127ep 閑話1 錬金術師メアリのとある一日
朝が来ました。
今日も私は朝の身だしなみを整え、朝食を取り、いつもの錬金作業場に行く。
作業場の窓を開け、朝の新鮮な空気を室内に取り込む。
「さーて、今日も一日頑張るかな~」
私は、手元にある希少な素材の入った箱を見つめる。
この箱は、なんと、トールさんから渡されたものなのです!
昨日、トールさんが久しぶりに私の店にいらして、私に錬金を依頼されました。
久しぶりにお会いしたトールさんは、なぜだかとても逞しく、素敵に見え、私は少しドギマギしてしまいました。
雑談のなか、トールさんの話では、トールさんのパーティーは、王都のA級ダンジョンを制覇したとのことでした。
A級ダンジョン制覇! 確か、そのダンジョンは今まで誰も制覇してなかったと聞いていました。
私はびっくりしてしまいました。
さすがトールさんです! 凄い!
ちなみに、A級ダンジョンを制覇したことは、秘密にして欲しいとのことでした。
きっと何か理由があるのかな?
私にだけ打ち明けてくれた秘密。
なんだかちょっぴり嬉しくなってしまいました。
王都での冒険を明るく語るトールさんは、とても楽しそうで眩しかったなぁ……。
おっと、いけないいけない。今日は、トールさんに依頼された錬金を精一杯しなければいけませんね。
ええと……依頼された錬金は2点。
一つは、フルマナポーション10個。
世界樹の枝や葉がなければ作れないとても貴重なポーション。
トールさんによると、強力な魔物と戦うのに必需品だとか。
数が多いけれど、これは、以前にも作ったものなので、そんなに手間がかからずに作れそう。
もう一つは、女性用の首飾り(アクセサリー)1個。
こちらは、箱の中にある希少素材を使って、高性能の首飾りを作って欲しいとのこと。
女性用のアクセサリーなので、奇麗な宝石のついたオシャレな物を希望されました。
最高の首飾りを作って欲しいとのことで、トールさんの意気込みが伝わってきました。
どなたに贈るアクセサリーなのでしょうか?
少し気になるところですが……まあ、それはそれとして……。
よーし! トールさんの為に最高の首飾りを作って見せますわ!
あ、そう言えば、首飾りに"文字"を刻んで欲しいとも言われてましたっけ。
ええと……その文字はこちらの指示書に書いているのでしたね。
私は、その指示書に描かれている文字をじっくりと見る。
何だか見たことのない文字ですね。何かの古代文字でしょうか?
不思議な感じのする文字です。
そうですね……首飾りの宝石の台座の裏に、小さく正確に刻むことにしましょう。
今、私の左手の中指に、奇麗な指輪が光っています。
それは、以前トールさんにいただいた貴重な指輪なのです。
その指輪の名は、『アルケミストスター』。
錬金術のレベルが2つも上がるとても素晴らしい一品。
性能もさることながら、トールさんから私への贈り物なのです!
嬉しさが再びよみがえり、私はうっとりとその奇麗な指輪を眺める。
――――――――――
アルケミストスター(ユニークアクセサリー:指輪)
・装備時、魔力+30、幸運値+50
・錬金術Lv+2
・錬金時、クリティカルが出やすい
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おっと、いけない、いけない。そろそろ錬金作業をしなければ。
ええと、今回の素材は……。
――――――――――
アルタインの牙(少量)
アルタインの鱗(少量)
アルタインの爪(少量)
ヒヒイロカネ鉱石(少量)
ヒュドラの鱗(少量)
リヴァイアサンの鱗(少量)
世界樹の枝(少量)
森林蝶の羽:特大(少量)
満月花のはなびら
……etc
――――――――――
何だか見たこともない素材が多いですね。
見るだけでとんでもなく希少な高級素材だということが、ひしひしと伝わってきます。
確か、トールさん、A級ダンジョンの迷宮主の素材も入ってるとか言ってましたね。
こんな素晴らしい素材で錬金できるなんて、錬金術師として名誉なことですね!
「さーて、気合を入れて錬金しましょう!」
◇
「メアリーや。夕食の時間だよー」
隣の部屋から、おばあ様の声が聞こえてきます。
あら? もう日が暮れてますね。錬金をしていると時間が経つのが早いものです。
ふぅ~。今日はここまでにしましょうか……。
まだ首飾りの完成まで、何日もかかりそうだけれど、今日はだいぶいい感じで製作が進みました。
続きはまた、明日にしましょう。
◇
さて、今日も寝る前に読書をしましょうか。
読書といっても、我が家の先代が書いた日記なのですけどね。古い日記です。
『アルフォンの日記』
最近はこの日記をよく読んでいます。
アルフォン様。
確か、ジーナおばあ様の祖父に当たる人だったかしら。
そして、我が家の家宝である『錬金術師のアミュレット』の製作者でもあるのです。
私はそのアミュレット(首飾り)を改めて見つめる。
――――――――――
錬金術師のアミュレット(激レアアクセサリー:首飾り)
・装備時、魔力+10、幸運+20
・錬金術Lv+1
・錬金時、クリティカルが出やすい
――――――――――
トールさんからいただいた『アルケミストスター』(指輪)よりは劣りますが、こちらもとてつもない価値のある一品です。
私たちの祖先であるアルフォン様は、錬金術師としても凄い人だったのです。
さて、日記の続きを読むとしましょう。
――アルフォンの日記――
『…………
私は、幼いころからとある夢を見ることが多かった。
おおむね週に一度は見る夢。何度もこの夢を繰り返し見てきた。
その夢の中では、私は冒険者だった。
相方の女性冒険者と一緒に、二人でダンジョンに潜っている。
そして、ダンジョンの奥で "大きな鶏のような魔物" に襲われるのだ。
その魔物の口から放たれた灰色のブレスが私に当たり、私の体はまるで石にされたかのように動けなくなるのだ。
相方の冒険者の「マークス!!」という悲痛な叫びを耳にして、私は夢から目覚める。
私の名はアルフォンだが、なぜ彼女は私に向かって「マークス」と叫んだのだろうか……。
私はかつてマークスだったのだろうか? この夢は私の前世の記憶なのだろうか?
いずれにしても不思議な夢だ。
その夢を何度も見るせいか、私は石化を解く為の薬を作り出すことが、自分の使命だと思い込み、錬金術師の道を選んだ。
そして、今、錬金術師としての私があるのだ。
………………』
閑話投稿してみました。リハビリ投稿です(^^)