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3話 極上のうさぎ肉は美味です。

 

 ほとんどまぐれだったが、奇跡的にホーンラビットに勝つことが出来た。


 しかし、脇腹の傷は重く、出血も多い。

 俺は震える手で鞄の奥からポーションを取り出した。

 このポーションは、1年前俺が冒険者になった時、お祝いにとリンからプレゼントされたものだ。

 久しく忘れていたが、さきほどの走馬灯で思い出したのだった。


 ポーションを一気に飲み干す。


 「お、おおお……」


 みるみるうちに横腹の傷がふさがって行き、痛みも引いていった。 


「……ふぅ……や、やった、生き返った」


 九死に一生を得た思いだ。


 このポーションはおそらく中級もしくは上級ポーションだったのだろう。かなり高価なものだ。

 これはリンに感謝しないといけないな。今度なにかお礼をしよう。



「それはそうと、これが『極上のうさぎ肉』か。初めて見るな」


 俺は目の前に落ちている「極上のうさぎ肉」を拾って眺める。奇麗なピンク色が輝いて見える。


「おっと、悠長にしてる場合じゃないな」


 またホーンラビットに遭遇するとまずいので、俺は、肉と魔石を急いで鞄に回収してすぐに1階層へ戻る。

 そのままダンジョンを出て、近くにあった切り株に腰掛け一息つく。

 体が熱く、まだ手が震えていた。


 ――この短い時間で俺の中の何かが変わった。

 前世の記憶を思い出し、この世界に生きてきた18年が今までとは違った色に見える気がした。

 

 

「そういえば……ユニークスキルを獲得、とか聴こえたな。レベルも上がったようだし」


 俺は、念願のスキル習得とレベルアップに心が躍った。


 しかし、検証は後にしようと決めた。

 せっかくの「極上のうさぎ肉」が手に入ったのだ。新鮮なうちに頂くとしよう。

 

 俺は、リンの待つ自宅へ、うきうきと速足で帰った。





「お~い! リン~、これを見てくれ!」


「あ、お兄ちゃん、おかえりー」


 ダンジョンから帰宅した俺は、早速、妹のリンに極上のうさぎ肉を手渡した。


「……えっ、お兄ちゃん! こ、これは……!?」


「おう、うさぎを狩ったらドロップしたんだよ」


「う、うさぎって、まさか…ホーンラビットじゃないよね!?」


 ん? なんだか雲行きが怪しくなってきたような……


「い、いやその……」


 つい目を横にそらせてしまった。


「やっぱり……。おにいちゃん、弱いんだから!! 無理しちゃダメだよ!」


「よ、弱いって……まあその通りなんだけどさ……」


 ちょっと怒った顔で問い詰めてくる。まあ、リンのそういった顔もかわいいんだが。

 ちなみに俺はシスコンではない……はずだ。


 妹のリンは冒険者ではないが、初歩的なダンジョンについての知識はある。当然2階層に出てくるホーンラビットの危険性についてもだ。

 冒険者の兄を持つと、そういった知識も自然と身についていくようだ。



「う、うん、わかった、わかった。もうお兄ちゃん、無理しないから……」


 じとーっと見つめてくるリン。


「もう、ほんとだよ! お兄ちゃんに何かあったら、想像するだけで悲しいんだから!」


 なんだかまだ信用されてないみたいだが、心配してくれるのは素直にうれしい。


「お、おう。……まあ、それよりも見てみろ、この肉。極上のうさぎ肉だぞ~~」


 気を取り直して二人でお肉を改めて見つめてみる。


「奇麗なお肉……おいしそう……」


「ごくり……」



 その日の夜は食卓がとてつもなく賑わった。


 妹のリンは料理が上手なので、この極上の素材を生かして最高の料理を作ってくれた。もちろん俺も手伝ったけどね。


「はぁ~~美味しすぎる……」


「……お兄ちゃん、これ、すごく美味しいね……はぁ~しあわせ…」


 極上のステーキやシチュー等に化けた極上のうさぎ肉。

 今までこんなうまいものは食べたことがないくらいおいしかった。さすが、ホーンラビットのレアアイテムだ。 


 この極上のうさぎ肉自体、とても高価なもので、普通の庶民はなかなか食べられるものではない。主に貴族など富裕層ご用達の食材だ。通常のうさぎ肉は食べたことはあるが、極上のうさぎ肉は生まれて初めてだ。


 リンもすごく幸せそうだったので、俺もうれしい。今日はダンジョンで死にかけたけど、結果的に最高の夜となった。

 

 其の後、満腹でベッドに倒れ込んだ俺は、昼間の疲れもあいまって、心地よく眠りについた。


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