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125話 いにしえの扉の向こうへ


 世界樹の泉への扉を封印しているオリハルコンの巨石――"封印石"を確認した俺たちは、その日は王都に帰ることなく、俺とリンの自宅に泊まることになった。


 王都に来て以来、かなり日にちが経っているので、自宅で時間を過ごすのも久しぶりだ。


 庭にクランハウスを建てようとしたが、皆が、自宅に泊まりたいと興味津々だったので、せまい自宅ではあるが、招き入れることにした。



「トールさん、リンさん、お邪魔するのですぅ~」

「にゃ~、ここがトールとリンの家かにゃ~」

「質素だけど、奇麗でいい部屋なのじゃ~」


 皆はリビングやキッチンなどを見回し、楽しそうにしている。


「今日は私が料理を作るので、楽しみにしててね!」


「にゃ~、リンの手料理にゃ~! 楽しみだにゃ~」

「わらわは、お肉がいいのじゃ~!」

「リンの手料理! いいね!」


 皆がはしゃいでいるのを見て、俺はなんだか嬉しくなる。


「さて、ちょっと着替えに自分の部屋へ行くか。みんなも余ってる部屋などで自由にしてもらっていいぞー」


 俺はモフと一緒に自分の部屋へ行って、鎧などの装備を脱ぎ、楽になる。




 しばらくモフと一緒にベッドに腰掛け休んでいると、どやどやと皆が俺の部屋に入って来た。


「にゃ~、ここがトールの部屋かにゃ~」

「意外と広い部屋なのじゃ~」

「と、トール殿。お邪魔するぞっ!」

「ふむぅ~、トールさんの部屋は冒険者の部屋っぽいですねぇ~」


「お、おう。結構広いだろ。いろいろな戦利品が置けるように広めの部屋にしてもらったんだぞー」


 俺の部屋は結構広い。俺が子供のころは、元々は広めの倉庫だったらしい。

 俺は物心ついてから、「冒険者になるぞー」と何度も両親に言っていた。両親はそんな俺の意をくんでくれ、倉庫だった部屋を、俺の部屋として改造してくれたのだった。



「うむむっ! ……何かベッドの下に怪しい気配がするのじゃ~!」

「あら? イナリ、どうしたのかしら?」


 なんだかよく分からないが、イナリが俺のベッドの下を気にしている。一体なんだというのだろう?


「にゃ~、調べてみるにゃ!」


 ミーアが俺のベッドの下をあさり始めた。


「にゃ~! なにか本があったにゃ~。にゃにゃ…『月刊エロスナイト4月号』って書いてあるにゃ~」


 あっ! まずい! 俺は瞬時に思い出した。ベッドの下にはアレ(・・)を隠してあったのだった!

 久しく忘れていた。俗にいうこの世界の「エロ本」だ!



「こ、これはっ!」

「な、なんと、エロい本なのじゃ!」

「にゃ~! 女の人の裸の絵が描かれてるにゃ!」

「と、トール殿! な、なんという破廉恥な物を!」

「トールぅ~、これはどういうことなのかしら?」


 皆の白い視線が、一斉に俺に集まる。まずい!


「そ、それは……そうだ! 昔、ガイから預かったものだ! べ、別に俺が欲しくて買ったわけじゃないんだぞ! ……」


「ふぅうう~~~ん。……お兄ちゃんの変態!」


 リンの視線が痛い。


「まあ、トールさんも男の人ってことなのですかねぇ~」


 シャンテが一応フォローしてくれているようなしてないようなことを言ってくる。


「ま、まあ…あれだ! 別にそんなに興味があって持ってたわけじゃ、ない…ぞっ! たまたま、ガイから預かったので、し、しかたなくベッドの下に放っておいたのだ! べ、べつに中を観たわけじゃないぞ!」


「トールぅ~。その言い訳は、無理があるんじゃないかしら?」


 皆がニヤニヤしながら俺に迫って来る。こ、こわい……。


 ミレアはモフと戯れていて、関心が無いのが唯一の救いだ。



 

 そんなこんなで、いろいろと言い訳をして、微妙なところではあるが、なんとか変態の汚名は返上し、お咎め無しで済んだのだった。


 ふぅ~なんとか助かったか。

 まあ、当然のことながら、俺はその「エロ本」の中身は隅から隅までしっかりと観ていたけどな! くっくっくっ!




