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25話 幻のアイテム


「さて、長々と話を聞いてもらいすまなかったが、ここからが本題だ」


 男爵は一呼吸おいて、続けて話をする。


「トール君、当時の騎士団が壊滅した場所は、今は墓所になっているのは知っているかな?」


「いえ、知りませんでした」


「ふむ。実は、あの事件後、その場所に慰霊碑を立てて、亡くなった騎士たちや商隊の人たちの墓所としたのだ。しかし、まもなくその墓所から、死霊が現れるという噂が立ってきた。近くの領民が怯えているようなので、我々はその墓所の周りに柵を作り、立ち入り禁止場所とした。そして、調査の為に騎士団の一部を派遣したのだが、調査員の皆が口々に騎士の亡霊が現れたと言って来たのだ。更に調査を進めるうちに調査員の間で、当時亡くなった騎士で見知った騎士の亡霊が現れたとか、ダンカン騎士団長の亡霊を見たとか、はたまたロザリーの亡霊を見たとかそういった報告も上がってきたのだ」


 男爵は続けて話す。


「私は、その話を聞いてリドルフと一緒に騎士団を率いて直接、墓所を確認しに行った。結果はまさにその通り、私自身その目で確かに見たのだ。苦しそうに呻きながら徘徊しているロザリーやダンカン、騎士団の一人一人をこの目で確かに見た。体は黒く暗く意思疎通も全くできないアンデットと化していたのだ。こちらが何度話かけても応えることは無く、時には襲ってくることもあり、我々は心が締め付けられる思いがしたのだ。その後、なんとか元に戻せないか方々でいろいろと調べたのだが、それは無理との結論に至った」


 今度はリドルフ騎士団長が話し出す。


「それで、苦しみに捕らわれたまま屍のように生きながらえる彼らを、解放することにしたのだ。つまり、断腸の思いで我らが剣で葬ることにしたのだ……。しかし、葬っても一旦は消えるのだが、またすぐにアンデットとして蘇るのだ。何度剣を振るっても彼らは死ねないのだ。……そしてある時、亡霊となったダンカン様を葬ったときに、なんと、ダンカン様がアイテムをドロップしたのだ。そのドロップアイテムは生前ダンカン様が大事にしていた短剣だった。そして驚いたことに、ドロップした直後から、ダンカン様の体の色が以前の黒々とした色からわずかに薄くなったのだ。その短剣を王都の鑑定士に鑑定してもらったところ、通常ドロップアイテムとのことだった。魔物にレアアイテムがあるようにアンデットとなった人間にもレアアイテムがあるのかもしれないと思った我々は、ダンカン様のレアアイテムをドロップ出来れば、この苦しみから解放されるのではないかと考えたのだ」


 リドルフ騎士団長は一呼吸ついて、更に続けて話始める。


「我々はダンカン様がレアアイテムを落とすまで、何度も剣を振るった。葬る際のダンカン様の断末魔の叫びに我々の心も引き裂かれ、頭が狂いそうだった……。それでも続けた結果、やっとダンカン様がレアアイテムを落としたのだ。それはダンカン様が生前妻から贈られた形見のお守りだった。その瞬間からダンカン様の体は更に薄くなったのだが、残念ながら結果は変わらず、今でも亡霊のまま苦しみながら徘徊を続けているのだ」


 ここで今まで黙っていたエミリーが話始める。


「要するに、騎士団たちは、死霊魔法に罹ったのよ。エルフの知識では、死霊魔法の本質は、人々が持つ元々ある想いや願いなどを執着として必要以上に増幅させることなのよ。それによりこの現世に縛り付けることになり、結果不死となり永遠の苦しみに捕らわれることになるのよ。かつてロザリー姉さんは、そう言っていたわ」


 ――執着の増幅か。俺は考える。


 ……ん? 今、エミリーはロザリー姉さんって言った?


 俺の心の動きを読んだのか、エミリーは俺に向かって言う。


「そうよ、トール。ロザリーは私の姉よ。男爵からみて私は義理の妹になるの。それはともかく、死霊魔法は一度罹ると解けない厄介なものよ。それゆえエルフ族は、死霊魔法を恐れてきたの。そして、死霊魔法に罹らないための結界魔法を生み出したの。でも、その結界魔法には膨大な魔力を必要とするので、状況によっては万全じゃないわ。おそらくロザリー姉さんは、騎士団全員を守るために広範囲の結界を張った結果、魔力が尽きたのだと思う。姉さん一人や少人数だと守りきれたのかもしれないけれど……」


 続けてエミリーは話す


「元々死霊魔法は、古い昔にエルフ族を狙う魔族によって生み出されたものなの。具体的には、エルフの秘儀に対抗して生み出されたものなのだけれど……。その秘儀の内容は、今はちょっと話せないけれど、ロザリー姉さんにだけ、その秘儀が継承されていたのよ。でも、こんなことになってしまって……。今はその秘儀も途絶えてしまったわ……。唯一希望があると言えば、ミレアに継承されてる可能性があるけど、まだ幼いので多分無理でしょうね……」


