19話 パーリィーの時間だ
個室からギルドマスターたちと共にカウンター前の広間に出ると、相変わらず賑やかだった。
ギルドマスターが大きな声を張り上げる。
「お前ら! 今日はトールの奢りだ! 好きなだけ飲み食いしていいぞ! パーリィーの時間だ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオ!!」」」
「「「キャアアアアアアアアアア!!」」」
ギルド内の至るところから大歓声が上がる。
ギルドの職員さんたちがバタバタとテーブルやイスを配置し、酒や料理が次々と運ばれてくる。
「皆さーん、今日はトールさんに感謝してくださいねー! それと、なんと本日トールさんがDランクに昇格しました!! 皆さーん、トールさんに拍手をお願いしまーす!」
エメルダさんが上気した顔で大声を上げると、館内から一斉に割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「トール! やったじゃねえか!!」
「トールさん、おめでとうございます!」
「トール! これでやっと万年最弱冒険者から脱出出来たな!」
「ワハハハハハハハハハ!!」
皆が俺に話しかけて来る。その中には知ってる冒険者もいれば知らない冒険者たちもいる。まだ一度も話した事もない人達も気軽に話しかけてくれる。
いや~こういうのもいいな。なんだか気恥ずかしく感じるが、素直に嬉しい。
俺は、集まって来る冒険者たちに肩をたたかれ、エールを渡される。
ギルドマスターの乾杯の掛け声の下、歓声の声が上がる。
皆、一斉にエールを飲み始め、一段と陽気になっていく。
「よ、よお、トール。久しぶりだな」
冒険者の一人が、ちょっと照れくさそうに、俺に話しかけて来る。
俺と同じ時期に冒険者になったガイだ。冒険者になった当時は良く話してたが、其の後なんとなく疎遠になっていたのだった。
ガイの隣には二人の女性冒険者がいる。どうやら三人でパーティーを組んでいる様子だ。名前は今はちょっと思い出せないが、二人とも同期のメンバーで当時それなりに話したことはある。
「ガイか。懐かしいな。元気にやってそうだな。ダンジョン探索の方はどんな感じだ?」
「ああ、今はこいつらとパーティーを組んでてB級の方に行ってる。といっても、まだ2階層をうろうろしてるところだけどな」
――B級ダンジョン。この街の近くにあるもう一つのダンジョンだ。
この街のダンジョンは二つある。一つは、今俺が通っているダンジョンで、これはC級ダンジョンと呼ばれ初級冒険者向きの比較的難易度の低いダンジョンだ。そしてもう一つは中級冒険者向きの難易度が高いB級ダンジョンだ。
ほとんどの冒険者は、概ね1年以内にはC級ダンジョンを制覇し、B級ダンジョンの方に活動場所を変える。そして、ここからが本当の意味での冒険者の挑戦が始まるのだ。
「そうか、もうB級かー。すごいな」
「いやいや、これが結構大変でな……3階層がなかなか攻略出来なくてな、今は2階層でレベル上げ中だ。……C級の時が懐かしく感じるぜ」
「そっかー大変なんだな。俺も早くC級を制覇して、そっちに移らないとな」
「おう、頑張れよ。待ってるぜ。……それで、なんか悪かったな。しばらく疎遠な感じになってて……。お前が初期スキルを貰えなくて行き詰ってたのを聞いて、なんというか……どう声をかけたらいいのかわからなかったんだ。スキル持ちの俺たちが何を言っても慰めにもならねえし……。なんか気まずくて声をかけられなかったんだよ……。そうそう、メイもすごく心配してたんだぞ」
ガイはそう言って、隣の仲間の女性に視線を移す。
「――っつ! わ、私、トールさんに何度も声をかけようとしたけどかけられなくて……ごめんなさい」
ああ、そうだ。確かメイだったな。ちょっと気弱そうな性格は変わってないみたいだな。
「あー、いいよー。気にしないで。気持ちだけでもすごく嬉しいよ。なんか変に気を遣わせたみたいで、こっちこそ悪かったな」
俺は苦笑する。
