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18話 猫カフェギルド

 風魔法が使えるようになって、俺は興奮気味だ。これからのダンジョン探索がよりいっそう捗りそうで嬉しい。


「さて、そろそろ帰らないといけない時間か……」



 この世界では、ダンジョンは6階層毎に転移陣がある。1階層の入り口付近に転移陣があることはいつも通っているので見慣れていた。

 今回は6階層にある転移陣を利用してダンジョンから帰ろうと思う。転移陣は6階層の入り口付近にあるはずだ。

 俺は一旦、6階層に行くことにした。



 6階層の入り口を通り抜けると、案の定すぐに見慣れた形の転移陣が見つかった。

 使い方はあらかじめ聞いており、簡単だ。ただ転移陣の上に乗っていきたい階層を念じればいいだけだ。


 俺とモフは転移陣の上に乗り、1階層へと念じた。


 すると、転移陣から白い光が出て、気が付けば、見慣れた1階層入口の転移陣に移動していた。


「ふぅ~。これは楽でいいな。一体こんな装置、誰が作ったのだろうな……」


 これで、次回のダンジョン攻略は6階層へ一気に飛べるはずだ。行きたい階の転移陣に移動するには、一度その階の転移陣まで到達する必要があるのだ。



 ということで俺は、ダンジョンを出て冒険者ギルドへと向かおうとしたが……


「う~ん、モフをどうしょうか……」


 ギルドへ連れて行けば騒ぎになるに違いない。といって置いていくわけにもいかないし。

 一旦は鞄の中に隠れてもらって、家に連れて帰るのがいいか……。う~ん、でもこれから毎回ギルドに行くのにずっと隠し続けるのは無理があるな。

いずれバレることになるだろうし。


 ……それに、よく考えたら、確か魔物をテイムしたら冒険者ギルドにその旨を報告して、従魔として登録しないといけない決まりがあったはずだ。


「ま、なるようになるか。堂々とモフを連れて行き、きちんと報告するとしよう」


 それと、いつもは猫耳フードなどのちょっと恥ずかしい装備は外して行くが、もうこそこそとするのも面倒くさい。堂々と装備したまま行くことにしよう。


 俺はいろいろと開き直り、モフを連れて冒険者ギルドへ向かった。





 ――冒険者ギルドにて


 カラ~ン


 モフを肩に乗せて、扉をくぐる。モフは太っているので結構重いな……。


 エメルダさんを探し、カウンターの方を見ていると、モフに気づいた周りの冒険者たちがザワザワしだした。



「……お、おい! アレはなんだ。ま、魔物か!?」

「なんだなんだ… げっ!!」

「きゃああああ!! ま、魔獣よ!!」

「い……いや、猫みたいだぞ!」

「えっ! あ、ホントだ! ……でも、猫にしては大きくて太りすぎじゃない!?」

「おい、もしかしてアレは従魔じゃねえのか!? 久々に見るぜ!」

「一体、なんの魔獣だ? 猫魔獣か?」

「でも、なんか、もふもふしてて可愛い~~」

「おい! あれは万年最弱冒険者のトールじゃねえのか!? なんで魔物を連れて来てんだ!?」


 次から次に冒険者たちが勝手なことを喋りだし、騒ぎが広がっていく。



「皆さーん!! お静かにお願いしまーす!!」


 カウンターの方からエメルダさんが大きな声を上げて、騒ぎを抑えようとする。


 俺は、モフを肩に乗せたまま、カウンターに向かって歩き出すと、カウンター前の冒険者たちは引きつった顔でザーッと道を開ける。

 他の冒険者達は、好奇の目で、俺の周囲に集まってくる。

 ギルド内の酒場にいた冒険者たちも、騒ぎを聴きつけてぞろぞろと集まってくる。



「と、トールさん、その猫は……ま、まさかテイムしたのですか!?」


「はい、テイムしましたぁ~。モフミィのテイム種ですよ~」


 俺は堂々とエメルダさんに告げる。もう完全に開き直ってるからね。


 周りが再び騒がしくなる。


「なにぃー!! モフミィだと!!」

「これが、伝説のモフミィか!!」

「俺、初めて見た……」

「きゃあ~~!! もふもふだぁ~!!」



 俺はモフを抱きかかえて、広めのカウンターの上に置く。


「名前は『モフ』といいます。これから俺のパーティーとして一緒に活動するのでよろしくお願いします」


 モフはエメルダさんに向かって、ちょこんと頭を下げる仕草をした。


「おおー!! なんか礼儀正しい猫だぞ!」


 周りが騒ぐ。


「は、はい、分かりました、トールさん。 ……で、では早速ですが、モフ(モフミィ)さんの従魔登録を致しますね」


 エメルダさんは、隣にいるモカさんに意味ありげに目くばせすると、モカさんは慌ててカウンター奥に駆け込んでいった。ん、なんだろう……。


「トールさん、冒険者カードをお預かりしますね」


 俺は懐から冒険者の身分証である冒険者カードを取り出し、エメルダさんに渡す。

 エメルダさんはカウンターの内側の台で、カードの記録用魔道具を取り出し、急いで登録の手続きを始めた。


 冒険者のギャラリー達は、ザワザワとお互い喋りながらこの様子を見ている。好奇心を抑えられないようだ。



 ――その時だった。


「モフミィをテイムした奴がいると聞いた。トールはどいつだ!!」


 男性の野太い大きな声が、ギルド内に響き渡る。


「「ギ、ギルドマスター!!」」


方々から声が上がる。


 ギルドカウンターの奥から、強面のおっさんが出てきた。隣にモカさんが控えている。きっと、モカさんが知らせに行ったんだな。


 俺はこの人がギルドマスターということは知っていたが、まだ一度も話したことが無く、なんか怖そうなおっさんだなといつも思っていた。


