17話 5階層へ
5階層へ入る。
この階層で出てくる魔物は2種類だ。
たしか、芋虫の魔物の「キャタピル」と、蝶の魔物の「バタフル」だったな。
昨日、エメルダさんたちと雑談した際に、5階層以降現れる魔物の情報をいろいろと聞いて予習していたのだ。
キャタピルは、糸を吹きかけて相手の行動を阻害しながら攻撃してくる魔物だ。そして、バタフルは、飛び回って風の魔法を使用してくるらしい。
どちらも少々厄介な魔物だ。
「モフはなるべく俺の後ろに隠れてて補助に徹してくれ。無理するんじゃないぞ」
俺はモフに指示を与える。
「にゃー」(――了解)
しばらく奥へ進むと、早速キャタピルが現れた。
俺の身長ほどの長さがあり、胴体は大きな木の丸太ぐらいの太さはある。
「シュアアアアアア!」
キャタピルは俺に向かって体をうねらせて突進してきた。
糸を吐かれる前に速攻で倒そうと、俺もキャタピルに向かってカウンターを狙い一直線に駆けだす。
距離が縮まり、短剣を前に突き出そうとしたその瞬間だった。
ピュウウウウウウウウ
「――うわっ!!」
いきなりキャタピルの口から白い糸が放射状に発射された。
慌てて避けようとしたが遅かった。糸の群れが俺の体に絡みついた。
なんとかキャタピルの衝突を避けようと、糸が絡まったまま無理やり横に飛ぶ。
ドカッ!!
キャタピルは俺の右肩を掠り、そのままの勢いで俺を通り過ぎていく。
なんとか正面衝突は避けられたようだ。ショルダーガードを装備していたので、こちらはそれほどダメージを負っていない。
俺は、急いで短剣で体に絡みついた糸を切り払う。
――振り返ったキャタピルがまた突進してきた。そして口を大きく開けて、再び糸を吐こうとしている。
「――クソッ! まずいな!」
その瞬間だった。
俺のすぐ斜め後方から、輝く光の玉が飛び出し、キャタピルの口に衝突した。
「ギャアアアアアアア!!」
キャタピルは悲鳴を上げ、大きな口を開けて悶えている。
「――モフ!?」
気が付くと俺の横にモフが居て、半立ちになり変な踊りを踊っていた。
なんだかよくわからないが、きっとモフが光魔法を使って攻撃してくれたのかもしれない。
「モフ! お手柄だ!」
この機を逃すまいと俺は、キャタピルめがけて、ホーンソードの突きを放った。
パキィイイイイイーーン!!
「ギャギャアアアアアアア!!」
断末魔の悲鳴を上げて消えて行くキャタピル。
コロン、フワッ
魔石とアイテムが落ちる。
「や、やった……」
モフの支援のおかげで上手く倒すことが出来た。
「モフ、良くやった! すごいぞ~」
モフをもふもふすると、嬉しそうにしている。
モフの光の玉の攻撃、差し詰め光魔法のライトボールと言ったところか。威力はそれほど大きくはなさそうだが、かなり有効だ。
「おっと、アイテムを拾って、鑑定っと…」
~~~鑑定~~~
キャタピルの糸(素材)
~~~~~~~~
「通常アイテムだな。よし、このまま狩りまくるぞ!」
キャタピルに対しては、やはりカウンター戦法は少し無理があるな。
今度はちゃんと糸を避けながら戦おう。なるべくこちらの速さを生かして、周り込みながら戦う方法がよさそうだ。
――と考えていると、早速またキャタピルが現れた。
今度はキャタピルを中心に円を描くように素早く周り込みながらダッシュで近づいていく。糸を吐いて来たが割と簡単に避けられた。
そのまま接近しホーンソードの突きを喰らわす。
「ギャギャアアアアアアア!!」
――消えて行くキャタピル。よし、一撃だ。
コツをつかめた感じだ。そのまま、ドロップアイテムを拾う。今度はレアアイテムも混じっている。
~~~鑑定~~~
キャタピルの皮(レア素材)
・皮の鎧などの素材として最適。柔らかい割りに丈夫。
~~~~~~~~
ふむふむ。良くわからないが、まあ良い素材なんだろう。
更に探索する。
すると、今度は大きな蝶が現れた。体の部分は小さいが羽を広げると意外と大きく見える。
「――バタフルだな!」
飛んでいるが、ダンジョンの天井があまり高くないおかげで、高度は低い。ジャンプして斬りつけることも出来そうだ。それにひらひらと浮かんでいるのを見ると、あまり素早く動けないようだ。こちらの攻撃を避けられることはなさそうだ。
だが、相手は風魔法を使うらしいから、慎重に行こう。
バタフルは急に羽を震えさせた。
と同時に薄い緑色の風の玉が現れ、こちらに向かって勢いよく飛んでくる。風魔法だ!
