140話 ポルポワール邸の警備体制
昼下がりの午後。
俺たちが、ブランダさん、エレナさんと共に、ポルポワール邸のサロンでくつろいでいたところ、1階の玄関口の方から、なにやら騒がしい声が聞こえて来た。
「だ、旦那様!! た、ターニャさんが戻ってまいりした! お喜び下さい! ターニャさんは無事です!!」
メイドの一人が息を切らせながら、サロンに飛び込んできた。
「なっ! それはまことか! おお! ターニャ! よかった! 本当に良かった!」
「まあ! ターニャちゃん! よく無事で!」
「「おおお!! やったー!」」
皆で駆け足で1階の大広間に行くと、煤で汚れたメイド服姿で、息を切らしている少女がいた。
「おお! ターニャ!」
「ターニャちゃん!」
「はぁ…はあ…、だ、旦那様! それに皆さまも! 今までゲルダ商会の本部に監禁されてました! や、やっと逃げてこれました!」
「なっ! なんと!」
「「おおお!!」」
「ターニャちゃん! ほんとに、無事で良かったですぅ~!」
「よく戻って来ました! ターニャちゃん。本当に良かった…。怖かったでしょう。辛かったことでしょう。もう大丈夫よ。ここに居ればもう安心ですよ!」
ターニャさんをそっと、抱きしめるエレナさん。
「奥様ぁ…うっ、うっ、うわああ~~ん」
安心して緊張が解けたのか、エレナさんの胸の中で、泣き出すターニャさんだった。
こうして、半年間もの間行方不明になっていたターニャさんだったが、無事帰ってくることができ、皆は喜びあったのだった。
◇
その日の夜は、ターニャさんの無事を祝って、祝賀会となった。
豪華な晩餐。主役はターニャさんだ。
意外に気丈なターニャさん。今はすっかり元気になって、これまでの経緯を、食事をしながら皆に話している。
「な、なんと! あの指輪の魔法でやっつけたのか! す、すごいな!」
「ターニャちゃん、すごいのです!」
「にゃ~、ターニャちゃん、勇敢だにゃ~!」
「ゲルダ商会の悪者は成敗されたのじゃー!」
「ターニャちゃん、怪我が無くてよかったね!」
「トール君! あの指輪をオークションに出して、正解だったな! まさかこんなかたちで役に立つなんて……まったく運命の女神は粋なことをしてくれるものだなっ!」
皆、笑顔で盛り上がっている。本当に良かった!
ターニャさんの話に出て来た魔族。
やはり魔族がゲルダ商会と繋がっているようだ。
どれだけの強さを持った魔族なのだろうか? 俺は興味を惹かれた。
ターニャさんは、更に情報を提供してくれる。
「あ、そう言えば、その魔族の男について、ゲルダ会長と幹部の人の会話を偶然耳にしたことがあります。確かその魔族の男の名前は『ダグラス』。レベルは820だそうです」
「「おお!」」
「なるほど! それは良い情報ですね」
「820かにゃ~、たいしたことないにゃ~」
「そうね。私たちのレベルは皆1000。しかもユニーク装備で更に強化されてるし」
「油断しなければ余裕なのじゃ~」
「えっ! 皆さま、ほ、本当ですか! すごいです! 私、すごく安心しました!」
ブランダさんが話す。
「しかし、ゲルダ商会のやつらは、誘拐までするのか……。とんでもないことだ。一応、私の方から騎士団に報告しておくつもりだ。ただし、恐らく向こう側は白を切ることと思う。ターニャ独りの証言だけでは、証拠にならないとかなんとか言い出すだろうな……」
更にブランダさんは続けて話す。
「まあ、しかし裁判沙汰にはしないつもりだ。裁判になるとターニャに負担がかかる。敵も必死だろう。証人であるターニャが再び狙われかねない。あんな恐ろしい目にあったのだ。これ以上ターニャを危険な目に会わせる訳にはいかない。今後、ターニャには護衛をつけることにしよう」
俺もブランダさんの考えに同意する。
「そうですね。今後はターニャさんに強力な護衛をつけた方がいいと思います。そして、ポルポワール邸全体も警備を厳重にしたほうがいいですね。今は、俺たちパーティーがいますが、今後、俺たちが冒険の旅に出るとなると心配ですね。そろそろ、潜水船も出来上がりそうだし――……」
ん? なんだろう……。モフが何か言いたそうだ。
モフは言葉は喋れないが、俺とはテレパシーのような感覚で意思疎通できる。
なになに……。後で皆と一緒に大広間に来て欲しい?
