134話 海に沈んだ島
ルーナさんの話では、月の神殿は、ルーナさんの故郷の海岸の村から遠くに見える海に浮かぶ島にあるとのことだった。
そして、俺たちはその場所を地図で確認したところ、なんとその島は地図に記されていなかったのだ!
「こ、これは一体――!!」
ルーナさんは、困惑の表情で地図の一点を凝視している。
「も、もしかして、島は沈んでしまった!? ……のかしら?」
ルーナさんの時代にあった島は、悠久の時を経て、なんらかの地殻変動? で沈み、すでに現代では失われてしまったのかもしれない。
ん? 俺の記憶に少し引っかかるところがあった。
あっ! 俺は、思いだす。
A級ダンジョンの迷宮主部屋にある祭壇で見たホログラムの地図――遥か昔の古代の地図。
その地図には、現代では存在しない謎の小さな島が記されていたことを――。
シャンテがスマーフォを取り出して、話しかけて来る。
「トールさん! あの祭壇の立体映像の地図ですよ! 私、その地図をスマーフォに記録しておいたのですよぉ~」
「おおっ! さすがシャンテ! グッジョブ!」
シャンテの手には、最新の機種のスマーフォが握られている。
シャンテはスマーフォを操作する。
すると、あの時皆で見た古代の地図が、そのスマーフォからホログラムのように浮き上がった。
「「「おおー!!」」」
皆は、その地図を一心に見つめる。
「ああっ! こ、この島ですわ! 月の神殿のある島ですわ!!」
ルーナさんが、立体映像の地図の中のある一部分を指さす。
そこは、ルーナさんの故郷の海岸の村の位置から、やや北にある海の中だ。確かにそこに島があった。
「ルーナさん、詳しくは省きますが、この地図は俺たちが独自に入手した古代の地図なんです。恐らくルーナさんの生きていた時代に近い地図だと思われます」
「はい、私の知る大陸の地図にそっくりです!」
さて、かつて月の神殿が存在し、そのおおよその場所も解ったが、問題は――。
「にゃ~、島と一緒に神殿も沈んでしまったのかにゃ?」
「ど、どうやらそのようね……。ど、どうしたらいいのかしら……」
「う、海に潜って探すしかないのか!? そ、そんなこと出来るのか?」
「神殿、壊れてないといいけど……」
「ふむぅ~。壊れてないにしても、水浸しですよねぇ~」
ルーナさんは言う。
「一応、月の神殿自体には、結界が張られているので、衝撃には強く、恐らく海水は入ってないと思うのですが……。ただ、随分長い時間が経ってしまっているので、結界の力が失われて水浸しになっている可能性もありますわ……」
「と、とりあえず、海の中を探すしかないのか……しかし……」
「海の中を探すとなると大変だわ……おおよその位置は分かってるけれど、それでも海は広いわ……。
それに、そもそも深い海の中に潜るなんて、正気の沙汰ではないわ……」
「わらわは、水の中は苦手なのじゃ~」
「まあ、確かにかなり厳しい状況だな……どうしたものか……」
シャンテが言う。
「トールさん、船を使うのはどうですかねぇ~」
うーむ、船かー。俺は更に考える。
船の上から海の底を覗きながら探すか? それとも感知スキルでいけるか?
そして、見つかったら一気に潜るか。水魔法で海水を操作すれば、なんとかいけるか? だが、かなり魔力を消耗しそうだな……。
良く分からない。
「トールさん、船というのは、潜水船のことですよ~。海の中に潜れる船ですよ~」
「「「えっ!」」」
シャンテの一言に皆が驚きの声を上げた。
「シャンテ! 潜水出来る船なんてあるのか?」
「そうですねぇ~。まだ実用化はされてないですが、以前、おじい様が設計をしてましたよぅ~。確か人手と十分な資金があれば製作可能って言ってましたねぇ~」
「「なっ!!」」
「にゃっ! にゃんと!」
「すごい!」
「そ、そんなことが可能なのか!」
シャンテの祖父――パスカルさん。スマーフォの開発者にして、ポルポワール家の研究発明家。
最近は人造ゴーレムの製作を手掛けている。
確かに、彼なら潜水船を造ることが出来るかもしれない。
「いいぞ、シャンテ! その線でいこう! 早速パスカルさんと話をつけに行こう!」
「「おおお!!」」
「潜水船、楽しそうなのにゃ~!」
「「いいね!」」
こうして俺たちは、パスカルさんの別邸にある作業場に行った。
作業場に着くと、パスカルさんがいた。
また、バッカスさんとその仲間である数人の鍛冶師たちもいて、皆で一心に作業をしている。
そこにはすでに、巨大な人造ゴーレムが、ずらり並んでいた。だいぶ作業も進んでいるようだ。
俺は、パスカルさんに事情を説明し、潜水船の製作を依頼する。
「おお、潜水船か! あれを作るのもわしの夢じゃった。じゃが、人手と莫大な資金が必要なので、今まで後回しにしておったのじゃ。ふむ……人造ゴーレムの製作も一段落ついたからのぅ。……よし! いいとも! 潜水船、作ってみるかのう!」
こうして、パスカルさんは、俺たちの潜水船の製作を請け負ってくれることになった。
その後、ブランダさんとも相談し、具体的な段取りを決めた。
資金については、俺たちにはだいぶ貯えがある。足りなければ、アダマンタイトやミスリルのインゴットなどの、お金になるドロップアイテムをダンジョンから無限に仕入れることが出来る。皆で数日狩りまくれば大丈夫だろう。
人手については、ブランダさんの伝手で、専門の職人を確保してくれることとなった。
船の製作は、王都から南の方角にある、港町アクルスで行うとのことだ。
そこは、大陸一の港町で、船の製作はもちろん、船の保管庫の所有もできる。
契約に関することも、すべてブランダさんがやってくれるとのこと。さすが大商会の長だ。有難いことだ。
パスカルさんによると、その潜水船は、外見は普通の船と変わりないものだそうだ。
一応設計図を見せてもらったが、確かに普通の船の形だった。
潜水する時は、船内に設置された特別な魔力結界装置を起動させると、船全体を魔力膜が包み込み、浸水することなくそのまま潜れるとのことだった。潜水中に船の甲板の上に出ても大丈夫とのことで、海中の中を自在に航海できるようなので、すごく面白そうだ。
船の大きさについては、せっかくなので、やや大き目にするよう注文した。船内や船上の甲板など、余裕をもった広さにすると皆でいろいろと楽しめそうだ。
俺たちは、これから港町アクルスで、自前の船を所有することになる。
目的は、海中で月の神殿を探し入ることだが、船を持てること自体、なんだか夢のようだ。
船の製作には、1カ月ほどかかるらしい。しばらく待たないといけないが、出来上がるのが楽しみだ。
「海の中に潜れる船かにゃ! 面白そうだにゃ!」
「わらわもじゃー! 楽しそうなのじゃー!」
「お魚さんが見れるの!? やったー!」
「海の中を直接見れるなんて、すごいね!」
皆もはしゃいでいる。
いや、遊びで潜るわけじゃないからな。あくまでも、月の神殿に入るためだからな……。
しかし……まあ、皆、楽しそうなのでいっか!
なんだか俺もワクワクしてきたぞ!