「――よっと!」
風の玉を避ける。玉は地面に当たり、土が抉れる。これは、差し詰め「ウインドボール」と言ったところかな。
かなり速かったが、こちらも素早さには自信があるので、注意していれば大丈夫そうだ。
魔法を使用して隙が出来たところを、俺は素早くジャンプして、バタフルに斬りかかった。
「キュイイイイイイイ!!」
断末魔の叫びを上げ、消えて行くバタフル。
「――よし! 余裕だな!」
今回はモフの力を借りずに倒せたな。
ドロップアイテムは、通常アイテムの「蝶の羽」(素材)だった。なんに使うものなんだろう?
コツを掴めた俺は、モフと一緒に5階層を駆けまわり、キャタピルとバタフルを狩りまくった。
目標は、キャタピルとバタフルのユニークアイテムを得ることだ。
こうして、時間を忘れるほど夢中で狩った末、目標を無事達成することが出来た。
――本日の収穫――
・各種魔石 多数
・猫の爪 36個
☆猫の毛皮 9個
★キャッツアイ 2個
・もふ猫の毛皮 5個
☆もふ猫のフード 1個
★もふ猫のポーチ 1個 →モフからのプレゼント
・キャタピルの糸 21個
☆キャタピルの皮 5個
★シルスレッダ 1個
・蝶の羽 19個
☆蝶の鱗粉 4個
★風のリボン 1個
(☆レアアイテム、★ユニークアイテム)
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~~~鑑定~~~~~
【キャタピルのユニークアイテム】
シルスレッダ(ユニーク素材)
・魔力の籠った強力な糸
・服、ローブ、マントなどの素材として最適
……………………………………
【バタフルのレアアイテム】
蝶の紫鱗粉(レア素材)
・錬金などに利用される珍しい素材
…………………………………
【バタフルのユニークアイテム】
風のリボン(ユニークアクセサリー:頭)
・装備時、魔力+10
・付与スキル 風魔法Lv2
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今日の一番の注目アイテムは、ユニークアクセサリーの「風のリボン」だ!
なんと風魔法Lv2の付与が付いているのだ! そして装備時、魔力+10の効果も素晴らしい。
形状は蝶のような可愛い形をしており、薄い緑色の奇麗なリボンだ。
俺はワクワクして、早速、今被っているもふ猫のフードに「風のリボン」を取り付けた。
……まあ、このリボンは明らかに女性が髪に留めるような可愛い形のリボンなので、ちょっと男の俺がつけるのは恥ずかしいのだが仕方がない。
強くなる為には猫耳フードだろうが、女性用のリボンだろうが、俺は甘んじて身に着けるのだ!!
「……ん? さて、ちょうどキャタピルが一体来たことだし、さっそく風魔法を使ってみるとしようか」
俺は、現れたキャタピルに向かって風魔法を使うことを意識した。
――その瞬間、脳裏に「ウインドボール」と「ウインドシールド」という二つの言葉と、それぞれのイメージが鮮明に浮かび上がった。
キャタピルが突進してくる。
「ウインドシールド!」
俺は左手を前にかざし、まずはキャタピルの前面に風の盾を展開する。透明度の高い薄緑色の丸い風の盾だ。
ドッ!!!
キャタピルが風の盾にぶつかり前進が止まる。
と同時に俺は風の盾を解除して、次の魔法を唱える。
「ウインドボール!」
薄緑色の風の玉が現れ、キャタピルに向かってすごい勢いで飛んでいく。
その風の玉は人の頭よりも大きく、その内部で無数の小さなかまいたちが暴風雨のように荒れ狂っているようだ。
ズババババババーーン!!
「ギャギャアアアアアアア!!」
ウインドボールが命中し、キャタピルは消えていった。一撃だ!
「おおおー!! 風魔法、凄い!!」
俺は興奮して喜びの踊りを踊っていた。
俺はこの日、生まれて初めて自分の魔力で魔法を使えたのだった。
……ふと隣を見ると、なぜかモフも喜びの踊りを踊っていた。