128ep 閑話2 冒険者ギルド職員エメルダのとある一日
今日も私は、冒険者ギルドの職員として、受付に立ってお仕事をしています。
午前中の忙しい時間が過ぎ、冒険者の方たちの姿もまばらになってきました。
今は、お昼前の一息つける時間帯。
正午くらいになると、昼の食事目当てに冒険者の方が再び集まってきます。
ギルド内の酒場が混みあってきて、少し忙しくなりますね。
今日の私のシフトは、週に一度の午前中だけの勤務の日。
もう少ししたら、モカちゃんが交代に来る時間だわ。
そろそろ帰宅の準備を始めようかな。
さーて、午後からは何をしようかな。
今日は、独り自宅で、ゆっくりと大好きな紅茶でも飲みながらくつろぎたい気分かも。
「エメルダさーん。エメルダさん宛に小包が届いてますよー」
商業ギルドの配達業者の方の声が聞こえてきます。
私宛に小包? 誰からかしら?
「はーい、ありがとうございます~」
「こちらの受け取り証にサインをお願いしますー」
私は受取証にサインをして、私宛の小包を受け取り、それをじっと見つめる。
あっ! トールさんからだわ!
小包の送り元にトールさんの名前が書かれてあります!
なんだかドキドキしてきました。期待と嬉しさで自然と顔がにやけてしまいましたわ。
「エメルダさーん。交代の時間ですよぉ~。今日は午前中であがりなんですよね? お疲れさまでした~」
モカちゃんが交代の声をかけてきました。
「あ、ありがとう、モカちゃん…」
「あれ? エメルダさんどうしたのですかぁ~? 顔が赤いですよぉ~。それに、その小包はなんですか?」
「え!? あ、こ、これは…、トールさんからのお届け物みたいなの……」
「えっ? トールさんからの贈り物なんですか! 良かったですねっ! エメルダさん!」
私は、はしゃぐモカちゃんにうながされ、一旦独りでギルドの個室に入りました。
ドキドキしながら、早速、小包を開けてみます。
中には、お手紙といくつかの小箱が入っていました。
まずはお手紙を拝見です!
『エメルダさんへ
エメルダさん、お久しぶりです。トールです。
その後、いかがお過ごしでしょうか。
エメルダさんのことですから、きっと元気にお仕事をされていることかと思います。
こちらは、王都でのダンジョン攻略も終わり、万事順調です。
今は、新たな冒険に向けて、仲間と準備をしているところです。
さて、エメルダさんには、俺が新人冒険者の頃から今まで本当にお世話になりました。
これまでの感謝と言ってはなんですけど、エメルダさん(モカさんにも)に贈り物をしたいと思い、この小包を送りました。
受け取ってもらえると嬉しいです。
では、エメルダさん、健康で楽しい日々を過ごされますよう願ってます。
PS
モカさんやギルド職員の皆さまにもよろしくお伝えください。
贈り物の中にあるアクセサリーで、「銀色の腕輪」と「ミサンガ」は、それぞれ2つずつありますので、1セットモカさんにお渡ししてくださいね。
トールより 』
ああ! トールさん! なんて嬉しいお手紙でしょう!
私のことを忘れずに想っていてくれたなんて!
今日はすごく幸せな気分ですわ!
トールさん、ありがとう!
プレゼントまで頂いたようです。
3つ箱がありますね。
それぞれ、中身はなんでしょうか?
あ、この箱のフタに「腕輪とミサンガ」って書いてありますね。
とりあえず、この箱から開けてみましょう。
ドキドキしますね。
あっ! ありました。
奇麗な白銀に輝く腕輪ですね。シンプルながらオシャレなバングルといった感じのアクセサリーですね。
ミサンガも奇麗ですね。カラフルな糸を織り交ぜた感じの、これもまたオシャレなアクセサリーですね。高級そうです。
確かにそれぞれ2つずつありますね。
今からモカちゃんに渡そうかしら。モカちゃんもきっと大喜びするはず。
私は、ギルドの個室から出て、モカちゃんを呼びます。
少しの間だけ、受付を他の職員さんに代わってもらって、モカちゃんと一緒に個室に戻ります。
「聞いて、モカちゃん! トールさんからモカちゃんにもプレゼントだそうですよ!」
「えっ! ほんと! わーい、やったー!」
私は、モカちゃんに「銀色の腕輪」と「ミサンガ」を渡します。
「わぁー! 奇麗な腕輪とミサンガ! 素敵なアクセサリーですぅ~!」
モカちゃんは、喜びながら早速それぞれ腕に装着しようとしています。
私も、モカちゃんに倣って、2つのアクセサリーを腕につけます。
「うわっ! す、すごい力が湧いてきましたよぅ!」
「ひゃっ! す、すごいですね!」
その2つのアクセサリーを、腕に付けた私たちはびっくりしました。
何かすごい能力の付与されたアクセサリーに違いありません。
さすがトールさんからの贈り物です!
これで、日々のお仕事も今まで以上にバリバリこなせて、楽しくなりそうです。
モカちゃんもすごく嬉しそうにして、はしゃいでいます。良かったね、モカちゃん!
◇
自宅に帰宅した私は、トールさんからの贈り物の残りの2つの箱を見つめます。
あら? そのうちの一つの箱に「紅茶」と書いてありますね。
早速開けてみましょう。なんだかワクワクしますね。
あっ! こ、これは!?
「マルアージュフルレ!」
超高級紅茶として有名な銘柄です!
入手困難で、王家や貴族の方々でもそう頻繁に飲むことの出来ない希少な紅茶です。
さすがトールさん! こんな素敵な紅茶を贈ってくれるなんて。凄いです!