 その後、リンの作る手料理を皆で食べ、俺の部屋でボードゲームなどをして、ワイワイと楽しんだ。


 皆も、初めて俺とリンの自宅に泊まったことで、変にテンションが上がっていたな。


 そして、夜は更け、そのまま広い俺の部屋で、皆で雑魚寝して眠った。


 なんだかんだ楽しかった。たまには、こういうのもいいものだなと思う。





 朝が来た。

 といっても、まだ夜明け前だ。

 太陽が上がるまでには、あと1時間ほどかかりそうだ。


 俺が起きた後、しばらくすると皆は一人一人、むにゃむにゃと呟きながら起き出してきた。




 軽く皆で朝食を済ませた後、自宅の庭にそびえ立つ "世界樹の子供の樹"の前に全員が集まる。

 

 リンが世界樹の苗木から育てた樹は、すでにかなり大きくなっている。フォレスタ領にある山林の大きな樹以上に高くそびえ立っている。



「にゃ~これが、世界樹の苗木から育てた木なのにゃ?」

「大きい樹なのじゃ~」

「随分と大きく育ったわね。それに生命力に満ち溢れているようだわ」


「うん。最初は世界樹の実から出た種を植えたんだけど、特別な水をやって育てていたらこんなに大きくなったんだよ」


 リンはその樹を慈しむように見ながら話す。



「よし、リン。そろそろ、太陽が昇りそうだぞ」


「うん、分かった。お兄ちゃん。タリスマンを身に付けるね」


 リンは、母親から貰った、紐付きの円形のタリスマンを取り出す。


 リンはそっとタリスマンを首に掛け、世界樹の下に立つ。


 胸の前のタリスマンをそっと握り、軽く目を閉じるリン。少し緊張しているようだ。



 皆も固唾を飲んで見守っている。



 やがて、地平線から太陽が顔を出す。

 太陽の光に照らされて、世界樹の枝葉が徐々に輝いてくる。


 そして、その枝葉からキラキラと輝く朝露が、リンに降りそそいだ。


 その瞬間――朝露を受けたリンの体全体とタリスマンが緑色に光輝く!


 タリスマンと一体となり輝くリン。



 ――天から声が聞こえてくる。


≪聖女リンのユニークスキル『女神の栽培』のレベルが10になりました≫


≪聖女リンが、"(いにしえ)封印(ふういん)魔法"を継承しました≫



 リンの目が大きく見開く。自分自身の変化に驚いているようだ。


「お、お兄ちゃん……みんな……新しい魔法を覚えたみたい!」


「やったな、リン!」

「「おおお!!」」

「「やったー!!」」


 皆が声を上げて喜ぶ。


「よし! 早速、東の小山の封印石に行こう! ――転移!」



 そして――俺たちの目の前には、オリハルコンで出来た巨大な封印石があった。



「リン! 頼むぞ!」

「うん、分かった!」


 

 リンは、薄く目を閉じながら、静かに古の呪文を唱え始める。



 フレアリシル・フサール・ムベ

 ――太陽の光が 闇を払い


 ドゥル・ユグドラ・シアアクサリ

 ――世界樹の 朝露のもと


 リーサリィ・ラーミル

 ――真実が 明らかになる


 ルーシア・トリヴィ

 ――聖女が 命じる


 サーリス・シ・クアルタ・リアド

 ――その封印されし 扉を開け 



 リデル・ユグドリアス!

 ――結界樹(けっかいじゅ) 解除!



 リンの力強い言葉(じゅもん)と共に、封印石が、眩くまでに光り出す!



「「「おおお!!」」」


 

 そして、その後に、俺たちが見たものは――


 オリハルコンの巨石の上に、緑色に輝く魔法陣だった。


「みんな、これで封印石の結界が解けたよ!」


 リンは顔を上気させながら言う。


「リン!! すごい!」

「「おおお! やったー!」」



 俺たちはどきどきしながら、その魔法陣の上に皆で乗る。


 光に包まれる俺たち――


 そして、気が付けば不思議な空間部屋にいた。


 部屋の奥の壁に、巨大な"扉"があった。


 その扉は荘厳で、緑色に光輝いていた。


 俺の翡翠眼(ひすいがん)が告げている。


 ――世界樹の泉への扉だ!!


 そして、幾重にも重ねられた結界と思われる魔法陣が、扉を封印しているように見える。


 

 再び、リンが、その扉の前で、先ほどと同じ呪文を詠唱する。


 フレアリシル・フサール・ムベ――――



 結界の魔法陣が消えて行く。


 そして、聖女――リンは力強く言う。


「みんな! 世界樹の泉への扉が開かれたよ!!」



「「「おおお!!」」」

「やったにゃー! ついに世界樹の泉に行けるのにゃー!」

「やったのじゃー!」


 興奮する皆。


 

 その光輝く扉を、皆でくぐる。


 そこは緑色に輝く洞窟となっていて、先へと続いている。


 俺たちは先へ進む。


 進むたびに洞窟の奥から、溢れんばかりの生命(いのち)の力が、流れ出てくるのを感じる。


 自分の心臓の音の、高鳴りが聞こえてくる。



 洞窟を抜け、視界が開けると、そこは巨大なドーム状の空間だった。


 壁際は、樹々の緑で覆われ、光輝いている。


 周囲は、圧倒的な生命(いのち)の力に満ちている。


「「「おおおおお!!」」」



 そして、俺たちがそこに見たものは、眩く輝く緑色の湖のようなもの――"世界樹の泉"だった。 


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