137話 ゲルダ商会とオークション
◇ ゲルダ商会Side ◇
――ここはゲルダ商会本部の建物の一室。
ゲルダ商会の商会長であるゲルダは、会長室のデスクの椅子に座り、不機嫌な顔をしていた。
「こ、これはどういうことだ!! ガルバン! なぜこんなに売り上げが減ってるんだ!!」
デスクの上に広げた報告書を読み終わったゲルダは、部下に向かって悪態をついた。
「げ、ゲルダ様、も、申し訳ありません。さ、最近、闇オークションの売り上げが減ってきているのです。つまり、その……オークション会場に人が集まって来なくなりました。今や我らのオークションは閑古鳥が鳴いている次第です……」
「な、なんだと!! そ、そんな馬鹿なことがあるか!! り、理由は何だ! せ、説明しろ、ガルバン!」
「は、はいっ! その…ポルポワール家が主催するオークションに客が流れているようなのです。今やあちらのオークションが大人気なのです。一応私の部下に調べさせたところ、我らのオークションより魅力ある出品があちらには多数あるとのことでした……」
「――くっ! ぽ、ポルポワールの奴らめ!! 我が商会に喧嘩を売るつもりか!! ……よ、よし、こうしよう! おい、ガルバン! 部下を集めて奴らのオークション品をすべて買い占めろ!! 今すぐにだ! 多少高く落札してもかまわん! 買い占めてそれよりも高い値段で売るんだ!!」
「わ、分かりました! す、すぐにでも手配いたします!」
慌てて会長室から出て行くガルバン。
「くっくっくっ! これでポルポワールの奴らもお終いだ! 奴らのオークション品は我々がすべてかっさらってやる!」
ゲルダは口元を歪ませながら、悪どい笑みを浮かべるのであった。
◇
今、俺たちパーティーメンバーの内6人とルーナさんは、ブランダさんの主催するオークション会場にいる。
ブランダさんに一度見学に来てはどうかと勧められ、ブランダさん引率のもと、今日開催されるオークションに来たのだった。
シャンテとミレア、モフは、ポルポワール邸で警備を兼ねてお留守番だ。
皆、オークションを見るのは初めてなので、何気にテンションが上がっている。
「にゃ~! これがオークション会場かにゃ!」
「すごい熱気なのじゃー!」
「人がいっぱい! す、すごいね!」
「会場の建物も立派ですわ!」
「どうだ、皆。すごい熱気だろう。最近は以前とは比べ物にならないくらい人が入ってくるようになったのだよ」
上機嫌で話すブランダさん。
しばらくすると、壇上に進行役の男性が立ち、オークションが始まった。
会場内によくとおる声が響き渡り、次々に競りが進行していく。
なかなかの競り合いだ。熱気がすごい。
オークションに出される商品は、A級ダンジョンのレアアイテムが主流のようだ。また、王都内のB級ダンジョンの物も含まれている。
ブランダさんによると、俺たちがブランダさんに売ったレアアイテムも、数多く独自に出品しているとのことだった。
お、アダマンタイトのインゴットが出品されたな。凄まじい勢いで参加者の手が上がってるな……。
「にゃ~! スリムポーションが出品されたにゃ!」
「ほんとね! 大人気だわ……」
『スリムポーション』も出品されている。これはB級ダンジョンの『スリムゴブリン』のユニークアイテムで、最近俺が集めて、ブランダさんに大量に売ったものだ。どんなに食べてもこのポーションを飲めば簡単に痩せることが出来るすぐれものだ。特に愛食家の貴族たちに大人気のようだ。ブランダさんと事前に相談しての出品で、特に問題ないだろう。
しかし、このスリムポーション、凄い勢いで値段がつりあがって行ってるな……。
まあ、皆が欲しがる気持ちも良く分かる。ちなみに俺たちパーティーの女性陣やエレナさんにもせがまれたポーションだ。最近モフもこのポーションの味をしめて、飽食の限りを尽くすようになったしな……。
しばらく、様子を見ていると、ブランダさんが、少し首をかしげながら言う。
「ふむ~。なんだか今日の落札金額はいつもよりおかしい気がするな……。なんというか、かなり強気だな。それも、特定の団体のみが落札しているような感じがする……」
「そ、そうね。確かに、そんな感じがするわ……」
「あの一角に座っている団体が怪しいのじゃ~」
イナリが指さす辺りには、なんとなく柄が悪い連中が集まっている。
確かに、先ほどから見ていると、あの辺りに座っている人たちばかり、落札しているようだ。
俺はその団体の中央に座っているリーダーらしき人を何気に見ていると、自然と「翡翠眼」のスキルが発動してきた。
―――鑑定―――
ガルバン 48歳
・ゲルダ商会の幹部
・盗品、密輸、麻薬取引、人攫いなどの多くの犯罪歴を持つ
――――――――
「なっ! ゲルダ商会!?」
つい俺は小さく叫んでしまった。
「「えっ!?」」
「なっ! トール君! ど、どういうことなのかな!?」
エミリーがすかさず俺たちの周りに遮音結界を張る。
そして、俺はブランダさんと皆に状況を説明する。
俺がその怪しげな団体の一人一人を「翡翠眼」で確認すると、全員ゲルダ商会員だった。
そして、どうやら皆グルで、オークション品を高値で買い占めているようだった。
「な、なんと、そういうことか……。ついにゲルダ商会も動き始めたわけか……」
「にゃ~! 買占めはずるいにゃ~!」
「金に物を言わせてるのじゃー」
「う~ん、本当に欲しい人たちがなかなか買えないみたいね……」
ブランダさんは、少し困った顔を見せたが、すぐに明るい表情を取り戻す。
「まあ、どうせ彼らはいずれ高値づかみになるのだよ。好きにさせればいい」
そう言って笑いながら片目をつぶってみせるブランダさんだった。
◇
――翌日
◇ ゲルダ商会Side ◇
――ゲルダ商会、会長室にて
ゲルダ商会の商会長であるゲルダは、昨日以上に不機嫌な顔をしていた。
「こ、これはどういうことだ!! ガルバン! なぜ我々の買い占めた商品が売れないんだ!!」
ガルバンから報告を受けたゲルダは、彼に向かって悪態をついた。
「げ、ゲルダ様、も、申し訳ありません。ぶ、部下に調べさせたところ、昨日競り落とした商品と同じものが…なんと、ポルポワールの一般店舗で朝から格安で売られているのです。そ、そして、昨日落札できなかった人たちが、店舗に押し寄せて直接買っているのです。これではもはや我々から買う理由がなく、つ、つまり…我々は高値掴みしてしまったようなのです……。昨日落札した商品は…残念ながらすべて不良在庫となりました……」
「――なっ! な、なんだと! やりやがったなあああ! ポルポワールどもめ!! ゆ、ゆるさんぞ!! く、くそどもがああああああっ!! 」
「げ、ゲルダ様! お気をたしかに……ひっ!」
室内にゲルダの怨嗟の声が響き渡る。
怒りのあまり興奮しすぎたゲルダは、元々薄くなっていた髪の毛が更に抜け落ちるのだった――。