129ep 閑話3 日常の日々、モフ太る
朝が来た。
世界樹の泉で月の巫女のルーナさんに会えてから、もう10日ほどが経ったかな?
新しく仲間になったルーナさんと一緒に、俺たちは、今日もポルポワール家の豪邸でのんびりと過ごしている。
新たな冒険に旅立つためには、"アレ" が完成しないといけないんだよなあ~。
今は、専門の職人さん達に任せるしかないな。
それが完成するまで、まだもう少し日数がかかりそう。
その間、今の俺たちメンバーは、特にやることがないんだよなー。
レベル上げをしようにも、すでにA級ダンジョンを攻略したしな。
もうこれ以上俺たちのレベルを上げられるような強い魔物がいないのだ。
A級ダンジョンの階層主を何度も倒せば、もっとレベルを上げられるのだろうが、階層主の扉に入るには1カ月以上のスパンがあるようなのだ。
当面、レベル上げが出来ないので、暇なのである。
まあ、せっかくの休暇期間だ。
いままでのダンジョン攻略での疲れをとりながら、英気を養うこととしよう。
ただ、邸宅で毎日ごろごろとしてるのも退屈なので、ここのところ王都にあるB級ダンジョンに単独で入り始め、新たなユニークアイテムの開拓をしている。
基本的に装備に関しては、A級ダンジョンのアイテムより性能は落ちるが、それでも珍しいアイテムや素材などを少しづつ入手出来ている。
まだ戦ったことのない魔物が、どんなユニークアイテムを落とすのか、それを想像しながらの狩りは楽しいものだな。
先日は、エメルダさんに贈り物をするために、メアリさんに最高の首飾りの錬金依頼をした。
昨晩メアリさんところに飛び、確認すると、明後日頃には完成する見込みだとのこと。楽しみだ。
ちなみにその首飾りには、エメルダさんへのメッセージを、文字として刻んでもらうことにした。
直接現代語で刻むのは気恥ずかしいので、俺がミレアに頼んで、古代エルフ語に翻訳した文字にしてもらった。
う~ん、直接会ってプレゼントを渡すのもなんだか気恥ずかしいので、小包で送ることにしよう。
うん、それがいい。
そうそう、シャンテの母親のエレナさんから、高価な紅茶を貰ったんだったっけ。
なんでも、この世界でもっとも希少で美味しい紅茶だとのこと。
俺は、紅茶の銘柄のことは詳しくないけど、ポルポワール家が一押しする商品みたいだからきっと高級な紅茶なのだろう。
エメルダさん、紅茶が好きみたいだから、これもプレゼントしようかな。
そう言えば、以前、よくエメルダさんとギルドの個室で一緒に紅茶を飲んで雑談をしたものだったな。
あの時のゆったりとした日々が想い出されるな。
あれは、楽しいひとときだったなぁ~。
そうそう、エメルダさん、紅茶を飲みながら少し前かがみになったときに、胸の谷間がよく見えてたな。
意外に大きくて、なかなか良いものだったな~。
毎日、雑談をしながら十分に堪能させていただきました。
ありがと~エメルダさん! ぐふふ~。
おっと、いけない、いけない。俺は何を考えているのだ。
これではまるで俺が変態のむっつりスケベじゃないか!
……いや、まあ、否定はできないけど……。
ま、まあ、ともかく、エメルダさんに対して失礼なことはあまり考えないようにしよう……。
俺は想い出す。
ニバラスが襲ってきたあの満月の日の夜。
リンが死霊魔法に罹り、俺がレクイエムで、リンをあの世に送った時のことを――。
俺は今まで生きてきた中で、あの瞬間ほど悲しくて絶望したことはなかった。
世界が灰色に染まり、俺はもう自分の生を諦めかけたのだった。
その時に、絶望のどん底に沈む俺を、エメルダさんがそっと抱きしめてくれた。
――天使の抱擁
エメルダさんのレアスキル。
そのとき、俺はエメルダさんに、心の落ち着きと希望をもらったのだ。
俺にとって、エメルダさんはまさに "天使" なのだ。
◇
ポルポワール家の邸宅でお世話になりながら、皆は思い思い過ごしている。
ここで出される食事は豪華で美味しく、皆もここのところ食欲旺盛だ。
それに加え、ミーアやイナリなどは、時折王都の商店街に繰り出しては、買い食いなどをして楽しんでいるな……。
モフも最近よく食べている。
しかも、メイドさんたちに囲まれ可愛がられていて、頻繁に彼女たちによって、お菓子などで餌付けされているようだ。
ここ数日、モフが太ってきたのを感じる。あんなに食べ過ぎて大丈夫なのだろうか……。
ある日の午後のこと、唐突に "ソレ" が起こった。
昼食後、皆でサロンに集まり談笑しているときに起こったのだった。
ミレアの膝の上で、楽しそうにデザートのお菓子を食べていたモフ。
――プチッ コロン
「「あっ……」」
皆がモフを反射的に見つめる。
なんと、モフが付けていた首飾りが、外れて落ちたのだった。
以前から気にはなっていたが、モフが太るたびに首回りも大きくなり、首飾りのチェーン(ひも)の部分が首にくい込んできつくなっていたのだった。
それがついに限界に達して、首飾りのひもが外れてしまったようだ。
チェーンのホックの部分が外れただけで、チェーンが切れて壊れてはいないようなので、首飾り自体には問題はなさそうだ。
しかし、今の太った首回りのままでは、モフは首飾りをつけることが出来ないようだ。
「も、モフちゃん……その首飾り……」
「は、外れちゃったね……」
「にゃ~ん……」(しょぼん)
お気に入りの首飾りが外れ、付けることが出来なくなったモフは、しょんぼりしている。
「しかたない……モフ、明日からダイエットだ」
「にゃにゃああ~~~ん!!」
モフは絶望の表情を浮かべた。
「も、モフ殿……食事制限……なのか?」
「にゃ……モフちゃん、かわいそうだにゃ……」
「ダイエットはきついのじゃ~。気の毒なのじゃ~……」
こうして、悲しみの表情を浮かべるモフは、これからきついダイエット期間に入るのだった――。
◇
モフのダイエットはきつそうだった。
連日皆が、美味しいご馳走や、お菓子を食べているのを、しょんぼりとして見つめながらモフはなんとか耐えていた。
しかし、ここで幸運が訪れた。
俺がB級ダンジョンで倒したある魔物から、今のモフにとって救いとなるユニークアイテムが出たのだった。
その魔物の名は、スリムゴブリン。
普通のゴブリンより背が高い代わりに、非常に痩せたゴブリンだ。
スリムゴブリンが落としたユニークアイテム。
~~~鑑定~~~
スリムポーション(ユニークアイテム:消耗品)
・痩せる薬
・副作用が無く安全に痩せることが出来る。
・服用の際は、飲む量を調整すること
(飲みすぎると、痩せすぎになるので注意)
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そして、スリムポーションを飲んだモフは、いつもの体形に戻り、無事首飾りを付けることが出来るようになったのだった。
しかも、いくら食べてもこのポーションを飲めば太らないと知ったモフは、以前に増して飽食の限りをつくすのだった……。
「にゃにゃ~~~ん!」(やったー)
ちなみに、ミーアやイナリを始め女性陣の全員が、このスリムポーションを欲しがったのはいうまでもない――。
休暇中は食べ過ぎて太りやすくなるものですね(苦笑)