26話 ユニークアイテム
「先ほど言われていた幻のアイテムは、確かに存在します」
俺が言い切った瞬間に、その場の皆が大きく目を見開いた。
「これは驚いた……」
「ほ、本当にあるのね!?」
俺は正装服の下に隠し持っていた「もふ猫のポーチ」から「水の宝玉」を取り出し、ゆっくり掲げて見せた。
水色に煌めく美しい宝玉である。
「この宝玉は、C級ダンジョンの1階層に出現するスライムからドロップしたものです」
「なっ!! そ、そんなことが!……」
「えっ!! ま、まさか……本当に!?」
「こ、これは驚いた……」
皆は口々に叫び、身を乗り出す。
驚愕の表情で宝玉を見つめる。
「で、伝説のアイテムが……ここに!……」
男爵は、震える手でゆっくりと水の宝玉に手を伸ばす。
俺は更に、ポーチからフロストムーンを取り出し、ゆっくり掲げて見せる。
三日月のような反りの入った美しい短剣が青白く輝く。
「そして、この短剣は、C級ダンジョンの7階層に出現するブルーウルフからドロップしたものです」
「――なっ!! ト、トール殿それは真なのか――確かブルーウルフはウルフ肉とマントしか落とさないはず……い、いや、トール殿の言われることだ、本当のことなのだろう……それにしても見たことのない美しい短剣だ」
リドルフ騎士団長が、驚きのあまり立ち上がって言う。フロストムーンを真剣な目で見つめている。
「皆さんもすでにご存じの通り、スライムの通常ドロップアイテムはスライムゼリー、レアドロップアイテムはスライムロイヤルゼリーです。そしてこの宝玉は、『水の宝玉』と言います。スライムのレアアイテムを超える更にレアなアイテムです。先ほど男爵様が言われた古文書の記述は、確かに正しいものだと俺は断言出来ます。――そしてこちらの短剣の方も騎士団長がおっしゃる通り、通常でもレアでもない――更に上位のドロップアイテムです。固有名は『フロストムーン』と言います。俺はこのような幻のアイテムのことを、ユニークアイテムと呼んでいます」
「……ユニークアイテム……」
「ほ、本当に存在したのね!!……」
更に俺は言う。
「ちなみに、今日ミレアにプレゼントした緑色のリボンは『風のリボン』と言って、C級ダンジョンの5階層に出現する蝶の魔物『バタフル』のユニークアイテムです」
「――なっ! なんと!……」
皆の顔が固まっている。男爵も呆然とした表情で口が開いたままだ。
一呼吸おいて俺は更に話を続ける。
「このように俺はユニークアイテムをドロップさせることが出来ます。しかし、現在の成功確率にはまだ不安があります。本当は一刻も早く墓所に向かいたいところなのですが……そうですね、出来れば明後日まで待ってもらえませんか。それまでに出来るだけ成功確率を上げてみようかと思います」
ドロップ確率は10%なのだが、具体的な数値を言うのは避けた。先日、女神のドロップのスキルレベルの確認したときに現在のレベル5から6へ上げるにはSPが10ポイント必要だった。あれからレベルアップしてることを考えると、明日1日頑張ってレベル上げをすれば恐らく必要なSPは貯まると考えた。
「わ、分かった。トール君の好きにしてもらってかまわない……おお、これで希望が見えてきた!! トール君、ありがとう!!」
「いえ、まだお礼は早いです。やってみないことには、どんな結果になるかはまだ分からないのですから」
「私は、きっと成功すると思うわ!! トール! 頼んだわよ!!」
「トール殿、どうかよろしくお願いもうす!!」
「そ、それではトール君、決行は明後日の朝でいいかな? ギルドの前で落ち合おう。皆で一緒に行こうと思う。馬車を用意しておこう」
「はい、大丈夫です。了解しました」
こうして俺は、その日、期待に満ちた男爵たちに見送られながら、用意された馬車で領主邸を後にした。
◇
日が暮れる頃、自宅に帰って来た。
「リンーただいまー」
