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131ep 閑話5 エルフの図書館員ブックマールのとある日常 


 私は幼いころから本が好きだった。


 両親が読書家だったということもあり、家にはたくさんの本があった。

 日常的に、本に囲まれた環境の中で、自然と読書好きになったように思う。


 ただし、私は家に引きこもって本ばかり読むような子供ではなかった。


 エルフの里やその周辺の森には、自然があった。

 そして、いくつもの不思議な古い建造物や遺跡が辺りに散在していた。

 

 私は、好奇心にかられ、エルフの森を飛び回り、古代の遺跡を発見し、探検することが楽しみだった。

 そういった古い遺跡を見ながら、古代の情景に思いをはせたものだった。



 私が13歳のころ、長老のソロンさんと両親に連れられ、初めてエルフの図書館に入った。


 その時の衝撃と喜びは、いまでも忘れることが出来ない。


 圧倒的な数の、本や巻物、古文書の数々。 


 本好きの私にとって、その図書館は夢のような場所だった。


 興奮しながら館内を一心に見つめる私に、長老のソロンさんは言った。


「ブック君、ここ、エルフの図書館で、古代の研究の仕事をしてみないかね?」


 えっ! 大好きな本に囲まれて、大好きな古代の歴史や文明の研究が出来る!!


 私は、願ってもない長老の申し出に、二つ返事で快諾したのだった。



 その日から、私はここエルフの図書館の研究員となった。


 遥か(いにしえ)より連綿と続き、現代にいたるエルフの知識の宝庫。

 ここでの研究は、私にとってとても刺激的で、素晴らしく、ワクワクするものだった。

 

 あれから、何年もの月日が流れた。

 今でも、古代の研究にかける情熱は失われていない。

 それどころか、研究すればするほど、知らないことが増え、真理への探究心がより膨れ上がってくるのだ。




 先日、久しぶりにエミリーが、彼女の友人たちと共に、私のもとに訪れた。

 そして、なんとロザリーの娘であるミレアちゃんも一緒だった。

 ロザリーが、フォレスタの街でその領主である男爵と結婚したことは人伝で聞いていた。

 ミレアちゃんは10歳くらいだろうか。あれからもう10年近くが経っていたことに、私は時の流れの速さを感じた。



 それはそうと、エミリーが私に見せてきた不思議な首飾りには驚いたものだ。

 なんでも、あの滝の裏の洞窟に棲む "月の水蛇" が、落としたとのことだった。

 トールさんの鑑定によると、その首飾りの名は、『トゥーム・レム・ミルア』――月の巫女の魂!

 そして、その首飾りの台座部分に、なんとエルフの神代文字が刻まれていたのだ!

 

 月の巫女の伝説を知る私にとって、衝撃的なことだった。

 そして、その首飾りは、年代測定できないほど古いものだった。

 その神代文字はあまりに古く、今の私では読めなかったのが残念なことだ。

 一応、写しを取ったので、これから解読を試みるつもりだ。



 しかし、私は思う。

 おそらく、トールさんやエミリーたちは、きっと私の力を借りなくても、これからの冒険のなかで、その謎を解いていくのではないかと――。

 なぜだか私にはそんなふうにも感じられるのだ。


 


 さて、改めて "月の巫女の伝説" について調べ直した私は、ふといろいろな疑問が湧いてくる。

 

 そもそも月の巫女は、月の住民だったのか? それとも地上の住民だったのか?

 また、伝説では、魔王が月に攻めて来たときに、月の巫女は月から地上へ逃げて来たとなっているが、どのような手段で月から地上に移動したのか? 転移魔法で移動した? いや、そんな長距離を移動できるほどの魔力を持った空間魔法や転移魔法の使い手なんて聞いたことがない。

 それとも、そもそもこの伝説は何かの比喩なのだろうか?


 疑問が尽きることはない。まあ、伝説とは得てしてそういうものなのだろう。





 私が正式に図書館の研究者になったときに、長老から言われたことがある。


「ブック君。この世界の文明は、遥か大昔の時代から、幾度も崩壊と再生を繰り返してきたと、わしは先代より伝え聞いておる。そして、再び、魔王の再来も近づき、崩壊の兆しが見え隠れしているのを感じるのじゃ。遥か古より悠久の時の流れのなかで、失われた知識や伝説も多いことだろう。エルフの図書館は、そういった "失われた過去" を再発掘する場所でもあるのじゃ。ブック君、この図書館でしっかり学び、研究し、人類の崩壊を食い止める為の "未来の光" となる何かを見つけ出して欲しいのじゃ」


 

 私は、何十年と膨大な古文書の海をさまよい、(いにしえ)の歴史を研究してきた。


 そしてその古文書の語るところは、多くの "伝説" に満ち溢れていた。


 その伝説の糸を紐解き、あるいは繋ぎ合わせ、真理を探究してきた。


 しかし、悠久の時の中で、"失われた伝説" も多くあることだろう。


 この世界の崩壊を防ぐ手段は、その "失われた伝説" の中にあるのかもしれない。



 私は年を取った。これからはトール君やエミリー、ミレアちゃんたち、若い者の時代が待っている。

 

 いつかきっとそういった彼らの手助けとなれるよう、 "未来の光" となる何かを見つけるべく、日々研究に精進しようと――。


 そう私は誓うのだった。



 閑話5を持ちまして、閑話編は終了となります。

 

 しばらく本編休載しておりましたが、第4章開始しました。

 よろしくお願いいたします。


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