 エミリーは一旦話を途切らせたが、続けて話し始める。


「結局のところ、安らかな死に導くしかないのだけれど、先ほどのリドルフさんの話で、アイテムをドロップするたびに体が薄くなっていった、ということが解決の糸口に思えるの。つまり、死霊魔法に罹った人間のアンデットにとって、ドロップアイテムは執着の本体で、体内からアイテムを放出することで、執着は減少するということではないかと。ダンカンさんは通常アイテムとレアアイテムの2つのアイテムを落としてもまだ執着が残っているということを考えると、その執着は、更にその上の上位アイテムとして残っていると考えられないかしら。元々人間にはいろんな未練や執着があるけれど、一番強い執着を断ち切らないと、死を迎えることが出来ないと思うの。つまり、レアアイテムを超える更にレアなアイテムを落とす――分離させることが出来れば、アンデッド状態から解放され、死を迎えることが出来ると思うのよ。……とは言ってもそもそもレアアイテムを超えるような上位のアイテムの存在自体、確認されたことは一切無いのだけれど……」


 エミリーの言葉は、俺にはちょっと小難しすぎて良く分からない部分もあったが、要は、アンデットと化した彼らを倒し、ユニークアイテムを落とさせれば、安らかな死を迎えることが出来る、ということなのだろう。俺は単純にそう解釈した。


 そうすると、それが出来るのはユニークスキル「女神のドロップ」を持つ俺しかいないということになる。まあ、エミリーの言う仮説が正しければの話だが。


 俺は男爵に聞く。


「死霊魔法に罹った騎士たちは何人いるのですか?」


「我々が詳細に調べたところでは、28名。ロザリーを入れると、29名になるな」


 俺は更に考える。現在の俺のユニークドロップ率は10%だ。


 アンデット化した彼らやロザリーさんにユニークアイテムが存在するのなら、それほど時間がかからずにドロップさせることは十分可能だ。

 ただし、やはり確率的に見てそれぞれ平均10回は倒さなければいけないことになるが。


 魔物を倒すのは気にならないが、いくらアンデット化したとはいえ、元は人間だったのだ。30名弱の人数を解放しなければならないとしたら、およそ300回の断末魔の悲鳴を聞くことになるだろう。

 俺にそれが出来るのだろうか……。正直かなりきついな……。


 男爵が言う。


「先ほどのエミリーの話だが、ドロップアイテムの研究は古来より続けられており、レアアイテムを超える更にレアなアイテムが存在するのではないか、と言う仮説は遥か昔からあった。その根拠の大半が神話や古文書に基づいたものだがね。例えば、ある古文書には、落とすはずの無いアイテムを魔物が落とした、という記述もある。具体的には、古来より一番たくさん討伐された魔物はスライムだが、そのスライムから丸い宝玉のような物が落ちた、という記述がある。まあ、今ではこのような古文書は偽書扱いされており、このような仮説を唱えるものはほとんどいないがね。しかし、私は神話や古文書の中にはある種の真実が含まれているとも考えている。……もしそういったアイテムが存在するなら、そのアイテムのドロップ確率は、きっと数多の星の中から、一粒の砂を見つけ出すほどの気の遠くなるような確率なのだろう。言うなれば、幻のアイテムと言えるのかもしれないな……」


 男爵は続けて話す。


「私が冒険者ギルドにモフミィのレアアイテムの依頼をしたのには少なからず理由がある。もちろん、ミレアが欲しがっていたというのもあるが、希少なモフミィの更に希少なアイテムを得ることの出来る冒険者なら、もしかすると、その幻のアイテムに手が届くのではないかと思ったからだ。もちろん、こんなことはあり得ないことだとは頭では十分理解している。しかし、あの墓所で今も苦しみ続けている我が妻や皆のことを思うと、藁にも縋りたい気持ちなのだ」


 男爵は俺を見て話す。


「私の依頼を達成したとギルドから報告があった時、私は真っ先にギードにその冒険者のことについて詳しく問いただしたのだ。まあ、ギードは冒険者の守秘義務を盾にあまり多くを語らなかったが、おもしろい冒険者だとは言ってたな……。その後、その冒険者がモフミィ自体をテイムしたとの噂を聞き、私は更に興味を持った。いろいろと考えるに、彼の納品の多さなどの情報から、その冒険者はドロップ率を上げるスキルを持っているのではないかと察せられた。……そう、トール君のことだがね」



「…………」



「すまない、トール君、別に君に問いただしてるつもりはないのだ。もし、トール君に墓所で苦しんでいる我々の仲間を救うことが出来る力があるのなら、力を貸して欲しいだけなのだ。決して無理強いはしないし、結果がどうなろうと受け入れるつもりだ。……ここから先は、トール君自身に委ねようと思う。仮にトール君の冒険者としての秘密を我々が知リ得たとしても、その情報は決して誰にも漏らさない。墓場まで持っていくつもりだ」


 そういって、男爵は俺に頭を下げたのだった。



 俺は考える。男爵たちの気持ちは痛いほど伝わった。

 

 ……俺は更に考える。今も墓所で苦しみ徘徊しているかつての忠臣たち……。男爵も、騎士団長も、エミリーも、恐らく亡くなった騎士団の遺族たちも心を痛めていることだろう。

 ……そしてミレアの母親が苦しんでいるのだ。


 俺はゆっくりと立ち上がって、大きく一呼吸して、そして言い切る。


「先ほど言われていた幻のアイテムは、確かに存在します」


 この場にいる皆が驚きの表情で目を見開いた。


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