「まあ、俺たちは夜型だからな。アスカの奴が寝坊ばかりするからどうしても活動時間が遅くなっちまって。そのせいでトールにあまり会えなかったというのもある」
「なっ! なによ! 別にいいでしょ! 寝坊くらい! ガイだってよく寝坊するじゃない!」
ガイがニヤニヤしながら言う。
「まあまあ。それよりも、アスカもトールのこと、心配してたんだよな?」
「な、な、なに言ってんのよ! べ、別に私はそんなに心配してなかったんだからね! ま、まあ…少しだけよ! 少しだけ!」
ああ、思い出した、アスカだった。まるでテンプレートのようなツンデレな性格も相変わらずだな。俺は苦笑する。
「まあ、そういうわけでだ。久しぶりの同期との邂逅だ。みんな、今夜は大いに飲もうぜ。トールの奢りなんだしな!」
ガイは笑いながらエールを持ち上げる。
そして同期メンバー四人でテーブルに付き、酒や料理を楽しみながら、いろいろと語り合った。
……そっか、そうだったのか。なんとなく気まずかった関係が一気に晴れた気がした。
同期の冒険者って、やっぱり有難いな。
周りを見ると、皆、飲み食いしながらバカ騒ぎしている。皆、一様に笑顔だ。
方々で、酒の飲み比べ勝負を始めたり、腕相撲を競ったり、変な歌を歌ったり、踊ったり、男性冒険者が女性冒険者を口説いてたりと、いろいろとやりたい放題だ。
なんか、エメルダさんやモカさんも口説かれてたな。エメルダさんは美人だし、モカさんは可愛いし。まあ、口説いた本人はあっさり振られていたが。――ドンマイ!
モフは、女性冒険者たちに囲まれて、料理を餌付けされてた。次から次へとモフの前に料理が運ばれ、モフは嬉しそうに食べまくっている。モフよ、これ以上太ってどうする?
俺たちのテーブル席にも、ひっきりなしに冒険者たちが酔っ払いながら訪れ、話を交わし合った。ほとんどが、バカ話だったが、陽気な彼らや彼女らを見ると、なんだかこちらも訳もなく楽しくなる。
「皆さーんっ!! ステーキが来ますよーっ!! なんと、極上のうさぎ肉ですよおー!!」
モカさんが弾んだ声を上げながら、大量のステーキが乗せられた食品台をガラガラと押して来る。
「ウォオオオオオオ!! 待ってましたあー!!」
「やったあ!! これが食べたかったんだよね!!」
ヒュゥウウウウウウウ
大歓声が上がり、口笛が響く。
食品台からどんどんとステーキが回されて、皆に行き渡る。
エメルダさんが大きな声を上げる。
「皆さーん!! それでは皆でいただきましょう!! 掛け声をお願いしまーす! うさぎのお肉はあああ??」
「「「極上でえええええーーす!!!」」」
冒険者たち全員の声が館内に響き渡り、歓声と笑い声が広がる。
「う、うまい!! うますぎるぜ!!」
「な、なにこれ!? 口の中で蕩けるような……美味しすぎる!」
「俺、初めて食べたぞ!! 絶品じゃねえか!!」
冒険者たちの顔が皆、蕩けている。
うん、分かる、解るぞ。俺も最初に食べたときはそうだったな。
モフも蕩けるような顔をしてもふもふと食べている。
ああ、楽しいな――。
俺はなぜか、前世のクリスマスの日のことが想い出された。そういえば、毎年、その日は独りでチキンを食べながらゲームをやってたな……。俺は前世では割りと独りでいることが好きで、そういう気楽な過ごし方が気に入っていた。
でも、今日の皆の顔を見ていると、こうして皆でパーティーをして騒いだり語り合ったりするのも、別の楽しさがあると思った。
ステーキが全て皆の胃袋に収まった頃合いに、冒険者の誰かが小さな炎の玉をいくつも館内に浮かべ出し始めた。――あれは火魔法だろうか。
皆が面白そうに騒ぎ出した。
それに続けとばかりに魔法使いらしき冒険者たちが、水の玉、緑の玉、茶色の玉などを一斉に浮かべ出した。モフも光魔法を使って、小さい光の玉をいくつも浮かべ出す。
まるで、前世で見たパーティー会場のミラーボールみたいだ。
館内がカラフルな色に染まる。
再び大歓声が上がる。
ああ、これがパーリィーか。楽しいな。こんなに楽しい気分になったのはいつぶりだろう。