141話 船出 ~新たなる冒険へ
――数日後。
先日は、モフの仲間たちのおかげで、ポルポワール邸の警備体制が万全に整った。これで安心だ。
モフからの情報によると、モフの仲間たちは、王都の西の方にある広い森の奥に住んでいるとのことだった。
そこには「モフミィの里」があり、多くのモフミィ種が密かに生活をしているとのこと。
モフは「モフミィロード」として、その里に行き、彼らをスカウトしてきたのだった。
そう言えば、たまにモフが一日中いなくなる時があったな。
どこに行ってたかと思っていたが、「モフミィの里」に行っていたのか……。俺は今更ながら納得する。
さて、今日は待ちに待った "船出" の日だ。
"月の神殿" を探すために、海に出るのだ。
先日、依頼していた "潜水船" が出来上がったとの報告を受け、俺たちは船出の準備をすでに終えている。
これから、潜水船のある「港町アクルス」に皆で行くのだ。
ポルポワール邸の中庭に、全員が集まっている。
モフの仲間の『エレミィ』が、以前、港町アクルスに行ったことがあるようなので、エレミィに「転移門」を出してもらう。
エレミィが空間魔法を唱えると、金色に光る転移門が現れた。
「「「おおお!!」」」
「こ、この扉をくぐると、港町アクルスに着くのか? す、すごいな……」
そう言えば、俺が前世で読んだ漫画にこういうのに似た物があったな。たしか、「ど〇で〇ドア」という猫型ロボットの秘密道具だったかな……。
ブランダ夫妻、幾人かのメイドさんと一緒に、俺たちはその「転移門」をくぐる。
扉をくぐると、そこは海の町だった。
太陽が燦燦と輝き、海岸が見え、広大な青い海が広がっている。
海辺の港には、船の保管庫がある建物が見え、何艘もの船が係留されている。
「「「おおお!!」」」
「にゃー! 実際に海を見るのは初めてなのにゃー!」
「ミレアも!」
「広いのじゃー!」
「潮風が気持ちいいね!」
俺たちの潜水船が係留されているドックに皆で入る。
そこには、立派な船があった。
「「「おおお!!」」」
船の近くの桟橋に、シャンテの祖父であるパスカルさんと、鍛冶師のバッカスさんとその仲間たちがいる。
「おお、トール君、皆、ついに潜水船が出来上がったのじゃ! どうじゃ! なかなかの出来だろう!」
「トール! 久しぶりだな! 船がついに出来上がったぞ!」
「ありがとうございます! パスカルさん、バッカスさん、そして鍛冶師の皆さんたち。いい船ですね!」
皆も感嘆してその潜水船を見つめている。
その後、パスカルさんから船の操作方法などの説明を受ける。
基本的には、船内に取り付けてある魔法の羅針盤(レア魔道具)により、自動操縦が可能とのことだ。これは便利だな。
そして、いよいよ俺たちは海に乗り出すことになった。
ブランダ夫妻、パスカルさん、バッカスさんとその仲間たち、数人のメイドさんたちに見送られながら、俺たちは潜水船に乗り、出航する。
「トールくーん、みんなー、シャンテー! 気を付けて行ってくるんだぞー!」
「皆さーん! 行ってらっしゃーい! 気を付けてねー!」
「「行ってらっしゃいませー!!」」
「楽しんでこいよー!」
こうして、皆に見送られながら、甲板の上で手を振り、俺たちは海に乗り出すのだった。
◇
俺たちの目指す月の神殿は、大陸の北東の海にある。
そして、港町アクルスは大陸の真南に位置している。
したがって、大陸の海岸線に沿って反時計回りにぐるりと回って行くことになる。なかなかの距離だ。
だが、この潜水船は、魔石を燃料としてかなりの速度で進むことが出来るようだ。
潜水中は速度が落ちるため、今はまだ潜水していない。
ちなみにこの潜水船は大きすぎて、空間魔法のアイテムボックスに入れることは出来ない。
容量的には問題ないのだが、アイテムボックスの入り口はそこまで広くはない。
なので、船の持ち運びは出来なく、普通に航海しながら大陸の北東の海岸まで行くしかないのだ。
大きな海原を疾走する俺たちの船。
