14話 もふもふ猫
――気分良く浮かれながら妄想に浸っていた時だった。
「……ん?」
一瞬、遠くに何か白い大きなものがふわりと見え、暗がりに消えて行った。
「もしや……」
俺は急いで追いかけた。
曲がり角を曲がると、こちらに背を向けて逃げていく大きな太った猫らしきものを発見した。
「モフミィか!!」
俺は興奮した。
急いでその大猫を追いかける。
太ってる割りには逃げるスピードはかなりのものだ。
だが、俺には先ほど装備したキャッツアイのおかげで敏捷力が更に上がっているからか、徐々に太猫との間の距離が縮まってくる。
もう少しだ……。
突進し、後ろからその丸っこい背中に突きを喰らわした。
ズン!
一撃だった。
大きな丸い猫は消えて行き、その後にアイテムを3つ落とした。
コロン、モフッ、もふっ
「や、やったぞ!!」
虹色の光は無く、3つ落ちたということは、早くも最初の1匹の討伐でレアアイテムを入手出来たようだ。
「依頼達成だ! やった~」
早速、3つのドロップアイテムを鑑定する。
~~~鑑定~~~
モフミィの魔石
‥‥‥‥
もふ猫の毛皮(素材)
・もふもふした暖かい毛皮
‥‥‥‥
もふ猫のフード(レア防具:頭)
・防御力(DR)3
・装備時、幸運+5
・付与スキル 感知Lv3
~~~~~~~~
「おおおー!!」
またしても俺は狂喜した。
魔石や素材はともかく、このレア防具「もふ猫のフード」はすごい!
またもやスキルが付与されている装備を目にした。しかも感知スキルだ!
何気に幸運+5がついてるのもポイント高い。
依頼用のアイテムではあるが、俺は好奇心を抑えきれず、もふ猫のフードをかぶってみた。
白くてふわふわして暖かい。
猫耳が何気についているのはちょっとはずかしいが、ダンジョンの中だ。
あまり気にしないようにしよう。
それにしても、このフード。被った瞬間、周囲の状況が鮮明になった気がする。
これが感知Lv3の力なのだろう。
周りの地形や動く魔物の気配が手に取るように解る。
範囲はそう遠くまで効果はおよばないようだが、この階層の3分の1ぐらいの範囲は感知できるようだ。
なるほど、モフミィは感知スキルを持っていたので、冒険者の接近に気づいて事前に逃げていたのかもしれない。
よし、そうと分かれば、この感知スキルを逆に利用して、モフミィをもっと狩ってみるか。
俺は、フードを被ったまま感知スキルを意識して発動し、4階層を駆けまわった。
すると、モフミィらしき気配をところどころに感じることが出来た。
あとはモフミィとの追いかけっこだ。
こうして俺は有り余る体力と敏捷を駆使してモフミィを探し、狩り続けた。
モフミィはなかなか見つからなかったが、それでもなんとか6体を狩ることが出来、レアアイテムをもう1つと、そしてなんとユニークアイテムも手に入れることが出来たのだ。
6体目でドロップしたので今回は運が良かった。
モフミィのユニークアイテムは、形状は布で出来た小型の鞄――ポーチ――のような物で、かわいい猫の絵柄がついている。
……なんだろうか?
そして逸る気持ちを抑えながら鑑定をした。
~~~鑑定~~~
もふ猫のポーチ(ユニーク魔道具)
・機能:アイテムボックス
・異空間にアイテムを収納することが出来る。
・空間内は時間が止まっているため収納したアイテムは劣化しない。
~~~~~~~~
「きたああああああ!! アイテムボックス!!」
俺はまたしても狂喜した。
これでたくさんのドロップアイテムを収納することが出来そうだ。
俺は試しに今日グレイキャットやモフミィを狩って得たアイテムの山をすべて「もふ猫のポーチ」に入れてみた。
大量のアイテムが吸い込まれるように小さなポーチに入っていく。これはすごい!
