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22話 妹とデート


 朝が来た。昨日、領主様の招待を受けた俺は悩んでいた。


「う~ん、どんな服を着ていけばいいんだろう? ……着ていく服がないな……」


 領主邸に行くのだ。それ相応のきちんとした服を着ていかないといけないと思うのだ。

 しかし、俺が持っている服は、どれも正装とはいいがたい普段着か冒険用の服ばかりだ。


「よし、お金も結構あることだし、この際に正装服を買いに行くか」


 しかし、どこでどんな服を買えばいいのかよくわからない。俺は長年、冒険のことばかり考えて生きて来たので、こういうことには疎い。


 そういえば前世の俺も、ゲームのことばかり考えて生きて来たので、あまりちゃんとした服を持ってなかったな……。いざという時に、服を買いに行く服が無い状態に陥り、挙句の果てに、アメゾンの通販で買ったはいいが、サイズが合わなかったり、着てみると全く似合ってなかったりしたものだった。


 リンにでも相談してみるか。

 

 リビングで横になってくつろいでいるリンに話しかける。


「リンー、ちょっと教えてくれ。明日、領主様に招待されて行くことになったんだけど、どんな服を着ていけばいいかよく分からないんだ」


「――えっ!! 領主様!? 招待!? お兄ちゃんが!?」


 リンはびっくりしてソファから起き上がる。


 俺は、今までの経緯を説明した。リンは目を見開いてコクリコクリと頷きながら聞いている。


「まさか、お兄ちゃんが領主様に謁見とは……ちょっとびっくりしたよ……」


「まあな。俺もちょっと戸惑っている」


「よ~し! そういうことならこのリンちゃんに任せなさい! お兄ちゃん、早速一緒に服を買いにいこうよ!」


「お、おう、任せたぞ……」



 こうして俺は、張り切るリンと一緒に、服を買いに街に繰り出すのだった。……これはもしかして妹とデートってやつなのか?





「おおー、ここかー。この前来たことがあるぞー」


 服屋の前に来た俺たちは、大きな特徴的な看板を見上げる。


 ――『もふもふく フォレスタ支店』


「高級服なら、やっぱりここでしょ。さあ、お兄ちゃん入るよ!」


 なぜかリンの声が弾んでいて、浮き浮きしている様子だ。



「いらっしゃいませ。もふもふく フォレスタ支店へようこそ」


 店内に入ると、上品な女性の店員が声をかけてくる。


「あのー、男性用の正装服を探しているのですが、見せていただけますか。えっと、領主様に謁見する為の服なんですが。こちらにいる私の兄が着る服です」


 リンはそう言って、俺に視線を移す。


「なるほど、承知いたしました。では、こちらへどうぞ」


 店員さんは、店内の正装服が並んでいる場所に俺たちを案内する。



 その後、女性店員さんとリンは、どんな服がいいかいろいろと話ながら、次から次へと俺は着せ替え人形のように試着させられる。俺の意見を求めることなく、女性二人だけで、話が進んでいく。


 もう完全に俺はなすがままだな。まあ、ファッションセンスが壊滅的な俺なので、もう二人にすべて任せたほうがいいだろう。


 こうして、俺の正装服が決まった。服に付けるネクタイやらハンカチやらカフスやらの、なんだか良く分からない小物なんかもすべて選んでくれた。


 会計は、一式しめて約30万ギル。意外に安かったな。というか最近の俺の金銭感覚がやや麻痺しているような気もするが……。



「おーい、リンも何か欲しいものがあったらなんでも買っていいぞー」


 俺は、リンに声をかける。元々リンにも服屋でプレゼントするつもりだったし。


「えっ!? いいの!? お兄ちゃん! やったー!!」


 リンは喜び勇んで、再び店員さんといろいろと見て回り始めた。


 うん、喜んでくれて俺も嬉しい。以前は、お金がなかったので、こんな時は必ず遠慮してたリンだったが、最近はお金にかなり余裕が出来てきたおかげか、素直に甘えるようになってきたのだ。お兄ちゃんはうれしいよ。


 さて、女性の買い物は長くなることを十分承知している俺は、リンのことはしばらく放っておいて、独りで店内を見て回ることにする。



 しばらく店内をぶらぶらしていると、カウンターの隅の一角に小部屋があるのに気が付いた。


 その小部屋は入り口や窓が解放されていて、中の様子がよく覗える。どうやら、服の仕立てをする場所のようで、一人の若い小柄な女性が一心に裁縫作業をしている。


 そのカウンター付近の壁に、小さな看板がかかっていた。


『オーダーメイド承ります。素材持ち込みによる仕立ても承っております』


 ほう、オーダーメイドか……。ん? そういえば前に入手したユニーク素材の糸があったような……。俺は、もふ猫のポーチの中を探り、その素材を取り出し、確認する。


~~~鑑定~~~

【キャタピルのユニークアイテム】

シルスレッダ(ユニーク素材) 

・魔力の籠った強力な糸

・服、ローブ、マントなどの素材として最適

~~~~~~~~


「おお、これだ。すっかり忘れてたな。せっかくのユニーク素材だ。これを持ち込みで何か作ってもらうとするか!」


 俺はワクワクしてきた。


 さてと、何を作ってもらおうか。マントはレアの物を昨日手に入れたし。ローブはマントがあるので当面は必要ないかな……。そうすると、冒険者用の服はどうだろうか。鎧があるから体部分は大丈夫だけど、腕や足など体の露出部分を全体的にしっかりと防護したいしな。

 よし、冒険者用の服とズボンを作ってもらうとしよう。


 俺は仕立て部屋を覗き込み、先ほどの裁縫作業をしている女性に声をかける。


「すいませーん。オーダーメイドをお願いしたいのですがー」


「…………」


 返事が無い。まるで屍のようだ――じゃなかった、集中していて気づいてないのかな?