皆、甲板に出て、その青く広がる海を感嘆し見つめている。
「にゃー! 広くて気持ちいいのにゃー!」
「青い海が奇麗ですわ! ほんとうに久しぶりに見るわ!」
「潮風が心地いいね!」
「もっとスピードを上げるのじゃー!」
「あっ! あれはトビウオじゃないかっ! イルカもいるぞっ!」
皆も甲板の上ではしゃいでいる。
ルーナさんも、生き生きとした表情をしている。気の遠くなるような長い年月を滝の裏の洞窟で過ごしたルーナさんにとって、さぞ感慨深いものがあるのだろう。
左手に見える陸地からある程度の距離を保ちながら海上を疾走する。
しばらく進んでいると、ミーアとエミリーが、げっそりとした表情をし始めた。
「にゃ~…なんだか目が回るような気がするにゃ~…」
「ほ、ほんとね……。少し気分が悪いわ……」
あーなるほど。これは船酔いだな。
俺も乗り物には弱いほうだ。前世でもそうだったが、船酔いもよくしたものだった。
実はこんなこともあるかと思い、事前に錬金術師のメアリさんに酔い止め用の薬の製作を頼んでいて、すでに大量に確保していたのだった。
「ミーア、エミリー、これを飲むといい」
俺は酔い止めのポーションを二人に渡す。二人ともちびちびとそのポーションを飲む。
「にゃにゃ! 治ったにゃ! すごく気分がいいにゃ!」
「ほんとね! あっという間に気分が良くなったわ! ありがとう、トール!」
さすがメアリさんの作った薬だ。効果抜群だ。メアリさんによると、この薬の効果は数日間も続き、何度か飲めば、乗り物酔いの体質も完全に改善されていくとのこと。なかなか凄い薬だ。
念のため、皆にもそのポーションを配る。一応、俺も少し飲んでおくことにするか。
更に進んでいると、海の中に魚の群れが見えてきた。
「あっ! すごい魚の群れがいるよ!」
「ほ、ほんとだ! 凄いね!」
俺の翡翠眼が自然と発動してくる。
―――鑑定―――
サンマ
・普通の魚(魔物ではない)
・群れで行動する習性がある
・塩焼きにするとすごく美味しいよっ!
――――――――
「おお! サンマの群れだ! これはいいぞ!!」
「トールさん! シャンテに任せるのです!」
シャンテが蜘蛛糸の網を大きく広げて海中に放つ。
「えいっ!」
網を引き揚げると、大量のサンマが網にかかっていた。
「「「おおお! すごい!」」」
「よし! 皆! 今日はサンマの塩焼きパーティーだ!」
「サンマの塩焼きにゃー! ミーアの大好物にゃ!」
「サンマ美味しいよね!」
「ミレアも好き!」
「わらわもじゃー! 酒に合うのじゃー!」
すでに日が暮れかかっていた。
俺たちは、潜水船を海岸に留めて、今日の航海を終える。
一晩過ごすにはちょうどよい美しい砂浜の海岸だ。
海辺から少し離れたところに、今晩泊まるためのクランハウスを事前に建てる。
そして、砂浜で焚火をし、取れたての大量のサンマを焼く。
「にゃ~! いい匂いがしてきたにゃ~!」
「お、美味しそうだなっ!」
「そ、そろそろ、焼けたようだわ!」
一斉に、サンマの塩焼きにかぶりつく皆。
「にゃー! 美味しいにゃー! 幸せだにゃー!」
「ほんと! すごくおいしいね!」
「「おいしい!!」」
旅に出る前に、いろいろな食料や飲料を大量に買い込んでアイテムボックスの中に入れてある。
コーメ(米)で作ったおにぎりや、野菜サラダ、果物、果実水など、いろいろと取り出す。
イナリやミーアは酒好きなので、お酒も出した。
「サンマはお酒に合うのじゃー! うまいのじゃー!」
「果実水にも合いますよ~。美味ですぅ~」
「皆、大根おろしにレモン汁をかけると更に美味しいぞー」
「ほ、本当だ! お兄ちゃん、これ美味しいね!」
「ほんと、あっさりして美味しいわ!」
「お、美味しすぎるぞっ!」
「はぁ~しあわせ~」
皆、呆けるような幸せな顔をして、一心に食べている。
海岸線が夕日を浴びて、奇麗な橙色に染まる。
焚火を囲んで、煌めく海を眺めながら、俺たちはサンマの塩焼きパーティーを楽しむのだった。
サンマが美味しい季節になりましたね(*´ω`*)