「あ、お兄ちゃん、お帰り! 謁見どうだった!?」
「おう、無事終了ってとこかなー。領主の娘の誕生日だったので食事会に招待されたな。料理が豪華だったぞ~」
「へぇ~よかったじゃない! お兄ちゃん」
「おう、これ、お土産だ。なんかご馳走が詰まってるみたいだぞ」
そう言って俺は、帰りにメイドさんから持たされた大きな風呂敷に包まれた重箱をリンに手渡した。
「――やったあー! まだ食事の準備をしてなかったので、ちょうどよかったよ!」
そう言ってリンは嬉しそうに、ご馳走が入った重箱をリビングのテーブルに並べていく。
ふぅー、やっぱり我が家は落ち着くなー。
男爵や領主邸で会った人たちは皆いい人で、さほど気兼ねすることなく楽しめたが、やはり慣れない貴族の家に招待されたのだ。少しは気が張るものだ。それにちょっと重い話もあり、頼まれごともされたしな……。
リンと一緒に食事をしながら話をする。改めてこの日常が心地よいと感じる。
「そういえば、リンは、エルフ族や獣人族を見たことあるか?」
「んっ? 一応見たことはあるけど、あまりこの街では見かけないかなあ……どうしたの、いきなり?」
「ああ、今日領主邸でそのエルフと獣人の冒険者がいて、紹介されて知り合いになったんだ」
「へぇー、どんな感じの人たちなの?」
「おう、3人いたけど、みんな美少女だったなー。エルフのエミリーは年齢の割に賢そうで、猫獣人のミーアは元気で猫耳としっぽが可愛いかったし、狐獣人のイナリは狐耳も良かったけどあのふわふわしたボリュームのある尻尾が最高だったなー」
「ふ、ふぅ~ん。お兄ちゃんってそんな趣味があったんだ……。どうせ鼻の下を伸ばして視てたんでしょ。お兄ちゃんの変態」
「なっ! べ、別にそういう変な目で見てた訳じゃないぞ! ま、まあその話は置いといてだ。……リン、これを見てくれ、こいつをどう思う?」
俺は、ポーチから手のひらサイズの小さな板切れのようなものを取り出して見せた。
「すごく……小さい、まな板?」
「……リンにしてはいい返しだな。これはな、今王都で流行っているスマーフォという遠距離通信用魔道具なんだ」
「えっ! そうなの!? 遠距離通信って、遠く離れた人と話が出来るっていうあの魔道具!?」
「そうそう。先ほどの3人の美少女亜人たちは、最近まで王都で活動してたんだ。で、これをミーアが2つ持ってたので、1つ譲ってもらったんだ。結構高かったけどな。ちなみに3人はしばらくこのフォレスタの街に滞在するみたいで、今は領主邸にいるみたいだな……ん?……」
手のひらのスマーフォがピコピコと小さな音を立てている。
「え? お、お兄ちゃん、これは!?」
「あー、早速、かかってきたらしい。えーと、このボタンを押すんだったっけ?……」
『やっほー。トールかにゃ? ミーアだにゃ~ 今みんなと飲んでるにゃ~』
『ちょ、ちょっと! ミーア何やってんのよ!!』
『きゃはははーお酒がおいしいのじゃーこのボア肉もこってりしてて美味しいのじゃあー』
『イナリの尾っぽはふかふかで気持ちいいのにゃ~』
『ひゃう! ら、らめなのじゃあ!! 尾っぽはだめなのおおお!!』
『み、ミーアの耳としっぽだって、こんなふうにこうやって、こうしてやるのじゃあああ!!』
『うにゃああああああ!!!』
『あ、あんたたち! やめなさ―― ひゃあ! ト、トール、ごめん! 切るね!』
「…………」
「…………」
「お兄ちゃん、今のは……」
「お、おう、聞かなかったことにしよう……」
「う、うん……」
「ま、まあ、こういった感じで、遠くにいる人と会話が出来るんだ。ただし、今の技術段階ではまだ遠い距離では無理らしい。だいたい街中か少し郊外に出たところくらいまでみたいだな」
そんなこんなで、リンとの夕食が終わり、俺は明日のレベル上げに備えて早めに休むのだった。
ちなみに、モフはすでにご馳走を食べ終わり、モフ用のベッドでスヤスヤ寝ていた。