15話 妹とは不思議な存在である
俺は上機嫌で、自宅に帰って来た。
「ただいまぁ~~、リン~お土産だぞ~」
「お帰り~お兄ちゃん」
俺は先ほど服屋で買ってきたもふ猫の部屋着をリンに手渡す。
「……えっ! これって……もふ猫の毛皮で作った服!? だよね? あの高級服店『もふもふく』でしか売ってない服だよね。暖かくて、肌触りも最高、汚れも自然に浄化していくもふ猫の魔力が込められているから基本的に洗わなくても大丈夫だけど、洗っても問題なくて、へたれなく、丈夫で長持ち、冬は暖かく、夏に着てもなぜだか涼しく、……それから、それから……」
あ、だめだこれは。完全に自分の世界に入っていったな……。
しかし、なんでリンはこんなにも詳しいのだろうか。謎である。
「……あの? リン、さん?……」
「……ハッ! 私、なにか言ってた?」
「……いや、思いっきり独り言みたいに喋ってたぞ……。それより、なんでそんなに詳しいんだ?」
「えっ? 詳しいも何もこんなの常識じゃない。……もしかして、お兄ちゃん知らずに買ってきたの?」
「あっ、いや、知ってるとも……。ああ、もちろん知ってて買ってきた…ぞ?」
「やっぱり知らなかったんだ」
「おい!」
――妹とは不思議な存在である。
「お兄ちゃん、これ高かったでしょ?」
「ん……そうだな、まあまあ、かな? でも大したことはないぞ?」
「んんーんっ……。ソレだよ、お兄ちゃん」
「どれがだよ? 妹よ」
「だーかーらぁー、最近のお兄ちゃんのことだよ。……お兄ちゃん、私に隠してることあるでしょ?」
「げっ!」
「あ、やっぱりそうなんだ……」
「……いや、まあ、あると言えばある、無いと言えば無い、ような?」
「また訳の分からないこと言って……。まあいいよ。可愛い可愛い妹のリンちゃんに話してみそ?」
「みそ、……ってどこでそういう言葉を覚えたんだ。お兄ちゃんはお前をそういう風に育てた覚えはない!」
「げっ、親兄だぁー。いやいや、昨日の夕食時におにいちゃん、ミソのスープが美味しいとかなんとか言ってたじゃない!」
「え……俺、そんなこと言ってたっけ?」
「言ってたよ! まーったく、いい加減なんだからお兄ちゃんは……ところでミソって何?」
「お前、味噌汁を知らないのか……って、いや知ってる訳ないのか……」
「みそしる?」
「おう、味噌汁と言うのはだな、それはそれはすごく美味しいスープでな、毎日飲んでも飽きないすぐれものなんだよ。この世界のどこかにある…かもしれないという伝説の食材でな、飲んだら癖になること間違いなし……」
「……あの、お兄ちゃんちょっといい? なんで伝説のスープの味をお兄ちゃんが知ってるの? 飲んだことないんでしょ?」
「い、いや……飲んだことあると言えばあるし、無いと言えば無いし……。そ、そうだ、知り合いの冒険者が言ってたんだよ! すごく美味しいらしいって……」
「お兄ちゃんに知り合いの冒険者っていたっけ?」
「うぐっ! べ、別にいないわけじゃないぞ! 冒険者登録した頃はたくさんいたんだからな。……まあ、その後、疎遠になったって言うか、置いてけぼりを喰らったっていうか……うぅ」
「……なんかごめん、お兄ちゃん」
「ま、まあそんなことはどうでもいい。話が飛んだな。……ええと、なんだったっけ?」
「そうそう、お兄ちゃんが私に隠してることがある、っていう話だよ! で、可愛い可愛い妹のリンちゃんに話してくれるってことだよ!」
「誰がかわいいって? ……まあ、否定は、しないけど……」
「へ、へぇ~しないんだ……。えへへ。お兄ちゃんの、シ・ス・コ・ン~~」
「おい!」
――やはり妹とは不思議な存在である。
「はぁ……分かったよ。リンの聞きたいことって言うのは、俺の冒険者としての実力のことだろ?」
「なんだ、お兄ちゃん、ちゃんと分かってるじゃない」
「……そうだな、何から話したものか……」
「いいよ、ゆっくりでいいから。ちゃんと聞かせて」
――そして、俺はここ数日で起きたことのほぼすべてをリンに語った。
あの日、2階層でホーンラビットと戦ったさいにスキルを得たこと。
そのスキルの効果で、魔物のドロップアイテムの量と質が向上したこと。
そして、強力なドロップアイテムや装備のおかげでレベルも上がり初級冒険者としてはまずまず強くなれたこと。
狩りで得るアイテムも劇的に増え、売却の稼ぎもかなり増えて金銭的に余裕ができてきたこと。
今まで黙っていたのは、あまりにもスキルが有能なので、このことが広まるとリンや自分自身に危険が及ぶ可能性があると思った為。
――など、細かい部分や前世の記憶が蘇ったこととかはさすがに省略したが、大体ここ最近の俺の冒険者活動の変化を伝えた。
「そっか、やっぱりお兄ちゃん、前よりも強くなったんだね。まあ、最近はお土産とか生活費をたくさん渡してくるからなんとなくは気づいてたんだけどね」
「まだまだこれからだけどな。今はまだまだ力が足りないけど、これから冒険者としてもっと成長していきたいと思ってる」
「……うん、わかった。でもね、これだけは約束して。絶対に無理しちゃだめだからね!」
「お、おう。もちろん無理はしないつもりだ。慎重に行動するよ。……まあ、リンの為なら俺は無理するかもしれないけどなっ!」
「――っつ! そういうとこだよ! お兄ちゃん! ……まったくもぅ……」
「ふっ、今のセリフかっこ良かっただろ?」
「あー、はい、はい、カッコ ヨカッタ デス ヨ」
「なんで片言なんだよ」
「あぁーもう、お兄ちゃんのせいでこんな時間になったじゃない! 早く夕飯作らなきゃ。あー忙し忙し」
リンはそう言うなり、払うように手のひらをひらひらと振って、速足でキッチンに向かっていった。
なんだかその横顔が少し赤くなっていた気がしたのは、俺の気のせいだろうか……。
――やはり妹とは不思議な存在である。