取り出すときは、ポーチに触れると中に何が入っているのか頭の中に映像が浮かんできて念じるとすぐに取り出すことが出来た。
これはすごく便利だ。
レアアイテムのもふ猫のフードの方は2つ入手出来たので、依頼用と自分用の両方確保できたのもうれしい。
俺はこの日、大満足でダンジョンを後にし、いつものように鼻歌を歌いながら冒険者ギルドへ向かった。
ーーー本日の収穫ーーー
・グレイキャットの魔石 22個
・猫の爪 22個
☆猫の毛皮 5個
★キャッツアイ 1個
・モフミィの魔石 6個
・もふ猫の毛皮 6個
☆もふ猫のフード 2個
★もふ猫のポーチ 1個
(☆レアアイテム、★ユニークアイテム)
ーーーーーーーーーーー
――冒険者ギルドにて
カラ~ン
毎度のごとくギルドの扉をくぐり、売却用の受付に行こうとした瞬間、待ち構えたようにエメルダさんとモカさんの視線が食いつくように俺に向かってきた。
なるほど……依頼の件だな。……しかし必死な目が何だか怖いな……。
俺はニッコリと笑って親指をグッと立てて応えると、二人の顔にパアッと笑顔が広がった。
……そのまま個室に三人で入る。
「トールさん! 手に入れたのですよね!?」
二人の目が期待に輝いている。
「ふっふっふっー、もちろん入手出来ましたよ」
「やった~!! さすがトールさん! ありがとうございますっ!」
俺は鞄から「もふ猫のフード」を取り出し、二人の前に置く。
「わあっ! これがモフミィのレアアイテムですかぁ~ もふもふした可愛いフードですね。猫耳も付いてる」
と、モカさん。
エメルダさんは、何かの資料を見ながら目を交互に動かし、真剣に確認している。
「……確かに、モフミィのレアアイテム『もふ猫のフード』で間違いないようです!! トールさん、ありがとうございます! 本当に助かりました!」
二人とも上気した顔で喜んでくれている。良かった~。
「いえいえ、今回は運が良かっただけですよ。あっ、それと他に4階層で入手したアイテムがたくさんありますのでそれも買取りお願いしますね」
俺は大きな鞄から自分用のもふ猫のフードとユニークアイテム以外の戦利品を次々にテーブルに置き並べていく……
ここに来る前に、戦利品はすべて今まで使っていた大きな鞄に詰め替えていたのだった。
さすがにもふ猫のポーチから取り出すのは見られたくないしね。
「わぁ~ 毎度ながらたくさんありますね。すごいです! ……えーと、猫の爪…猫の毛皮……あっ! モフミィの魔石ともふ猫の毛皮が6つづつありますね! これも珍しいですね」
「私、初めて見ました……」
こうして今回の買取作業も賑わいながら続けられた。
「え~と、それではトールさん、まずは依頼達成報酬です。報酬額はなんと、300万ギルになります!」
「おおおー!! すごい値段ですね!」
さすが貴族様、娘の誕生日プレゼントにポンと300万ギルものお金を出すのかー。
まあ、そもそも「もふ猫のフード」自体入手困難だから高いのだろうが。
「そして、今回の買取り金額の方は55万3千ギルとなります」
「おお! 結構な金額ですね。ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ貴重なアイテムの取引ですので助かります。特にもふ猫の毛皮の買取額が高めですね。もふもふの暖かい服やマントなどに使われる素材で人気がありますから」
「なるほどー」
今日の狩りの成果は依頼報酬を含め350万以上の稼ぎとなった。
いや~なんか4階層っておいしいな。もうずっとこの階層で金稼ぎできそうだな~。
まあ、でもあまりやりすぎると、値崩れの心配もあるし、ギルド職員以外の人にこのことが知れ渡るといろいろと面倒なことになりそうだな。
それに、俺の目標は難関ダンジョンの制覇であり、冒険者として強くなることだ。それにはレベル上げが不可欠だ。
今後ももっと強い魔物と戦いレベルアップしていかないといけない。
そう、ダンジョンの奥を目指していくのだ。
その後三人でゆっくりとお茶をした後、俺はエメルダさんとモカさんに何度もお礼を言われ、気分良くギルドを後にし、帰宅するのだった。
ちなみに、今日は帰りにリンへのお土産に、服屋で、もふ猫の部屋着を買って帰った。
モカさん言く、暖かくて肌触りも良く高級な部屋着で有名な一品であるとのことらしい……