しかし、脇腹の傷は重く、出血も多い。
俺は震える手で鞄の奥からポーションを取り出した。
このポーションは、1年前俺が冒険者になった時、お祝いにとリンからプレゼントされたものだ。
久しく忘れていたが、さきほどの走馬灯で思い出したのだった。
ポーションを一気に飲み干す。
「お、おおお……」
みるみるうちに横腹の傷がふさがって行き、痛みも引いていった。
「……ふぅ……や、やった、生き返った」
九死に一生を得た思いだ。
このポーションはおそらく中級もしくは上級ポーションだったのだろう。かなり高価なものだ。
これはリンに感謝しないといけないな。今度なにかお礼をしよう。
「それはそうと、これが『極上のうさぎ肉』か。初めて見るな」
俺は目の前に落ちている「極上のうさぎ肉」を拾って眺める。奇麗なピンク色が輝いて見える。
「おっと、悠長にしてる場合じゃないな」
またホーンラビットに遭遇するとまずいので、俺は、肉と魔石を急いで鞄に回収してすぐに1階層へ戻る。
そのままダンジョンを出て、近くにあった切り株に腰掛け一息つく。
体が熱く、まだ手が震えていた。
――この短い時間で俺の中の何かが変わった。
前世の記憶を思い出し、この世界に生きてきた18年が今までとは違った色に見える気がした。
「そういえば……ユニークスキルを獲得、とか聴こえたな。レベルも上がったようだし」
俺は、念願のスキル習得とレベルアップに心が躍った。
しかし、検証は後にしようと決めた。
せっかくの「極上のうさぎ肉」が手に入ったのだ。新鮮なうちに頂くとしよう。
俺は、リンの待つ自宅へ、うきうきと速足で帰った。
◇
「お~い! リン~、これを見てくれ!」
「あ、お兄ちゃん、おかえりー」
ダンジョンから帰宅した俺は、早速、妹のリンに極上のうさぎ肉を手渡した。
「……えっ、お兄ちゃん! こ、これは……!?」
「おう、うさぎを狩ったらドロップしたんだよ」
「う、うさぎって、まさか…ホーンラビットじゃないよね!?」
ん? なんだか雲行きが怪しくなってきたような……
「い、いやその……」
つい目を横にそらせてしまった。
「やっぱり……。おにいちゃん、弱いんだから!! 無理しちゃダメだよ!」
「よ、弱いって……まあその通りなんだけどさ……」
ちょっと怒った顔で問い詰めてくる。まあ、リンのそういった顔もかわいいんだが。
ちなみに俺はシスコンではない……はずだ。
妹のリンは冒険者ではないが、初歩的なダンジョンについての知識はある。当然2階層に出てくるホーンラビットの危険性についてもだ。
冒険者の兄を持つと、そういった知識も自然と身についていくようだ。
「う、うん、わかった、わかった。もうお兄ちゃん、無理しないから……」
じとーっと見つめてくるリン。
「もう、ほんとだよ! お兄ちゃんに何かあったら、想像するだけで悲しいんだから!」
なんだかまだ信用されてないみたいだが、心配してくれるのは素直にうれしい。
「お、おう。……まあ、それよりも見てみろ、この肉。極上のうさぎ肉だぞ~~」
気を取り直して二人でお肉を改めて見つめてみる。
「奇麗なお肉……おいしそう……」
「ごくり……」
その日の夜は食卓がとてつもなく賑わった。
妹のリンは料理が上手なので、この極上の素材を生かして最高の料理を作ってくれた。もちろん俺も手伝ったけどね。
「はぁ~~美味しすぎる……」
「……お兄ちゃん、これ、すごく美味しいね……はぁ~しあわせ…」
極上のステーキやシチュー等に化けた極上のうさぎ肉。
今までこんなうまいものは食べたことがないくらいおいしかった。さすが、ホーンラビットのレアアイテムだ。
この極上のうさぎ肉自体、とても高価なもので、普通の庶民はなかなか食べられるものではない。主に貴族など富裕層ご用達の食材だ。通常のうさぎ肉は食べたことはあるが、極上のうさぎ肉は生まれて初めてだ。
リンもすごく幸せそうだったので、俺もうれしい。今日はダンジョンで死にかけたけど、結果的に最高の夜となった。
其の後、満腹でベッドに倒れ込んだ俺は、昼間の疲れもあいまって、心地よく眠りについた。