ふむ、なんだかよく分からないがモフに何か考えがあるようだ。
「ま、まあ、とりあえず、皆さんでそれぞれスマーフォを持って、何かあればすぐに連絡を取り合うようにしましょう」
「そうだな。最近、父のおかげで、更にスマーフォの性能が上がった。今ではかなりの距離でも連絡が取れるはずだ。なにか異変が起きたら、トール君を始めパーティメンバーの方々に連絡をさせてもらおうと思う。よろしく頼みます」
そう言ってブランダさんは頭を下げるのだった。
◇
晩餐会が済んだ後、ポルポワール邸にいる全員が、大広間に集まっていた。
「トール君、モフ君が何か用事があるとのことだが……」
「にゃ~。なにかあるのかにゃ?」
「モフちゃん? 何かな?」
皆がモフを見つめながら、興味深々にしている。
「よし、モフ。皆集まったぞ。やっていいぞ!」
モフはちょこんと頷き、踊り出した。
すると、大広間の中央に大きな金色に輝く扉――"門" のようなものが現れた。
――空間魔法Lv8 転移門
「「「おおお!!」」」
「にゃ~! 大きな扉が現れたにゃー!」
「な、なんだか分からないが凄そうだぞっ!」
そして、なんとその門から、モフにそっくりの猫型の魔物が、次々に現れて来た。
「「「おおお!!」」」
「モフの仲間だにゃー!」
「ほんと! モフがいっぱい!」
モフ――種族:モフミィロード
すべてのモフミィ種を従える存在。
次々に現れてきたモフの仲間は、隊列を組んで、モフの前に整列する。
「「「にゃ~ん!!」」」
そして俺たちに向かって、敬礼するモフの仲間たち。その数総勢30匹!
俺の「翡翠眼」が自然に発動してくる。
―――鑑定―――
ハイモフミィ Lv300+80
(モフミィの上位種)
・光魔法Lv8
・空間魔法Lv7
・猫爪Lv6
・感知Lv5
――――――――
28匹
―――鑑定―――
『エレミィ』 固有種
Lv650+150
種族:エレメンタルモフミィ
・全4属性魔法Lv8
・空間魔法Lv9
・回復魔法Lv4
・猫爪Lv7
・魔力向上Lv5
・感知Lv6
――――――――
1匹
―――鑑定―――
『シルバー』 固有種
Lv700+150
種族:ガーディアンモフミィ
・光魔法Lv9
・空間魔法Lv9
・回復魔法Lv5
・猫爪Lv8
・魔力向上Lv5
・感知Lv6
――――――――
1匹
俺は皆に、モフの仲間たちのレベルや強さを伝える。
「「「おおおおーー!!」」」
「にゃー! 凄い援軍にゃー!!」
「強そうなのじゃー!」
「こ、これは頼もしい仲間たちだぞっ!」
「ぽ、ポルポワール邸を警備してくれるのか!? こ、これは助かる! ありがとう!」
「すごく頼もしいわ。モフちゃんのお仲間さんたち、よろしくね! あ、そうだわ、これから皆さんに毎日ご馳走をたくさん作ってあげないとね!」
「私、腕に寄りをかけてたくさんの料理やお菓子をつくりますっ!」
「「「にゃにゃにゃあ~~~~ん♪」」」
モフの仲間たちは大喜びしているようだ。
こうして、モフの頼もしい仲間たちが、今後ポルポワール邸とターニャさんを警備してくれることになったのだった。