「……は、はいっ! ち、ちょっと待って……もうすぐ、終わる、です……」


 おお、ちゃんと聞こえてたのか、良かった。


 その女性は小柄で、薄い水色のベレー帽のような羽根つき帽子をかぶっており、赤い縁の大きな眼鏡をかけている。お洒落な感じのする、美人系の可愛い女性である。


「はぁ~終わりましたあ~。あっ、お待たせしてすいませんですぅ~」


「いえいえ。それで、素材持ち込みで作って欲しいものがあるんですけど。大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですよぉ~。素材を見せてください」


 俺は「シルスレッダ」(ユニーク素材の糸)をカウンターテーブルに置く。


 彼女は、顔を近づけて、それを眼鏡越しにじっくりと見つめる。


「……ん、んん~? これは、なんの糸なのですかねぇ~?……今まで見たこと無いもの、ですねぇ~」


 まあ、それはそうだろうな。ユニークドロップアイテムなので、おそらくこの世界にふたつとない代物のはずだ。


 そうこうしているうちに、彼女の目がだんだんと怪しく輝き始めた。


「こ、これはっ! 新種の糸なのです! きっと。しかも、すごい魔力が込められていますねぇ~。それに、すごい丈夫そうですよぉ~。こ、これを使えば、きっと、最上級の織物が出来上がるに違いないですっ!!」


「そ、そうか……」


 なんか彼女の勢いに飲み込まれるような気がする。


「申し遅れましたですっ。私の名前はシャンテ。裁縫師のマスタークラスを持つ者なのですよぉ~。ふっふっふっ、私は裁縫にかけては腕に自信があるのですよぉ~。それにこの素材はすばらしい! です! これは私にオーダーメイドをするしかないですよぉ~! もちろんしますよねぇ~! 腕が鳴りますねぇ!」


「お、おう……シャンテ。俺はトールだ。冒険者をやっている。この素材を使って冒険者用の服とズボンを作って欲しい」


 ついため口で答えてしまった。初対面だけど、この人相手だとなんか冒険者仲間みたいな感覚に陥るな……。


「さすがトールさん、良く分かってますねぇ~。このシャンテにまかせて正解ですよぉ~! ちなみに私のお勧めは、この素晴らしい素材に、もふ猫の毛皮の毛を少し均等に組み込んでつくるのがいいですよぉ~! とても強くて丈夫、汚れが自然に落ちていく服になるの、です! 特に斬撃に強く、冒険者用の服としては最上級間違いなし! なのですよぉ~」


「お、おう……。それは、凄いな……」


「しかも、今ならお得で、このシャンテ直々のエムブレム刺繍をつけてあげますよぉ~、どうです!? いいですよねぇ~ ラッキーですよねぇ~ もちろん付けますよね?」


「お、おう、すべてシャンテに任せる……頼むぞ」


「さすがはトールさんです! すべては、このシャンテにお任せなのです! 3日後ぐらいに出来るので、その時に受け取りに来てくださいねー。ふふっ、期待してていいですよぉ~、では、トールさん、早速取り掛かるのでまた今度ですー」 



 そう言ってシャンテは、大事そうに俺の渡したユニーク糸を持って、目をキラキラさせながら仕事部屋の中に去っていった。


 はあ、疲れた……。


 なんか、すごい職人肌な人だな。見かけはオシャレで可愛く美人な女性なのだが、話が終わった後はなんだかとても残念な気持ちになったのはなぜだろう……。あれは、静かに黙っているほうがいいタイプの女性かもしれないな……。


 まあ、変わった人だったが、多分腕の方は確かなんだろう。マスタークラスとか言ってたし。……ていうかマスタークラスって何だ?


 それに、刺繍を付けるとか言ってたな。なにか嫌な予感しかしないが、まあこれも一興。楽しみながら出来上がるのを待つとしようか。


「あ、そういえば、会計はどうなったんだろう……。まあ、後払いでいいのか」


 一体後で幾らぐらい請求されるのかちょっと怖い気もするが、それも含めてもう全てシャンテに任せることにした俺だった。


 そして数時間後、リンと合流しリンの買った物を会計して店を出た。リンは気に入った外出着や帽子などを買ったようで、嬉しそうにしていた。


 

 俺たちはその後、お店で食事をしたり、商店街を回ったり、街外れを散策したりと、久しぶりの一緒の外出(デート)を楽しむのだった。


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