なんだか私にはもったいないくらいですわ。
今日は最高に気分がいいので、後でゆっくりといただくことにしましょうか。
まだ一度も飲んだことの無い紅茶です。
どんなに美味しい紅茶なのでしょうか。すごく楽しみです。
さて、贈り物の最後の箱になりました。
とても奇麗で高級そうな小箱です。
私は息をのみ、ゆっくりとその小箱を開けます。
その小箱の中を見た瞬間、衝撃を覚えました。
今までに見たこともないくらい奇麗で素敵な首飾り(ネックレス)でした!
輝く宝石に奇麗な台座の模様と形。
宝石は、今まで見たこともない色が複合的に重なり合い輝いています。
エメラルドグリーン、ゴールド、シルバー、オレンジ色など、見る角度を変えるたびに色が変化します。素敵な宝石です!
首に掛けるチェーンも奇麗で、きめ細やかな作り。
なにかの秘宝と言っていいほどの高級感とオーラが漂っています。
あまりの美しさに私は息をするのを忘れるほど、見惚れてしまいました。
私は震える手でその素敵な首飾りに手を伸ばし、高鳴る心臓の音を意識しながらゆっくりと自分の首に掛けました。
――っつ!!
凄まじい力が湧いてきました。
そして、多幸感に包まれる私――。
な、なんてすごい首飾りなのでしょう!
明らかに私の能力が一気に跳ね上がったように感じます。
ふと、自分の両手首に着けている「銀色の腕輪」と「ミサンガ」を見ました。
その瞬間に、何かが見えてくる感覚がありました。
~~~鑑定~~~
ミスリルゴーレムの腕輪(ユニークアクセサリー:腕輪)
・装備時、体力+30、魔力+30、筋力+30
・付与スキル 土魔法Lv5
‥‥‥‥‥‥‥‥
ポルポワールミサンガ(ユニークアクセサリー:腕)
・装備時、精神+30、幸運+77
・付与スキル 裁縫Lv5、生活魔法Lv3
・裁縫師シャンテが製作したミサンガ
~~~~~~~~
えっ! か、鑑定!?
……どうやら、この首飾りを付けた瞬間に鑑定スキルが使えるようになったみたいです。本当にびっくりです!
私は首飾りを付けたまま、その本体の宝石部分を手に持ち見つめます。
~~~鑑定~~~
ユーベルド・エメルダ(ユニークアクセサリー:首飾り)
・装備時、全能力値+77
・付与スキル
四属性魔法Lv3、回復魔法Lv3、光魔法Lv3
物品鑑定Lv3、光の回復、癒しの光
ドラゴンブレス(中)
・錬金術師メアリが製作した首飾り
~~~~~~~~
「なっ! な、な、なんてことでしょう!!」
あまりの素晴らしい首飾りの性能にびっくりする私――。
そ、それにこの首飾りの名前!
『ユーベルド・エメルダ』
私の名前が付いています。なんだか嬉しくなってきました。
トールさんが、私の為に特注で錬金術師のメアリさんに作ってもらった特別な一品だと感じられます。
ああ! 嬉しい! トールさん、ありがとう! それにメアリさんにも感謝です。
それはそうと、"ユーベルド" ってどういう意味かしら?
聞いたことのない言葉ですね。
かなり気になりますが、きっと素敵な言葉に違いありませんわ!
なんだか、興奮してきました。一旦、気を静めましょう。
あ、そうだ。先ほどの紅茶『マルアージュフルレ』を頂くとしましょう。
私は、その高級紅茶の茶葉を丁寧に扱い紅茶を入れます。
ふぅ~。ほんとうに素晴らしい味と香りです。
明らかに今まで飲んできた紅茶の中で、一番美味しい紅茶です。幸せ~!
そう言えば、以前、よくトールさんとギルドの個室で一緒に紅茶を飲んで雑談をしたものですね。
あの時のゆったりとした日々が想い出されます。
楽しいひとときだったなぁ~。
思えば、あのときトールさんは、紅茶を飲みながらよく私の胸のあたりをチラチラと見てましたね。
トールさんからの視線に、私はドギマギしたものでした。
私は、ギルドで受付をしている時に、よく男性冒険者の方からの視線を胸のあたりに感じるんですよね。
なんというか……ちょっと嫌らしい視線を……。
まあ、男性方は、女性の胸に興味があるのは分かっているのですが……。
しかし、これですべて謎が解けましたわ。
トールさんは、そんな彼らのような "嫌らしい気持ち" で私の胸のあたりを眺めてたのではなかったのですね!
この素敵な首飾りを贈られて、やっと気づきました。
あのときから、私に首飾りを贈るつもりだったのですね。
私に "どんな首飾りが似合うか" を一生懸命に考えてくれていたのですね。
それを確認するために、胸のあたりを一心に眺めていらしたのですね!
きっとそうに違いありませんわ。だって彼はとても紳士なのですもの!
そんな彼なら、別にもっと見て頂いてもいいのですよ?
おっといけない、いけない。私ったら何を考えているのかしら。てへへっ。
私は何気に首飾りの宝石台座の部分をひっくり返して見てみました。
あら? 台座の裏側に何か文字が刻まれていますね。小さな文字。
見たことのない文字です。何かの古代文字でしょうか。どういう意味の言葉なのでしょうか?
不思議な文字です。でも、なにか暖かい感じのする文字――言葉のような気がしますね。
トールさんからの贈り物に刻まれた言葉。きっと、素敵な言葉に違いありませんわ。
ああ、今日はほんとに素敵な一日になりましたわ!
――ギルド職員エメルダの回想と妄想は続く
彼女はこのとき、その文字が古代エルフ文字だということはまだ知らない。
そして、その文字の意味が
『親愛なる天使のようなあなたに永遠の祝福あれ』
ということもまだ知らない――。
お盆ですね~。良い週末をお過ごしください。