28話 名前があるということ
――スキル:レクイエム。
その内容は、俺にとって今一番必要なスキルだった。いや、俺だけでなくこれから解放しようとしている亡霊となった人たちにとっても僥倖と言えるスキルだろう。
苦痛を与えずに、攻撃することが出来るのだ。明日のことを考えると気が重かったのだが、このスキルのおかげで俺は少し心が軽くなった思いがした。
「しかし、魔力消費(中)というのは気になるな。俺の魔力では何回ほど使えるのだろうか……ちょっと試してみるか」
俺は、感知で見つけたダークプリーストに対して、レクイエムを発動させて試して見ることにする。アンデッドではないかもしれないが、アンデッドっぽい魔物なので、まあ、試す相手としてはいいだろう。
「レクイエム!!」
左手をかざして唱える。
すると、ダークプリーストの体が薄い光に包まれていった。ダークプリーストは動きを止め静かなその光に身を任せているようだ。表情も柔らかくなっているように見える。その後しばらくして、その薄い光が消えて行った。
ダークプリーストは、がっくりと膝をついておとなしくなったが、消えなかった。
レクイエムの攻撃は、確かに全く苦痛を与えないようだ。むしろ、恍惚感すら感じさせるみたいだな。これは、かつて人間だったアンデットに対しては有難い攻撃手段だ。
その後、モフの放ったライトボールで、ダークプリーストは断末魔の悲鳴をあげて消えて行ったが……。
さて、俺は自分の保有魔力量の変化を感覚で確認する。どうやら俺の最大魔力量の5%ぐらいを消費した感覚だった。
「なるほど……。そうすると1日20回くらいは使えると言うことか……。いや、ユニーク指輪の魔力回復効果もあるし、もう数回くらいはいけるかもしれないな。……そうだ、高価ではあるがマナポーションを使えば、もっといけるかもしれないな」
魔力量は基本的には、1日あれば最大まで回復する。睡眠中なら回復速度が速まるので、朝起きたらだいたいいつも満タンになっているのだ。そして、マナポーションは、飲むと一定時間魔力の回復が著しく増す。即座に回復する訳ではないので、がぶ飲みしながら魔力を切らすことなく連発は出来ないが……。
指輪の効果とマナポーションを併用すれば、1日40回くらいは使えるのではないか? 俺はなんとなくそう考える。よし、帰りにマナポーションを買って帰るとするか。
「さて、レベルの方はどうなったかな? ……そういえば、以前はレベルアップしたときには天から声が聴こえてきたけど、最近はあまり聴こえなくなってきたんだよなー。あれか、サービス期間は終了したってことか? それともマナーモードにでも移行したのかな? ……まあ、いっか」
気を取り直してステータスを開いてみる。
――――――――――――
トール 18歳
Lv 27
体力:27+31
魔力:27+30
筋力:27+30
敏捷:27+35
精神:27+5
幸運:27+5
SP:10
スキル:夜目Lv3、感知Lv3、風魔法Lv2、火魔法Lv2、闇魔法Lv2、回復魔法Lv2
ユニークスキル:女神のドロップLv5
【装備品】
武器(右手):フロストムーン
武器(左手):ホーンソード
防具(頭) :もふ猫のフード
防具(全身):藍狼のマント
防具(肩) :緑光のショルダーガード
防具(体) :クリムゾンレザー
防具(腰) :ゴブリンの腰巻
防具(足) :バトルブーツ
アク(首) :キャッツアイ
アク(頭) :風のリボン
アク(腕) :銀熊の腕輪
アク(指) :黒炎の指輪
アク(指) :コラプトゲンマ
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「やった!! レベルが5上がってSPも10になってる! これで女神のドロップをレベル6に出来るな!」
……しかしこうして改めてステータスを見ると、化け物じみて見えるな。装備頼みだが、能力値が本来のレベル以上に跳ね上がってるし、スキルも充実している。我ながら恐ろしい……。
それはさておき、早速、スキルレベルを上げよう。俺はドキドキしながら、女神のドロップのレベルの部分を触る。
≪SPを使用してスキルレベルを上げますか?≫
「はい」
≪Lv6に上げるにはSPが10必要です≫
「はい」
そして表示が変化した。
…………………………………
女神のドロップLv6
効果:魔物を倒したときのアイテムドロップ率および質が向上する。
通 常 ドロップ 130%
レ ア ドロップ 33%
ユニークドロップ 12%
追加効果:従魔が倒した魔物に対しても上記ドロップ率が適用される。
追加効果:迷宮主、固有種を倒したときのレアおよびユニークドロップ率が100%になる。
…………………………………
「えっ!?」
一瞬戸惑った。ドロップ率は全般的に少し上がっているが、それよりも、二つ目の追加効果の意味を理解するのに少し時間がかかった。
――追加効果:迷宮主、固有種を倒したときのレアおよびユニークドロップ率が100%になる。
これは、すごいことかもしれない!!
通常、迷宮主はダンジョンの最下層にある、通称「ボス部屋」と呼ばれる特殊な部屋に居て、その部屋への扉は、なぜか各冒険者につき、月1回しか開くことが出来ない仕組みになっている。つまり、短期間に何度も挑戦出来ないのである。したがって、ボスモンスターからのドロップ品は貴重な物となる。特にレアアイテムを狙うとなるとかなりの期間となり、諦める冒険者も多い。
固有種においては、通常の魔物と違い、種としての名前と違い固有の名前を持ち、通称ネームドモンスターと呼ばれる。討伐されたら2度と出現することのない希少中の希少な魔物である。ネームドモンスターは非常に強い魔物が多く、また、出現場所は不定で、主にダンジョンの深部や秘境などの危険な場所に生息する傾向にあり、迷宮主より強いことも多いらしい。
これらの特殊な魔物は、基本的にドロップ率が高いと言われているが、戦闘する機会自体が少ないため、ドロップ品を得るのは難しい。特にネームドモンスターにおいては、そのドロップ品を手に入れるには、困難を極める。
俺は興奮した。これからの冒険において、ボスモンスターはもちろんのこと、ネームドモンスターと戦うことになるかもしれない。そのときに確実にすべてのドロップアイテムを手に入れることが出来るのは、この上もなく有難い。
……ん? 固有種?……ネームド?……。
俺は、これが意味するところのもう一つの意味にハッと気づいた。
死霊となったロザリーさんや騎士団員たちは、皆、名前があるではないか!! 彼女や彼らは固有種――人間だから当たり前のことだが……。魔物と言えるのかはさておき、ドロップアイテムを落とすということは、一応そういう意味では魔物の範疇におそらく入るのだろう。
そうすると、1度の戦闘で確実にすべてのアイテムをドロップ出来るのではないか!?
「よし! もうここまで来たら、明日の結果が期待通り上手くいくよう願うしかないな」
女神のドロップスキルを無事6に上げることが出来た。今日はそろそろこれで帰還することにしよう。
俺は12階層にある転移陣を利用して帰還するために、12階層に入った。
ここは、C級ダンジョンの最下層である。
入り口付近に転移陣が見える。
C級ダンジョンを制覇する時期が迫って来ているのを感じ、胸が高鳴る。
この階層の最奥部にボス部屋があるのだ。
「待っていろよ、迷宮主。必ず戻ってくる」
俺は、そのボス部屋があるダンジョンの奥を見つめながら、転移陣に乗り、1階層に転移していった。