 がっしりとした体格でエネルギィッシュに満ち溢れている、40歳ぐらいに見える中年のおっさんだ。名前はたしか、「ギード」だったかな。

 まあ、ギルドマスターはほとんど、ギルドの奥の部屋に籠り、全体の管理の仕事をしているらしいので、普段はキルド内であまり見かけることがない。


「はい、俺です」


 ギルドマスターは、ギロリと俺を睨み、頭の天辺から足のつま先まで鋭い眼で俺を見る。


「ほう、お前が噂の万年最弱冒険者だと言われていたトールか」


「……いえ、万年じゃなくて一年ですよ?」


「ガハハハハ、言うじゃねぇか。まあ、最近のお前のことはエメルダから聞いている。頑張ってるそうじゃねえか」


 エメルダさん、俺のことをギルドマスターに報告していたんだな。報告内容がちょっと気になるが、悪いことではなさそうだ。

 それにこのおっさん(ギルドマスター)、見た目や喋り方からして怖い人かと思っていたが、意外と気さくな感じがするな。


「……で、お前、なんでリボン付の猫耳フードなんか被ってんだ?」


 周りの冒険者たちが、爆笑する。


 くっ、さすがギルドマスター。突っ込むところはちゃんと突っ込んでくるんだな……。



「まあいい……で、それがテイムしたモフミィか」


 ギルドマスターは、カウンターの上にちょこんと座ってるモフに視線を変えながら言った。


「しかし、まさかモフミィをテイムするとはな……俺が知る限り、今までそんな奴はいなかったはずだ」


「そんなに珍しいことなんですか?」


 俺はギルドマスターに聞く。


「ん? ああ、魔物のテイムに成功した冒険者はめったにいないからな。そもそもテイム種に遭遇すること自体がレアなケースだ。それも、めったに姿を現さないモフミィのテイム種だから、レア中のレアだな」

 

 そう言ってギルドマスターは、モフをしげしげと見つめた。


 大勢の冒険者たちもカウンターの上のモフを取り囲み、目を輝かせて見ている。



 と、そのときモフはおもむろにカウンターの上に半立ちになって、いつもの変な踊りを踊りだした。


「にゃ~~ん♪」(フリ~フリフリ~)



「「ギャハハハハハハー!!」」

「「ワハハハハハハハー!!」」

「「キャハハハハハハー!!」」


 周りの冒険者たちが、一斉に大爆笑した。


 キルドマスターやエメルダさん、モカさんなどの職員さん達も噴き出して、苦笑いしている。


「ぷっ! なんだ、なんだ!? 豚猫踊りか!?」

「くっくっ……ワハハハハハハ!!」

「きゃ~かわいい~!!」

「いいぞー! もっとやれー!」


 なんか変に盛り上がって来たな。それにモフの奴、段々調子に乗って来てるな……。

  

 その後、モフは主に女性冒険者の人たちに囲まれて、もみくちゃにもふもふされだした。

 モフは目を細めて、気持ちよさそうにしている。

 他の冒険者たちは、笑いながらエールなどを飲んでいる。ギルドマスターもテーブル席にどかっと座って苦笑いしながら、皆の様子を生暖かい目で見守っている。


 ……ま、あっちはあれでいっか。


「と、トールさん、と、登録が終わりまし、た。――ぷっ」


 エメルダさんが笑いをこらえながら、俺に冒険者カードを返して来る。


「エメルダさん、まああっちは皆に任せて、買取の方をお願いしますね」



 そうして俺は、エメルダさん、モカさんと一緒に個室に入り、今日手に入れた大量の戦利品の買取りを行う。

 もふ猫のポーチから次々に、戦利品を取り出す俺。

 エメルダさんとモカさんはすごくびっくりしていたけど、アイテムボックスについては守秘してくれるようだ。まあ、この世界には魔法袋などの、アイテムボックス機能がついている魔道具も希少ながら存在するから問題ないだろう。


 そして、買取金額はなんと約90万ギルとなり、ずっしりと硬貨の詰まった袋を受け取った。



 買取作業が終わり、三人で個室で少し休んでいると、ギルドマスターが個室に入って来た。


「大事なことを言い忘れてた。トール、お前は今日からDランクに昇格だ!」


「えっ!」


 俺はびっくりした。

 

「昇格理由は、最近のギルドへの納品数の多さと、先日の領主の依頼達成の件だな。お前は十分な貢献をしている。それに冒険者としての力量もDランクにふさわしいと判断した」


 エメルダさんとモカさんの顔を見ると、二人とも微笑んで頷いている。


「お、おお! ありがとうございます!」


 ずっと駆け出し最底辺のFランクだった俺が、ついに2段階アップのDランクに昇格したのだ。嬉しくない訳がない。

 

 俺は嬉しさのあまり、先ほど受け取った硬貨の詰まった袋をそのまま、テーブルの上に置いて――言った。


「今、このギルドにいる冒険者たち全員に酒と料理をふるまってくれ。もちろん職員の方全員にも」


 一瞬、三人ともポカンとした顔をしたが、すぐにギルドマスターは凄みのある笑みを浮かべて言った。


「いいのか? あいつらは底なしだぞ?」


 ニヤリと笑うギルドマスター。


「足りなければ、ギルドも出してくれるんだろう?」


 俺も不敵に言い放つ。


――決まった! 今の俺って超カッコイイのでは?


「クックックッ、言うじゃねえか。それでこそ冒険者ってもんだ。いいだろう。――エメルダ、モカ、今日はこれで店じまいだ!」


「――っつ! マ、マスター! アレやるんですか!?」


「当然じゃねえか。お前ら早く準備しろ」


 エメルダさんとモカさんは天を仰ぐようにため息をつくが、少し嬉しそうでもある。


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